4話 憧れの人と第一世代デバイス
「目立つことが嫌いな卓雄が、観衆の前で、しかもチャンピオン相手なんてそりゃ力も出ないさ」
大悟が突然昨日の試合のことを言い出した。
「何だ? 昨日のあれはもう終わったことだ。俺は気にしてない」
「そーよ卓雄の言うとおり。あんなの気にする必要ないわよ。そもそもシロート相手に大人げないのよ、あの女は」
「未来……そんな言い方しちゃだめだよ。もしかしたら彼女にも事情が……」
「もういいだろ、それより飯にしよう。ほら、冷めちまう」
昨日の試合はもう終わったことだし、そもそも勝敗は全く気にしていない。
気にかけてくれるのはありがたいが、昼飯がまずくなってしまう。
「そうだねタカちゃん。そのランチ美味しそうだけど、ちょっと栄養偏りそうだね。……良かったら私が――」
「おーい、朝倉が今から対外試合するってさ」
「本当か、昨日は素人相手だったからな。今日は面白い試合が見れそうだ」
「野郎、卓雄のことを馬鹿にしやがって! 俺、言ってくる」
席を立ち上がり激怒する大悟。
「落ち着きなさいよ、ほんとーに筋肉バカなんだから。あんなの無視よ無視」
未来が大悟を冷静に窘めるとは不思議が光景だ。
「それに腕力に訴えなくても顔は覚えたから。私が後であいつらの噂、流してやるから安心して」
前言撤回。冷静ではないのは両者だ。
「もう、二人とも……、それよりまた試合だって。……でも私達には関係……ないよねタカちゃん」
優衣乃が二人をなだめつつも、俺にも気を遣う。確かに優衣乃の言うとおり、俺達には関係のないことだ。
そうなんだけど……。
「飯食ったら、試合見に行こうと思うんだが、お前らどうする」
「「「ええ?」」」
三人が一斉に声を上げる。そこまで驚くことだろうか。
「おいおい、どうしたんだよ」
「単純に、試合に興味があるだけさ」
「なんでよ、昨日まではそんなこと、一切興味なんてもってなかったじゃない」
「そうだな、だから無理にとは言わないさ、俺だけでも見に行くよ」
それだけ言うと、食事を食べ進める。
「あたしも見に行く。そんな面白そうな時にあたしが居ないとか、ありえないから」
未来も宣言すると、急いでサンドイッチを詰め込んでいる。それを見た二人も同じように慌てて食事を再開した。
「俺も行くぜ。今度こそチャンピオンの試合をじっくり見てやる」
「まってよ私も行くから。でも、もうすこしゆっくり食べさせて。私ご飯食べるの遅いんだから」
「焦るなよ。全員が食い終わったら行こう」
確かに朝倉との勝負は終わった。でも何かが引っかかる。
その確認をしに行こう。もう一度試合を見れば何かが分かる気がする。
☆★☆☆★☆☆★☆
俺達が着いた頃には、すでに人で一杯だった。
「すげぇギャラリーの数。これは昨日以上だな」
大悟が周りを見渡すとすでに人垣が幾重にも出来ている。
「よくよく考えたら、デバイスで試合動画共有すれば、わざわざこんな混雑に巻き込まれないのに」
「せっかく広場でやってるんだ。大きな画面で見たいだろ」
「ほら、もう始まるみたいだよ」
優衣乃が画面を指すと、そこには向かい合う二人の女子高生が映っている。
左側は……朝倉。右側は誰だろうか。
「あの右の女の子、確か前回のオープン大会で上位入賞した子だぞ」
「マジかよ、オープン大会と言えば、大人も参加する大会だろ。チャンピオンて言っても、それは苦戦しそうだな」
そんなにすごい相手なのか。
「ちょっと、せっかく見に来たんだから。ほら、始まるわよ」
未来の呼びかけでモニターに注目すると、開始の合図が鳴り響く。
「すごい、卓雄との試合じゃあんな動きしてなかった」
確かにすごい動きだ。すごい動きなんだが……。
『おおー』
朝倉の連続攻撃。だがそれは全てかわされてしまった。
『ああぁ』
その瞬間だった。相手の反撃が決まり、ポイントが献上される。
「まだ一点だけだ、ここから反撃だろ」
「そうよ、いっけーチャンピオン」
周りの意見は、まだまだ朝倉に勝機があると信じて応援している。
だが、俺の意見は違う。
「多分……朝倉は負ける」
「タカちゃん?」
出てしまった独り言に優衣乃が反応する。
その瞬間だった。
勝負が決まった……俺の予想通りの結果で。
「やっぱりそうか」
