第九章
レイナートがやってきてクローディスの手を取った。
「うちの娘をもらってくれますかな将来ですがこの城もつけて」
「ご返答は、ベネディクト様」
すました顔でビアトリスが言った。
そしてしてやったりといった顔でペドロが笑った。
「どうだ首尾よく望みの物を手に入れてやったぞ」
クローディスは目を瞬かせた。その目に一筋の涙がこぼれる。
「なんということ、望外の喜びでございます」
そしてレイナートの背後に隠れるようにしているヒローインの手を取った。
「貴女をわがものと思ってもいいのでしょうか、奏であれば私はすべてをあなたに捧げてしまいます」
「どうしたの、ヒローイン、返事は?それともあの方に口づけで答えようというの」
そんな若者たちを見てペドロは総合を崩してレイナートを見た。
「まことに陽気なことだ」
「まったくもって、こういうことは大っぴらにするのがよろしいのよ、あら従姉妹はクローディス様の耳に何かささやいているわ。まさか心からお慕いしますとでも言っているのかしら」
「似たようなことを確かにささやかれましたよビアトリス」
「あらあら、もう身内扱いですの、まあ、これで売れ残りは私だけこれから先も店晒しになって色あせて行くのだわ」
「よい婿ならいくらでも紹介するが」
「そうですわね、あなた様のお父様のもうけた方などよろしいかも、素晴らしい方を作られるようですもの」
「もしや私か?」
気色ばむペドロにビアトリスはにっこりと笑って答えた。
「お断りさせていただきますわ、好き放題に使って虐げるには少し立派すぎますもの、どれほど虐げてもいい方がいらしたら是非。男などそうする以外どんな意味がありまして?」
「これこれ、ビアトリス、言いつけた用をどうした」
これ以上不遜なことを口走るかと慌てたレイナートが止めに入る。
「ああ、そうでした、それでは皆様ごきげんよう」
そう言ってビアトリスは肩をそびやかし立ち去った。
「やれやれ、楽しい娘なのだが」
ペドロは苦笑する。
「それは否定しませんが、いや、あれにも困ったもので、言い寄る男はいなくもないが、口八丁手八丁であしらってまともに相手にすることもない」
「縁組と聞くとあのように切り捨てるのだな、しかし立場上許されるわけではないが」
「何とかなりませんでしょうか」
親代わりに面倒を見ている姪の将来を思ってレイナートはため息をついた。
「いっそベネディクトはどうだ」
「正気ですか」
レイナートは目をむいた。
「やめてください、考えただけで恐ろしい。婚礼のあと、睦みあうどころかその場で殺し合いを始めかねない」
「クローディス、婚礼はいつにする?」
「明日にでも」
「やめて下さいせめて来週まで、きっちりと支度をせねば」
不満そうに口をとがらせるベネディクトにペドロは笑いかけた。
「七日の間に今度はベネディクトに骨を折ってやろう。お前たちも手伝うのだ。ベネディクトとビアトリスを何とか取りまとめてやらなければな」
壮大な野望にその場にいる全員がおののくばかりだった。




