9話 見知らぬ世界
「……困った。わたしのアレは特注で高いのに」
ラーラは辺りを見渡すが、それらしきモノが近くに落ちているわけはない。
見かけるのは行き交う人ばかりで、誰も彼女のことを見ていなかった。
「日本語はしゃべれる」
しかし彼女の日本語は標準語でここは地方都市。
その土地独特の言葉を彼女はまだ理解出来ていない。
「子供達もどこかにいってしまったのか」
さっきまで一緒に歩いていた、小さな友も今は姿が見えない。
自分だけが一人ではないかと考えてしまう。
決してそんなことはない。そもそも科学を信じる彼女には精神論とはあまり理解できるモノではないのだ。
「タカオ達はどこかな。声が聞こえればミキだとすぐにわかる。そのよこにはユイノも居るはずだ」
それに三人を見つければおまけのダイゴだって付いてくる。
一人じゃない。
もうあの時とは違う。だったらやること決まっている。
「皆を探そう」
呟くといつものように彼女は笑顔を取り戻していた。
「見つけたら、あいつらにわたしの大切さを教えてやるのだ」
彼女は走り出した……しかしその背中はやはりいつもより更に小さく見えた。
☆★☆☆★☆☆★☆
「タカちゃん! どこ行くの」
「当てはあるの?」
そんなのないさ。
「そこまで遠くに行ってないと思う。だから、ここを中心にみんなで探そう」
「すぐに行くから、待ってろよ」
意外だった。自分がここまで何も考えずに走り出した事を。
それだけラーラが心配なんだと思う。でもそれは当然だ。
見かけは幼女だが、知識は俺達よりある。俺達とはぐれていてもなんとかしてしまうかもしれない。
だけど自分の国ではない街で彼女は運悪くはぐれてしまった。
独りになってしまっているのだ。
「面倒だな……なんて言ってられないぞ」
それにコイツは特注品らしいからな。俺がしっかりと渡してやらないと。
手にはしっかりとラーラ特注のデバイスを握りしめていた。
見つけたら、落とし物防止機能を付けろと提案してやろう。
☆★☆☆★☆☆★☆
あれから時間がどれくらい経過したか彼女にはわからない。
そもそも時計なんて物は付けていない。
デバイスがあれば、全てわかってしまうのだから当然だ。どれだけ彼女がモノに依存していたのか、痛感しているだろう。
走り出してからすこし冷静になった。さっきの場所で待っていればよかったのではないだろうか。
見知らぬ場所で、はぐれてしまったときにとるべき行動を考えた。
まずは誰かに聞く。
彼女にとっては非現実的だ。そもそも「タカオ知りませんか」と問いかけても相手の答えはNOに決まっている。
では、自分で探し回る。
最初は感情的に行動してしまったが、これは危険だ。相手も探してるだろう。そうなればお互いにすれ違ってしまう。
「元いた場所に戻ろう」
彼女の答えは元の場所で誰かが探しに来てくれるのを待つという選択。
その判断は正しい。しかし……。
「あれ、元いた場所とはどこだっけ」
動く前ならばだ。
「打つ手がなくなってきたぞ」
とりあえず立ち止まって考えるが、何もいい策はない。
辺りを見渡してもやっぱり知った顔は見つからない。
そんなときに何かが近づいてきた。
「マスク? いやこの国ではお面だったかな」
そこには何かのキャラクターだろうか。お面で半分顔が隠れた浴衣の人間が立っていた。
「目が合ったぞ」
とっさに危ない人間だと感じ取り、距離を取ろうかと考えていたときにお面が取られた。
「さっきからキョロキョロしてるけど、どうしたのかな。迷子なのかな」
お面姿のときとはちがう。優しい声でラーラに話しかけた。
どうやら自分が迷子だと勘違いされてしまったらしい。
「いや、そうだけど違う。決して『迷子』ではないぞ」
「大丈夫だよ、はずかしがらなくても。えーとたしか……」
「ちがう、迷子じゃないぞ!」
いきなり知らない人に声をかけられ、しかも迷子と間違われてしまった恥ずかしさで居たたまれなくなり、また全力で走り出した。
後ろからは何か声が聞こえた気がするが、そんなことを気にしていられない。
とりあえずこの場から逃げなくては。
ラーラは気がついていない。