周りからため息が上がる。モニターに映し出された結果を確認したのだろう。
『勝者、戸田麻衣子』
それが対戦者の名前なのだろうか、朝倉はデバイスを外すと座り込んでしまう。
動きだけを見れば、互角だったかも知れない。だが、ある一部に決定的な差が出てしまった。
それは、俺と対戦した時も感じたものだった。
☆★☆☆★☆☆★☆
「負けた、そんな」
ポイントをもう一度見直しても、結果は変わらない。
私は負けた。それは完敗と言ってもいいくらいの負けだった。
「お疲れ様、朝倉さん。今回は私の勝ちね」
頭に声が響く。
対戦相手の麻衣子さんの声だ。
「すごく良い動きね。もう少しでポイント奪われそうだったわ」
彼女の言うとおり、私は一回もポイントが取れなかった。
でもここで嘆いてもしかたない。負けた事実を受け止めて勝者をたたえる。
それが、スポーツの理念でもあると私は信じている。それに、負けてネチネチするような性格ではないと自分では思っている。
「お疲れ様でした、麻衣子さん。私の完敗です」
麻衣子さんは確かに強い。高校生で、すでにTOPクラスの実力だ。
そんな彼女に負けたのは悔しくない……と言うと、嘘になるけどね。
「ほんと、そのデバイスじゃなければ、互角だったのに」
「え? どういう……」
麻衣子さんは続けて言い放つ。
「その言葉通りよ。それ、第一世代でも古い方。ファーストタイプじゃないの?」
私のデバイスを指さす。
全くそのとおりだ。これは初期も初期。最新式と比べたら世代は二世代ほど前になる。
「そのタイプで優勝できたのはすごいことよ。でも、もうそれも限界でしょ」
さらに彼女は続ける。
「最新、とは言わないけど、もう少し新しい物に変えた方が良いんじゃない?」
その指摘は私にとって最も聞きたくない言葉だ。
『俺と勝負しないか? ほらこっちに来いよ。お前も一緒に遊ぼうぜ』
目を閉じると昨日のように思い出せる言葉。私が初めてこの競技に出会った瞬間。
それと同時に、友達ができたことが今でも思い出せる。
あの時の私は、まだ小さくて、すべてに臆病だった。
もちろんそんな性格だから、友達なんて居るわけもなく、公園で遊ぶときはいつもひとりぼっち。
他の同じくらいの子供達は、みんな仲良く遊んでいたのを羨ましく思っていた。
さみしかった。でもそれ以上に声をかける勇気なんてなかった。
あの時、あの台詞を彼から聞いた時はすごく嬉しかった。
だからこそ、その時の思い出のデバイスを、先輩から貰ったデバイスをまだ手放したくない。
「私は……まだこのデバイスでやれます……」
「はっきり言うけど、もう限界でしょ、そのデバイス。上に行きたいなら道具にもこだわりなさい。そのデバイスにこだわるなら、辞めた方がいいわ」
私は何も言い返せなかった。
「ごめんなさい、言い過ぎね、でも才能がある人間が潰れていくのは見たくないのよ」
「……ありがとうございます。……また、また勝負してください」
私はお礼を言うと、接続を切った。これ以上は堪えれなかった。
☆★☆☆★☆☆★☆
「試合終わったみたいだな」
モニターの画面が暗くなる。
しかし、彼女は動こうとしない。分かっているのは相手との会話が終わった後、朝倉はデバイスを見つめたままだ。
これは想像だが、俺が気が付いたくらいだから、相手の選手にも分かってしまったのだろう。
「あれ、動かないわね。チャンピオン」
「ねえ、タカちゃん。朝倉さん少し変じゃないかな」
沢山の人が彼女に注目しているが、誰も動き出そうとしない。
なんでだろう、本当はこんな面倒なことはやりたくないのだが……。気が付いたら俺は彼女の横に立っていた。
周りはざわついてる。
優衣乃達も同じように驚いている。
「沖……先輩」
彼女が俺を見上げている。
「朝倉、もう一度俺と勝負しよう」
「え?」
「勝負、試合、言い方は何でも良い、そのデバイスでなぜ負けたか、素人の俺で出来る範囲で教えてやる」
朝倉の表情は驚いたままだが、決して目線を離そうとしない。
だから俺は真剣にもう一度問いかけた。
「俺と勝負しないか?」
4話目になります。
ソフトハウス〇ャラ復活しないかな……。
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