幼馴染は外国人
後編です。
神崎真美からどちらかを選べと言われてしまった真夏。
悩みに悩んでいます。
微妙な世代の真夏たちに共感してもらえると思う作品になっています。
11月も終わり。
とうとう文化祭の日が来た。
真夏は朝起きてからベッドでぼーっとしていた。
つい先日真美から言われた言葉がずっと離れないで居た。
相沢にしても、アイルにしても狙っている女の子が幾らでも居る。
「・・・モテるんだな、あの二人。」
改めて倍率が高いんだと気付いた。
学校へ行くのが気が進まない。
真美の顔を見るのも嫌で仕方なかった。
「あ~腹立つ・・・。」
真夏はぼそっと呟いた。
「真夏ー!!遅刻するわよ!」
階下から母親が叫んで起こしてきた。
「起きてるよーっ!!今行く!!」
ぶっきらぼうに返事をして制服に着替え下へ下りて行った。
「おはよう、真夏。珍しくのんびりね。」
母がいつもは割とすんなり起きる真夏に向かって問いかけた。
真夏は膨れっ面をして話すのもめんどくさいなと思ったが、少し話した。
「同級生の他のクラスのやつに、相沢先輩かアイルのどちらか早く決めろって言われたの。決めろとか意味わかんなくない?大体そんな風に見ていなかったら?決めようがないじゃない?」
真夏は母親に愚痴った。
母は聞いていてクスっと笑った。
「何がおかしいのよ?」
真夏はニコニコしている母親をみて機嫌が悪くなった。
「真夏、あのね。とりあえず自分の心ときちんと向き合いなさいね。」
「何がよ?」
「ううん。まぁ慌てずに良く考えなさいね。」
母はそれだけ言うと朝食を食べだした。
真夏もあまり食は進まなかったが母親が作ってくれた朝食を食べて家を出た。
数メートル歩くと、加奈子が待っていた。
「真夏おはよ!」
「おはよ・・・。」
「なに?朝から暗すぎ・・・。」
加奈子は真夏の顔を見てぎょっとした。
真夏らしくなく眉間に何本も皺が寄っていた。
「だって・・・神崎さんが言った言葉が頭から離れないから・・・ムカムカしてきちゃって。」
週初めに言われたことを未だ根に持っていることを加奈子に伝えた。
「まぁ、選ぶ選ばないは他人には関係ないし、相沢先輩もアイルも真夏の事を大切に思っていてくれることは紛れもない事実なわけだからさ。真夏は自分の心とよく向き合いなよ。慌てて出す答えじゃないよ?」
加奈子はそう言って真夏を励ました。
「うん・・・。ありがとう。」
二人は学校へ向かって歩き出した。
学校へ着くといつもとは違う学校の雰囲気に圧倒した。
「何か、今年の装飾派手じゃない?」
加奈子がキョロキョロして言った。
真夏もキョロキョロして見回した。
「今年の実行委員・・・相沢先輩だからじゃない?あの人、張り切ると予想以上の力発揮するタイプじゃない?バスケの時もそうだったけど・・・。」
「・・・そうだね・・・校舎の中の装飾が楽しみだわ。」
中へ入ると、後片付けが大丈夫なのか?と思うほどの飾りつけだらけだった。
「天井から・・・花や変なてるてる坊主がぶらさがっている・・・。」
真夏が口をあんぐり開けていると後ろから話しかけられた。
「高野、大河、おはよ!」
相沢だ。
「相沢先輩、大丈夫なんですか?この飾りつけ・・・。」
加奈子は心配になり聞いた。
「あぁ、大丈夫だよ。」
恐ろしいほどの笑顔で相沢が微笑んだ。
「・・・まさかとは思うんですけど・・・バスケ部が片付けるとか言わないですよね?」
真夏が恐る恐る聞いた。
「お!感がいいな、高野。柚木にももう約束取り付けてあるから。夕方頼むな。」
「・・・え?聞きたくなかった。」
「真夏・・・変な事聞くんじゃないわよ・・・」
加奈子は憂鬱そうな表情を浮かべ言った。
「まぁ、まぁ。主にヤロー部員にやらせるから大丈夫だよ。女子にはゴミの片づけかな。」
相沢は笑顔で二人に言って去って行った。
「・・・朝から憂鬱になっちゃったね。」
「うん・・・。ダンスも微妙なのに・・・。」
二人はとりあえず教室へ向かった。
教室へ行くとクラスメイト達は衣装を着てヘアメイクやら振り付けの確認をしていた。
いつもはメガネの女の子も、おとなしい子もクラスのおしゃれ部隊の腕でいつもと全く違う女の子に変身していたり、地味目な男子達もおしゃれ男子達の腕でかっこよく見えるようにしてもらっていた。
「わぉ!皆いい感じに準備してるね!」
加奈子は目がキラキラさせた。
「高野!加奈子!遅いぞ!!」
圭吾が大声で言ってきた。
「・・・圭吾・・・何?その格好。一昔前のアイドルみたいな・・・。」
加奈子があんぐりと口を開けている。
「何か・・・お母さんたちが若いころに流行った光ゲンジみたいだね・・・。」
真夏も母親の私物のCDジャケットで見たアイドルの名前を言った。
「そう!俺さぁ、小さい頃に母親の昔の雑誌で見たことがあってさ。かぁくんが好きなんだよ!」
圭吾は嬉しそうに言った。
「そう・・・きらきら目立っていいんじゃない?」
話しているとオシャレ女子のボス、クラスメイトの前田奏美が声を掛けてきた。
「高野さん!大河さん!早く準備して!!ヘアメイク私がやってあげるから!」
奏美は二人を捕まえ座らせてメイクとヘアアレンジをした。
「うん!かわいい!!特に大河さん、綺麗なんだから普段からメイクとかすればいいのに。」
奏美は加奈子に言った。
「うーん・・・あんまり興味ないからなぁ。でも、綺麗にやってくれてありがとう。」
加奈子は嬉しそうに言った。
「ねぇねぇ!奏美ちゃん!私はどう?!」
「高野さんはあんまり変わらない感じ?」
「え?」
「顔立ちがはっきりしているからよ。顔は可愛いんだからちょっとメイクしたりヘアアレンジしたら相沢先輩も見惚れちゃう・・・あ、もう惚れてるか!」
奏美はそう言って笑った。
「ありがとう・・・相沢先輩にあんまりガン見されたくないけどね・・・。」
真夏がそう言うと周りにいた女子たちも笑っていた。
準備をしているとアイルが教室へ入って来た。
皆がアイルの方を見ると皆動きが止まった。
「・・・アイル先生・・・その格好は?」
圭吾が開口一番アイルに聞いた。
「やぁ!皆お早う!今日は頑張ろうね!!衣装素敵だろ?エルビスプレスリーみたいだろ!?」
アイルはとても嬉しそうに笑顔で言った。
「エルビスって・・・あの・・・袖が素麺みたいなのがついてる衣裳着ているアメリカの昔の歌手よね?」
奏美がアイルに顔を引きつらせながら言った。
「先生・・・圭吾と並んで踊っていてもらっていいですか?」
クラス委員の佐々木が二人に言った。
クラス中爆笑した。
「アイル先生の横で踊ったら俺のかぁくんスタイルが台無しじゃないか!」
「・・・どっちもどっちよ。」
加奈子が冷たい言い方をして圭吾を固まらせた。
「加奈子、塩過ぎる・・・そんなどっちもどっちだなんて!高野、何とか言ってくれよ!」
圭吾はそう言ってのたまった。
「うーん・・・コスプレイヤーみたいになってるかなぁ・・・若干。」
真夏は申し訳なさそうに圭吾に言った。
アイルはアイルでクラスの生徒たちに袖部分をいじられて遊んでいた。
「アイル、アイル。」
真夏は小声でアイルを呼んだ。
「何ですか?高野さん。」
「あの・・・アイル先生は何でその格好を選んだんですか?神崎さん除け?」
思ったことを聞いた。
アイルは少し考えて、
「そうですね。そうかもしれません。この格好なら彼女も引いて話しかけてこないかな?と、思ったので。高野さん、なかなか鋭いですね。」
アイルは笑顔で言った。
「やっぱりそうですか・・・。その格好で今日一日平穏無事に過ごせるといいですね。」
「そうですね。職員室の先生方も若干引かれていたので大丈夫だと思いますよ。」
「・・・そうですか・・・。確かに引きますよね・・・。」
真夏はそう言い残し加奈子の元へ戻った。
発表の時間までわずかになった。
一年に一度の文化祭の為クラス中が、学校中が浮足立っていた。
出し物や仮装している生徒、特技を存分に発揮している生徒。
真夏は加奈子と回っていると、バスケ部の顧問の神田先生と遭遇した。
「神田先生、何してるの?」
二人が聞くと・・・
「おぉ、高野と大河じゃないか。お前らも派手な格好してるなぁ。」
真夏と加奈子を見ると神田先生がスマホで写真を撮ってくれた。
「先生は…何の格好ですか?」
「俺か?俺は…クラスの劇のお爺さん役だ。」
「何の劇ですか?」
真夏は胡散臭そうな神田先生を見ながら言った。
「高野、随分俺を胡散臭気に見てるな。」
「だって、そんな赤いテッカテカの服着て、怪しくない訳ないですよね。」
「劇は、現代版鬼退治の劇だ。とある漫画をモチーフにした。」
「あぁ、あれですか。先生鬼だよね?絶対。」
「そう、俺はボスだ。」
「…あの漫画だったらボスはめちゃくちゃイケメンなのに…モチーフだから神田先生でいいんだね。A組の先輩達。」
加奈子は残念そうに言った。
「大河・・・随分心に突き刺さるモノの言い方をするなぁ。」
神田先生はとても傷ついた顔をして言った。
「鬼退治なら桃太郎とかの方が簡単じゃなかったんですか?先輩たち受験勉強もあるのに。」
疑問に思い尋ねると、
「俺もそう思うんだけどなぁ。でも高校最後の思い出に楽しい事をしたいって相沢が言うからなぁ。それに皆クラスが賛同したんだわ。」
そう言うと嬉しそうな顔をして神田先生は去って行った。
「面白そうだね。でも、練習の時の話は・・・無さげね。」
「あぁ、蜜璃ちゃんとかって話?そうだね。そのモチーフかぁ。コメディだろうね、相沢先輩が先導きってやっているなら。」
「・・・見に行く?」
「うーん・・・多分?」
真夏と加奈子は体育館の舞台袖に並んだ。
~♪只今より2年B組のダンス発表を体育館で行います。
「はぁ。いよいよですな。」
「では、皆さま参りましょうぞ。」
クラス委員の佐々木が全員に声をかけた。
勢いよく舞台へ飛び出す。
そして、アイルがセンターに立ったと同時に音楽が始まった。
「あぁ!終わった!!お腹空いた!」
真夏が大きな声で叫ぶとクラスの皆が笑った。
「真夏、本当に色気が無い・・・。そんなんじゃ相沢先輩に愛想つかされちゃ・・・」
「わない!付き合ってない!彼氏でもないし、私は彼女じゃありません。」
「真夏、いい加減愛を受け入れてあげたら?」
奏美が顔を覗き込んで言ってきた。
「奏美!!」
そこへ丁度相沢が現れた。
「高野!!ちょっといいか?」
真夏は恐る恐る裏を見た。
「何の御用でしょうか・・・。」
「高野、頼みがある。」
「何のですか?聞ける事と聞けない事がありますが・・・。」
「制服貸して。」
「????????????」
真夏は相沢の言葉に絶句して固まった。
「相沢先輩、女装でもするんですか?」
加奈子が引きつりながら言うと、
「そう。俺が着る。」
「!!!!!!!!!!!」
真夏は涙目になった。
「大丈夫だって。破かないようにするから。」
「いや・・・そういう問題じゃなくて・・・。何で着るんですか?先輩が・・・。」
「劇でさ、俺道具係だったんだけど。鬼退治やる役の一人が今朝の練習で足を痛めてさ。で、俺が代打で・・・。」
「・・・そうですか。貸しますけどちゃんと返してくださいよ!!!」
「高野、見に来てくれる?」
「分かりました。あまり気は進みませんけど、私の制服が出演するので見に行きます。」
「可愛くねぇなぁ。うん!行く!!って言えないの?高野は?」
相沢が嫌味っぽく言うと真夏はべぇっと舌を出した。
「高野、先輩マジだろ?」
圭吾が言った。
ダンスを終えたアイルは着替えて職員室前に居た。
学校の様子を二階から眺める。
「アメリカと違って、日本の子供たち皆規則正しいなぁ。」
そうぼそっと呟いた。
自分が通っていた公立の高校は登校時に正門前で全生徒対象に手荷物検査が毎日あり、拳銃やスタンガン、ドラッグなどを持っていないか確認された。
アイルからすると日本は本当に平和だなと思った。
街も普通に歩ける、銃におびえなくていい。
幸せな国だとつくづく感じる。
「平和なんだからもう少し志持って生活しろよ・・・。」
アイルは声に出していた。
「あーいーる先生!!」
甘ったるい呼び方にゾゾ毛が立った。
声の主は・・・神崎真美だ。
「か・・・神崎さん・・・。」
「何か、嫌な顔してます?真美の事嫌いですか?」
「あの、教師だから。好きとか嫌いとかないですよ。皆平等です。」
アイルはのらりくらりかわした。
「平等なんですかぁ?真美はぁ、アイル先生の特別な一番になりたいなぁ。」
精一杯の色仕掛けで真美がアイルに絡むが、アイルは呆れて見ていた。
「神崎さん、あなたは高校生ですよ。色仕掛けで男を漁るよりももっとしなくてはならない事があるのではないですか?」
「アイル先生、真美にあまりにも失礼な事言うと国へ強制送還しますよ?」
文科省に居る父親をダシに使い真美はアイルを脅そうとした。
「そんな事して何になるんですか?恋も素敵な事ではありますが、神崎さん、君は恋愛面が多すぎる気がするよ?それよりも将来の希望などないのですか?」
「・・・アイル先生、彼女居るんですか?」
アイルは突然聞かれて面食らったが、素直に答えた。
「居ますよ。」
「高野さん?」
「真夏じゃない。あいつは・・・妹みたいなもんだよ。小さい時からいつもニコニコしていて、可愛い俺の天使だった。彼女はアメリカに居るよ?ただ日本へ行く時に大ゲンカしてね。未だお互い音信不通。はは、バカだと思うだろ?」
アイルは真面目に答えた。
「彼女さんの事大切なら連絡してあげるべきじゃないですか?」
「君に言われなくてもきちんと考えているから、ご心配なく。」
