2話 才色兼備な下級生
「ねぇ。ねえってば! ちょっと聞きなさいよ」
ある日の放課後。俺と優衣乃そして大悟は、帰宅や部活へ向かう準備をしていたのだが――。
「また始まった……」
慌ててきたのだろうか、息が上がっている彼女。
「今度はなんだ、また誰かの熱愛でも発覚したのか」
「はあ? そんなアンタの成績みたいにレベルの低い話じゃないの」
「あんだとコラ!」
未来と大悟のじゃれ合いはもはや日常茶飯事で、俺もすでに諦めている所がある。
それを止めるのは決まって優衣乃だ。
「もう、あんまり大きな声で騒ぐとみんなに迷惑だよ! 二人とも」
面倒な役割を買って出てくれるのは性格なのかもしれない。
「タカちゃんも困っちゃうんだから。ねえ、そうだよね」
でも俺に話を毎回ふってくるのが面倒だ。
「落ち着いて話せよ未来。聞かないなんてさ、誰も言ってないだろ」
いつも興奮しながら、くだらない話を持ってくる彼女の相手をする。それが俺たちの放課後を過ごすパターンだ。
「まあいいわ。優衣乃に免じて許してあげる。……でも後でアンタは殺す」
「いつでも掛かってこい。俺の強さを見せつけてやる」
「ほら、何があったのか聞かせてよ」
まだまだ落ち着かない二人の間に優衣乃が割って入ると、ようやく話は進んだ。
「チャンピオンなのよ」
前言撤回、話が全然理解できない。
「だから! チャンピオンが居るのよ、うちの学校に。ミスったわぁ、新入生のチェックはちゃんとしてたのに」
本当に悔しそうに指を噛んでいる。
そこまで必死になる事じゃないだろと、思いながら続きに耳を傾ける。
「うちの学校は、ほら。アスリートコースがあるじゃない、だからこんな馬鹿でも入れるんだけど」
サラッと馬鹿にされた大悟はムッとしているが、また話を止められると面倒なので俺は未来に話を続けさせた。
「その一年生の中に、VRスポーツの中学生チャンピオンが居るらしいわ」
「へーすごいね。そう言えばタカちゃんも昔やってたよね」
「子供の時に少しだけな。お前も一緒に遊んだろ」
『VRスポーツ』
技術の発展は新しい分野のスポーツを生み出した。
実際に存在しない場所、物を使って対戦する。例えば剣道を巌流島で対戦したあの二人のようなシチュエーションで戦うことが出来る。そのリアル差と人気が相まって今では人気のスポーツだ。
「そんなレベルじゃないのよ、チャンピオンなのよ! 優勝してるんだからね」
「優勝か、それはすげーな。俺も優勝したいよ」
「それでそいつはどんな奴なんだ」
俺が未来に訪ねると、その質問を待っていたのだろうか。満面の笑みで答えてくれた。
「ふふーん。聞いて驚きなさいよ、あの朝倉 葵なのよ」
…………。
「誰だそれ」
「お前まじかよ……」
「まあ、タカちゃんだからね。でもそこが魅力でもあるんだけど」
二人の反応を見ると、どうも知らないのは俺だけのようだ。
「さすが卓雄。私の想像通りの反応してくれるわ。じゃあ教えてあげ――」
「ほら、一年に居る話題のハーフ美人。この前の新入生美人ランキングでぶっちぎりのトップだった女の子だよ」
大悟が狙ったかのように説明してくれた。
「ちょっと! 人の一番の見せ場を何だと思ってるのよ。アンタいい度胸してるわね」
「思い知ったか、俺を馬鹿にするとこうなるんだよ。覚えとけ!」
「二人とも落ち着いてよ」
面倒だがそろそろ止めるか。
「優衣乃帰るぞ。未来、行きたがってたアイスクリームの店、今日なら付き合ってやるよ。ほら、大悟も部活に遅れるぞ」
俺はそう伝えると、教室の出口に向かった。
後ろから優衣乃が着いてくる。それを見た未来も慌てて俺たちの後を追ってきた。
「ちょっと待ってよ、行くから。大悟この決着はまた次回ね。さっさと部活頑張ってきなさい」
合流した三人で学校を出る。
未来は決して悪い奴ではないんだ。少しうるさいだけの友達の女の子なんだ。それに大悟だって分かっていて戯れているんだ。
明日の食堂の時間には忘れているだろう。
☆★☆☆★☆☆★☆
「貴方が、沖卓雄さんですか」
お昼のためにやって来たカフェ形式の食堂。
隅っこのお気に入りの場所に集まる俺たち四人の前に、声の主は突然現れた。
「そうだけど、誰だお前」
声の主をしっかりと見るとそこには女の子、いや美少女が立っていた。
髪は腰の近くまで伸びている綺麗な青色……いや蒼と言ったほうが近いかも知れない。
整った顔立ちに負けない紅い瞳。
明らかに日本人じゃないと分かる容姿だ。
不覚にも見とれてしまった。それは一緒に居た他の三人も同じようで彼女を見つめている。
「やっと見つけた。先輩私と勝負してください」
勝負? 何をこの美少女と戦うんだ俺は。
混乱している俺に、大悟が思い出したように教えてくれた。
「あ、朝倉葵だ。卓雄、昨日未来が言っていた美女チャンピオン」
「先輩、強いんですよね? VRスポーツ」
こいつがチャンピオンなのか。
「私と勝負しなさい。絶対に勝ってみせるんだから」
2話目の投稿です。
すこしでも誰かの目にとまって、読んで貰えれば幸いです。
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