10話 幼女は恋をする
「いつからこんな目立つ集団になったんだ」
学校生活で上位に必ず来るであろう食事タイム。
しかし、最近はその時間が騒がしくて楽しくない、その原因の1つは……。
「タカオ! お前のために素晴らしい物を作ってきたぞ」
ドンッとテーブルの上に置かれたそれは、みんなのランチをまるで蹴散らすように中心に鎮座する。
「これって……あれだよな」
「たぶん、そうだと思うけど……」
「ちょっと二人とも……お弁当だよね。たぶん」
三人がはっきりと確証を持てないのは当然だと思う。俺だってこれが『それ』だと思わない。
「そうだ、ランチボックスだ。しかもだ、わたしの自家製だぞ」
どうやら間違いではないみたいだが。
中身を見ると普段食べている食事より色とりどりで、目を引く。
とりどりと言うか、カラフルと言った方があっているかもしれない。
多分、サンドイッチなんだと思う。少し焦げ目が付いているのはトーストをしてあるからだろう。
しかしそのパンに挟まっている物が問題だと思う。
「赤いのはトマトだろ、黄色いのは……フルーツか? ほかは何だろう、これはオリーブってやつか……この、青いのはなんだ」
普段の俺が口にするレパートリーには決して存在しない色だ。
青魚や青リンゴ。そんな色の青じゃない。
かき氷の定番、ブルーハワイと同じような色をした何かが挟まっている。
「ああ、それはウサギの肉だ。ソースは栄養のバランスを考えて色々配合した。その結果綺麗な色になっただろ」
「ええウサギ!」
未来が何の肉か判明したことに驚いている。俺も、もちろんウサギの肉なんて食べたことがない。それがサンドイッチに使用されているなんてビックリする。
だがそれよりも何を配合すればウサギの肉を青色に染められるのか教えてほしい。
「サンドイッチの横のは?」
「マカロンだ。甘くておいしいよ。タカオのために特別に甘めにしておいた」
俺のイメージのマカロンは、日本の食べ物で例えると、色の付いた小さいどら焼きと言ったところだろうか。
「ほれほれ、早く食べて」
サンドイッチを手に取る。嗅覚は問題ないと判断してるが、どうも視覚が拒否をしている。
「見た目って大事だよな」
大悟の言葉に全力で同意したい。
「どうした? ああそうか、タカオは困ったやつだ。わたしに食べさせてほしいのか」
ラーラがサンドイッチを口元まで持ってくる。
その行動に、優衣乃や未来が少し顔をゆがませたようにも見えたが。今は食べさせられるという行為を回避するのが重要だ。
「大丈夫。自分で食べれるよ」
慌てて自分の持っていた分をかぶりつく。
「あれ、意外と普通だ。いやこれも悪くない味だ、てか……」
味も相当な物を覚悟していたので、感想が浮かばなかったが。
おいしい。
思わずラーラに目をやるとキャッキャと笑っている。
「そうだろうそうだろう。何事も見た目に騙されては駄目だと、前に学ばせてやったじゃないか」
そう言うと手を前に突き出し、何かを揉む仕草を繰り返す。
とっさに記憶の中で大人ラーラが思い出される。
「あれと食べ物は別物だ」
少し声が大きくなる。
「動揺してるではないか、図星なんでしょ」
向こうの声はさらに弾んでいる。
「わたしの計算に狂いはない。だからうまいに決まっているだろう。……正直色は想定外だったが」
「それ本当に美味しいの? 二人で私達のこと騙してないでしょうね」
「ミキは人を信用する気持ちが欠けているぞ。しかたない。タカオのために作ったランチだが特別に食べていいぞ」
別に騙してなんかいない。
何度も言うが、見た目以外は大丈夫だ。
未来は躊躇しながら、サンドイッチに少し口を運んだ。
「あれ? なにこれ! 旨いわ」
驚くのは当然だ。俺も口にするまでは本当に子供がイタズラで作った料理だと言われたら信じてしまう見た目をしている。
「おホホホ。まあわたしの実力は料理にも通用するぞ。ミキも料理くらい出来ないとモテないぞ」
「なんですって!」
机に思いっきり手を叩きつけて立ち上がる。
周りは何事かと注目するが、お構いなしだ。
「ほら、本当だって確認できただろ。騒ぐなよ、目立つから」
こちらを見ていた女の子と目が合った……でもすぐにあちらは、目をそらしてしまう。
嫌われたか、名前も知らない女生徒に。
救いはいきなりやって来る。予鈴が鳴る。
「ほら、みんなもう時間ないよ。次の授業の準備をしなくちゃ」
さらに優衣乃の助けもあり、なんとか納められそうだ。
「次は体育だろ。遊んでないで行こうぜ」
お前も遊んでたメンバーの一人だ。
「ならしかたない。今度はまた珍しい物を作ってくるぞ」
そう言うとラーラは、さっさと戻っていた。机の上もいつの間にか片付けてある。
「大丈夫、タカちゃん?」
「ああ、これ以上の厄介ごとは面倒だけどな」
そう思っていたのだが…………。
「先輩はいつから、幼女趣味になったのですか!」
ドンッとテーブルの上に置かれたのは、今回は拳だ。
誰の拳か? そんなのは考えたくもない。
「誰か幼女だ。そもそもお前の方が年下でしょ」
「嘘だ! こんな見た目の幼い先輩なんてあり得ない。本当なんですか先輩」
さらに机を叩く。止めてくれ。
「また一人増えた」
「ゆっくり食事したいのよね」
「……あんまり強く叩くと、こぼれちゃうよ」