真美はそう言われその場を黙って去った。
アイルは扱いに困る生徒が去ってくれてほっとした。
アメリカに居る彼女を思い出していた。
「・・・あいつ元気かな・・・でも今更どんな顔して連絡すりゃいいんだよ・・・。」
真美はアイルに聞いた話を真夏に聞かせようと思った。
特に意味は無いけれど真夏に聞かせたかった。
あんな風に言われたのも初めてで少し腹立たしかった。大体ちやほやされていたのに、アイルは全く歯が立たなかった。
プライドが傷ついたと真美は思った。
真夏たちは教室で出店のタピオカドリンクや焼きそば、クレープ、みたらし団子を食べていた。
皆は制服だが真夏は体操服。
「ある意味目立つよね。」
奏美が笑いを堪えて言った。
「体操服似合うからいいでしょ?」
加奈子が真顔で言う。
「二人とも、面白がってるよね。先輩のクラスの劇早く終わらないかな・・・。」
「あぁ、でももうすぐじゃないの?3年のトリでしょ?A組は。」
奏美は文化祭プログラムをペラペラめくった。
「体育館へそろそろ行ってみる?」
「そだね。」
3人は体育館へ向かった。
廊下を歩いていると前から神崎真美が歩いて来た。
「げ、神崎だ。」
真美は真顔でどんどん3人に近づいて来た。
そして3人の前で止まった。
「高野さん、少しお話してもいいかしら?」
「あぁ、うん。何?」
「さっきアイル先生と話をしたの。」
「アイルと?で?」
「アイル先生に彼女は居るのか単刀直入に聞いたの。」
「うん。」
「居るって。高野さんなのか聞いたら違うと言われたわ。あなたの事は妹の様に思っているって。」
「あのさ、何で真夏の事をあんたが聞くのよ?大体アイルもアイルだわ。何で神崎さんにそんな話するのよ。」
話を聞いていた加奈子が眉間に皺を寄せ言った。
「アイル先生があなたたちと幼少の頃からの付き合いだって言っていたんでしょ?そりゃあ真美はアイル先生の事好きだもん。聞くわよ。」
何が悪いんだという顔をして真美は言う。
「それでアイルはそれ以外は何て言ったの?」
真夏は心臓の鼓動が早くなるほど緊張してきた。
「彼女はアメリカに居て、来日する前に大ゲンカして音信不通になっているそうよ。高野さん、残念ね。彼女が既に居たわね。」
真美は少し皮肉っぽく言った。
真夏は何故かほっとした。
心に引っかかっていた何かがストンと落ちた。納得した。
「そう。アメリカにいるのね。分かったわ。またアイルに聞いてみるわ。」
「何で高野さんが聞くのよ?」
「それはあなたに言う必要が無い。加奈子、奏美、行こう。」
真夏は真美にそう言い残し二人を連れて体育館へ歩いて行った。
体育館へ行くと既に生徒や教師が席を取っていた。
パロディとはいえ、人気の漫画を元にオリジナルストーリーで相沢たちが作った劇なのでかなり注目されていた。
「・・・すご・・・何処に座る?」
「真夏、近くで見たいよね?制服の無事を見届ける為に。」
奏美が真剣に前の方の席を探してくれている。
「真夏~!大河さ~ん!奏美さ~ん!こっち~!」
養護教諭の佐藤先生が3人を呼んだ。
「先生!席取っておいてくれたんだ!」
真夏は嬉しそうに言った。
「あら、真夏嬉しそうねぇ~。相沢君をやっぱり前で見たいよね~。」
佐藤先生はそう言って真夏の顔を覗き込みニヤニヤして言った。
「そっ!そんな事ないし!!相沢先輩に制服を貸せって言われて、破かれないか見はらなきゃいけないからです!」
強がって言ってみたが3人にはお見遠しだった。
開演時間になり、電気が消され舞台上のスポットライトが点いた。
人が歩いて来た。
神田先生だ。会場の人たちが神田先生の姿を確認するとなぜか爆笑になった。
「え~、本日は3Aの為にこんなに沢山の生徒さんや教職員、来賓の方々、父兄の方々にお集まり頂きありがとうございます。今日の劇は今人気の漫画をモチーフに生徒たちが考えた面白可笑しくなっている話です。ごゆっくりご覧ください。」
神田先生の長い前座が終わり劇が始まった。
最初に鬼が村を襲い、村人が大けがをし・・・桃太郎的なヒーロー、ヒロインが出てくるというコント張りの劇だ。
「真夏、相沢先輩だよ。」
「・・・本当に制服着てる・・・。」
相沢は真夏の制服を着て、更にカツラまで被ってメイクまでして女装をしていた。
「メイクしてる・・・真夏の制服持って行ったからまさかとは思ったけど・・・ガチで女役だ・・・。」
加奈子は遠い目をした。
「あの制服・・・私後でまた着るんだよね。」
「相沢先輩の汗の香りたっぷりだね。」
奏美が笑った。
「・・・嬉しくない。」
「照れるなって。」
佐藤先生まで嬉しそうに言った。
「照れてない・・・。」
「殺陣多いね。」
「制服~!」
「破れて帰って来たら殴ってやれ。」
相沢は身軽に動き回り、殺陣をこなしていた。
「カッコいいねって言ってあげたいところだけど、女装だから何とも言えない気持ちになるわぁ・・・。」
加奈子は微妙な顔をした。
真夏はただただ顔が引きつっている。
劇は大盛り上がりだ。
神田先生の活躍も大有りだった。
劇は大盛況のうちに終わり、文化祭も無事に終わった。
真夏たちのクラスは教室の片づけも無いので、早々に実行委員会の掃除に参加することになった。
「よりにもよって一番装飾多い玄関がバスケ部担当って・・・嫌がらせ?」
加奈子は箒で廊下を掃きながら言った。
床から天井から、窓から下駄箱までありとあらゆるところに装飾が施されていたので取るのに物凄い動力を要する場となっていた。
「加奈子が愚痴って珍しいね。いつもそんな事言わないのに。」
「言いたくもなるわよ。飾りも取ればただのゴミくずになるのよ。」
「まぁまぁ。早く片付けて帰ろう。」
二人でゴミをさっさと片付けていると、相沢がやって来た。
「高野制服なんだけど、汗すごいかいちゃって・・・クリーニングして返すわ。月曜日振替だし。月曜日に返しに行くわ。」
「え・・・やっぱり・・・男臭そう・・・。」
「男臭いってなんだよ?失礼な奴だな。直ぐにクリーニング持って行きたいけど片づけもしないといけないし。臭い染みつかないから。」
「・・・クリーニングで除菌もしてもらってください。」
「・・・凹むわぁ・・・今日もお前の家に寄ってやる。おばさんのご飯食べてから帰るから。」
相沢は膨れ面でそう言って去って行った。
「今日もって、毎日来てるの?相沢先輩。」
加奈子は驚いて聞いた。
「毎日ではないけど・・・アイルも居るからうるさくて・・・二人とも下らないことで喧嘩しだすし。お母さんはそれ見て笑っているだけだし。」
「大変だね。初恋と今後の恋人候補の二人が居て。」
「初恋はともかく、今後のって。相沢先輩とそんな事になるのかなぁ・・・。」
「まぁ、少しづつお互い歩み寄ったら?急がなくていいし。」
加奈子はそう言って真夏の頭を撫でた。
片付けもほぼ終わり、学校内もいつもの姿に戻った。
バスケ部の面々も解散し、真夏と加奈子も下校するところでアイルと遭遇した。
「二人ともまだ残っていたんだね。」
アイルは驚いた様に言った。
「相沢先輩にバスケ部のメンバー掃除係って言われたから残っていたんですよ。」
「アイツらしいな。さぁ、それよりも今日の晩御飯は何だろうなぁ。」
アイルは嬉しそうに言った。
「やっぱりまた来るんだ・・・。」
真夏は憂鬱そうに言った。
「加奈子ちゃんも来たら?」
アイルが誘った。
「てか、真夏が言うなら分かるけど、何でアイル君が誘うのよ?」
「まぁまぁ、沢山の方が楽しいじゃん。それに・・・真夏、あいつもどうせ来るんだろう?」
「うん、タブンネ。きっと来るわよ。加奈子もおいでよ、どうせお母さんたっぷりご飯用意していると思うから。文化祭だったの分かっているし、鍋か大勢でも食べられるご飯用意していると思う。」
真夏はそう言って自宅へ電話した。
「やっぱり今日は鍋だって。寒いから早く家に行こう!」
真夏たちは家に向かって歩きだした。
「ただいま~。」
「おじゃましま~す。」
「おばさん、こんばんは~。」
家に上がり口々言うと、
「おかえりー、いらっしゃーい。加奈子ちゃん久しぶりねぇ。」
「お久しぶりです・・・って、おばさん、先週の日曜日来たし。」
「あら?そうだっけ?ふふ、色んな人が出入りするから忘れちゃう。ごめんね。」
真夏母はそう言って笑った。
「何鍋?」
「豚キムチ鍋よ。」
「ワァーオ!豚キムチ!!俺初めて食べるよ!!」
アイルは初の日本食、鍋に興奮していた。
「お母さんお餅も入れてよ!」
「はいはい、ちゃんと準備してあるわよ。あれ?今日は相沢君来ないの?」
真夏母は一人足りないわねという表情をした。
「きっと後から来るわよ。来るみたいな事言っていたし。」
「そう。相沢君の分も含めて作ったから。じゃあ、もう少し待ちましょうね。」
「私、連絡してみるわ。」
加奈子がスマホを出して相沢へ連絡しようとした。
「え?加奈子相沢先輩の電話番号知ってるの?」
「・・・あんた、マネージャーよね?連絡網に相沢先輩のスマホの番号載ってるわよ?」
「・・・相沢先輩居た頃は・・・本気で嫌だったから・・・入れてない・・・。」
真夏がそう言うと後ろから声がした。
「へぇ、そんなに嫌だったんだ。俺、お前にそんなに嫌われてるんだな・・・凹むわぁ。心折れそうだわぁ。」
「あ・・・相沢先輩・・・。」
「映画のチケット手に入れてさぁ。明日お前と行こうかなぁなんて思ったけど、嫌われているなら俺なんかに誘われるの嫌だよなぁ。」
相沢は遠い目をして言った。
「!!!!!!そ!そんな事ないです!今は嫌いじゃなくなりました。多分・・・映画行きます!行きます!」
「そうか、行くか。ホラーだけどな。覚悟しておけよ、真夏さん。」
相沢は公開中のジャパニーズホラーの映画チケットを真夏の前でぴらぴらさせた。
アイルはその様子を見てお腹を抱えて笑っていた。
「ほ・・・ホラーなんですね・・・。」
「真夏、映画館でギャン泣きしないようにね。」
加奈子も笑いを堪えて言った。
「おいしそー!!鍋サイコー!」
相沢は感動の感嘆をあげモリモリ食べている。
「普段どんな食事をしているんですか?」
加奈子が呆れながら言った。
相沢の隣に居るアイルもがっつく様にキムチ鍋を口へ運んでいた。
真夏も加奈子も二人を茫然として見ていた。
食後・・・
「アイル、神崎さんにかなりしつこくされ気味なの?」
「うーん・・・そうだな、されていると言えばされているし。流せると言えば流せるし。正直言えば側に来ないで欲しいけどな。」
アイルはコーヒーを飲みながら大人の余裕感たっぷりに言った。
「・・・キザだな・・・。」
「は?」
「大人の余裕ぶっこいてる感じがキザだ。やっぱり外国人だ。」
相沢は皮肉な言い方をした。
「お前はお子様だもんなぁ。俺の大人の余裕感なんて判らないよなぁ。」
アイルはアイルで相沢に嫌味たっぷりに言った。
そこへ加奈子が口を挟んだ。
「まぁ、あんたたちの話は置いておいて、アイル君、問題もあるんじゃない?」
「あ?問題って?」
「今までも狙った男は逃がさない的な感じはあったけど・・・彼女が居る事口外したけど、今後狙って来ないとは言い切れないわよね。」
「俺、狙われた事ないな・・・バスケ部のエースだったのに・・・。」
相沢は寂しそうに言った。
「相沢先輩は・・・真夏が入部して来てからずっと真夏いじりに勤しんでいたから狙っても無駄だと思ったと思いますよ?」
加奈子の意見に真夏も頷いていた。
「速攻狙いから外されたのかぁ・・・良かった。」
「いいな、相沢君は即刻外されて。俺はイケメンだから、外されなかったんだね。」
「アイル先生、俺もそれなりだと思うんですけど。」
「・・・相沢先輩は普通クラスだと思いますよ。」
「高野・・・結構その言い方、塩だな。」
「そうですか?思った通りの事を言ったまでですけど?」
「大河、こいつ結構冷たいのな?」
相沢は涙目で加奈子に訴えた。
「照れ隠しだと思うので、本気に取らないでくださいね。」
加奈子は満面の笑みで相沢をフォローした。
「加奈子、照れてない!!」
「真夏、照屋さんね。」
「違う!!」
「真夏は小さな頃からはにかみ屋さんだったね。」
アイルまで言いだした。
真夏は好きにしてと言わんばかりに諦め顔でいた。
話題はアイルの外国へ残してきた彼女の話になった。
「彼女とはいつから付き合ってるの?」
真夏がアイルに聞いた。
「んー、高校の2年生の時にサークルで一緒になってさ。仲間内で遊ぶうちにね好きになって・・・俺から告白して・・・付き合ったんだけど、結構情熱的な子でその当時の俺は付いて行けなくてさ。何かさ熱量が違うって言うの?だからさ直ぐ別れちゃったんだよね。俺から振ったんだけど。」
「え?じゃあ彼女じゃないじゃん。」
真夏は突っ込んだ。
「続きが有るんだよ。・・・その後高校卒業するまで気まずくなって話せなかったんだけど、向こうに彼氏が出来て、高校卒業して彼女は俺とは別の大学へ進学して、お互いその頃からまた仲間と集まって一緒に遊ぶ様になってね、彼女は当時の彼と結婚約束していて・・・でも、一緒に遊ぶうちにさ向こうも大人になって、俺も大人になって・・・俺やっぱり彼女の事好きだったんだよね。」
「・・・でも相手が居るから手は出せない。」
相沢が考え深げに言った。
「あぁ。でも大学卒業して、少し経った頃に仲間の一人から彼女が彼氏と別れたって聞いたんだ。」
「チャンスじゃん!」
真夏は目をキラキラさせて言った。
「あぁ、そうチャンスだった。彼女を誘って食事へ出かけたり、ドライブへ行ったり、仕事の事で話が合って朝方まで話したり。アホな話をしてじゃれ合ったり・・・とにかく楽しかった。」
