第69話 軍艦狩り10
目覚めると無機質だが白を基調とした清潔な部屋にいた。左側から音がするので目をやると心電図やらバイタルが表示されている機械がたくさんあった。そこから自分が今いる部屋は医務室である事がわかった。
状況がわからないのでしばらく機械を見ていた。自分の心音が電子音に変換されて静かに響いている。
わりと心地よい。
だがそれ以外に生物的な音がする。右側から誰かの寝息が聞こえた。
見てみるとプラチナブロンドの髪と頬をシーツに預け穏やかな寝息を小さく響かせている少女が居た。
自分が寝ているベッドにアーニャはすがるように寝ていた。
どうやら看病してくれている間に眠り込んだようだった。時折、唇がわずかに動き夢の中の言葉を呟いている。
「死なないで……」
ムサシの命が死神に取られぬようとの願いがさせたのか、彼女の細い指先はしっかりとシーツを握りしめていた。
自分の身が死ぬほどの一大事になっていたのかと少し驚いた。
いつものごとくこの世界ではナノマシン治療やら超技術で、きっと大丈夫なのであろうという安心感がなんとなくあったので油断していた。
「死にゃしないよ」
守るように寄り添う彼女の健気さが無機質な部屋に静かな安らぎと暖かさを与えているようだった。
「ごめんな、心配かけたな」
アーニャの頭を撫でようと手を動かそうとするもシーツで隠れた腕は何かに引っかかりほとんど動かすことができなかった。
身体をかすかに動かしシーツの隙間から覗くと身体はコードや色々取り付けられた機器やらが装着されていた。俺は拘束されているのか?
コレ勝手に取っちゃまずいんだろうな
とりあえずアーニャを起こすべきだろうか?
などと考えつつ、かすかに感じた身体の違和感に意識が集中させられた。
この世界に来たときから身体は成長済の成人男性のようであった。それが訓練と実戦で鍛え上げられ細マッチョと化した肉体である。それにも慣れたはずなのにやたら違和感を感じる。
以前の世界ではそれほど背もそれほど高くなく成長途中で立派な体格ではなかったと思うが何日も寝ていたせいであろうか?
指先を動かそうとするも少し重く動作も鈍くなっているように思えた。
どうしたものか?
などと考えているとと突然なにやら外が騒がしいドタドタと何人もの人が走る音がする。やがてドアの近くまでその音が来ると勢いよくドアが開いた。
血相を変えて飛び込んでくるアミが居た。
「やっと起きた。具合はどう?」
「よぅ。アミ。えっとだな。痛いところはない。それと身体が拘束されていて身動きが取れない。センサーを外してくれないか? 」
「医療ロボ呼ぶから待ってて。ムサシは身体に問題なくて寝ているだけだから放置されていたんだ。とにかく、ちょっと待ってて」
アミは腕の携帯端末を触るとムサシの問いに答えた。
「えっと。他の病人を見てるからもう少し待ってだって」
「了解。ところでさ。アーニャが全然起きないんだけど? 爆睡してる?」
「ずっと看病してたんだよ。ものすごく疲れてるはずだよ。ボンベイも稼働してるはずなんだけどスリープモードなのか黙っちゃうしいろいろと大変だったんだからね」
「そっか、迷惑かけたな」
「まったくだよ。こんなに騒がしくしてるのに起きないんだから。本当に疲れてるからね」
「アーニャ? アーニャ? ムサシ起きたよ」
そう言ってアーニャの肩を優しくゆすり覚醒を促す。
寝ぼけてくぐもった声で可愛く唸る。アーニャはムサシに気がついた途端にものすごい勢いで飛びついた。
無言で頭をこすり付けてくる。
なんだか懐いて甘えてくる猫を想像させる。
「ムサシ。ムサシ」
「オレは無事だよ。もう大丈夫だから」
「よかった、よかった。やっと起きた。無茶をするからこんなことになるんだ」
「ごめんよ。ほとんど無意識みたいなもんだったんだ。自由にできなかったんだ」
「だいたいムサシは……」
一通り小言を聞くと改めてアーニャを宥める。
やっと、いつもの落ちつきを取り戻し大人しくなってくれた。
その一連の流れをアミは微笑ましく見守っていた。
「すごい心配してたもんね。後でムサシにアイスでもおごってもらいな」
