12話 もう一人の幼馴染
「ねえ、タカちゃん」
「ちょっと、話聞いてるの?」
「先輩! 大会が近いので、またトレーニングしてくれませんか」
「今日も面白い物を用意したぞ」
賑やかな声が聞こえてくる。それはとても楽しそうだ。
最近、私の学校でちょっとした話題になっている奇妙な集団。
その集団はある人物を中心に集まっている。
周りに居るのは、四人の女の子と一人の男子生徒。
女の子はそれぞれ個性的で魅力があふれている。
男子生徒は……元気そう。
新学期が始まった頃は、まだ人も少なかった。それでも私には気になる集団だった。
クラスは一緒ではない。でも彼女とは一緒のクラス。
「おっはよー」
教室内に、特段とオクターブの高い女の子の声が響き渡る。
宮間未来さん。
彼女が入ってくるとクラスは特段に明るくなる。失礼だけど、特別に綺麗なわけじゃない。もちろん私よりは綺麗だけど。
彼女はクラスの人気者。ムードメーカーと言えばいいのかな。
「おはよう!」
私なんかにも、気軽に挨拶してくれる。
彼に言わせれば『ただのトラブルメーカー』だそうだ。
私が見かける時には、宮間さんの笑顔はクラス内で見せるより、もっと楽しそうな笑顔だし、彼だって、迷惑そうだなんて思っていないと思う。
あの中にいれば私も笑えるのかな。
「また広場で試合やるってよ」
「本当かよ。見に行こうぜ」
聞き耳を立てるまでもなく、試合と言う言葉だけで理解できる。
『彼女』がまた試合するのだろう。
我が校の誇るチャンピオン、朝倉葵。
彼女が現れてから、すこし彼が変わった。
私も彼がVRスポーツを小さな時、やっているのを知ってはいたけど、まさかチャンピオンの原点になっている人だと、前回の試合で知った。
確かに昔、あの公園で見かけたような……。
「……さん。ねえ、私達も見に行かない?」
友達が私を呼んでいるのに、上の空だった。どうしよう。
「えっと、その……」
そうだ、試合を見に行けば、彼に会えるかもしれない。
「うん! 行く」
「めずらしいー。大きな声を出して」
少し気合いが入ってしまったのか、大きな声で返事してしまった。驚かせたかな。
「そんなに見たいんだ。じゃあ早く行こう。いい場所で見たいもんね」
確かに、早くいって彼を探さなくちゃ。
私は、先に教室を出かけている彼女達について行こうと席を立った。
でもその願いは……かなわなかった。
「ああ、ちょっと待って」
教室を出てすぐに、先生に捕まってしまった。
捕まえてきたのは学年主任の女性。
「実は貴女のお父様に、次の学園会議での資料を――」
彼女が用があるのは私ではない。
私の父にあるのだ。
いつものことなので、驚きはしない。ただ確実に彼を探す機会をまた潰されたのだ。
「本当に……いつもなんで」
「どうかしたの?」
「何でもありません。お話は以上ですか」
私は話を切り上げ、広場に向かったが、試合はすでに終わり、もちろん彼を見つけることも出来なかった。
残念。
放課後になり、私は職員室に向かっている。
昼休みに頼まれた資料をもらうためだ。
廊下を歩いていると、本当に沢山の人とすれ違う。
みんな放課後を楽しみにしていたのだろう。
部活動に向かうのだろうか、体操服を着た男子生徒。
これから研究棟で何か実験をするのだろうか、白衣姿の女子生徒。
これから遊びに行くのだろうか、元気な制服姿の幼女。……うん? 幼女?
