epi1-3.少女鼎談
「それじゃあ、シルフィちゃんの復帰を記念しまして~、かんぱーい!」
「乾杯」
「はい」
「二人ともテンション低いね!」
シルフィが治療を終えて学校へ登校した初日の放課後。外界遠足をきっかけに仲を深めたシルフィ、サラ、リリアはハイフィルの大衆食堂を訪れていた。
少女たちの目の前にはテーブルを彩る料理と色のついた洒落たグラスが並んでいる。乾杯の音頭を取ったリリアはシルフィたちとの温度差にケラケラと笑い声をあげた。
対するサラは神妙な面持ちで手元のグラスを眺めた。
「いえ、十分に楽しんではいるのだけれど、今一つハジケ方がわからないわ。こういう場での盛り上がりに慣れていないというか。サラは友達が少ないし……」
「理由が結構シビアだー。これから慣れていけばいいんじゃない? いきなりハイテンションのサラちゃんを見せられても困惑するし」
「そう……そういうものなのね。難しいわ」
サラはまた一つ友人とのコミュニケーションを覚えたらしい。
そんなやり取りを横目にシルフィは淡々と食事を取っていた。
「シルフィちゃんは相変わらずマイペースだねっ」
「今日はお腹が空いているからね。たくさん食べられる環境はありがたい」
シルフィの前には三人前の料理が鎮座しているが、臆することなくナイフとフォークを進めている。
「うへぇ、病み上がりと言えど、女の子としてはお腹周りが気になっちゃいますなぁ」
「うん? 私は太らない体質だから大丈夫だよ」
「うわーっ、女の子の敵だ! お腹を触ってみてもよろしくて?」
「どうぞ」
リリアはシルフィに寄り添い、腹部に軽く触れた。
「おおっ、無駄な脂肪が一切ついていない……むしろ弾力のある筋肉が秘められていて…………くびれがある」
「実況しなくていいから」
「さ、サラも触りたい!」
対面で羨ましそうに眺めていたサラは耐えられなくなったのか、立ち上がってシルフィの隣に腰を下ろした。
「本当だわ……靭やかで滑らか…………たくましい」
「あの、流石にくすぐったいんだけど」
少女二人に腰回りを撫でられるシルフィは困ったように押しとどめる。元の座席に戻ったリリアは嘆息した。
「シルフィちゃんもサラちゃんも美人さんだよねー。二人の恋愛遍歴とか聞いてみたいな」
「恋愛?」
「そうそう。シルフィちゃんくらいだと、毎日告白されてもおかしくないんじゃない?」
「んー」
シルフィはどうしたものかと考え込む。初等部にあたる時代は故郷で村八分にされていたため色恋沙汰など起きる筈もなく、エスリアに来てからは高等部まで学校に通っていないため「告白」なるイベントも経験したことが無かった。
よって、シルフィは適当に誤魔化すしかない。
「まだよく分からないかな。そういうの」
「え~? 華の十代なのに勿体ない」
「そういうリリアはどうなの」
「ヒ・ミ・ツ!」
「なにそれ」
シルフィとリリアが恋愛話に花を咲かせる中、一人だけソワソワと落ち着きのない人物がいた。
「サラちゃんはどうなのよ。やっぱりモテモテでしょ」
「えっ、ま、まあそうね……愛の告白の類は結構されるけど────」
「ほほ~ぅ、それでは、恋人さんがいたりとか?」
グイグイと詰め寄るリリアに対してサラは強く否定した。
「いえ、恋人はいないわ」
「あれ、そうなの。それじゃあ、サラちゃんのタイプってどんな人?」
「サラに釣り合う人かしら」
「うひゃー、そりゃハードル高いわ。ハイスペックなサラちゃんに釣り合う人なんているのかねー?」
リリアはオーバー気味にリアクションを取って身を引く。食事に戻ろうとフォークを手に取ったところで、その不審な様子に気が付いた。
顔を赤らめたサラが自身の髪に結びつけられた空色のリボンを弄りながらシルフィをチラと一瞥しているではないか。
(にゃるほど~、そういうことか~!)
目の前の料理に集中しているシルフィは話に耳を傾けているものの、サラのアピールには気が付いていない。
(これは面白くなってきた~!)
リリアは吹き出しそうになりながら、目の前の愛らしい駆け引きを眺めるのだった。




