第9話 パンジャンで吉兆占い
俺は境内のお手洗いに来ていた。
中はとても清潔で奇麗だった。
顔を洗って、手近にあった手拭用のペーパーで顔についた水を拭っている。
拭い終わり顔上げるとそこには大人びた成長した顔の自分が居た。
先ほどの興奮は収まらずに胸に熱く残っている。
しばらく自分お顔を眺めていると突然、尿意に襲われた。
もう一度、手洗い場に行き終わった後にする一連の動作をした。
用を足し終わりすっきりして奇麗になったところでやっと気持ちが治まってきた。
外に出るとアミが居なかった。
邪推をするがなかなか間抜けなのですぐ止めた。
とりあえず、すぐに戻ってくるだろうと少し歩いて境内の真ん中に居る。
ここならすぐにアミに見つかるだろう。
人がまばらに帰り始めるのを眺めていた。
空間ディスプレイが出ていたところをまた眺め、何に心を震わされていたのかを考えていた。
生々しい戦場の様子が思い出される。モザイクなしのきつい映像もあった。
こちらの人は見慣れてでもいるのだろうかと思った。
海外のとある地域の新聞には事故の生々しい朝から見るには厳しい写真の載ったものもあった。
海外旅行の時にうっかり見てしまい両親に心配されたものだ。
それでも熱い気持ちがあった。
第二次大戦の旧式の戦艦であったが特に艦橋に大ダメージが入った損書していたが艦は生き残った。
少ない戦力で限られた条件で勝利条件をもぎ取った勇者達の事を思っていた。
色々と考えもまとまらずに時間が少したった。
アミは相変わらず見えない。
しょうがないので神社にお参りをしていない事に気がついて、参拝する事にした。
水舎に行き、手を清める。
拝殿の前に移動する、大きな手に収まらないぐらいの太い紐がある。
お賽銭が無い事を思い出し、今度持ってきます、今日はひとまず挨拶に来ましたと心の中で言う。
拝殿前に行き一礼をする。
紐を掴み鈴を鳴らす。
2礼2拍1礼を行う。今日は挨拶だけです、はじめまして挨拶だけします。
そんな事を心の中で神様に伝える。
最後に少しお辞儀をして退く。
後ろを向いたときに社務所からアミが出てくることに気がついた。
アミが小走りで近づいてくる。
「ごめんごめん、市長に呼ばれちゃってすぐ終わるって言ってたから、ムサシ待たない行ってたよ。ごめんね」
「いや、問題ない大丈夫だ。アミも見つかったことだし。こちらも少し探して居なかったから参拝してたよ。現金ないから賽銭いれられなかった」
「ここの神様は器が大きいから賽銭入れないぐらいじゃバチはあたらないよ」
「アミも日本文化わかる方なんだね。うん、教えてもらった。色々作法あるんだよね」
「ええと……1礼してお賽銭入れて鈴を鳴らす。2回深く礼をして、2回拍手をする。で心の中で、駆逐艦の神よ!! パンジャンの神よ!! 我に敵の攻撃をさけ!! 我の攻撃を当て給え!! 速さを与え給え!! ゼカマシィィィ!! 」
アミが妙な言葉を言い放っている。
「言い終わったら1回深くお辞儀して、少しはなれてもっかい軽くお辞儀をして退く」
俺はなんていって言いかわからずに実際に動いて作法を再確認していた。
「あれ? 違った?」
「俺の知ってる作法とあきらかに違う」
「そうなんだでも皆、今みたいな感じで狩りのお祈りをするよ?」
「狩りですか? ハンティング?」
「そうそう、成功と無事に帰ってくるお祈り」
「どうやら俺は間違っているようなので改めてくる」
アミはケラケラ笑い出した。
「指導してあげようか?」
「失敗したらなんか悪い事起こる?」
「怒らないって、ここの神様は優しいから大丈夫だよ、ほら!! ちゃんと参拝やるんでしょう」
リトライする。
1礼してお賽銭入れて鈴を鳴らして2回深く礼をする。2回拍手をする。
アミが声を出して誘導してくれる。