「告白はしたの?アイル君?」
「・・・出来ないんだよ。怖くて。」
3人は唖然とした。
「怖いって、それだけ一緒に遊んでいたんだったら彼女も・・・まんざらではないんじゃないですか?」
相沢は力を込めて言った。
「・・・友人としての時間が思ったよりも長くて、告白して付き合ってまた別れるような事があって今度こそ彼女を永遠に失ったら?だったらずっと友人で居た方がずっと一緒に居られる。失うことを思うと怖くて彼女に気持ちが言えないんだ。それ以前に振られたら?俺、自分に自信も無い上に立ち直れない自信もあって・・・。」
アイルはそこまで話すと項垂れてしまった。
少し沈黙し真夏が口を開いた。
「アイル、クリスマス休暇は・・・アメリカへ戻るの?」
「年末に少し・・・何で?」
「私たちも行くよ!」
真夏の言葉に加奈子と相沢があんぐりと口を開けた。
「何言ってんの!?真夏!!アメリカ行くのに結構な金額かかるのよ!?」
加奈子は血相を変えて言った。
「大丈夫、格安航空で行けば!それに、お泊りはアイルの実家にすれば交通費とおこずかいで何とかなる!!」
真夏はドヤ顔で言った。
「・・・俺も・・・バイト代工面して行きます!!」
「相沢先輩も行くから!アイル!勇気を出して告白しよう!!」
真夏は頬を赤くして興奮して言った。
「・・・てか、彼女に結婚前提の彼氏が居て自分にはもうチャンスが無いと思って・・・女遊びが過ぎたの?大学生の時・・・?」
真夏は疑問に思い聞いた。
「あぁ、そう!そうです!シャロンと一緒になれることは無いんだと自暴自棄になったんだよ!」
アイルがそう言うと3人は笑った。
「何がおかしい?」
「だって、何か駄々こねている子供みたいで・・・ひひひ・・・」
真夏は爆笑だ。
「真夏、アイル君真剣なんだから、笑ったら失礼よ。」
そういう加奈子も満面の笑みだ。
「お前ら・・・とりあえずそこよりも旅費の事考えろよ?」
相沢がそう言うと、
「大丈夫です、加奈子のお父さんは外資系の企業に勤めていて、しょっちゅう海外出張があるからマイルはバカみたいに溜まっているって言っていたし、私はお父さんにおねだりすればなんとかなっちゃうので。先輩は自分の心配をしてください。」
「・・・そうですか・・・アイル先生、最悪片路代金貸してもらえますか?出世払いするんで。」
相沢は青白い顔をしてアイルに頼んだ。
「・・・心配するな、俺が格安探して何とかしてやるわ・・・。」
アイルは相沢の肩を叩いて言った。
「アイル先生、精一杯ご協力させて頂きます。」
相沢はそう言ってアイルの手を精一杯握った。
「あ、ところでアイル。神崎さんが言っていたんだけど・・・喧嘩して音信不通って。」
「うん。日本へ臨時講師として赴任される話をしたら・・・聞いていないよ!って言われて。何で言ってくれなかったんだとか・・・俺、あいつの彼氏じゃないからそんな事言っても重いかなって。そしたら逆で物凄い勢いでキレられて。何千キロも離れている日本に行っちゃうなんて!ってそれでシャロン凄い怒って帰ってそのまま・・・怖くてメール出来なくて・・・。」
アイルはそう言ってしょんぼりした。
「・・・意外と小心者ですね・・・。でも、わかります!その男心!!」
相沢はわかる!わかる!とアイルと微妙な男心について語り始めた。
「シャロンさん、アイル君の事好きじゃないの?それだけ怒るって事は?」
加奈子が考えて言った。
「そう、だよね?ただの友達でそこまで感情的になって怒る事も無いよね?多分・・・大親友だと思っていたらその限りではないかもしれないけど・・・人種が違うから何とも言えないけど。日本人ならほぼ確実に好きだよね?ってレベルだよね?」
真夏も首を傾げた。
その頃、男2人は未だ恋愛について語っていた。
翌日
真夏は目が覚めると暫くベッドで寝転がっていた。
今日は相沢と映画を見に行く約束になっていた。
だがアイルとシャロンの事をぼんやりと考えていた。失うのが怖くても気持ちをきちんと伝えない方が後悔するんじゃないのか?お互い言わずに月日が流れてお互いそれぞれ何となく縁があった人と結婚して・・・何かあった時に思い出してはモヤモヤするなら・・・。
「だめ、そんなの!アイルとシャロンさんくっつけなきゃ!」
真夏は休暇中に二人を何とかすると決めた。
「お母さんおはよ。お父さんは?」
「あら、お早う。今日は早いわね。お父さんなら書斎じゃない?」
真夏は書斎へ向かった。
書斎では父が仕事をしていた。
「お父さん、おはよ。」
真夏は機嫌よく話しかけた。
父はいやーな顔をして振り返った。
「お早う。・・・真夏のその言い方、大体何か魂胆が有る時なんだよな・・・。」
「あ、さすがお父さん。あのね、お願いがあるんだけど・・・。」
「お母さんから何となくは聞いているけど・・・冬休みにアイル君の為にひと肌脱ぎに行くって?あと、加奈子ちゃんと相沢君?だっけ?バスケ部のキャプテンだった。」
父は母から凡その事を聞いていたので状況は吞んでいた。
「そう。だめ?」
「うーん。ダメでは無いんだけど・・・アイル君が好きなシャロンさんだっけ?彼女は元カノでもあるよね?実際の気持ちはどうなんだろうね。アイル君と別れて、その後結婚まで約束した彼と破局して。アイル君と友達以上恋人未満?だっけ?」
「そうよ。お互いがお互いを失うのが怖くて気持ちが言えていなかったら?だったらダメでも言った方が・・・。その手助けが少しでも出来たらッて思ったの。」
「そうか。でもシャロンさんは望んでいないかもしれないよ?そうなった時には二人の人生は変わってしまうんだよ?真夏たちはその責任の重さに耐えられるかい?恐らくアイル君とシャロンさんは不思議な縁があるかもしれない。きっとダメになっても何らかの縁でまた繋がるだろう。けれど今迄の様にはいかないかもしれない。出来たらアイル君自身が考えて行動してもらった方がいいね。真夏たちはあくまで見守るだけにして欲しい。アイル君も大人だ。きっとどうしたらいいのかは答えは出ていると思うよ。ただ今は二人とも離れているから、様子が分からないから不安や迷いがあるだけだよきっとね。」
父はそう言うと真夏に航空券代を渡した。
「行っていいの?」
「うん。出来たら真夏には英会話の勉強をしっかりして来て欲しいかな?と思っているよ、お父さんは。」
父はそう言って優しい顔をして笑った。
「ありがとう、お父さん。」
「アイル君のお父さんとお母さんに宜しく言っといてな。」
「うん。」
AM10:00
駅前の映画館で相沢と待ち合わせになっている。
真夏は駅前で相沢を待っていた。
約束は10時だ。が、なかなか来ない。
「騙しだったのかな・・・。」
真夏はぼそっと呟いた。
「ごめんっ!!寝坊した!!」
相沢が寝ぐせばっちりで走って来た。
相沢の姿を見ていた周りの人たちはクスクスと笑っている。
「10分遅刻です。何していたんですか?」
真夏は呆れて相沢の顔を見た。
「実は昨日アイル先生の家に泊まったんだよ。それで起きたら9時過ぎていて、ダッシュで自宅に帰って着替えて・・・現在に至ります。ごめんなさい。」
相沢はそう言うと真夏に頭を下げた。
「そうなんだ・・・アイルと何の話したの?」
「興味深げに聞いて来るな。何が聞きたい?」
相沢は真夏の鼻をつまんだ。
「痛い!やめてください!いきなり鼻つまむの!!」
「ごめん、ごめん。さぁ、映画行くかって言いたいところだけど、俺が遅れて来たせいでもう始まっちゃったんだよな。高野、どこ行きたい?」
相沢は真夏に行きたいところは無いか聞いてくれた。
「あの、先輩、私の事高野ってずっと言ってますけど・・・加奈子たちと同じでいいですよ。」
「えと・・・それは・・・。」
相沢は言葉に詰まっていた。
「何照れているんですか?フツーに真夏って呼んでくれればいいんですけど?」
「そっ!そうだよな。今から真夏って呼ばせてもらうわ。」
「・・・私も海斗って呼んでもいいですか?」
真夏がいきなりそう言うと相沢は顔面真っ赤になっていた。
「どっ!!どうぞ!!」
「変な海斗。じゃあ今日からはお互い名前で呼ぶって事で。じゃあ、海斗行こう!!私、無印行きたい!!」
真夏はそう言うと相沢の手を引っ張り駆け出した。
駅前のビルは日曜ということもあり人で賑わっていた。
「うげー・・・女って何でこういう混み合う所が好きなんだろうな。」
相沢は今にも座り込みそうなくらいな表情をしていた。
「海斗、行くよ。嫌ならそこの長椅子に座って待っていてくれればいいけど。どうする?」
「うーん・・・行くよ。」
相沢は渋々真夏の後を付いて歩いた。
周りを見渡しても女ばかり。
男が居ても明らかに彼氏だろうと思われる人ばかりだ。
相沢は真夏をチラッと見た。
やっぱり、可愛いと思ってしまう。この子の彼氏になりたいと思う気持ちと、彼女は来年受験なんだから後一年半我慢しろと思う気持ちと毎日の様に戦っていた。
「どうしたの?海斗?」
真夏は自分の顔をじっと見ていた海斗に気づき声を掛けた。
「いや・・・女の買い物は長いなぁ・・・と思って。」
相沢はニコリと笑って言った。
「悪かったわね・・・長い買い物で・・・。」
真夏は少し睨んだ。
「ごめん、怒るなよ。」
「もぉ。男は直ぐに女の買い物は長いとか言うんだもん。海斗が同じ事したら私も言うからね。」
真夏はそう言って海斗に笑いかけた。
「そろそろ昼にしない?映画観る前に食べた方がいいと思うし。真夏、何食べたい?」
「うーん・・・エビフライ?」
「エビフライなの?」
「うん。好きなの、エビフライ。だめ?」
真夏は洋食屋へ行きたいとオーダーした。
「いいよ。行こう。」
二人は洋食屋を求めて歩き出した。
少し歩くと駅の裏手に洋食屋があった。二人はそこへ入り各々好きなメニューを頼み食事をとった。
「ふっ、ふふ。」
真夏は食事をしている最中に笑い出した。
「何がおかしいんだよ?」
海斗は不思議そうな顔をした。
「だって、半年前まで犬猿の仲だった私と海斗が今一緒に休日を過ごしてご飯まで食べているんですよ?笑えるに決まってるじゃないですか」
「そうだな・・・でも俺は可愛がってやっているのに真夏が悲鳴をあげて逃げてばかりだったじゃないか?」
海斗は不本意だという顔をしている。
「だって、海斗の注文が鬼のような事ばかりだったじゃない?そりゃあ逃げたくもなるし、嫌いにもなりますよぉだ。」
「え!?嫌いなの???」
「・・・嫌いな人と映画見に行きますか?ご飯一緒に食べますか?嫌いな人間を部屋へ招き入れますか?」
真夏は海斗の問いにそう答えた。
海斗は今の真夏の言葉を全て聞き、赤面した。
「そ・・・そうですね。」
益々赤面した。
真夏はそんな海斗を見て微笑ましく感じた。
海斗はうつむいて赤面のままご飯を黙々と食べた。
食事を終え二人は本日の目的の映画館へ向かった。
映画館へ着くとお決まりのポップコーンと飲み物を買った。
「真夏、オリジナルグッズ欲しいか?」
相沢が鑑賞する映画の幽霊のマスコットを指差して言った。
「やだ!要らないよ!そんなの家に持って帰ったら夜夢に出て来そうで嫌だよ!」
真夏は半分涙目で訴えた。
そんな真夏の表情を相沢は癒される様な気持ちで見ていた。
映画が始まり相沢がスクリーンを凝視していると、真夏が相沢の腕に顔を埋めてスクリーンをチラチラと見ている。
「何?真夏やっぱりほんとに怖いんだ。」
小声で言うと、
「だから怖いって言ってるじゃない!」
と真夏は消え入りそうな声で言った。
2時間鑑賞している間中真夏は相沢の腕に殆ど顔を埋めていた。
「あー!面白かった!!あの階段からすっと出てきて下りてくる霊の姿がマジ怖かったよなぁ。」
相沢は怖かったシーンを思い出して真夏に話していた。
真夏は思い出すのも嫌で憮然とした顔をしていた。
「怖いからもう話さないでよ。」
少し不機嫌な声を出して言った。
「いじめたくなるんだよな。」
「はぁ?」
「真夏のその顔が見たくて。」
「不機嫌な顔が見たいの?!」
「違う、泣きそうな顔。」
「ドSなの?」
相沢の顔を少し睨んで言った。
「ごめん、ごめん。さぁ、まだ3時だな。何処か行きたい所あるか?」
「もう。うーん・・・行きたい場所かぁ。夕焼け見に行こう!!」
「夕焼け!?」
「うん!オレンジ色の空見るのが好きなの。西日が温かいのも好き。ダメ?」
真夏はそう言うと相沢の顔を覗き込んだ。相沢も真夏の目をじーっと見て、
「いいよ。海へ行こうか。」
そう言うと二人は江ノ島電鉄へ乗り込んだ。
「小さい頃、アイルとお母さんとアイルのお母さんとよく乗ったんです。」
「へぇ。江ノ島に行っていたの?」
「うん。橋を渡って、出店の美味しいもの食べて神社お参りして。小さかったから何でも楽しかったの。」
真夏は子供の頃の思い出を話した。
アイルとの子供の頃の思い出。
相沢は穏やかな気持ちで聞いていた。
「海斗は江ノ電あんまり乗らないの?」
「うちは車での移動が多いかな。母さんも車持っているし。」
「そうなんだ!都会では珍しい方ですよね。大体一台だし。」
「そうだな。うちは父親がタイヤ関係の仕事で、母親が大手自動車会社に勤めているから。必然的に車2台所有になっているよ。」
相沢はそう言って窓の外を見た。
「そうなんだ。だから海斗も・・・就職するの?」
真夏は相沢の話を聞いて思った事を聞いた。
「うん。それもあるかな。小さい時から親の仕事の話を聞いていて早く働きたいなって思う様になったかもな。とりあえず学期末が終わったら志望の会社へ履歴書を出す事になっているよ。」