「葵。俺がそんな風に見えるか」
もう毎回の騒動なのか、人が増えたくらいでは周りも気に掛けなくなっている。そんななかで騒いでるのが、もう一人の幼なじみで後輩。葵が加わっていた。
「だから、食堂で先輩が幼女と騒いでるって噂になっているので」
噂……そんなの初耳だ。
「なんて面倒なことになっているんだ」
「その話は本当よ、最近アンタ目立つって噂よ」
「当然だろ。お前自覚なかったのか? 葵ちゃんの件で十分目立っているのに、ここに来て学校内一番の天才で、見た目幼女と絡んでるなんて言ったら目立つに決まってるだろ」
「私も友だちに聞かれたよ。タカちゃん達、なにしてるのって」
『達』ってことはまだ俺個人が目立ってるわけじゃないのだろう。
「それで優衣乃は、何て答えてくれたんだ」
俺は優衣乃に目でも訴える。
「もちろん、ちゃんと言ったよ。仲良くしてるだけだって」
もしも俺が、漫画の住人ならズッコケる場面なのだろう。
「そうじゃなくて、俺は被害者だって、言ってくれなかったのか」
「ええ、でも大勢でいると楽し……よ?」
「俺は優衣乃だけでも十分だよ」
「……え!? なに」
普段でさえ、大悟や未来で十分、面倒なんだ。これ以上は平和に暮らしたい。
「タカちゃん、それって――」
「だから聞いてますか! おにいちゃん」
いきなり葵の顔が、ぐいっと俺の顔の前までやってくる。
「あっご、ごめんなさい……じゃなくて! 何なのこれは、どれだけ女の子をはべらかせば気が済むんですが」
言葉には気をつけて欲しい。確かに今の男女比は女子が多い、多いがそれは葵も数に入っていると、俺は言いたいのだが。
「それだけタカオには魅力がある証拠だろ。そもそもお前も同じだろ」
「ちがうわよ、私はただ先輩に変な噂が……そう、噂よ噂。それを確認しにきたの」
ビシッとラーラを指さすと、さらに続ける。
「そしたら、ほんとに幼女とベタベタしてるなんて」
「さっきから失礼ヤツだな。IDを確認してみろ」
ラーラは葵の端末にデータを送りつけた。
「二年生……、先輩ってこと?!」
データとラーラの顔を交互に見比べ、驚きまくっている。頼むから大声出すのだけは止めてくれ。
「わかったか後輩、たしかチャンピオンらしいが、日本は上下関係が厳しい国と聞く。ほれほれ、挨拶は、どーしたのかなー」
すごく嬉しいのだろう。得意のイタズラっぽい笑みを浮かべて葵を追い込んでいく。
「うぅぅ……すいません」
「何かな? 後輩」
「すいませんでした! 先輩! これでいいですか!!」
もうヤケクソになっているのは誰が見ても明らかだ。
「なかなか素直でかわいいぞ。特別にコレを別けてやろう」
机の真ん中には、また例のモノが置かれる。
「……今回は黒い、なにこれ」
未来が一番に声をあげたが、誰もが同じ感想だった。
「なんですかこれ。まるで子供が作った泥団子を焼いたみたいじゃないですか」
「的確だわ」
「どこがだ。こんなに美味しそうな黒光りじゃない」
「こんなに黒いのは、あの日焼けした芸能人じゃないですか」
「バカ言うな。人間はここまで黒くないぞ。イメージはオニキスだぞ」
「意味がわからないし、そもそも食べ物ですよ!」
ちなみにオニキスとは、黒い宝石だ。
「だったら食べてみてくださいよ、ここで」
ラーラはやれやれと呟きながら手づかみで、その黒い物体を口にひょいっと運ぶ。
「ほれ、次は後輩が食べてみろ」
「ええぇ……じゃあいただきます」
葵はビクビクしながら口に運ぶ。そういった所が素直で葵らしい。
「そんな……これが美味しいなんて……」
「悔しいのか? かわいいやつだ」
「ちがいます!」
ほら、また大きな声を出す。面倒だな。
「すごく賑やかだね。でもたまには私は二人で――」
「あんたら、私抜きで盛り上がってんじゃないわよ」
そうだった。俺らにはもう一人お祭り騒ぎの元がいたんだった。
「おう、ミキも後輩弄りに参加するか」
「いじりってなんですか、いじりって!」
もう俺は関係ないのではってくらい盛り上がっている。
そういえば優衣乃との話が途中だった。
「すまん、さっきの話はなんだった」
「ううん、なんでもない」
優衣乃はいつものように優しい笑顔を浮かべている。
でも、なんだか少し影があるような気もする。気のせいだろうか。
それともこの騒がしい環境に疲れてしまったのだろうか。
気がつけば、いつの間にか賑やかになってきた自分の周り。
『なにも変わらない』そう思っていた俺。
しかし、自分の環境はいつの間にか変わっている。
新しい仲間に囲まれて、この生活も悪くないと思ってきた。
だけど、それは今まで築いた関係が変わっていくことを意味している。
俺とアイツの関係も少しは変わっていくのだろうか……。
10話目の投稿です。
ダウンジャケットが破れました。
どこかに引っかけたみたいです……。
いま新調するのは、ちょっとタイミング的にどうなのだろうか。
セール品に期待するか、思い切ってハイブランドにでもしてみようか……。
また明日も投稿します!
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ネタなども募集しています。次話構想などの参考にしたいです。
お待ちしております(^^)/