「駆逐艦の神よ!! パンジャンの神よ!! 我に敵の攻撃が当たらず!! 我の攻撃を当て給え!! 速さを与え給え!! ゼカマシィィィ!! 」
最後の一連の動作をアミが教えてくれる。
1回深くお辞儀して、少しはなれてもっかい軽くお辞儀をして退くっと。
問題なくやれたはずだ。
アミを見る。
「アミはよくできました、言葉は結構自由で問題ないよ、要は感謝と意気込みの決意をお供えする儀式だから」
「ここではそういう感じなんだね」
「うん、あとはそうだね……あっそうそう、こっち来て」
アミは言うと神社の裏手に行く、自分もついて行く。
神社の側面を大きく迂回する、駆逐艦の脚を眺めつつ境内は後ろのほうに歩いていく。
神社に乗っていると思われたが駆逐艦が巧い感じに巨大な岩の上に乗っかり支えられていることが分かった。
拝殿が横に広くて、屋根も無駄に装飾があり見えなかったようだ。
巨大な岩の裏に回ると少し開けた場所に出る、林があり証明があっても辺りは少しだけ薄暗い。
小さな岩があった。アミの腰ぐらいの高さがある。
アミがポンポンと岩の頭を叩いている。
「ここにね、あそこにある木製のパンジャンを目をつぶって転がすんだ。やってみて」
そう言うとアミは岩の横にある小さな建物の木枠のついたドラムを指した。
指した所にあるドラムをとりだす……膝下高さの木ドラムとその左右に木の車輪がついたそれを……もうこいつをパンジャンと呼ぼう俺はそう思った。
なぜならば頭の中に紳士のイメージが浮かび、パンジャン…パンジャンと呼びなさい……パンジャンと……そんな何かビジョンを受け取った。
気を取り直して。パンジャンを取り出した。それはとても軽く手で転がしても結構転がりそうっだった。
試しに手で転がしてみた……予想通り転がっていったが少しふらついていた。。
「その辺で止まって、目をつぶって中央のドラムを押しながらパンジャンを転がしながら岩に近づいてきて」
「わかった……こうか?」
俺は転がし始めた……パンジャンの中央部分は膝ぐらいの高さなので少し屈みながら押した。
意外と左右にぶれを感じる。パンジャンの車輪部分がかけているのだろうと思った。
アミは何も言わない。
まぁ、これで合っているんだろう。なんかのまじないみたいなもんだろうと思って転がしていた。
そのうちコツンとぶつかる感じがした。
「おー、やるねー、一直線だったよ。 きっと良い事が起こるよ」
目を開けるとパンジャン、その後ろに岩があった。
アミはゆるい拍手をしている。
「良いことがあると良いな、アミもやるかい?」
「私は少し前にやったから、転がすにはまだ早いかな?」
「んじゃ、かたしますかね」
そう言ってパンジャンを後ろに少し動かして移動させようとした。
後ろ向きになるのでやり難く、面倒なので回りこんで最初に転がしたように転がそうと思った。
俺はパンジャンの後ろに回り込む。アミが近づいてきて俺の横に並ぶ。
ちょうどアミと俺、ドラムが横一列に並んだ時パンジャン側の足が石に躓き、パンジャンの車輪を掴む左手がズルッと滑り体制を崩した。
前のめりで倒れこむ形になるが流れに身を任せて体を捻り転がって受身を取ろうとした。
顔がアミの腰辺りにきた時にスローでアミの顔が見えた。
驚いて固まっている。
そのまま受身を取りながら浮遊感を味わい衝撃を受けた。
「あたたたた……」
「大丈夫?」
アミが駆け寄ってくる。
最初に目に入ったのは白い何かだった、そばに白いカーテンが揺れていた。
次に肌色の柔らかそうな柱があった。。
俺はフル回転で脳を活性化させた。
そしてビジョンを受けた『神は言っている……そこはシュバルツシルト半径の中……事象のチヘイセ』
「アッ!!」
アミの声がした。
それと同じ位で白いカーテンが急に近づき、次に手が見えた。
