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閑話2:彼女の影を追う者

 冒険者ギルドユートラント支部。外界と内界の境界に位置するユートラントは冒険者の存在が欠かせない。その登録者数はユートラント支部だけで二万人を誇る。

 冒険者は通常、複数人で行動する。数人で任務に挑むことを「パーティを組む」といい、その活動期間は一日から数年と多様な形態がある。

 冒険者ギルドの受付カウンターに現れた翡翠の髪を持つ少女は「パーティ申請用紙」を提出した。


「ようこそ冒険者ギルドへ。パーティをお探しですか?」

「はい。半年から一年程度の活動期間で、パーティランクはA程度。できれば、女性がいるパーティをお願いします」

「了解しました。冒険者証(ギルドタグ)をお持ちですか?」

「はい」


 少女は懐から銀色のカードを取り出す。


『ユフィル・ユレイス 冒険者ランクA』


 ユフィルは故郷の集落を飛び出して、十五歳の時に単身でエスリア国にやってきた。冒険者として情報を集めながら、かつて集落からいなくなった幼馴染を探し出す────それが、ユフィルの望みだった。

 ユフィルの冒険者ランクはA。ユートラントでも百人程度しかいないハイランクにまで上り詰めていた。

 冒険者証を照合し終えたギルド職員は手元の資料を開き、ユフィルに見せる。


「こちらのパーティは如何(いかが)でしょうか。前衛のグラハム・グライアルさん、後衛魔術師のリッカ・カーミラさん、支援魔術師のマルク・リッツェさんのトリオパーティです。最近結成されまして、現在メンバーを募集しているそうです」

「活動内容をお聞きしても?」

「外界での魔物討伐や調査をメインにしているようですね。活動領域は外界深層第五区画が中心なので、ある程度の実力が求められますが……ユレイスさんの実績を見るに適正かと思います」

「了解しました。とりあえず、連絡を取って合流してみます」

「こちらがパーティの連絡先です。あ、そういえば任務から帰ってきたところをお見掛けしたので、上階の大衆酒場で打ち上げをしているかもしれません」

「なるほど……覗いてみますね」

「はい。パーティに正式加入する場合は改めて本申請を行ってください」


 ユフィルは受付職員と握手を交わし、酒場への階段を上って行く。吹き抜けの造りになっているギルドでは場所を問わずに賑やかであるのだが、その喧騒の中にあってもひと際大きな声がユフィルの耳に届いてきた。


「ゴリラてめぇ、アタシの酒が飲めねえとはぁ。どういう了見だぁオイ!」

「ゴリラじゃねえ、グラハムだ! 暴れるなバカ女!」


 ユフィルが酒場に辿り着くと、(いさか)いの声が近くなる。店に置かれたテーブルの一角で冒険者らしき女性が暴れていた。

 くすんだ銀髪に高い背丈、褐色の肌を惜しげもなくさらしている女性は酔っぱらっているのか、呂律が回っていない。酒瓶を片手にグラハムと呼ばれた筋肉質の大男に迫っている。


「カーミラさん、飲みすぎですよ。お店にも迷惑ですし、もう帰りましょう」

「バカ野郎、マルク。いま飲み始めたばかりじゃあねえかよお」

「いや、もう二時間は飲んでますが……」


 マルクと呼ばれた茶髪の青年はため息を吐いてモノクルを掛け直した。普段は理知的であろう相貌は疲れからか生気がない。


「ほら、行きますよ。グライアルさん、カーミラさんを支えてください」

「アタシに触るな、クソゴリラ!」

「一人で歩けねえだろうが、なんなんだよお前は!」

「アタシは、まーだーのーめーるー!」

「駄々をこねないでくださ────」

「うっ、おええぇぇ」

「うげっ、こいつ吐きやがった! ってオイ、俺の服で口を拭こうとするな!」


 遠巻きに騒ぎを眺めていたユフィルはどうしたものかと棒立ちになる。彼らの会話に出てきた名前は、今からユフィルが交流を図ろうとしていた冒険者らのものと一致する。


(取り込み中みたいだし……またの機会にしようかな)


 踵を返そうとしたところで、ユフィルとリッカ・カーミラの視線が交錯した。


「おい、そこの綺麗な髪の美人の嬢ちゃん、アタシたちのこと見てたよなぁ? 何か用事か?」


 吐瀉物処理のために駆り出されたグラハムと店員に頭を下げるマルクを置いて、妙にスッキリした顔のリッカがユフィルに声をかける。

 ユフィルは苦笑しつつ、リッカに向き合った。対するリッカは不躾なほどにユフィルの顔を凝視した。


「んー? アンタの顔、どっかで見たことあるな……」

「えっと、ユフィル・ユレイスです。実は外界活動のためのパーティを探していて────」

「おいバカ女! なにを立ち話に興じてるんだ!」

「うるせぇ! アタシのゲロくらい片付けろやゴリラ!」

「グラハムだ! お前が片付けろ!」

「あ、あの~────」


 受難か、或いは進展か。少女ユフィル・ユレイスの冒険者生活は大きな転換期を迎えていた。


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