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09.聖騎士vs【星】Ⅱ

星の大鴉(アストラル・レイヴン)】と思わしき二人組を追って一刻ほど。相変わらず人払いの魔法は機能しているようで、いやな静けさが街を包んでいた。

 私の追駆は続いていた。賊の行く手を塞ぎ、足を奪うために攻撃を行うものの、決定打には至らず逃がしてしまう。彼らは一直線に逃げるのではなく、十三番通り周辺を不規則に走り続ける────まるで時間稼ぎを目的としているかのように。

 実際、そうなのだろう。女が連絡を入れた先が彼らの拠点であるならば、じきに応援が来るはずだ。

 しかし、それはこちらも同じ。現状、一対二でもこちらが優勢なのだから、人員が増えれば一気に情勢はこちらに傾く。

 しかし、逃げ続ける彼らの機動力に変化はない。男の方は度重なる私の攻撃で重傷を負っている筈なのだが、女の方が回復させているのか、それともトリックがあるのか。

 幾度もの戦闘と逃走劇を繰り返し膠着状態に陥る。そろそろ援軍が到着するかという頃────先に現れたのは敵陣営の応援だった。


 それは、隕石と形容すべき速度で私の前に()()()()()


 そう、落ちてきたのだ。不気味なほどに静寂な通りに似つかわしい轟音と共にクレーターを穿ち、私の前に着地。巻き上げられた砂礫がパラパラと頭の上に落ちてくる。

 その衝撃に、私は数歩後退りした。


「貴女一人だけなの?」


 第一声はそんな言葉だった。認識阻害によってノイズが混ざった声は少女とも変声期前の少年ともつかぬ中性的なそれだ。姿形は中肉中背で、やはりと言うべきか黒のローブと(カラス)のマスクによって正体は隠されている。

 私は素早く剣を構える。

 対する敵は棒立ちのままだ。しかし、ゆったりとした立ち姿の中に一切の隙はなかった。


「なんだか拍子抜けね……」

「……っ!」


 目の前の敵は私の姿を見て小首を傾げた。

 完全に舐められている。

 相手が慢心しているのなら僥倖、全力で叩き切るだけだ────だというのに、私の身体は動かなかった。

 生唾を飲み込む。得体のしれない恐怖がじわじわと足元から這い上がってくるのを感じる。初めての経験に私は身震いした。

 増援は一人。

「国の剣」とまで評された私が一騎打ちで負けることなどあり得ない……はずだ。


攪乱(かくらん)するように言われて来たけど、貴女だけなら足止めで十分か。いいよ、相手してあげる」


 余裕のある態度に、私は焦りと苛立ちを覚える。だが、これは冷静さを欠くための挑発だ。

 相手にテンポを取られる前に、こちらからも切り出す。


「あなた、名を何というのです」

「人に名前を訊くときは、まず自分から名乗るのが礼儀だと思わない?」

「っ……デューイです。ミリル・デューイ」

「えぇ……悪党相手に本名を名乗るなんて馬鹿正直なのね…………」


 目の前の敵は呆れたと言わんばかりに仮面を傾げた。そして、何かが引っかかったように(しばら)く考え込んでいたようだが、得心がいったのか深く頷いてみせた。


「ああ、ギルドの……貴女と敵対する理由ができた。それで、私の名前だけど────【(スター)】。よろしくね、騎士さん」


 述べたその名は【星】。先日、私が騎士団第四部隊の名義で指名手配した【星の大鴉】の幹部の名前。

 いよいよ私の本能が警鐘を鳴らし始める。しかし、口を止めるわけにはいかなかった。


「あなたには傷害、脅迫、器物破損……その他、重罪容疑がかけられています」

「へえ、随分詳しい。証拠は丁寧に消してきたつもりだけど」

「……こちらには独自の情報網があるので」

「仕事熱心で何より。知り合いにも聞かせてあげたくなるくらい」


 軽口を叩く【星】を見ていると、嫌な汗が背中を伝うのを感じる。

 私がギルドで指名手配をかけて【星】の捕縛に打って出たのは勝算があったからだ。騎士団長から渡された資料には奇襲と近接戦が得意としか書かれておらず、その実力も少々腕が立つ程度とのことだった。外界でSランクの竜を相手に一人で立ち回れる私ならば対面でも勝てると踏んでいた。

 しかし、目の前の【星】はどうか。奇襲をかけるでもなく、武器を用意するわけでもない。自分が優位であることを信じて疑わない毅然とした態度。


「その余裕な態度、後悔することになりますよ」

「貴女が身を引くなら見逃してあげたのに。まあ、私としてはどちらでも良かったのだけど」


 私が殺気を迸らせると、初めて【星】も構えた。


「参ります」


 殺すことも厭わない全力で、私は一歩踏み込んだ。


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