そして、アミの顔が出てきた。上下逆だけど。
それらは一瞬の出来事だった。
「見えた?」
アミは少しきつめに言った。
「見えたよね」
同じように強めだった。
「シ」白と言おうとしたら頭に軽くチョップされた。
コツンとしたチョップだった。
「もー! いつもと違う格好だったから油断してた、しまったなぁ……」
アミの声は恥かしそうだった。
顔は可愛らしく恥かしがっている。
「これが良い事か……ゴフッ」
2回目は強かった……
こちとら健全な高校男子、しかたないじゃないか……
「いつまで寝てるのさ…おきなよ…もー」」
「ごめん、悪いわざとじゃないんだ……」
しゃがみ込んでいるアミを寝転んだまま眺めていた。少し拗ねている彼女は実に味わいが深かった。
その時、ビジョンが見えた……いや、正しくは聞こえた『紳士に至るにはあなたはまだ早い……精進なされ…次の選択を誤るでないそ……』
いいかがん寝転んでいるのもアレなので立ち上がる。
アミも立ち上がる。
肩やら腰やらについたホコリをはたきながらセリフを考えていた。
白色でした…絶対違うな……ごちそうさまでした……親父臭い……うーん、大人しく謝ろう。
「アミ!! すまん!!」
「いいよ、わざとじゃないし、ホラ! 忘れて忘れて」
「そう言ってくれると助かる」
アミは普通に接してくれる。
俺は選択を間違えなかった事に胸をなでおろした。
改めて服を整えてからパンジャンを元の位置に戻した、軽く拝んで心で感謝した。
なにに感謝したかは言うまでもない……今日からパンジャンは俺の味方だ。
アミが訝しげにこちらを見ている。
しまった、感ずかれたか? 何か話題を振ってごまかそう……
小走りにアミの元に戻る。
「お待たせ、行こうか?」
「うん」
歩き始める…何か話題を振らねば…そうだな……
アミの方が先に動いた。
「駆逐艦の展望台にいけるから登ろうか?」
「登れるのこの船に?」
俺は岩の上に居座る駆逐艦を見上げたほとんど岩肌しか見えないが駆逐艦が鈍く光っていた。
「社務所で受付したら行けるよ」
「是非行きたい!! 是非乗りたい!!」
「ふふっ! やっぱり食いつきいいねぇ……男の子ってこういうの好きなんでしょぅ?」
アミがはじめて見る得意げで、そして妖艶な顔付きをしている、色っぽくとても小悪魔的なドヤ顔だ。
少し見とれていたが『こういうの好きなんでしょう?』に自分で2の意味がある事を認識した。
駆逐艦の造詣と神社に乗っているミスマッチさ。
先ほどのアミの白いモノを思い出して連なる魅惑のフトモモを思い出す。
思わず吹きだして笑ってしまう。
「なに? どうしたの? どうしたのさ? 私、何か変なこと言った? それともさっき頭打ったの実はやばかった?」
アミが驚いてこちらを見ている……妖艶な雰囲気はドコ吹く風だ。
余計につぼにはまり笑い肩が変になる。
気を張って精神を落着けてアミに言う。
「大丈夫、大丈夫、頭は可笑しくなってない、自分の考えを読まれてツボに嵌っただけ、ごめんごめん」
「なんだよー、さっきから変だよムサシ」
「ごめん、ごめん」
ピンク方面の雰囲気は無かったが白い魅力的な境界線とコラボレーション肌と鉄船の雄雄しさのギャップがどうにも可笑しかった。
たしかにどちらも魅力的だ。
誤解の内容に細かく言えば、魅力的かつ健康的な肉体に順ずる純白、シャープなラインの機能美溢れる金属光沢が鈍く光る駆逐艦。
確かにどちらも好きである。
そして俺は下着単体はどうでもよい。集めるような変態趣味は無い。
そんな事を考えながらツボに入っていた事をここに宣言する。
アミは不思議そうな顔をしている。
先ほどから表情がコロコロ変わっている。
アミに申し訳ないなと思うが自分の中で可笑しくて堪らなかった。