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俺はクソゲーをやっている

なにも考えずに好きに書きたいと思います。

誰かの暇つぶしになれたら幸いです。


「勇者様、勇者様。」

聞き覚えのある声がして、体が揺さぶられる。俺は目を開ける。

焦点が合わずぼやけた視界は、木で造られた粗末な天井をとらえた。

隙間から光が差し込んできて、俺は目をつぶっては開ける。

「勇者様、お目覚めになられたのですね。」

声の方を向くと、どこか不安そうな顔をした女性が目に入る。

これまた見覚えのある顔だ。ようやく思考が追いついてくる。

「あぁ、そうか。」

あの自称神は本当にやりやがったのだ。

俺はクソゲーに閉じ込められてしまった。


俺はごく平凡な大学生だった。

講義もそこそこに、もて余した時間をゲームにあてる大学生。

訂正しよう、俺はどうしようもない大学生だ。

その日も出席のある講義を終えたら、逃げるように講義室を飛び出していた。

平日の昼間、大学の校内を抜けると人通りは疎らになる。

ポッケに手を突っ込み、どこかあせるように早足で歩く。

あせる理由などどこにもない。時間はいくらでもあるのだから。

それでも早足なのは俺が何かを恐れているからだ。

何を恐れているのかは当の俺にも分からない。

歩くこと10分、目当てのゲーム屋にたどり着く。

バイトもしていない身としては高い新作は買えない。

慣れた足取りで中古品のコーナーに一直線だ。

親の仕送りから食品を削って作り出した小遣いで買える物を見定める。

ふと、グラフィックが綺麗なパッケージが目に入る。

この情報社会ではレビューを見てから買うのが定石だろう。

だが俺はジャケ買いが好きだ。このつまらない俺の人生での唯一の冒険なのだ。

「ファーストファンタジー……。」

略してFF、訴えられそうなネーミングだ。

パッケージの裏の説明をざらっと見るとやはりRPGである。

値段は手頃にワンコイン。税金でワンコインにならないのは言わない約束だ。

RPGは暇潰しにはもってこいだ。

つまらなくても、この値段とグラフィックなら買いだろう。

なまじグラフィックが良いだけに、地雷であることは明確ではあるが。

俺はレジへ向かい、ぶっきらぼうに商品を出す。

いつもの小太りの中年男性がレジを打ってくれた。

こっちは向こうの顔を覚えているが、向こうは俺のことなんて覚えていないと信じたい。

店員は疲れているのか、心ここにあらずといった様子でバーコードを読み取る。

「550円になります。」

俺は600円を出す。

小銭で膨れた惨めな財布には探せば50円玉があっただろう。

「お買い上げありがとうございました。」

俺が持ってきたゲームをそのまま袋に包み渡してくれる。

俺は違和感を覚えながら、商品を受け取り軽く頭を下げた。


帰り道、違和感の原因に気づいた。

大体店頭に置かれてるゲームは空箱で、ソフト本体は店の奥にしまわれているはずである。

道端にも関わらず、俺はがそごそと袋を開け中を見る。

よかった、ソフトは入っている。

きっと安物だからだろう、俺はその程度にしか考えなかった。


どんなに地雷ゲーだと分かっていても初プレイ時はドキドキするものだ。

テレビの前にあぐらで座り、流れるオープニングを見る。

やはりグラフィックは優れている。仲間らしき女性キャラも俺の好みだった。

せっそく始めてみる。

『平和な世界にある日魔王が生まれ落ちた。

魔王は城を建て、魔物を統べ、人間を襲った。

人々は恐怖のどん底に叩き落とされた。

魔王軍は次々と都市や街を陥落させ重税を課した。

人々は助けを求めた。今それに呼応するように勇者が目覚めようとしていた。』

ナレーションが入る。ありがちで述べるまでもない設定だ。

『勇者様、勇者様。』

おっと、これは驚いた。ヒロインの声もボイス付きだ。

恵まれた要素の追加に益々クソゲー疑惑が増した。


ゲームを開始してから10時間。分かったことがある。

このゲームは間違いなくクソゲーである。

「えぇい、やめだ、こんなクソゲー。」

俺はコントローラーから手を離し、ヘッドフォンを頭から外す。

<心外ね。>

声が聞こえた。大学近くの安アパートに俺は一人暮らししている。

一人暮らしだから俺以外の声はしないと言ってみたいが

壁が薄いので隣人の声は聞こえてくる。

<あなたは現実逃避が好きね。>

頭に響くような声に、俺は思わず耳に手を向かわせる。

ゲームをする時、隣人に迷惑をかけないよう俺は常にヘッドフォンをしている。

しかし今は外していた。異様に静かに感じられる。

嫌な予感に心臓がバクバクしているのが音で感じられた。

<私はね、怒っているの。当然よね?

私の処女作のテストプレイをやる名誉をあなたは投げ出したのだから。>

また聞こえた。

「誰だ。」

俺は声を荒げて立ち上がる。勢いよく立ち上がったものだから膝をテーブルにぶつけた。

思わず顔をしかめる。

<名前はないわ。あなたの世界の言葉で言うなら神かしら?

あるいはアンリと名乗るべきかしら。あなたには通じないでしょうけど。>

神、神だと?残念ながら俺に信仰はない。

もし神がいてくれたなら、俺の日常は少しマシだっただろう。

現状を嘆きながら、変える努力もできない俺は信じてもいない神になにかと祈った。

だがその行為が意味を為したことはなかった。

だから身勝手な俺は神がいないと結論づけた。

<あなたが神をどう思うかは関係ないわ。

あなたは私の処女作のテストプレイヤーに選ばれたの。

プレイしてもらわなくては困るのよ。>

この自称神の言い分を信じるならこのゲームは神によって作られた駄作だ。

ゲーム作りが初ならば駄作なのも頷ける。バランス作りが全くなっていないのだ。

<バランスが悪いのではなく、あなたのプレイングが駄目なのよ。>

修正する気がないならテストプレイは不要だろう。

<いいえ、あなたにはプレイしてもらうわ。

いいこと思いついたわ。私、神だから発想力もあるの。

あなたにこのゲームをやらせる飛びきりのアイデアをね。>

冗談じゃない。誰がやるものか。

ゲームクリアしたら願いを叶えてやると言われても願い下げだ。

<あなたが目的のために努力できない人間なのは知っているから

そんな方法はとらないわよ。むしろ逆ね。強制的にやらせる。>

このソフト、ゲーム機ごと売ってしまおうか。そうすればプレイはできまい。

<そのソフトは世界で唯一無二の物よ。だから売れないわ。

それにそもそもそんなことはできないのよ。>

唯一無二?中古のゲームがか?

そういえば詰り始めてから攻略を探しても見つからなかったな。

それにゲームを買った時も何かが変だった。

<はいはい、くだらないことを考えてないでテレビ画面を見る。>

頭が勝手にテレビを向く。つけっぱなしだったゲーム画面。

画面の向こうの少女が俺に微笑みかける。

<では、ゲームの世界にご招待!>

言葉が理解できず固まる。まさか、強制的にプレイって。

視界がグニャリと曲がる。いや、曲がっているのは視界ではない。

俺の部屋?それとも俺自身?脳の中で電撃が走り、火花が飛び散る。

その強すぎる衝撃に俺の意識は途切れた。


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