「製造もいいと思うんですけど、そういうご両親を見て来たからこそ大学行って工学学んで車やタイヤの企画段階の仕事もいいんじゃないですか?海斗なら・・・出来ると思うんだけど・・・。」
「うん・・・考えたんだけど・・・勉強がうんざりで。」
「今から間に合わないと思うなら一年受験延ばせばいいじゃない?」
「ありがとう。真夏。一応考えてみるよ。」
「海斗がやりたいことって・・・何?自分の気持ちにきちんと向き合ってね。もう将来を少しずつ見極めないといけない時期なんだから。」
「・・・真夏の口からそんな言葉が出るとは。」
相沢はそう言って笑った。
「あの・・・私そんなにバカそうに見える?」
「イヤ、そうじゃなくて、天真爛漫そうな真夏でもきちんと将来の事とか考えてるんだなって見直していたとこだよ。」
「・・・やっぱり見直していたって!ほら!私も一応は色々考えてます!ただ、未だ形にならなくて。来年受験だけど何処を受験するとか、将来的に繋げないといけないから。凄く迷う。」
二人が話していると江ノ島の駅に着いた。
辺りは夕焼け空になりかかっていた。
冬の海の空気が少し痛いくらいだ。
「着いたぁ!久しぶり~!」
真夏は嬉しそうに海岸線に走って行った。
「おい!真夏車に気を付けろ!車は急には止まれないんだぞ!」
「わかってるよぉ!海斗も早くおいでよ!」
走って行く真夏の背中を見ながら相沢も追いかけて行った。
「寒い・・・。」
鼻水を垂らしながら真夏は言った。
「当たり前だろ。冬の海は寒いよ!ほんっとに・・・アホだな、真夏は。」
「アホは余分よ。でも、綺麗だね。オレンジ色の空。」
「うん。綺麗だな。」
夕焼け空を眺める真夏の横顔を見て、相沢は手を握りたい衝動に駆られた。
だが、出来ない・・・。
(俺って・・・ヘタレだな・・・。)心の中で相沢は自分に辟易した。
「どうしたの?」
「へ?!べっ!別に!!何もないよ!!」
「手を繋ぎたいとかベタな事思ったんでしょ?」
笑いながら真夏が言った。
「ばっ!なわけないだろ!!」
慌てて否定するが、真夏は顔を覗き込んで相沢を見る。
「・・・とりあえずそう言う事にしておきます。核心は・・・受験が終わってからで!」
真夏は照れている相沢の顔を見て笑った。
真夏も「この人と一緒に居たい・・・。」そう思った。
12月。
学期末テストが始まった。
冬休みも近づき学校内もせわしない。
3年生は翌年から受験が本格化し、真夏たち2年生も進路指導が本格化する。
「真夏と加奈子は進路どうするかはっきり決めた?」
奏美がお弁当のパンを口に放り込みながら聞いて来た。
「んー、私はT外国語大学かな。」
加奈子は目標の大学名をさらっと答えた。
「真夏は?」
「・・・国立の看護学校行って看護師になろうかなって思ってるんだけど・・・。」
真夏がそう言うと、
「へ!?看護師!?初めて聞いた!」
加奈子は初めて聞く幼馴染の夢にびっくりした。
「真夏が看護師かぁ。意外といけるかもね。」
奏美は真夏の顔をじっと見て言った。
「奏美は?どうするの?」
「私はぁ・・・ヘアメイクとかに興味あるし、美容学校かな?」
「奏美にピッタリね。」
加奈子は笑顔だ。
「真夏、留学したいって言っていたじゃない。」
「加奈子とって思っていたけど・・・私は加奈子ほど頭も賢くないし、加奈子通訳とか翻訳の仕事したいって言っていたじゃない?海斗も・・・自分自身の将来をきちんと考えているし。」
『海斗!?』
加奈子と奏美は声を揃えて言った。
「あれ?何?」
「真夏、相沢先輩と付き合うようになったの!?」
奏美が興味深々に聞いて来た。
「真夏!幼馴染の私に報告無いってどういうこと!?」
加奈子は詰め寄り聞いた。
「あ、あの・・・先週の日曜日に・・・映画行った時からかな。加奈子たちと同じように呼んでくれればいいって言って。だから私も海斗って呼ぶねって。・・・そんな感じ?付き合ってないよ?ただ以上未満って
状態かな?」
「何で!?付き合わないの!?」
加奈子が詰め寄った。
「だって、受験有るし。海斗も・・・もしかしたら工学部ある大学を受験するかもしれないし。」
「相沢先輩受験するの?しないって言っていなかった?」
「うん。けど・・・お父さんお母さんが二人とも自動車関係で小さい時から二人を見ているからって。その影響で自動車産業で働きたいって。企画段階の方へって言うなら工学部とか出た方がって考えだした感じ?私が勧めたんだけどさ。」
「そうか。相沢先輩が受験なり就職なり済んだらあんたが受験だから・・・一年保留って事ね?」
加奈子と奏美は納得した顔をした。
「うん。そんな感じ?」
「じゃあ先ずは冬休みにアイル君とシャロンさんの恋を応援からだね。」
加奈子が張り切って言った。
職員室
「相沢、お前どうするんだ?本当に就職でいいのか?」
お茶をゆっくりすすりながら神田先生が相沢へ聞いて来た。
相沢は進路希望の用紙をじっと見つめた。
やりたいことが頭の中を巡る。
母親の様に企画段階の仕事をしたければ大学卒業が必須になる。
「大学、受験します。T工業大学。」
「は!?大学受験するのはいいが、相沢!T工業大学って!?国立だぞ???お前の成績だと今からだとちょっとしんどいだろう!!」
飲んでいたお茶を吹き出し驚いて神田先生は言った。
「だから先生、今年度で受かろうなんて思ってないっすよ。」
「だよな・・・。とりあえず先ず期末で少しでも点数上げろよ。」
「はい。」
相沢は話し終え職員室を後にした。
「海斗。」
「真夏。どうしたんだよ?職員室に何か用なのか?」
「うん。柚木がさ海斗と同じでコキ使うの。私の事。春の選抜の為の資料印刷よ。」
真夏は笑いながら資料を見せた。
「柚木に言ってやろうか?コキ使うなって。」
「海斗が言ったら説得力無いよ。一番私をコキ使っていたのはあなたなんだもの。」
笑顔で真夏が言うと相沢も笑ってしまった。
「真夏、俺大学受験することにした。」
「それがいいよ。海斗は才能の塊だもの。大学へ行って学んでもっと知識を増やして行った方がいいよ。」
「真夏はどうするの?」
「私は・・・看護学校を受験するよ。人の役に立てる人になりたいから。」
「お前がいる病院だけは行きたくないな・・・。」
「何でよ?」
「注射の針を何回も刺し直しされそうだから。」
下校時刻になり、部活を終えた真夏と加奈子は門に向かって家路を急いでいた。
冬になり日が沈むのも早く5時だというのに辺りは既に薄暗くなっていた。
「明日からテストだね。」
「真夏は、勉強大丈夫なの?」
「うん。少しでもランクのいい看護学校へ行けるように日々勉強中。」
「偉いじゃない。相沢先輩にもLINEしてるの?」
「うん。長くならないようにしてる。電話もしたいけど・・・勉強の邪魔したくないから我慢してる。未だ正式な彼女じゃないから自重してるよ。」
真夏は少し寂しそうに言った。
「・・・真夏、心は決まったんだね。」
「え?」
「相沢先輩の事好きだって。」
「うん。そう。結局海斗がいつも心に居たんだよね。だからごまかすのももうやめる。でも、付き合うのは一年お預けだねって二人で話してるよ。」
「そっか・・・ん?」
加奈子は門の側に誰かが居るのに気づき止まった。
「加奈子?どうしたの?」
「真夏、門の所に外国人女性が居るよ。アイル君呼んできて。シャロンさんかも。」
真夏は加奈子に言われ職員室へ走って行った。
「アイル!!居る!?」
思ったよりも大きな声が出て真夏はびっくりした。
真夏の大きな声にびっくりしてアイルは振り向いた。
「こら!高野さん!先生を呼び捨てしないでください。」
アイルは冷静に真夏に言った。
「あ・・アイル!!正門の所に外国人の女の人が居る!!ブロンドの髪の色で。」
真夏が言うとアイルは反応した。
「真夏、本当にブロンドだったのか?」
「うん。背も加奈子よりも少し高い感じで・・・。」
「行くぞ!鈴木先生すみません。用事を思い出したので帰ります。」
アイルは荷物を鷲掴みにして職員室から走って出て行った。
真夏も急いで追いかけた。
アイルは全速力で正門へ走って行った。
シャロンかもしれない。
早く確認しなければ!アイルは周りの生徒からの挨拶にも気づかない程必死に走った。
アイルは門に居る外国人女性に気づいた。
「シャロン!!」
アイルは叫んだ。
それと同時にシャロンを抱き寄せた。
と同時にシャロンはアイルの頬を思いっきり引っ叩いた。
アイルは宙を舞うようにひっくり返った。
高野家
アイルは相沢がおぶって真夏の家に運ばれた。
真夏と加奈子はシャロンの話を聞いていた。
「シャロンさん、日本語話せるんですね。」
お茶を出しながら真夏がシャロンに話しかけた。
「えぇ、そんなに達者じゃないんですけど、アイルに大学の頃に教えてもらったんです。」
シャロンは恥ずかしそうに言った。
「ううん。凄いですよ!それだけ話せれば。あ、でも何でアイルの事殴ったんですか?」
真夏は首を傾げた。
「アイル君、シャロンさんに会いたがっていましたよ。それなのに・・・なぜ・・・。」
加奈子も疑問だった。
シャロンは少し考えて答えた。
「半年前に突然・・・日本へ行くって言われて。全然知らせてくれなかったの。あんなに一緒に過ごしたのに。酷いわよ。」
シャロンはそう言って涙ぐんだ。
「シャロンさん、アイルの事・・・好きなの?」
「えぇ・・・好きよ。高校の頃告白されて付き合って、でも2か月弱で理由は何かもう覚えていないけど・・・別れて。高校卒業後に皆車乗るようになって遊びに行ったり、私も当時付き合っていた人が居たけど皆と遊んでいたの。アイルは高校の頃よりも穏やかになって、違う人じゃないかと思うくらい。高校の頃なんて私と別れてからは近づきがたいくらいの雰囲気だったの・・・。」
「じゃあ、結婚約束していた彼と別れたのは?」
「真夏!」
「あ・・・。」
シャロンは慌てる二人を見てふっと微笑み、
「いいのよ。結婚を約束していた彼と別れたのは、相手のご家族に私との結婚を反対されたからよ。」
「何で・・・?」
真夏は息を呑んだ。
「ふふ、私が一人娘だからよ。彼はご両親からとても可愛がられていて・・・私とは付き合うのはいいけど、結婚はってね。彼はご両親をとても大切に思っていたから、あっさり私とは別れたってわけ。」
「ひど、最悪。」
加奈子は苦虫を潰したような顔をした。
「もういいのよ。その頃辛かったけれど・・・私が悲しい時、辛い時、気が付けばいつもアイルが側に居てくれたのよね。それに気づいてからはアイルとの時間を大切に過ごすようにしたわ。それなのに・・・アイルは・・・。」
シャロンはそう言うと眉間に皺を寄せ怒りで顔がどんどん赤くなっていた。
「シャ、シャロンさん・・・。」
「シャロンさん!アイルは、アイルはシャロンさんの事目茶苦茶好きですよ!!」
真夏は思わずアイルの気持ちを言ってしまった。
「真夏!!」
加奈子も慌てふためいた。
「ふふ、真夏ちゃんは本当に可愛いわね。アイルがよくあなたの話をしていたのを思いだすわ。日本に居た時に隣にとても可愛い天使の様な女の子が居たって。妹の様に可愛がって居たって。」
シャロンは懐かしむように二人に話して聞かせた。
「シャロンさん、アイル君とは付き合わないんですか?」
加奈子も心配そうに聞いた。
「さぁ、分からないわ。アイルは私とどうなりたいのかしら?アイルは日本で教師を続けるのか?それともアメリカへ戻って来るのか。私も・・・アメリカで仕事が有るから。ずっとやりたかった仕事だし。もしアイルとやり直してその先へと進んだら?私はやりたかった仕事を辞めてアイルについて行くことが出来るのかしら?それを思うと・・・お互い傷つくのはもう嫌だし。」
シャロンはそう言って俯いた。
「シャロンは仕事を辞めなくていい。」
アイルが女性陣の居る部屋へ入って来た。
「アイル・・・。」
「シャロンはずっと映画の配給の仕事がしたくて大学でも勉強を頑張ってハリウッドの配給会社へ入ったんだ。だから夢を諦めなくてもいい。真夏と加奈子ちゃんが高校を卒業したら俺もそこで任務満期にしてアメリカへ戻る。そしたら結婚しよう。シャロン、待たせたな。あと、勝手に日本行きを決めてごめん。」
アイルはそう言うと片膝をつきポケットから指輪を出した。
「シャロン、結婚前提に俺と付き合ってくれ。もうお前を他の男にとられるのは我慢ならない。お前を失いたくない。」
アイルはそう言って指輪をシャロンの左の薬指に嵌めた。
真夏も加奈子も相沢も展開の速さに唖然としていた。
シャロンは嬉しくて涙ぐみ、
「アイル、あなたのお母さんもこれでうるさくなくなるわね。」
「あぁ、高校の時からお前の事ずっと気に入っていて、結婚しろしろうるさかったからな・・・。」
アイルは少し頭が痛そうに返した。
「クリスマス休暇にあなたの家へご両親にご挨拶しに行きたいわ。」
シャロンは満面の笑みで言った。
「そうだな、学校が冬休みに入るまではこっちで仕事が有るから、27日ぐらいからアメリカへ戻ろう。それまでシャロン、うちに来いよ。」
アイルは嬉しそうにそういい、シャロンを抱き寄せた。
「アイル!良かったね!!」
真夏も加奈子も嬉しくて笑顔になった。
「アイル先生!!男だ!!決めるところ決めましたね!!」
相沢も嬉しくて感動していた。
「相沢君、君も頑張りなよ。先ずは大学受験だけどな。」
アイルは相沢にそう言って笑った。
相沢と真夏は赤面していた。