「トリプルを要求する」
アイスで機嫌が取れるのがとてもありがたい。いくらでも奢ろう。そもそもだ。
今後はそんな事態にならないように気をつけよう。
そんな事を考えていると、ムサシはようやく気が落ち着いてきた。
医療ロボが来て軽く診察をしてからセンサーの取り外しが始まった。
「ところで、今はどんな状況なんだ?? なんとなく戦艦が敵を撃退したことろまでは覚えているんだけど」
医療ロボにされるがままにしていても暇なので状況をアミに教えてもらう。
数週間も経っている。現在地はファンティアにいるとの事だった。
俺の戦艦はどうしたんだと問うと曳航用ケーブルで繋いで引っ張っていたらしい。
「曳航ケーブルと一緒に通信用ケーブルも繋いで操艦するんだんって」
「艦が勝手に歩いて来そうなもんだけど。なにはともあれ戦艦が無事で何よりだ」
「のんびりと戦艦を引っ張って帰ってこれたんだよ」
「管理権限が私にも与えられていたんだけど副長として操艦が上手くできなかったから曳航許可出したんだ。戦艦が大人しく言うこと聞いて動いてくれるかと思ったんだけどね。ムサシが許可出さないと操艦とかは駄目なんじゃないかな? 」
「敵が出てこなくてよかったな。緊急処置みたいなものかな? あーそういえば。あれかな。戦艦のAIが俺達をチームとして認識してくれたとか。そういうこともあるとか資料で見たような気がする。でも普通は仲間なら操艦できるはずだけど」
アミと話していると医療ロボが退院許可が出ました。と伝えてきた。
「よかったね。一時はどうなることかと。戦闘後にチェンバーから出てきたと思ったらさ。ムサシの左手が真っ赤に光っててさ。爆発でもするのかと焦ったよ」
「え? 俺そんなことになってたの? 怖っ」
「たまにあるらしいんだけど体内ナノマシンの異常で起こるらしい。ほら、この世界っていたるところにナノマシンがいるからね。その辺にも私達の体内にも」
「オーバーテクノロジー怖い」
「身体に問題が起こらないように体内に入ってくるようなやつは素材から調整されているって。初等教育でやらなかった? 」
「やったような気がする。休憩時とかにやってた。あのAIでやる教育のやつだろ? 」
「適当にやってたな? 駄目だよ? ちゃんとやらないと後で困るよ?」
「復習しとくよ」
「それじゃ着替えて退院手続きしよっか。はぃ着替え、これね」
「おぅ、サンキュ」
おもむろに着替えようとするとアミが声をかけてきた。
「ちょっと? 私がまだ部屋にいるうちに着替えないでよ」
「あ、そりゃそうだな。すまん。まだ寝ぼけてるらしい」
「しっかりしてよね。それじゃあらためて。着替え終わったら部屋から出てきて。待ってるから」
アミが出ていくのを確認してから着替えた。
着替え終え部屋の外に出ようと扉に手をかけた所で大事なことを思い出した。
扉を開けながらお待たせと言おうとしたが出てきた言葉は「ところで戦艦を見に行ってもいいかな? 」であった。
「ブレないなぁ。そこは普通、お待たせとかじゃないの? 」と二人には呆れ顔とジト目を頂くこととなった。
仕方ないじゃないか抑えられない気持ちが溢れてそんな言葉が出てきてしまったんだから。
だがしかし、正直すまないとは思った。
申し訳なさそうな顔をしていたのであろう、気を利かせたアミが問いに答えてくれた。
「いま調査中だから軍の閉鎖式ドックに入ってる。逃げないから後にしなさいな」
「それじゃぁ。どうしよっか? ナギとクリスにも会いたいところだけど」
「二人はサイボーグ用のお医者さんで身体検査してるから今は通信できないんじゃないかな? 終わったら連絡もらう話をしてるから。そうだねぇ。まずは船長に連絡かな? 」
「アン船長か。今だと何処に居るかな?」
「そだね。たぶんルェティ-ガに居るかな? 港についてから船員はひたすら飲み歩いているらしいけど」
「船員は街に来たら遊ばないとな」
屈強な男たちが浮かれて街に繰り出す様子を思うとこちらも楽しくなってきて少し笑みがこぼれてしまう。
