6話 転校してきた幼女
ある晴れた朝。いつも通り俺は優衣乃と並んで登校している。
これが平凡な毎日を愛する俺の日課だ。
最近は騒動が続き、目立ちすぎた。
「でも、あのときの葵ちゃんがまさかチャンピオンになっているなんて、よく思い出せたね」
目立ちすぎた騒動の切っ掛け、朝倉葵について問われる。
「お前は俺より前に分かっていたんだろ。俺は特訓してるときに何となく気がついたけど」
「あはは、タカちゃんにはかなわないね。私は未来達と食堂で会ったときになんとなくね」
やっぱり。
そんな気がしてたんだ。優衣乃は俺の一番の幼馴染みでいつも一緒。ということは葵とも会っているはずだと思っていた。
「葵ちゃん、きっとタカちゃんと昔のような関係に戻れて嬉しいんだよ」
「そんなもんか……まあ、俺も昔の知り合いとまた会えてうれしいよ」
優衣乃は笑顔で俺を見ている。いつもの光景だ。
それから昔話になり、過去を思い出すと恥ずかしい話題などで盛り上がっていると学校がもう目の前だった。
「おーっす。お二人さん」
毎回思うのだが、どこかで見張ってるんじゃないか? というタイミングで大悟が現れる。
「おはよう」
「今日もいいタイミングだな」
「そっちが毎度同じ時間に登校してくるんだよ、この生真面目コンビめ」
三人で門を通り抜け、いつものように下駄箱に向かうはずだった……。
「ああそうだ、今日部室に用事があるんだった」
「朝から大変だね。その手に持ってる荷物を置いてくるのかな」
「さすが優衣乃ちゃん。よくおわかりで」
「何かやらかしたのか?」
「俺がそんなドジ踏むように見えるか? 部費で買い物を頼まれてさ」
「そっか、なら先に……」
「そこで頼みがあるんだが。俺さ今日は日直で、朝から教室に行かないと駄目なんだ。それなのに時間を見てみろ」
指さす先の時計はすでに始業15分前を指している。
時計から目線を戻すと、大悟が俺を拝んでいた。
はあ、面倒だな。でもしかたない。
「それで、俺はどっちに行けばいいんだ」
「さっすが卓雄ちゃん。よくおわかりで」
差し出されたのは荷物の方だ……つまり。
「了解。部室には俺が届けておくよ」
「すまんね。助かる。昼は期待してくれ」
「タカちゃん私も手伝うよ」
「いや、一人で行くさ。その代わり……」
俺は優衣乃に鞄を差し出す。
「俺の机まで頼む。教科書は机の中だから鞄は重くないはずだ。頼むよ」
「もう……。教科書は持ち帰って勉強しないと駄目なんだからね」
少し膨れた顔をしながら優衣乃は鞄を受け取る。
「じゃあまた教室で。二人とも協力感謝」
「遅れないでタカちゃん」
さて、俺も部室の方に行きますか。
☆★☆☆★☆☆★☆
「ありがとう。若松にも言っておいてくれ」
「はい、失礼します」
ふう。任務完了だ。
俺は大悟から頼まれた荷物を先輩に渡すと、開放感に襲われた。
「教室に行くか、そろそろ時間だ」
部室のある場所は裏門の近くにあり、普段使う門の反対側にある。
朝はあまり使われなく、部活の終わった生徒が下校に使うのがメインだ。
もちろんもうすぐチャイムが鳴るであろうこの時間では誰もいない……と思って通り過ぎたときだった。
「こら、暴れるなといっておるだろ。獣の分際でわたしに抵抗するのか!」
裏門付近から幼い感じの声が聞こえた。
目を向けると、そこには猫と戯れる少女がいた。
「いや、あれは中等部の制服だ」
確かにあの制服はそうだけど……。
「ぐぬぬぬぅ。おとなしくナデナデさせろ! この獣め」
近くで見ると中学生には全く見えない。どちらかと言えば、もっと下の学年に見えてもおかしくない。
しかし、制服を着ている。成長がゆっくりの子供なのだろう。
とりあえず、あのままでは猫がかわいそうだ。
「おい、そんなに無理に触ろうとするから暴れるんだ。もっと優しく触ってやれ」
「なに! お前は誰だ。そうか誘拐犯か。私の可愛さにつられた変態か」
ひどい言われようだな。
「どれでもないぞ。ほら猫を貸してみろ」