「みなさーん!お取込み中申し訳ないんだけどぉ、おばさん特製のすき焼きが出来たから食べましょう!」
真夏母は見計らって食事の誘いに来た。
「お母さん、すき焼きってアイルとシャロンさんの為?」
真夏が聞くと真夏母はニヤッとし下へ下りて行った。
真夏達もダイニングへ下りて行った。
食卓には真夏父も待っていた。
「アイル君!!おめでとう!!シャロンさん、アイル君をよろしく頼むね!」
と、何故か真夏父はアイルの父親の様にシャロンに挨拶した。
「お父さん・・・何でお父さんがそんなセリフ言うのよ?」
真夏は目を皿にして言った。
「おじさん、おじさんが挨拶しないといけないのは相沢先輩だと思うわよ?」
加奈子がいたずらに言った。
「え!?真夏!相沢君と付き合ってるの?!」
真夏父は血相を変えて言うと
「ちっ!違います!!未だ付き合っていません!!お互い受験有るので!!正式にお付き合いするのは受験が済んでからと決めています!!」
馬鹿正直に相沢が真夏父に話した。
「バカ・・・・。」
真夏は恥ずかしくて顔から火が吹き出しそうな気分だった。
翌日から学期末テストが始まった。
真夏は希望進路の看護学校に合わせて勉強していき、少しづつランクを上げていく方法を取ることにした。
前日はアイルとシャロンのお祝い会で遅くまで騒いでいたため若干勉強不足だった。
加奈子も少し眠そうだった。
「加奈子、出来た?」
「まぁ、思っていたよりは簡単だったから。90は行くんじゃないかな?」
加奈子はポーカーフェイスで答えた。
「真夏は?昨日少しは勉強出来たの?」
「うん、狙い定めて絞って勉強したよ。80は行ってくれるといいなって・・・。」
真夏はため息をついた。
「何かさ、小さい頃って本当に何でも出来る気がして今思うと無敵だったよね。」
「無限大だったよね。何に関しても。」
二人がそんな話をしていると圭吾が真夏を呼んだ。
「高野ー!旦那来てるぞ。」
クラス中廊下を振り返った。
相沢が居た。
「・・・あの、旦那じゃないから・・・。」
真夏は真っ赤になって廊下へ出て行った。
「海斗、何だった?」
「あのさ、昼ご飯一緒に食べないかな?って。」
「あ、昼までだもんね。いいよ。じゃあ、自転車置き場でね。」
真夏はそう言って教室の中へ戻った。
「相沢先輩何って?」
ニヤニヤして加奈子が嬉しそうに聞いて来る。
「今日のお昼一緒に食べようだって。」
「いいわねー、いってらっしゃい。私は奏美と圭吾と行ってこようかな。」
3限目のテストも終わり真夏は自転車置き場へ向かった。
3年生の自転車置き場を進んで行くと相沢が待っていた。
相沢の姿を見つけると真夏は笑顔で駆け出した。
「海斗!待った?」
「ううん。俺もさっき来た所だから。」
相沢はそう言うと真夏と歩き出した。
門の辺りまで来るとシャロンが待っていた。
「真夏ちゃん!海斗君!」
『シャロンさん!?』
真夏と相沢は門へ走って行った。
「シャロンさん、どうしたの?」
「うふ。昼ご飯を作ったから皆を招待しようと思って。」
シャロンは屈託ない笑顔で真夏と相沢に言った。
二人は快諾し、アイルの家へ行くことにした。
「あ、加奈子ちゃんは?」
「加奈子、クラスの子とお昼食べるって言っていて。」
「まぁ、じゃあアイルのクラスの子ね。私も会いたいわ。」
シャロンが目をキラキラさせて言うと相沢が加奈子たちを探しに行った。
「大河~!」
相沢は加奈子達を見つけた。
「相沢先輩、どうしたの?」
「シャロンさんがお昼ご飯作ったから、一緒にどうだ?って。そこの二人も。」
相沢が言うと奏美と圭吾はキョトンとしていた。
加奈子は二人に事情を話すと嬉しそうに着いて来た。
アイルの家は真夏の家の近くのマンションだった。
「アイル、ここに住んでいたんだ。」
真夏が言うと相沢と加奈子が驚いた顔をした。
「あんた、半年も前からアイル君居たのに知らなかったの?」
「だって、あっちのアパートかと思っていたもん。」
「そうなんだ・・・。」
「さぁ、皆行きましょう。」
シャロンはマンションのエントランスへどんどん入って行った。
アイルの部屋は5階の角部屋で眺望もいい部屋だった。
「贅沢な感じの部屋だなぁ・・・。」
真夏はボソッと言った。
「そりゃあアイル君のお父さんって海軍でしょ?多少出してもらったんじゃない?」
「そうよ。ここの資金はお父様に出してもらったってアイルが恥ずかしそうに言っていたわ。」
シャロンはそう言って笑っている。
「アイル先生ってお坊ちゃま君!?」
圭吾が目を見開いた。
「うん。そうだよ。圭吾と奏美は知らないよね。あの人、コテコテのお坊ちゃま。」
「そうなんだ・・・。神崎ってそういう所鼻が利くのかな?」
奏美がそう言うとシャロンは聞き逃していなかった。
「真夏ちゃん、加奈子ちゃん、神崎って誰?」
真夏と加奈子はゆっくりと振り返った。
そこには包丁を持ち、眉間に皺を寄せながらも務めて笑顔であろうとするシャロンが居た。
「俺、知らね。」
相沢はそう言って窓の外を見た。
「そうなんだぁ。アイル学校の生徒さんに言い寄られて困っていたんだ。」
真夏と加奈子の必死の説明によりシャロンの怒りは収まった。
「でもアイル君はっきり君とは無いって言ったって言っていたよ。」
加奈子がシャロンが作ったデザートをほおばりながら言った。
「今ってアイツ未だ狙ってるの?アイル先生を?」
奏美が真夏に聞いた。
「今のところ神崎さん大人しいじゃない?」
「そっか。アイル先生が神崎に彼女居るって言って居たって言っていたもんね。」
「だから大丈夫でしょ?それに・・・アイル君シャロンさんに皆の前で公開プロポーズしたし。」
加奈子はニヤニヤしてシャロンを見た。
シャロンは真っ赤になって顔を手で覆った。
圭吾と奏美は目をキラキラさせてシャロンの左手の薬指を見た。
「でっかいダイヤっすね。」
圭吾は指輪をじーっと見ていた。
「公開プロポーズなんて・・・粋な事するわね。」
奏美も感心した。
皆でシャロンから学生時代のアイルの話を聞いているとアイルが帰宅した。
「・・・げっ、何でお前ら家に居るんだよ?」
アイルは見るからに引きつり、嫌そうな顔をした。
『お邪魔してまーす!!』
「アイル、ごめんね。お昼ご飯に皆を招待していたの。」
シャロンはペロッと舌を出してはにかんだ。
「いい・・けど・・・暗くなる前には帰れよお前ら・・・。」
アイルはそう言うとジャージに着替えシャロンのご飯を食べだした。
「アイル先生、この英語の問題意味わからん。」
圭吾がおもむろに例題集を取り出し聞いて来た。
「あ!私も教えて!!」
奏美も乗っかって、アイルは仕方なく3人に解き方や文章の組み立て方を教えた。
「加奈子ちゃんはいいの?」
「シャロンさん、こいつ大河は2年の中でも上位5位以内を争うくらいのこう見えても才女なんですよ。」
相沢はシャロンにそう説明した。
「そうなんだぁ。加奈子ちゃん頭いいのね。凄いわぁ。」
「そんな事ないです。ただ夢を叶えるために頑張って来ただけですよ。」
「夢を叶えるって物凄いパワーが要るのよね。でもバランスも取れていないと成しえない事だったりするし。何か一つでも心に気にかかることがあるとバランスが崩れてしまって叶える事が難しくなるのよね。加奈子ちゃんは常にバランスが取れているのね。」
シャロンはシャロンなりの持論を話してくれた。
「バランスが取れているかは分からないですけど・・・自分が納得できる人生を送りたいだけかもしれないですね。」
加奈子は真夏たちの方を見て微笑んだ。
「じゃあ、アイル先生お邪魔しました~。」
夕方になり真夏たちはアイルの家から帰宅した。
「アイル先生の彼女、金髪美女だな。」
「圭吾、顔がいやらしい。」
奏美が突っ込むと、ハッとしていた。
「結婚式見たいね。招待してくれないかな?」
加奈子はハワイかな?とでも言わんばかりの顔をしている。
「でも、冬休みにアメリカへ行く手間が省けちゃったね。シャロンさんが来てくれたから、アイルとくっつけろ作戦の必要が無くなった・・・。」
「でもさ、考え方変えたらさ、真夏の家で公開プロポーズしたわけだから、結婚式招待されるんじゃない?そんなに遠い未来でもなさそうだし。」
相沢が落ち込むなと言わんばかりの笑顔でそう言った。
「そうだね。結婚式の方が行きたい!ほんと、ハワイとかでやって欲しいなぁ。」
真夏もそれを想像した。
「じゃあ相沢先輩も真夏も受験頑張って二人とも志望の学校に入らなくちゃね。そうじゃないと・・・真夏パパきっと交際認めてくれないわよ。昨日もあれから少し拗ねていたし。」
「ほんとね。頑張らなきゃ、ね、海斗。」
真夏がそう言って相沢の方を振り向くと顔を真っ赤にした相沢が突っ立って居た。
テストも無事に終わり、成績が出た。
今後の進路に関わって来る為生徒たちはざわついていた。
「真夏、どうだった?出来た?上がった?」
加奈子が心配そうに聞いて来る。
「うん、中間よりは・・・出来たと思う。順位も上がった。」
「良かったねぇ!目標の学校に向けて頑張らなきゃね!あとは・・・相沢先輩はどうだったんだろう?」
加奈子は真夏の成績に自分の事の様に喜んだ。
3A
相沢は返却された成績表をしげしげと眺めていた。
(頑張ったけど・・・今から大学受験に切り替えって結構厳しいのな・・・。)
心の中でそう呟いていると同じクラスの瀧川に声を掛けられた。
「海斗、先生から聞いたけど受験組に変更したんだってな。」
話しながら相沢の目の前に座って来た。
「あぁ、入りたい企業の企画とかの方をやりたいなって思って。T工業大志望中。」
「・・・国立だよな・・・。」
「そう。国立のT工業大。」
「無謀じゃね?」
「だろうな。1月のセンター受けるけど・・・メンタルボロボロになる覚悟で受けるヨ。」
「じゃあさ、冬季講習受けないか?海斗なら冬季受ければかなり成績挽回出来るんじゃないの?」
「うん、そうだな。親に頼んでみるわ。瀧川、ありがとう。」
「中学からの同級ですから。気にするなって。」
「してない。」
「そうか。」
『はははははは。』
相沢は瀧川と顔を見合わせて笑った。
冬休みに入った。
バスケ部は26日まで部活だ。
「・・・寒い。何でこんなに寒いのに部活へ来なくちゃいけないの?」
真夏が鼻水を垂らしながら言うと、
「あんたは暑かろうが寒かろうがその季語のセリフ長期休暇の時に必ず言うわよね。」
加奈子は呆れ口調で言った。
「だって!何かつい出ちゃうんだもん!」
「井戸端会議で必ず暑いだの寒いだの言うおばさん連中と同じレベルだよね。」
「おばさんじゃないわよ・・・。」
膨れ面の真夏の頬を指で突きながら、
「今日は相沢先輩と会うの?」
と、聞くと真夏は振り返り、
「今日は海斗は塾だよ。冬休みに入る少し前から冬期講習を受けるために塾へ入ったの。授業のない時間はは自習室で勉強だって。」
と、答えた。
「やっぱり行きだしたかぁ。」
「うん。国立受けたいとなるとね・・・相当勉強しないと。終わったらいくらでも会えるし。今よりも先の事考えて行動しなくちゃ。今が未来に繋がって行くじゃん。」
「真夏は、この数か月で大人になったよね。」
加奈子は少し寂しそうに言った。
「え?どういう意味ですか?」
「2年生になったばかりの頃って、何となくまだ甘えんぼ的な所があったじゃない?けど、夏にアイル君に再会して、色々なことが少なからずあって、天敵同士だった・・・まぁ相沢先輩はあんたの事大好きだったけど、その相沢先輩と未来の約束して。私が知っている真夏がどんどんしっかりした大人の女性になって行っているから。ちょっと寂しいなって思ったの。」
「加奈子ぉ~。」
真夏は甘えて加奈子に抱き付いた。
自宅へ戻った真夏は昼食を食べ自室にこもり勉強を始めた。
相沢も頑張っている、それで真夏自身も苦手な勉強を頑張れていた。
「海斗・・・授業かな。」
真夏はスマホを取り海斗にLINEをした。
直ぐに既読は付かず、真夏は勉強に取り掛かった。
「授業長いのかな・・・。」
気になって仕方がない。
ソワソワしていると相沢から電話がかかってきた。
「はい!はい!授業だった?ごめんなさい!」
電話に出るなり真夏は若干あわててパニックになった。
「こえでけ~・・・。それに落ち着け。」
真夏の声を聴いて相沢は笑っていた。
「ご、ごめんなさい・・・。で、授業終わったの?」
「今、休憩中だよ。ほんとにいかにサボっていたのか思い知らされるよ。」
そう言って笑った。
「今日は何時まで?」
真夏は少しでも会えないものかと期待を込めて聞いた。
だが少し間があった後、
「ごめん、真夏。授業終わった後も自習室で勉強して帰るから。会える時間取れたら必ず連絡するからな。」
そう言って授業が始まるからと電話を切った。
「・・・受験って大変だ・・・。」
真夏は呟いて勉強を再開した。
「まーなーつちゃん。」
真夏母は娘の部屋の扉を開けて真夏を呼んだ。
「何?お母さん?」
「おやつ作ったの、下で食べない?」
そう誘いに来たので真夏は下へ下りて行った。
下へ下りるとケーキと紅茶が用意されていた。
「どうしたの?おやつ作るなんて珍しいね。」
「ん?たまにはいいかなぁって。あなたが小学校の時以来よね。」
「でも小学校の時はホットケーキばっかりじゃなかった?」
「そう?でもドーナツとかも作ってたと思うけど?」
「ホットケーキミックスででしょ?」
真夏は子供の頃の事を思い出して母親と笑っていた。
「真夏、進学の事だけど。」
「うん。」
「本当に看護学校でいいの?」
「うん。色々考えたんだけど、ただ何となく大学行って、ただ何となく卒業して、ただ何となく会社入ってって何となくで生きたくないから。」