私は立ち止まり、通りすがりの小さな生徒に目がとまった。
すぐに思い出す。あの子だ。
ラーラ・シレアさん。
見た目は本当にかわいい、カワイイ女の子。
しかしその才能がつまった頭脳はこの学校だけではなく、世界でも貴重な物らしい。
コレは父に聞いた話だけど、彼女の存在が、学校や企業の利益なのだとか。
「おお、見つけたぞ」
その幼女は、何かを見つけたのか、いきなり走り出した。
きっと、とても楽しいモノを見つけたのだろう。
「良かった元気そう」
私が前に彼女を見つけたときは、一人で不安そうに祭りの中を徘徊していた。あの時の暗い顔は印象的だった。その顔は天才の顔ではなく、一人の女の子の顔だったから。
でも今は違う。毎日が楽しそう。これもきっと彼のおかげなんだと思う。
やっぱり彼はすごい。
職員室から戻ると、教室に誰も残っていない。授業が終われば、誰もが放課後の用事に飛び出していく。
それが学生だから。
「私も帰ろう」
誰に言ったのかもわからない。呟くと教室を後にした。
玄関までいくと。そこに彼がいた。
沖卓雄くん……。
今日やっと会えた。
しかし、彼の横には彼女がいた。
春日優衣乃ちゃん。
彼、卓雄くんの横に一番居る女の子で、私と同じ、幼馴染み。
「タカちゃん、待ってよ。まだ私、履き替えてないから」
「まってるから、慌てるなよ優衣乃」
「ありがとう。タカちゃん」
二人のやりとりをなぜか見て居られなかった。私はとっさに下駄箱を背に隠れた。
理由はわかっている、うらやましいから。
卓雄くんを中心とした、最近の学校で有名な集団。その中に私は入りたかった。
本当なら、私に勇気があるのなら、あの大きな輪に私も入って、彼の近くで笑っていられたのかな。
「うん?」
「どうかしたのタカちゃん」
「ああ、そこに誰か居た気がするけど……」
みつかった? どうして隠れたりなんてしたの私。
「気のせいか、行くぞ優衣乃」
「もう、かってなんだから」
その言葉を聞いて、見つからなかった安心と、彼が優衣乃ちゃんと二人で帰ってしまう不安感に襲われた。
そうしたら、全身から急に力が抜け、手に持っていた鞄を落としてしまった。
「あぁぁ。やっちゃった」
何やってるんだろう。最悪だ、鞄が開いていたようだ。
散乱したノート。中身が飛び出したペンケース。よかった、お財布からコインは飛び出していない。
「……かたづけなきゃ」
散乱した物を集めようと、しゃがんだ時。私の頭の上から声がした。
「大変そうだな、手伝ってやるよ」
私は顔を上げなかった。ううん上げることはできなかった。
だって声の主は私が顔を見なくても解る声だもの。
「あ……ありがとう」
自分でも何を言っているのか、相手に絶対に伝わらない声の声量でしか、お礼が言えなかった。
「気にするなよ智子」
え? どうして? どうして私の名前を呼んでいるの。
「あれ、東 智子だよな」
「あってる。当たってるよ」
嘘みたい。久しぶりに彼に名前を呼んでもらっている。
「久しぶりだな。クラスも毎回違うから、話す機会もなかったけど、元気にしてた?」
彼に聞かれている、答えなきゃ。でもどうやって……。
「タカちゃんなに……、あれ東さん?」
「ごめんなさい。拾ってくれてありがとう」
私は慌てて残った物をかき集めると、乱暴に鞄に詰めてその場から逃げることにした。
後ろから二人が何かを言っているけど、今はそんなことを考えている場合ではない。
とりあえず、私は急いで教室に戻った。
「はぁぁ……はぁぁ、うん落ち着かないと」
自分の席に座ると、鞄からペットボトルを取り出し口をつける。
おまけに釣られて朝に買った苦手なジュースでも、今はおいしく感じてしまう。
それだけ、ビックリしたのがわかる。
「まさか名前呼んでもらえるなんて……」
落ち着いて考えると、こんな嬉しいことはない。
急に恥ずかしくなり席を立ち上がる。
呼吸もまた荒くなり、熱くなってくる。
外の空気を吸いたい。
教室の窓を開けると、心地よい風と空気が私に向かってくる。
大きく深呼吸するとすこし落ち着く。でもその時また見てしまった。
二人が並んで帰るところを。
私は見てしまったんだ。あの横は私じゃなくて、彼女が居る。
私も幼馴染み。彼女も幼馴染み。
しかし隣に居るのは彼女だ。
私じゃない。
さっきまで熱かった体は、ココロと同じように冷えていた。
12話目の投稿です。
積みゲーの中に、こんなの買ったかな?
と思う作品も多数あるけど。
まさか同一タイトルがあるとは……
記憶力も無くなってきた。
暗記パンがほしい……
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