俺は口の悪い子供から猫を取り上げると、抱き上げて頭をなでた。
先ほどまで暴れていたのが嘘のようにおとなしくなり、気持ちよさそうな顔をしている。
「おおー、すごいすごい。わたしがあれだけ苦労した獣をこうも簡単に手懐けるとは……おぬし何者だ」
先ほどまで俺のことを不審者扱いしてた子供は、いつの間にか俺の腕をつかんで聞いてくる。
よく見るとこの子は日本人じゃない。褐色の肌に気がつかなかった。
どこの国の子供だろうか。
「ああ、そうだ。ねえねえその制服。おぬしこの学校の生徒か? ちょうどよかった」
さっきから気になっていたけど、『おぬし』とはまた珍しい呼び方だ。勉強した日本語の本が古かったのだろう。
「どうした、迷子なのか?」
「ちがう! 子供扱いするな!!」
ぽかぽか、というひらがなの効果音が似合うような叩き方で、俺に絡んでくるこの子供はどんな用があるのだろう。
「まあ、その獣の扱い方を教えてくれたことに免じて、許してあげる。それよりも職員室の場所を教えてくれ」
「職員室? 兄弟に忘れ物でも届けに来たのか」
「ちがう! わたしは転校してきたんだ。だから職員室に行かなくちゃならないの」
そんな話は初めて聞いたぞ。
職員室か……、そもそもここは高等部。中等部は向こうだ。
「職員室ならあっちの建屋だ。ほら、反対側に門が見えるだろ。その先に職員用入り口がある。そこまで行けば分かると思うぞ」
「おおー反対だったのか。ありがとう」
笑った笑顔は本当に天使のような子供だな。
でも俺はロリコンではない。そこだけは主張しておく。
そのときチャイムの音が聞こえた。
「やばい、遅刻だ」
「おおーもうそんな時間か。わたしも行かなくちゃ。ではまたね」
そう言うと、子供は向こうの門に向かってかけだしていった。
「転ぶなよー」
「だいじょーぶー。運動神経はいい――」
あ、コケた。
「ぅく。今のわざとだ。ではまたね」
少し涙目になったように見えたのは、気のせいじゃないだろう。
「俺もそろそろ行かないと、本当に怒られそうだ」
しかし、あの中学生に見えない子供は何だったのだろうか…………。
☆★☆☆★☆☆★☆
「ねえ、ちょっと聞いてるの? 私の話」
「聞いてるよ。食事中なんだから暴れるなよ」
だったらいいけど……とまだまだブツブツ言いながら座る未来。
いつものように、俺達は食堂のテーブルを4人で囲んでいる。
そしてまたいつものように、未来のくだらない話を聞きながら食事をしているわけだ。
しかし今日は少し興味の湧く話題を持ちかけられた。
「それで、その新しいデバイス、FODの第四世代ってのはどんな形なんだよ」
「あら、珍しい。大悟が興味持つなんて」
「そりゃー俺達の生活に大きく関わってるものだし……お前、俺のことバカにしてるだろ」
「してないわよ……今はね」
「なんだと」
「なによ」
「ほら、二人ともご飯中だから、それで未来、新しいデバイスはどんな形なの? もう知ってるんでしょ。教えてよ」
「ふっふーんその通り。私は最新の形をいち早く知ってるわけよ。知りたい?」
「いいから早く教えろよ」
それに情報はさっき発表されたわけだから、FODで検索すればすぐに出てくる。
でもそれを言ってしまうと、また面倒だからな。
「もう、卓雄はせっかちなんだから……これよ、これ」
そう言うと未来は自分の顔を指さした。
「なんだ。お前の顔がどうかしたのか」
「はあ、私の可愛い顔じゃなくて、ここよ、ここ」
更に自分の目の辺りを指さす。
「もしかして……コンタクト型?」
「ピンポーン、正解です」
「そこまで小さくなったのか」
「目に入れるのかよ、なんだか怖いな」
「なに大悟あんた怖いの? 意外ねぇ、体はデカいのに度胸はないのね」
「ばっかちげーよ、度胸とかじゃなくて目の中に入れるのが不安なんだよ」
「でも確かに若松君の言う通りかも、私もちょっと抵抗あるかな」
「もう優衣乃までなに言ってるのよ、これがどれだけの発展なのか分からないの」