「うん。看護師は大変よ。先のコロナ騒動の時も・・・世界中の医療従事者は命をかけて仕事していたじゃない?そこまでの覚悟はある?」
「分かってる、大変なのも。でも私はただ何となく生きていたらきっと毎日つまらないって思ってしまうと思う。だから誰かの役に立てるような仕事をしたいの。」
「そう。わかったわ。じゃあ頑張って勉強しなさい。」
「それが聞きたかったの?」
「そうよ。進学の話になった時に一言看護学校行くって言っただけで。それ以上何も言わなかったからどんな考えで言ったのか聞きたかったのよ。」
母親はそう言って静かに紅茶を飲んだ。
「海斗が目的持って大学進学することにして、加奈子も将来の夢を叶えるために外国語大学目指して勉強していて・・・アイルも教師になるためにアメリカで頑張ったじゃない?私だけ何もないなって。だから・・・私が出来ることって何かなって考えたら、人の役に立つことが嬉しいって思えることだから看護師になろうって思ったの。」
真夏はそう言っておやつを食べ終えた。
その後時間もあったので真夏はアイルとシャロンの所へ行くことにした。
♪ピンポーン♪
インターホンを押すと直ぐに玄関が開きアイルが出て来た。
「お、真夏じゃん。どうしたの?」
「暇だから来たの。シャロンさんもいる?」
「いるわよ~!真夏ちゃんいらっしゃい。上がって。」
シャロンに言われ真夏は二人の家へ上がり込んだ。
「今日は相沢は?」
アイルは温かいココアを作りながら聞いて来た。
「塾だよ。冬期講習。朝から晩まで勉強しているみたい。」
炬燵に入りぬくぬくしながら答えた。
「現役目指してるのか?あいつ?」
「多分。出来れば現役合格したいんじゃないのかな?やっぱり浪人って大変だと思うし。」
「でも、相沢って元々は結構成績上位だったんだろ?神田が言ってたぞ。」
アイルは相沢の担任から聞いた話を真夏に言った。
「そうなの!?知らないよ?そんな話しないし。だったら少し勉強したら現役で国立受かるって事!?」
びっくりしてアイルに聞いた。
「多分な。良かったな。現役で国立受かればおじさんも文句言えないだろ?」
アイルはニヤッとして真夏に言った。
「海斗が合格しても、次は私が受験よ?そこが済んでやっとお父さんが黙認してくれるかじゃない?」
「黙認なんだ。」
「私が選んだ人とお付き合いするのにイチイチ親に品定めされたくないわ。」
「そうだな。ただ気に入るとうちの母親がシャロンに言ったように延々と嫁に来い。嫁に来いと言われ続ける。」
そう言ってアイルは笑っていた。
「本当にアイルのお母さまには参っちゃうわ。お母さまの願い通りお嫁に行かせてもらうけど。」
シャロンは頬を染め嬉しそうに笑った。
「そうだ!明後日からアメリカへ帰るんだっけ?」
「明日の夜、成田の最終便で帰るよ。お土産買ってきてやるから楽しみにしてろよ。」
「マカダミアナッツのチョコレートは嫌よ。」
「贅沢な奴だな。・・・相沢とお揃いの何か買って来てやるよ。」
「加奈子にも買って来ないと年明けから無視されるわよ。」
「わかってるよ。加奈子ちゃんと真夏、相沢の3人には確実に買ってくるよ。」
真夏はその後もアイルとシャロンの馴れ初めを聞いて楽しんだ。
翌日から部活動が年末年始休暇に入った。
久しぶりに朝ゆっくり眠れる。
真夏は温かい布団の中でぬくぬくしていた。
今日も相沢は塾だ朝から冬期講習へ行くとLINEが入っていた。
加奈子からも今日は予定があるのかとLINEが入っていた。
「10時半。随分寝たな。今日かぁ、加奈子出かけちゃったかな。」
加奈子にLINEをした。
そして加奈子から直ぐに電話がかかって来た。
「おはよう、つーかおそよう?冬休みだからって寝過ぎよあんた。」
「おはよう。昨日夜中に昔の映画やっていて面白くてついつい・・・。」
「昔って?」
「お父さん、お母さんが若かりし頃に上映された映画?」
「そうなんだ・・・。あ、あんた今日暇?」
唐突に聞かれ、寝起きの頭で直ぐ返すには時間がかかった。
少し考えてから、
「うん。いいよ。暇って言えば暇だから。」
「よし、じゃあ決定。焼き芋食べに行こう!」
加奈子は嬉しそうに焼き芋屋の話をしだした。
約束を昼過ぎにし、電話を切った。
真夏は昼過ぎまで宿題に取り掛かることにした。
12:30
「加奈子~!」
真夏は加奈子の姿を見つけると自転車のスピードをさらに上げて加奈子の元に走った。
「さぁ、行くよ!焼き芋屋さん!」
加奈子に連れられるまま真夏も自転車を走らせた。
10分程走らせると学習塾があった。
学習塾の隣に焼き芋屋さんがあった。
「良い匂い~。お腹空いちゃう~。」
いい香りに真夏は鼻をくんくんさせた。
「私が通っている塾なのよね、隣。ずっと行ってみたくて、真夏を誘おうと思ってたの。」
「そうなんだ!それよりも加奈子って塾行っていたんだ。知らなかった。」
「まぁね。塾に行っていれば傾向と対策が取れるでしょ?国立行きたいから。・・・ふふ、それより真夏、塾の建物の中見て見なさいよ。」
真夏は加奈子に促されるまま塾の中を見た。
中は受験生と思われる生徒たちがうようよしていた。
皆参考書を持って講師に質問していたり、講習のわからない所を聞いている様子だ。
真夏はその中に相沢らしき男子生徒の姿を見つけた。
「あ、れ?海斗?」
真夏は加奈子の顔を見ると、加奈子はニヤッとしていた。
「相沢先輩と同じ塾なの、私。真夏に教えたくて。だから焼き芋屋さんに連れてきたのよ。」
加奈子はそう言って真夏の頭をわしゃわしゃと撫でくり回した。
「え?そうなの?ありがとう、加奈子。海斗の顔久しぶりに見た。」
真夏は相沢の顔を窓の外から眺めた。その姿を相沢が見つけ外へ走って来た。
「真夏!どうしたの!?何でここに?」
「加奈子と隣の焼き芋屋さんへ来たの。塾、ここだったんだね。」
「うん。同じ中学出身の奴に紹介してもらってここにしたんだ。やっぱり国立受けるとなるとね・・・。」
相沢はそう言うと照れ笑いした。
「今日はまだまだ勉強?」
「うん。今日も夕方までかな?あ、今日ってお前の家に行ってもいい?」
「うん!お母さんに言っておく!ご飯食べに来てね!」
真夏は笑顔で言うと加奈子と焼き芋屋へ入って行った。
「焼き芋美味しぃ~。」
「ほんと、冬の風物詩だよね。」
二人は焼き芋話で盛り上がった。
「真夏勉強どうなの?」
加奈子は様子を聞いて来た。
「うん・・・。ぼちぼちかな?教科書見て参考書見てって感じ。看護学校だから塾までは・・・あんまり親にも負担掛けたくないし。」
「そうだね、塾結構お金掛かるもんなぁ。私も現役合格しないと・・・これ以上はって思う。」
「加奈子は大丈夫だよ。ちっちゃい時からしっかりしてるし。合格出来るよ。」
「ありがとう。さぁ、そろそろ帰ろっか。相沢先輩来るならご飯作らないとね。」
「うん。唐揚げでも作ろうかな?」
真夏は笑顔で答えた。
「お母さん、今日の晩御飯って決まってる?」
真夏はリビングで寛いでいた母に聞いた。
母はえ?っという顔をして向き直った。
「お母さん、聞いてる?あのね、今日海斗が久しぶりに家へ来たいって。ご飯ご馳走しても大丈夫?」
「あぁ、いいわよ。未だ決めて無かったけど。鶏肉があるから唐揚げにしよっか?」
母は笑顔で真夏に言った。
「うん!私が作る!」
そう言って鶏肉を切り出した。
料理の準備をしているとアイルからメールが入った。
『真夏へ、今日シャロンと最終便でアメリカへ里帰りします。年明けの4日頃に一人で戻って来ます。おばさんにお世話になりました。また年明けから宜しくお願いしますと伝えてくれ。じゃあ、相沢君と楽しい年末年始を過ごせよ。』
真夏はメールに一通り目を通した。
その瞬間に少し顔が赤くなったのを母は見逃していなかった。
「海斗君?」
「違うよ!アイルだよ!」
真夏は慌てて否定した。
「アイル君今日からアメリカへ里帰りだっけ?」
「そう、今日の最終便で成田から帰るって言っていたよ。」
「で、何で顔が赤くなってんの?」
母は忘れて無いわよと言わんばかりに突っ込んで来た。
「アイルが・・・年末年始を海斗と楽しく過ごせよって・・・。」
真夏が顔を赤らめて言うと母はふっと笑いそれ以上言わなかった。
ただ一言、「帰りが遅くなり過ぎないように楽しみなさいね。」と、言うだけだった。
唐揚げを作っているとインターホンが鳴った。
モニターを見ると相沢だ。
真夏は玄関へ走って行った。
「海斗!お疲れ!上がって。」
「唐揚げの匂いだ。腹減ったぁ~!お邪魔しまーす!」
相沢は足元軽く家へ上がって来た。
リビングへ行き真夏の母へ挨拶し、ご飯を一緒に食べた。
「唐揚げんまぁ~。」
「ほんと?私が味付けやったの!」
「え?真夏が?料理結構うまいんだな。また何か違うの作ってよ?」
相沢が嬉しそうにそう言うと真夏は顔を真っ赤にしていた。
「じゃあ、また今度。冬休み中にね。」
「今度は煮物がいいな。」
「ハードル高いな・・・。」
「日本人は和食が作れて当然だぞ。頑張れ真夏。」
「分かりましたよ。」
真夏は渋々了解した。
「真夏、アイル先生とシャロンさんがアメリカへ帰るのって今日だよね。」
食事後真夏の部屋で寛いでいるとふいに相沢が言い出した。
「うん。今日の成田発の最終便で帰るよ。」
「そうなんだ。流石に最終便だと見送りに行けないな。補導されちゃうわ。」
「そうだね。でも未だ空港に居るんじゃない?電話してみる?」
首を傾げ相沢に聞くと、
「うーん、いいや。邪魔しても悪いし、それにまた年明けに戻って来たら会えるだろ?」
そう言って参考書に目を落とした。
「海斗?」
「ん?何?」
「勉強大変?」
「何でいきなりそんな事聞くんだよ?」
「冬休み前から冬期に通いだして・・・ずっと勉強しているから。大丈夫かなって思って、体とか、根詰めていないかなって?」
真夏がそう言い心配そうな顔をすると、相沢は真夏の頭を撫でながら
「心配してくれてありがとな。真夏がメールしてくれたりするから大丈夫。」
「あの・・・物凄く恥ずかしいんだけど・・・。」
真夏が真っ赤な顔をすると、相沢もつられて
「あ!あの、変な意味じゃなくて純粋に嬉しいですって話だから!」
そう言って更に顔を赤くした。
「真夏はどうなんだよ?勉強とか、宿題とか。」
「うん。コツコツやってるよ?あと一年あるから地道に頑張るよ。」
真夏は笑顔で答えた。
「ウチの学校って、すっかり忘れていたけど一応進学校だったよな。」
「うん。先生たちがあまりガツガツしていないから忘れていたけど。」
「宿題も将来的に受験で必要だと思われる部分を抜粋して出してくれてるしな。」
「そうなんだね・・・知らなかった。そんな気の利いた事してくれる学校だったのね・・・。神田先生とかがふざけキャラだからわかりにくかった。」
「まぁな・・・神田先生は、適当男だからな。」
相沢はそう言って笑い、真夏もつられて笑った。
年明け新年になった。
真夏の大晦日は昼間は加奈子や奏美、圭吾達とカラオケで騒ぎ立て、夜は父親の恨めしそうな顔をフル無視して相沢と真夏宅で過ごし新年を迎えた。
日本時間の深夜0時にはアイルとシャロンから国際テレビ電話が入り一時間ほど楽しく話をした。
勿論両親ズも国際テレビ電話を楽しんでいた。
1月4日
「海斗~、早く!アイルが空港に着くよ!加奈子も!早く!」
今日はアイルがアメリカから帰って来る。
真夏たちは成田へ向かっていた。
「しっかし、正月の東京は混んでるな。右見ても左見ても人ゴミだらけだな。」
ウンザリしたように相沢が言った。
「まぁねぇ首都だし。東京、神奈川、千葉なんて観光客だらけよね。」
加奈子も辟易だ。
「二人ともそんな事言ってなくていいから!国際線ターミナルいかなくちゃ!」
真夏に言われ3人でターミナルに向かって走り出した。
国際線は外国人観光客で溢れかえっており、日本人はそう沢山は居なかった。
翌日が帰国ラッシュに入ると思われるため、アイルはその人ゴミを避け一日早く日本へ戻ることにした。
ターミナルのベンチで待っているとアメリカからの便が到着したとアナウンスが流れた。
ゲートでアイルが出てくるのを待った。
「アイル、来るかな?」
「真夏、この時間に着くってアイル君から連絡あったんだよね?」
「言ってたよ。昨日向こうのロスの空港から出るときにメールくれたから。」
真夏は二人にスマホのアイルからのメールをほいっと見せた。
二人はスマホの画面を注視すると納得した顔をした。
待ちくたびれて待っているとアイルがやっとゲートから来た。
「ただいまー!ありがとなー!!」
アイルが笑顔で日本へ戻って来た。
「シャロンさんとまた暫く会えないから寂しいね。」
真夏はニヒッと笑い言った。
アイルは更に何言ってるんだ?と余裕の笑みを見せ、
「まなつさーん、21世紀の地球にはテレビ電話というものがあるでしょう?」
「そうだね・・・つまらん・・・。」
「おい、聞き捨てならないセリフを吐いたな真夏。」
アイルは口の端が上がった。
「だってぇ、アイルは面白可笑しくないとつまらないんだもの。笑い担当でしょ?アイルの純愛なんて誰も興味なんてないわよ?」
「あ?俺の純愛はそれなりに需要があると思うけどな。」
二人がくだらない?言い合いをしている横で加奈子が大きなため息をついており、相沢はニコニコして見ていた。
地元の駅に着いた。
アイルのマンションに着き、三人も上がり込んだ。
「アイル!お土産!」
真夏が荷物を片付け始めたアイルに声を掛けた。
