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均衡の扉  作者: 聖永
1/1

現実

夜が明けて

また日が昇る

愛する者を

失った悲しみと共に


枯れた涙と

乾いた笑みと

後はただただ

屍のように

永遠とも思える

永い時を生きるのみ

只独りで

底の無い暗闇で


夜が更けて

また日が落ちる

愛する者を

手に掛けた苦しみと共に


私は光を望んだ者

私は闇を望む者

只ひたすらに請い願い

只残酷に堕ちてゆく


空が明るく照らされて

世界もまた光に満ちる

それでも希望は訪れない

心に希望は訪れない

心は光で満たされない


光と闇の均衡は崩れ

世界の平和の均衡は崩れ

絶望と失望がすべてとなる

この世の真理を見誤るな

私はかつて光を望んだ

私はかつて闇を望んだ

私は決して

満たされることのない心を持つ者


扉を開け

ただ真実を見据え

扉を開け

均衡の扉を









なんだ、これ。

頭の中に、何かが流れ込んでくる。

思い出せそうなのに思い出せない、気持ち悪い。

ただ・・・胸が裂けそうななるほどの想い。

俺は、この気持ちを知っている?







静まり返った暗い部屋に

悲しいニュースだけが響く

誰かの雄叫びが谺する

今日、この町で

オレの愛した人が死んだ




「通り魔なんですってぇ、ここらへんも恐くなったわねぇ。」

(勝手なことを言うな)

「何かの事件に巻き込まれたって噂よ、近ごろの若い子は何してるか分からないからねぇ。」

(何も知らないくせに)

「どうせ碌でもない事してたんでしょお。」

(何も知らないくせに)

「髪だって真っ赤に染めて、あいさつだってろくに出来ないのよぉ。目付きも悪くて怖かったし、犯罪擬いの事してたっておかしくないわよ。」

「何も知らないくせに!!!!!」

(!?・・・やばい。)

つい思っていたことが口からでてしまい、真っ黒いスーツに真っ黒なネクタイをした少年は焦って足早にその場から遠ざかった。

後ろからは少年と同じように真っ黒な服に身を包んだ先程の主婦集団がまた何事か話しているのが聞こえる。

「なぁに、あの子。」

「急に叫びだしたりして」

「本当に最近の若い子って恐いわねぇ。」

「私たちも気を付けないといつか刺されるかもしれないわよぉ。」

「本当嫌ねぇ・・・・・」

(・・・大人なんか大嫌いだ。何かあるたびに俺たちを悪者にして、ただ押さえ付けようとする。・・・こんな世の中にしたのは、お前達のくせにっ。)

遣る瀬ない想いのぶつけ場もなく、ただただ心の中でのみ本音を叫びながら少年は自らの家の鍵穴に鍵をさした。

家のなかに入るとテレビがついたままになっていて、また同じニュースが流れていた。

「・・・・・・っ。」


連日悲しいニュースは絶えない

四角い枠の中

知らない大人達がまた勝手な論議を繰り広げてる

『またか』

なんて呟きながら

本当は何とも思ってないんだろ

明日になったらまた次の話題で

他人の死なんかどうでもいいんだろ

誰かの日常が壊されても

世界の日常は続いてく

俺達の幸せが壊されても

世界は何の変化も見せず

またいつも通りに廻り続ける・・・


「こんな世界、早く壊れてしまえばいいのに・・・」




(・・・・・・?あれ?俺いつのまにか寝てたのかな。あったまいてぇ・・・。つうか、腹減ったな。結局あれから、何も口にしてないや・・・。)