その方向は人の居る方向とは逆方向だと。
「草むらの方向にきてしまった」
少し先に目を向けるとあちらは草がない。それに道に見える。
「よかった。あっちならもう大丈夫かな」
抜けた先に道はあった。しかし今までとは違う。
屋台から匂ってくるおいしそうな匂いや。行き交う人の雑踏はそこにはなかった。
「本当に独りになってしまった」
いわゆる、裏道に彼女は迷い込んでしまった。
来た道を戻ればよい。だが、なんとなくこの道の先が気になった。
「……こっちに行ってみよう」
人通りはない。少し薄暗い道を歩く。
どれくらい続くのだろうか。だが少し薄気味の悪い旅路はすぐに終わりが来た。
「Oh、Great...(すごい)」
思わず声が出ていた。
なぜならそこには素晴らしい景色が広がっている。
卓雄に案内されて見えた海、港、街が全て一望できた。
「賑やかな場所の裏にこんな素敵な景色があったなんて……」
どこか懐かしい雰囲気を感じる……。
近づけばそこには手が届きそうな街がある。
「そうか、マルタにそっくり」
そうだ、故郷にそっくりなのだ。
自然と目が潤む。さっきまでの悲しさなんていつの間にか無くなっていた。
「あれ、わたしは寂しかったのかな」
さっきの感情は何だったのだろうか。
その時後ろから気配がした。
「綺麗な景色だろ」
☆★☆☆★☆☆★☆
「こっちに来たのなら、多分あそこなんだが」
ラーラらしき幼女がこっち行ったと言われて、俺は神社の裏道を探していた。
裏道と聞いて真っ先に向かったのがこの先の丘だ。
急いで走って行くと、小さな人影が見える。
浴衣姿の幼女。ラーラだ。
「綺麗な景色だろ」
まったく、見つかって良かったよ。
「え? あぁ、タ、タカオかぁ」
その声は驚きからなのだろうか、いつもの元気な彼女らしくない抜けた声に感じた。
「うむ。綺麗すぎる、マルタの景色にも劣らないぞ」
「そうか、それはよかった」
俺は隣まで進むと腰を下ろした。
「ほら、大切なモノだろ」
「これは、どうしてタカオが持っているの」
「一緒にいた子供達が持ってきてくれたぞ。今度は落とし物防止機能でも付けとけよ」
「なるほど。その手があったな。検討しておこう」
ラーラは受け取ると、デバイスの確認をする。
「どうやら、壊れてないようだな……うお! なんだすごい数の通信が」
信号が復活したせいか、優衣乃達から連絡が入ってるようだ。
「大丈夫だ、今はタカオと一緒にいるぞ。みんなも来るといい。素晴らしい景色だぞ」
もちろんその連絡は俺にも入ってくる。
とりあえず彼奴らには無事だと言うことだけを伝え通話は終える。
なんとなく、今はラーラと二人でこの景色をゆっくりと見ていたかった。
「…………タカオ」
「なんだ、そういえばさっき泣いてなかったか」
「泣いてなんていないわ!! まったく……」
そっぽを向いてしまった。
「この景色は懐かしい、ここを見ていると全てが解決されたように感じるね」
「自慢の街の、自慢の夜景の景色だ」
「自慢の街か……」
「そうだぞ。それにラーラの街でもあるんだぞ」
「わたしの?」
「ああ。ラーラの、俺たちの仲間の街だ」
「タカオ、すまん迷惑をかけた」
その表情は真剣だ。いつものイタズラに笑っている顔ではない。
「ほんとうに、ごめんなさい。みんなにもなんていえばいいのか」
「もうそれで十分だよ。彼奴らも分かっているさ」
なんだかその姿を見ていると、こちらが恥ずかしくて直視できなかった。
でもさらに直視できない出来事があった。
「タカオ、ありがとう」
その笑顔はいつもの無邪気で、ちょっと生意気な、俺の知っている幼女ではない。
一人の素敵な女性として見とれてしまうほどの存在。
ラーラが微笑んでいた。
9話目の投稿です。
色々気分が下がっています。
それでも前を向いて行かなくてはならい。
いやぁ、人生ってつらいな。
と言うようなネタを考えています。
また明日も投稿します!
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ネタなども募集しています。
お待ちしております(^^)/