「覚えてたかぁ。ちゃんと買ってきたよ。三人とも同じものだぞ。」
アイルはそう言ってカバンから袋を取り出した。
三人はアイルからお土産を受け取り包みを開けた。
「あー、ドリームキャッチャーだ!」
真夏たちはそれぞれの色に合った物をもらった。
「北アメリカのインディアン達が昔魔除けなどで作ったのが始まりなんだけど、やっぱりアメリカって言ったらこれしかないなと思ってね。」
真夏たちが喜んでいる姿を見てアイルは笑顔でそう言った。
「ありがとう!部屋に飾ろう!」
「俺も受験のお守りにしよう。」
「アイル君ありがとう。魔除けだから私は家の玄関に飾るわ。」
三人が口々に言うとアイルは気になっていたことを聞いた。
「あのさ、お前ら三人とも宿題とか課題とかきちんと終わっているのか?」
その問いに加奈子と相沢は終わっているよと余裕の笑みを見せたが、真夏は・・・だった。
「そうだよね・・・あと2日で冬休み終わりだよね・・・。」
冬休みも終わり、また学校の日々が始まった。
真夏は残り2日で加奈子にしごかれながら課題を終わらせ、相沢は塾の日々がまた始まった。
「真夏!冬休みは相沢先輩とデートした?」
奏美がニコニコして聞いて来た。
「海斗は予備校へ行く日が殆どで数えるくらいしか会ってないよ。」
「なぁんだ、つまらん!何か進展があったかと思ったのにぃ!」
「あるわけないでしょ?付き合ってないし。」
「は?どゆこと?ねぇ、加奈子?」
奏美の疑問顔に加奈子が懇切丁寧に説明した。
「え?じゃあ、真夏が受験ちゃんと突破しないとおじさんから交際許可が出ないってこと?」
奏美が口をあんぐり開けて聞いた。
「そう。お父さんが実は物凄い過保護だったっていう事実を知って落胆した。」
真夏はため息をついてカフェオレを飲んだ。
「来週日曜日ってもうセンターだよね?」
「あぁ、うん。海斗も追い込みで勉強してる。センターで何とか点数取らないと・・・出来たら今年試験受けて合格狙いたいって言っていたから。」
「でも、来年加奈子も今頃センターの勉強真っ最中だよね?」
奏美が感慨深げに言った。
「うん。出来たら現役がいいよね。これから一年間集中して勉強しないとね。未来の自分の人生が掛かっているんだもんね。・・・あ、雪。」
加奈子は窓の外を見て言った。
「珍しいね。こんな1月の初めに雪降るなんて。」
「そういえば、センターの時って大体大雪だよね。」
「電車とかバスとか遅れ出たりして、早めに行動してくださいとか、前日に近くのホテルに予約取ってとかテレビで騒ぐよね。大人の方が。」
話しているとアイルが近づいてきた。
「お早う、宿題は出しましたか?」
真夏の顔を覗き込んでアイルは楽しそうに聞いて来た。
加奈子は事情が分かっているため笑いをこらえていたが、奏美は何となく察しがつき笑い出した。
「宿題なら加奈子に手伝ってもらってきちんと提出しました。」
バツの悪そうな顔をして真夏はそっぽを向いた。
「ごめん、ごめん。無事に済んで良かったよ。あとホームルームやって終わりだし、雪降ってるな。気を付けて帰れよ。」
アイルはそう言って教室を後にした。
帰る頃には道路にうっすらと雪が積もり始めていた。
「あ~、寒い。雪だとやっぱり寒いよね。」
加奈子がぼやいた。
空はどんよりとした灰色でその空から無数の雪が降り続いていた。
「結構降り続いているね。電車やバスも遅れが出てるみたい。」
スマホを取り出し真夏は交通状況を確認した。
「歩いて帰れる距離で良かったね。電車通学だったら結構やばかったかもね。」
「海斗も・・・塾行くのに大丈夫かな?」
「塾ならさっきメールで今日は休校にするってメールが入ったよ。」
相沢が友人と一緒に歩いてきて言った。
「びっくりした、海斗か。」
「真夏と大河気を付けて帰れよ。」
珍しく相沢は友達と歩いて帰って行った。
「真夏!また夜LINEするわ!」
相沢が振り返り真夏に言ってまたそのまま友人と門へ向かって歩いて行った。
「何か、かっこよくなったよね。相沢先輩。」
「うん。嫌がらせされていた日々が嘘みたい。」
「イヤ、あれ嫌がらせじゃなくて愛情だから。」
「あの時の私はそんな風に思わなかったわよ。」
「アイル君が日本へ来て、それで真夏の気持ちもよくわかったから。結果オーライよね。」
「うん。・・・明日雪だるま作れるかな?」
真夏はそう言って空を見上げた。
「ただいま~。」
家へ入ると母の姿が見えず、家中を探した。
「おかぁさん?どこにいるのよ?」
「真夏~?帰ったの~?庭に居るわよ~。」
大きな声で母が言い、真夏は声のする方へ行った。
「何してんの?」
「何って?雪だるま作ってるの。」
嬉しそうに雪だるまを作る母を見て遺伝子って凄いなと改めて思った。
「で、何体作ったの?見るところ2体だけど???」
「裏庭にも1体とここに2体、玄関の横に小さいの2体と・・・全部で5体かな?」
笑顔で母は言った。
「そんなに?お父さんも帰って来たらびっくりよね。」
「そうね。でも、お父さんはお母さんが雪が好きで雪が降ると雪だるまを作りたくなるのは知っているから、帰って来て雪だるまの数に驚くぐらいよ。」
「そうなんだね・・・・。で、お母さんお昼ご飯何?」
「自分でカップ麺でもご飯でも食べてよ。お母さん雪だるま作るのに忙しいから。」
母はそう言ってリビングの窓を閉めた。
真夏は大好きなカップ焼きそばを食べ、部屋へ戻った。
課題をやっているとシャロンから電話が入った。
『真夏ちゃん!元気?』
「シャロンさん!元気ですよ!シャロンさんは?」
『私は元気よ。いきなり電話しちゃってごめんね。あの、アイルから聞いたかな?』
「何をですか?」
『やっぱり言ってないか。あのね、来年の春にハワイで挙式を挙げることになったの。』
「そうなの!?おめでとうございます!」
『それでね、真夏ちゃん家族と加奈子ちゃん、あとあなたの彼氏にも来て欲しいの。』
「本当!参加するする!来年の春かぁ。楽しみだなぁ。」
『でもその前に受験があるでしょ?気分良く参加出来る様に頑張ってね!』
「はい!シャロンさん、今そっちは何時なんですか?」
『今?夜中の2時よ。』
「え!?寝ないと!お仕事有るんじゃないですか!?」
『ええ。でもフレックスタイム制の会社だから大丈夫よ。それにさっきまで仕事していたし。』
「大人って大変ですね。」
『真夏ちゃんたちもそう遠くない未来には社会人だものね。今をしっかり楽しんでね。』
「はい、ありがとうございます。」
『じゃあ、アイルをよろしくね。アイルの事で困った事があったらいつでも電話頂戴ね。』
と、シャロンは言って電話を切った。
真夏は早速加奈子にLINEをしてシャロンからの伝言を伝えた。
加奈子も喜び参加すると言った。
(海斗にもLINEしなくちゃ・・・でも勉強中だからなぁ。まぁ夕方連絡来た時にしよう。)
自分の事の様に嬉しかった。
真夏は来年の自分の受験に向けて更に気合が入った。
夕方ー
♪~ピロン~♪
相沢からLINEが入った。
真夏はびっくりして慌ててLINEを開いた。
『塾終了。今から自宅へ戻って勉強の続きします。いつでもLINEしても大丈夫だからな。』
真夏は相沢からのLINEを読んだ瞬間に電話をした。
『びっくりした!直ぐに電話かけてくるんだもんお前。』
「そんなにびっくりしないでよ。今から話す内容の方がビックリモノだよ。」
『何?何かいい事あったの?』
「アイルとシャロンさんが来年の春にハワイで挙式挙げるって!そこに私家族、加奈子と海斗も参加して欲しいってシャロンさんから昼間連絡があったの。」
『マジ!?あ!!でも俺パスポートは疎か旅費が・・・。』
相沢は現実に直面した。
「それなら招待って形になるだろうから大丈夫よ。おこずかいだけでいいと思うわよ。」
『そっか。良かった。大学生だからバイトもしれているだろうし。とりあえず何とか貯めるけど。楽しみだな。』
相沢もとても喜んだ。
他愛もない話をして二人は電話を切った。
翌週には相沢の試験が控えている。
真夏は未来に向けて今はお互い頑張るべき時だと思った。
一月九日、大学入学者選抜大学入試センター試験
朝起きると毎年恒例のごとく関東地方に雪が降っていた。
一月の朝は寒くてなかなか起きられない。
真夏は布団の中で寝転びながらスマホを開いた。
朝の7時には相沢から行ってきますとLINEが入っていた。
時計を見ると9時過ぎていた。
既に試験が始まっている時間だった。
(大丈夫かな。海斗なら大丈夫か・・・。)
スマホの画面をじっと見つめ真夏は相沢の試験が無事に終わるのを祈った。
下へ下りると両親が揃ってテレビを見ていた。
「あら、真夏お早う。ご飯食べる?」
母はそう言うとテーブルに真夏の朝ごはんを用意した。
「真夏、アイル君から結婚式の話あったか?」
父がさりげなく聞いて来た。
「うん。シャロンさんから直接連絡があって、ハワイでやるって。お父さん、お母さんにもアイルのご両親から連絡あったの?」
「あぁ、先週かな?お母さんの所にアイル君のお母さんから連絡があったよ。」
「お父さんもお母さんも行くんだよね?」
「そりゃあな。行くよ。ハワイかぁ、いいなぁ。分厚いお肉とか食べられるんだろうな。楽しみだな。」
真夏は父の楽しみがそこなのに若干の引きがあった。
「お母さんはねぇ、海が楽しみよ!あと火山!自然を満喫したいわぁ。」
「結婚式がメインじゃないの?」
真夏の言葉に二人は止まった。
「それより真夏、相沢君今日センター試験だよな?」
「うん。大学受験決めてから相当頑張って勉強していたし、親に必要以上のお金の迷惑かけたくないから絶対現役で国立受かるって言ってたよ。」
「そうか・・・。結果がいいといいな。」
父はそう言ってテレビを見ていた。
センターも終わり、3年生はいよいよ受験シーズンが本格化していた。
センターの結果が思わしく無ければ志望校のランクを下げたり、結果が良くても受験が終わるまでは緊張の日々が続いていた。
かくいう真夏達も学年末が近づき、2年生も毎日志望校の話や翌年度のセンター試験の話などでざわついていた。
「高野さん!」
珍しく神崎真美が真夏を呼んだ。
「げ。神崎じゃん。忘れていたけど何の用なんだ?」
奏美がうげぇっというような顔をして言った。
真夏は真美の方へ歩いて行き廊下へ出た。
「アイル先生、結婚するんですってね。」
「そうよ。素敵な婚約者よ。とてもお似合い。聞きたいことって、確認したかっただけ?」
真夏は真美の顔を見た。
「えぇ。確認したかっただけよ。わかったからいいわ。・・・私もこれ以上親の顔に泥を塗らないように行動を慎むわ。」
「そう。神崎さんって大学受けるの?」
真夏は何の気なしに聞いた。
「えぇ。せめて慶應くらい入れるようにしないとね。」
「け・・・慶應・・・さすが政治家のお嬢様ね。」
真夏はそう言って笑った。
「政治家の娘も大変なのよ。」
真美はそう言い残し教室へ戻って行った。
皆未来を、その先を見て考えて生きている。
真夏は教室へ向かい歩いて行った。
気が付けば2月ももう終わりに近づいていた。
3年生は3月1日に卒業式だ。
既に3年生は半日授業の日が多く、試験へ行っている生徒が多かった。
真夏たち2年生も学年末を終え、卒業式準備や4月の入学式の段取りに追われていた。
「もう明日卒業式だね。」
加奈子はそう言いながら卒業生が付けるリボンの不備が無いか確認していた。
「うん。4月から自分たちが3年生だなんて・・・信じられないね。」
「真夏、相沢先輩の第二ボタン貰うの?」
奏美が笑いながら聞いて来た。
「奏美、多分相沢先輩の事だから学ランごと真夏に渡すわよきっと。」
加奈子が今までの事を全てひっくるめて考えて言うと、
「そうね。やりそう。」
奏美はそう言って爆笑していた。
「学ランごとかぁ・・・貰っても・・・一応ボタンだけでいいって言っておこう。」
スマホを取り出し真夏は相沢へLINEした。
「真夏、加奈子ちゃん、お、奏美さんも居たんだ。リボン出来た?」
「アイル先生、一応半分くらいまでかな?今のところ不備無しです。」
加奈子が確認した旨を伝えるとアイルは安心した顔をした。
「加奈子ちゃんがきちんと見てくれるから安心だよ。真夏だとねぇ・・・いい加減な見方をしそうだから安心できなくて。」
笑いながら真夏の顔を見ると眉間に皺を寄せた真夏がアイルを睨みつけていた。
「お、終わった・・・。」
リボンの確認を終えた加奈子が倒れ込むように机に突っ伏した。
「か、帰ろうよ・・・。明日また朝早く来ないといけないし。」
真夏はカバンを持って加奈子を促した。
昇降口を出ると綺麗な夕焼けだった。
「何かさ、早かったよね。卒業式まで。」
「うん。アイルが来てからの7か月はあっという間だったよね。」
二人は感慨深げに話した。
「相沢先輩と・・・真夏がね・・・。」
「何よ?」
「恋人同士になる日が来て良かったわ。相沢先輩の長年の思いも成就したわけだし。」
加奈子は改めて嬉しそうに言った。
「人って、時の流れってわからないものよね。」
「うん。真夏、幸せ?」
「うん・・・幸せだよ。でも来年受験あるから未だ未だよ。」
「そうね。」
夕焼け空を眺めながら帰りの道を歩いた。
卒業式ー
「答辞、卒業生代表、相沢海斗。」
「はい。」
相沢は卒業生の代表で答辞を述べた。
練習の時は簡略されていたので真夏たち2年生も初めて相沢の答辞を聞いた。
「ねぇ、相沢先輩と真夏って付き合ってるの?」
クラスメイトの女子たちが小声で興味津々に聞いて来た。
「未だよ。」
「真夏最高よね。あんなカッコいい彼氏いて。」