「あれから、まだ1日しかたってないのか・・・。」

昨日死んだのは、俺の愛した人だった

付き合っていたわけじゃない

相手が俺をどう思っていたかは知らないし、俺も気持ちを伝えたことは無かった。

ただ、誰よりも愛していた。

その愛した人は、何者かによって殺された。全身を滅多刺しにされて、内蔵も引きずりだされて、

まだ暗い深夜の、どしゃぶりの中で・・・・・・。


「しかたない、なんか食うか。」

そう言って少年が起き上がるとそこは見覚えのない部屋だった。

しばらく茫然としてただ周りを見渡していると、突然扉が開き男が入ってきた。銀色の美しい髪、整った顔立ちに長い睫毛と優しげな銀の瞳。少年はしばし見とれてからその男が何か言っていることに気付いた。

「・・・フレイ様。朝食の用意が出来ましたので、早く起きて早く着替えて下さい。」

(?・・・取り敢えず日本語をしゃべってはいるようだけど、なんのことを言ってるんだろう?)

「フレイ様?まさか目を開けたまま寝てらっしゃるんですか。」

(・・・・・・もしかして、おれに話し掛けてる???なんか、目が合ってる気がしなくもないし・・・。で、でも、フレイ様って誰だよ?何が何だか・・・)

そうやって少年が思考を巡らしていると、銀髪の男は静かにため息をつき近づいてきたと思ったら、いきなり少年を抱き上げた。

「うっ、うわぁ!!何?!」

「まだ目が覚めていらっしゃらないようなので僭越ながら私がお着替えを、と思いまして。」

(な、何を言ってるんだろうこの男は。)

などと思っている間に服が脱がしかけられていた。

「うわぁ!い、いいよ。自分でやるから!」

「そうですか?それでは着替えはこちらに置いておきますので。早くいらしてくださいね、朝食が冷めてしまいますので。では、」

そういって部屋から出ていった男がかすかに微笑っていたように見えたのは気のせいだろうか。

「あの男・・・絶対Sだな。じゃなくて、早く着替えなきゃ。まぁ、腹も減ったし、取り敢えず言う事を聞いとくか。」

少年が部屋から出ると扉のすぐ横に先程の男がたっており、朝食の用意された部屋まで案内された。


「うわぁ、おいしいなこれ!」

目の前に用意された食事を口にした少年はそのおいしさに思わず感動して声をあげた。

「それはようございました。」

銀髪の男は笑顔でこたえた。

「・・・・・・。今更なんだけどさぁ。あんた、」

「フレイ様。なんですか、その言葉使いは。私の名はウィルヘイムです。ウィルとお呼びください。」

「あー、じゃあウィル。ご飯まで食べさせてもらっといてなんなんだけどさぁ、俺はフレイなんて名前じゃないし、その・・・、ここがどこかも分からないんだけど。」

困った顔をして少年がウィルに話すと、ウィルは一瞬驚いた顔をした後に少しおかしそうに笑みを浮かべてこたえた。

「貴方がフレイ様でないのだとしたら、いったい貴方は誰だというんですか?」

(もしかして、馬鹿にされてる?!)

「俺は!、フレイじゃない!!俺は、俺の名前は・・・!!!?」

(あれ?俺は、俺の名前は・・・?だって、俺はフレイじゃないし、昨日までちゃんと・・・・・・)

「フレイ、様?」

ウィルが怪訝な顔をして少年を見た。

「俺はフレイじゃない!!!!!」

混乱していた少年は思わず叫んでその部屋から飛び出し、家から出る扉を見つけるとその扉を開け外へと出ようとした、瞬間。少年は思わず踏み留まった。

「何?ここ・・・。ここ、どだよ、俺は、俺の住んでいた町は・・・?」

少年の目に移った光景は見覚えのないものだった。それどころかまるで少年の住んでいた日本ですら無いような。

「・・・フレイ様。」

振り返るとウィルが心配そうにその場に立っていて、茫然として立ち尽くしていた少年にそっと近寄り肩を抱いた。

「きっと、混乱してらっしゃるのでしょう。あんなことがあったばかりで・・・、本当に、申し訳ありません。申し訳ありません、フレイ様。」

そう言ったウィルの体は、少し震えているようにも感じられた。

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