確かに俺も目に入れるのは抵抗がある。しかし未来の意見も分かる。
今まで耳に装着するこの形ですら、ずいぶんとコンパクトになり衝撃は大きかった。
それが更に小さくなり今度は目に装着する形になる。
これは大変な技術の発展だ。
「それでね――」
「なんだこの食べ物は私の国で見たことないぞ!」
突然大きな声が聞こえてくる。目をやるとそこにはテーブルとイスしかない。
「あれ。勘違いか」
「どうしたの? タカちゃん」
「いやあっちから声が聞こえたような……」
「これも初めての味だ」
やっぱり声が聞こえる。
「おいおい、あのテーブル子供が座ってるぞ」
大悟の指摘通り子供が座っている。さっきは全く気がつかなかった。
「あれ、あの子はさっきの……」
「ほんとだ、外国の子供かな」
やっぱりだ。あの肌色はそうだ、さっき裏門にいた中等部の生徒だ。しかし今は俺達と同じ高校の制服を着ている。
「なんで子供が制服着てるの!」
未来が俺が口にしようとした疑問を呟いた。
あ、こっちと目が合ったぞ……。
「おおー。先ほどの獣つかいじゃないか」
「獣?」
「いや、猫のことだ。それよりもお前なんでこの食堂にいるんだ。中等部の食堂は、別のはずだし、それになんで高校生の制服なんだ」
「そんなに沢山質問されると、わたしでも返答にこまってしまうが……ああ、さっき教えてくれたのは中学の職員室だった。ほらこの制服を見ろ」
そう言うと、自分の制服をグイグイ引っ張りながら俺に見せてくる。
「わかった、わかったから服を引っ張るな、色々見えるぞ……面倒なことになる」
「ふむ、そうだ、自己紹介がすんでなかったな」
ノートを取り出すと何かを書いているが……。
「何語だ? 俺には全く読めないぞ」
大悟だけじゃない、俺達全員が同じ感想だ。
「おおー。そうかここ日本だった。マルタ語は読めないか」
見た目が子供の彼女は改めて書き直した文字を見せてくれた。
「名前は、『ラーラ・シレア』だ。気さくにララと呼んで良いぞ」
彼女はまた笑う。自己紹介しただけなのに、何がそんなに面白いのだろうか。
「ところで、獣使い。おぬしの名前を教えろ。わたしの名前を教えたんだ、名乗るのが礼儀だろ」
「俺の名前か、俺はおき、おきたかおだ」
「タカオか、よろしくな。今日から同級生だ」
そう告げると彼女は俺達のテーブルに座ってきた。
「ちょっと、どーしていきなり座ってんのよ」
「うん? 自己紹介はすんだぞ。ああ、お前らの名前を教えろ、これでもう知り合いだ」
「そんな問題じゃ――」
「この変わったフライはなんだ? すごく良い匂いがするぞ」
未来のツッコミを華麗にスルーするラーラ。
「こいつ……できるな」
「タカオ、この食べ物は何だ」
「あ、ああ。これはエビフライ明太子だ」
「なんだそれは。一口くれないか」
「ああ良いぞ」
俺は切り分けてやろうとしたがラーラはいきなり、自分のフォークでエビフライをぶっさし強奪した。
「もぐもぐ……な、なんだこれは。ただのフライじゃないではないか」
「ああ、明太子で包んであるからな、ラーラの国には無い食べ物だろ」
ラーラはいきなり立ち上がり机を叩くとさらに感想を述べた。
「日本で一番気に入った食べ物だ、タカオありがとう、これからは友達として接しよう。ああもう時間だ」
「え、ララちゃん?」
「それじゃあ、タカオとその仲間達。Good Bye(またね)」
そう言い残すと、子供のようにはしゃぎながらラーラは走り去っていった。
「なんなの、あの子は……」
「なんなんだ、あの子供は……」
「可愛かったよね」
嵐が過ぎ去ったようだった。
しかし明日、さらに俺達は驚く事態に。
彼女は同級生だと言う事実を知ることになる。
見た目が子供の彼女、ラーラ。
また面倒な事にならないと良いけど……。
6話目でした。
キャラが増えてきました。
個人的にロリ系のキャラが登場すると、話が明るくなる感じがします。
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