「だから未だだって。」
「あんたたち、先生に叱られるからその話はあとにしなさい!」
加奈子は小声で注意し前を向いた。
答辞が終わると、卒業生が仰げば尊しを歌い、卒業式は滞りなく終わった。
「はぁ~、おわったぁ~。」
奏美が大きなため息をついた。
「奏美偉かったね2時間静かに出来て。」
真夏が奏美をからかった。
真夏たちも残り2週間は中学生の入試があったり、まとめの授業や小テストであまり授業らしい授業も予定として無いため何となく浮足立っていた。
「真夏!」
廊下からこれでもかというくらいの大きな声が聞こえてきた。
「海斗!!声大きいよ!」
恥ずかしくなり相沢の方へ駆けて行った。
クラス中冷やかしコールが止まない。
「何?終わってからでいいのに。」
「良くねぇよ。先ず写真一緒に撮れ。」
「はい?」
真夏は相沢に促されるまま廊下で一緒に写真を撮ってもらった。
「今日だけど、この後夕方から謝恩会あって帰りが多分遅くなるから、もしかしたらLINEめちゃ遅くなるかもしれないから。」
「っていうか、忙しいなら無理してLINEしなくていいよ。」
「あ?可愛くねぇな。まぁいいや。はい。」
相沢は学ランのボタンを全部引きちぎって真夏の手の平に乗せた。
「え?全部!?」
「おう。他の奴にやる気全くないから。全部真夏にやるよ。」
「あ、そう・・・。海斗、ありがとう。」
真夏は頬を染めて笑顔を見せた。
相沢は満足して教室へ戻って行った。
その後真夏がクラス中だけでなく2学年中から冷やかされまくって真っ赤な顔をして帰宅したのは言うまでもない・・・。
ー一年後ー
「真夏、看護学校合格おめでとう!」
「ありがとう!よかったぁ・・・合格して・・・。これで心置きなくアイルの結婚式に参加できる。」
真夏は心底ほっとして言った。
「真夏、海斗君も今から来るんでしょ?」
母が料理を用意しながら言った。
「え?あいつ来るの?」
父は娘が彼氏が出来るカウントダウンが始まり少し嫌そうだった。
「あいつって言わないでよ。海斗です。」
真夏は少しイラっとした。
「ふん。」
父はそっぽを向いた。
「加奈子ちゃんは大学入試終わったんだっけ?」
「うん。成績優秀だから秋に推薦であっという間に合格したよ。」
「そうだったのね。じゃあ真夏も加奈子ちゃんも楽しくハワイへ行けるわね。」
「うん!」
♪ピ~ンポ~ン♪
「海斗だ!」
真夏は玄関へ走って行った。
扉を開けると真夏が好きな花の花束を持って立っていた。
「おめでとう。真夏。」
「ありがとう!」
真夏は花束を受け取ると海斗に抱き付いた。
「あ、あの・・・お父さんが・・・リビングからめちゃ見てる・・・真夏・・・聞いてる?」
「うん。お父さんの事はほっといて。海斗にやっと言える。」
「待て、それは俺から言うから。」
相沢はそう言うと改めて姿勢を正し真夏に向き直った。
「真夏、今日から正式に俺の彼女になってください。」
「はい。」
満面の笑みで真夏は海斗に返事をした。
その後ろの方から涙目の真夏父と興味津々満面の笑みの母が見守っていた。
「やっと彼カノですかぁ。」
ジュースを飲みながら春休みになり明るい色に髪を染めた加奈子が嬉しそうにしていた。
奏美も美容学校へ通うのに髪をグラデーションカラーにしていた。
「キスは?したの?」
二人が真夏にあれやこれやと聞いてきた。
「うーん。キスはしたよ?それ以上は・・・・って、何でそんな事言わないといけないのよ!?」
聞き出そうとする二人に真夏は怒った。
「アイル君って、もうアメリカへ帰ったの?」
「一応20日までは居るって。でもその後は多分そのままハワイ行って挙式してアメリカへ戻るんじゃないかな?」
真夏は昨夜ご飯を食べにきたアイルに聞いた事を話した。
「ねぇ、ねぇ。ハワイのお土産頼むね!にしてもさぁ、アイル先生の純愛ストーリー凄いよね!何か憧れちゃう!」
奏美はキュンとした顔をした。
「じゃあ、奏美は圭吾だね。」
「え…。圭吾!?やだよ!」
「って言うかさ既に高校卒業した後だもん。純愛ストーリー無いよね。」
真夏がそう言うと三人で可笑しくて笑った。
「真夏いいね。」
奏美が恨めしそうに見た。
「何で?」
「真夏も純愛ストーリー系よね?相沢さんと。」
「そうよね。真夏もついでにハワイで挙式する?」
加奈子がいたずら心で言った。
「看護師になってから考えます。」
真夏はふうっとため息をついた。
「明日にはハワイへ行くから荷物きちんと準備してよ!」
母が父に荷物の準備をさせていた。
「お母さん、パスポートは?」
「寝室の引き出しの中ですよ?お父さん、子供じゃないんだからいちいち聞いてこないでよ!」
母は父の準備の遅さに若干苛立っていた。
「真夏は出来たの?」
「うん。必要なものは全部スーツケースにもう入れたよ?」
真夏は両親の痴話げんかから逃げるように自室へ戻った。
部屋へ戻るとスマホに相沢から連絡が入っていた。
直ぐに掛け直した。
「ごめんね。ご飯食べて下でお母さんたちと明日の準備してた。」
『いいよ。初の海外旅行楽しみだな。』
「うん。海斗と加奈子とハワイ行けるなんて凄い楽しみだよ。」
『結婚式終わった後の観光が楽しみだよ。』
「そうだね。でもアイルたちのお友達とかも来たら異文化コミュニケーションで楽しいよね。」
『通訳は・・・大河に頼むしかないな。』
「はなからそのつもりだよ。」
『だよな・・・じゃあ明日・・・何時集合だっけ?』
「・・・午後6時に家に集合だよ。」
『そっか。時差結構あったっけ?』
「19時間だよ。」
『・・・時差ぼけやばそうだな。』
「でも春休み中だし。海斗も4月までに時差ぼけ直せばいいと思うよ。」
『そだな。じゃあまた明日な。お休み真夏。』
「お休み。」
翌日夕方
「こんばんは~。お願いしま~す!」
加奈子が最初にやって来た。
父は加奈子が来たのを確認すると、
「よし!空港へ行くか!」
と言って地味に相沢への嫉妬心で地味な嫌がらせをしようとした。
当然母から盛大に叱られ、盛大に落ち込んでいた。
「真夏、おじさんの嫉妬凄いね。」
「うん。海斗が気の毒になるくらいよ。」
「おばさんがしっかり叱ってくれるからいいわよね。」
「そうね。母はやっぱり娘の味方よね。」
「こんばんは!よろしくお願いします!相沢です!」
相沢が元気にやって来た。
「じゃあ海斗君が来たから、空港へ行きましょう。」
母の指示で車に乗り込んだ。
父もせっかくの旅行なので気を取り直し相沢にも愛想よく話していた。
空港に着き出国手続きをし、搭乗口でチケットを渡し飛行機へ乗り込んだ。
「離陸の時ってふわっとするんだよね?」
「えぇ、私も何度か乗ったこと有るけど・・・楽しいわよ。」
加奈子がしれっと言った。
「離陸のふわが楽しいって・・・俺多分下向いてるわきっと。」
「手、繋いでいてあげるからいいよ。」
真夏が笑顔で相沢に言うと窓側の席から父がガチ見していたのは言うまでもなかった。
「飛行機って、面白いね。」
「真夏、乗ったこと無かった?」
「うん、多分無いよ。旅行行くのもお父さんが運転好きで車で行くのが多かったからなぁ。」
「そうなんだ。いいね。車って。周りの景色が堪能出来るじゃない?飛行機だとみての通り雲か空か海しか見えない・・・。」
「まぁ、外国行くとなるとなおそうよね。着いた時の感動は凄いかも。楽しみで仕方無いよ。ね、海斗・・・って。寝てる・・・。」
「本当だ寝てる・・・無事に離陸して寝ちゃったのかしら?」
真夏と加奈子は顔を見合わせて笑った。
19時間後
ホノルルに到着した。
長い事飛行機に乗っていたので真夏たちは体がガチガチだ。
入国審査をし無事にゲートを出ることが出来た。
「ん~、アイル君のお父さんとお母さんはどこだ?」
父が空港内をキョロキョロして見ている。
「アイル君のお母さんに電話してみるわね。」
母は電話をした。
「真夏、お母さん英語話せるの?」
相沢が真夏にこそっと聞いた。
「ううん。話せないわよ。ただアイルのお母さんが片言だけど日本語話せるから。」
「そうなんだ。」
「うん。そうよ。」
「ねぇ、真夏あれシャロンさんとアイル君じゃない?」
加奈子が指さす方を見ると二人が笑顔で待っていた。
「皆さんアメリカ合衆国へようこそ。僕たちの結婚式の為遠くから来てくださりありがとうございます。」
アイルは満面の笑みで言った。
「お久しぶりです。明日の結婚式は宜しくお願いします。」
シャロンも嬉しそうに挨拶した。
空港からホテルの迎えの車に乗り宿泊先に到着した。
「ご飯は機内食か何か食べましたか?もし食べていないならこの近くに美味しいステーキハウスが有るんですけど行きますか?」
アイルが気を利かせて聞いて来た。
「おじさん食べたい!アイル君!案内して!」
「私たちはそんなにお腹空いてないから、お父さん行って来たら?」
母がそう言うとアイルと父は出かけて行った。
シャロンが部屋を案内してくれ、母と真夏たちはアイルの両親たちと挨拶を交わし話もそこそこで部屋へ戻った。
「真夏、先にシャワー浴びる?」
「加奈子先でいいよ。私海斗の部屋にちょっと行ってくるね。」
「はぁいはい。ごゆっくりね。」
加奈子は部屋の扉をニヤッとして閉めた。
コンコン
相沢の部屋の扉をノックすると扉がゆっくりと開いた。
「真夏!いいのか?来ても?」
「お父さんが怖い?」
「当たり前だろ。」
相沢はそう言うと真夏を部屋へ入れて扉を閉めた。
「海斗の部屋から海が見えるんだね。」
真夏はバルコニーへ向かって歩いた。
二人でハワイの夜空を眺めた。
「日本よりも星が沢山。何か凄く綺麗に見えるね。」
「日本は夜はどこへ行っても電気で明るいからな。・・・明日楽しみだな。」
「うん。感動して泣いちゃうかも。」
「泣くなよ。俺がオロオロしちゃうから。」
相沢はそう言うと真夏の髪を梳くった。
「海斗・・・?」
名前を言った瞬間、相沢の顔が真夏の顔に近づいてきた。
何が起こったのかわからないくらい真夏は茫然としていた。
「真夏の初キスいただき。」
相沢がそう言い真夏の頬を掌で覆った。
「ばか・・・。」
真夏は人生で一番嬉しくて一番恥ずかしかった。
翌日良く晴れたいい日和になった。
ホテルの敷地内にある海の見える丘でアイルとシャロンの式が行われた。
本土からアイルとシャロンの学生時代の友人たちも参列しとても賑やかい式となった。
真夏達も話しかけられるがちんぷんかんぷんのため、加奈子が通訳として忙しくしていた。
「シャロンさん綺麗だね。見て、アイルの満足そうなあの顔。」
真夏は嬉しそうに相沢に言った。
「真夏も凄く嬉しそうな笑顔だな。」
「うん。小さい時に可愛がってくれたお兄さんが大好きな人と結婚出来てこんなに嬉しい事ないわよ。」
「そうだよな。幸せになって欲しいよな。」
家族や友人たちが皆嬉しそうにしていた。
真夏はその様子を見ているだけで幸せだった。
「真夏~、加奈子ちゃん!ブーケトスやるって!」
母が呼んでくれた方へ真夏と加奈子は走って行った。
シャロンの友人たちが既にスタンバっていた。
中には男性も交じりシャロンがいつ投げるのか心待ちにしている。
式場の人が合図を出してくれ、シャロンがブーケを空高く投げた。
女性陣の大騒ぎする声を聴いて男性たちが面白がって笑っていた。
そして、後ろの方で並んでいた真夏の手の中にすぽっとブーケが入って来た。
「真夏!凄い!え?次真夏なの!?」
加奈子が興奮して言った。
「え?これから看護学校に入るし、海斗もまだ4月から二回生だよ?」
「じゃあ、海斗君が卒業してからかしらね?」
母が父を煽るように言ってきた。
父は固まっていたがアイルの父に肩をポンポン叩かれ慰められていた。
「真夏、まだ俺たち始まったばかりだけど、お互いがお互いを思い合える様になろうな。」
相沢が真夏を優しい眼差しで見る。
「うん。海斗。大好き!」
真夏は幸せな気持ちで海斗の腕の中へ入った。
終
Oh! my teacher!!をご覧にいただきありがとうございました。
きつかったです。(笑)
初めて書いた小説が恋愛小説で、しかも内容も結構構成自体私には難しかったです。
改めて書くことの難しさを感じて、改めてまた違う話も書いてみたいと思いました。
話が繋いで行く様に考えるのも頭を捻らかす作業が多々有りましたが、今は書き上げた達成感でいっぱいです。
真夏が選んだのは最終的にいつも隣に居てくれた海斗でした。
題名と内容が???となりそうでしたが、真夏はアイルが大好きだからいっか!と思いそのまま推し進めて行きました。
真夏が決められたのも神崎真美のおかげの部分もあるかな?と思いました。
普通ならどっちか選べとか言われても選ぶとかそういう次元じゃないでしょ!?って突っ込みどころ満載の真美でした。
アイルもまた優柔不断な男であり、決定打を出せない男でした。
アメリカへシャロンを残して来た理由も状態も優柔不断な行動が引き起こした事でした。
シャロンが日本へ来なかったら、アイルは一生独身だったかもしれません。
自分の行動一つで人生は如何様にも変わってしまいます。
今を真剣に生きて、素敵な未来を創る。未来へ繋がるような生き方をする。
私たちがこの世の中を生きる為にも大切な事かもしれません。
私自身も夢を叶えるために今を頑張って納得いくように生きることにしました。
自分の心に素直に。
生きる為にはそれが一番大切かもしれません。
真夏とアイルの様に自分の心に素直に正直に今学生の皆さんもその様に生きて行って欲しいと思ってます。
2020.6.29 飯島 里佳