過酷な艦での生活を思うと、うかれるのも仕方がないと思う。
息抜きはとても大事だ。
「艦長はお仕事中かな。それじゃ、アポ取りしとくか」
携帯端末でメッセージを飛ばすと重巡洋艦ルェティ-ガに来てくださいと副長から返信があった。
移動手段を呼び寄せて艦に向かう道中で、海賊船なのか海賊艦なのか、どちらが正しいのか議論が沸き起こった。
みんな、自分たちの軍艦だとしても、俺たちのフネとか呼ぶもんだけれど。
私掠船で都市とハンター組合での所属になると半分軍属みたいなものだし艦でしょ派と民間船だし船じゃないのかな派で分かれてしまった。
しばらく取り留めのない議論を繰り広げているうちにドックについてしまった。
わからないから直接聞いてみようかと結論を得て、重巡洋艦ルェティ-ガが係留されている岸壁に降り立った。
重巡洋艦ルェティ-ガ。数ヶ月前に戦艦狩りに協力してくれたアン船長率いるコルセア海賊団の旗艦である。
現在は通常モードで全体的にクラシックなグレーの軍艦色にしているが交戦時や威嚇時には主砲を鬼だが悪魔だかのツノに見立てたペイントを主砲塔に施し全体は派手なファイヤーパターンのペイントを出力し敵を威圧し見ただけで相手が怯え降伏するような激しい印象を与えるペイントになる。
また両用砲や機銃座などを多数搭載し弾幕で敵を圧倒する設計コンセプトがさらに攻撃性と恐怖感を演出する。
それでいて状況に応じて光学迷彩を発動させ隠蔽率を高めステルスモードになる他にはない特徴を得ている。
船体はバランスよく麗美で、船体にはちょうどよいと思える太さと俊敏さを予想させる4脚が存在している。
これら特徴にて攻撃性、隠蔽性、高速性を揃えた海賊艦として名を轟かせている。現在は岸壁で全体像が見えないのが非常に残念である。
それはそれとして疑問が芽生えていた。
主砲が連装砲であるからだ。スペックは秘匿され知らないが、見た目的におそらく20cm砲辺りのものであろう。
多層的で重厚さを伺わせる低め箱型の艦橋構造と集中配置的な上部構造物のシルエット。
やたら搭載している銃座や両用砲の数から米系重巡と予測している。
だが違和感があった。たしか米系の重巡は3連装砲だった気がする。
当時の技術力で攻撃力を持たせるため、合理的な設計を考え、20cm辺りの連装砲を搭載する結論に至った。
そんな解説をどこかで読んだ気がする。
ついでにいえば魚雷配置、この世界では転雷だが、それが後方に3連装が2基両舷配置されている。
主砲戦をメインに逃走時に転雷を逃げ撃ちでもするのだろうか?
ムサシの持っている軍艦データベースはムサシのいた歴史線準拠のものであった。
暇があれば見ていたから記憶にしっかり残っている。
設計思想がいまいち見えてこない。
自分自身の勉強不足だろうし記憶違いもあるだろう。
きっと違う歴史線のデータを元に作られたのであろうから違うこともあるだろう。そんな感じで違和感を落ち着けさせた。
艦の印象について考えながら乗り込み進んでいるうちに司令室にまで来てしまった。
今までは司令室に入れてくれなかったのに仲間も連れて直接来いと通信にあった。何か不安感を覚えつつも扉をノックした。入室許可を取ると中に入った。
肩から腰あたりにまで流れ落ちる赤髪は夕日を浴びて燃える炎のように長く艶やかに揺れていた。どんな嵐にも乱れることはなく大海を進み獲物を逃さない美しさと獰猛さを両立させた目をして口元には不敵な笑みが浮かびこちらに眼差しを向けている。とって食われるんじゃないかという恐ろしさも含めた美貌を持つアン船長が巨大モニター近くに佇んでいた。
一方でその隣には氷の彫刻のような冷ややかさと美しさを持った副長がいる。青みがかかった青黒檀のような輝きを放つ髪が彼女の冷静沈着さを象徴するようであった。深海を思わせる黒くも青い瞳は感情をほとんど表には出さず相手の嘘や企みを看破するかのような力が秘められているように思えた。
容姿から受ける印象とは違い熱く深い忠誠心から言葉数は少なくも無感情で的確な指示は荒くれな海賊船員どもを従えられるだけの力があり船長を支える。
そんな副長がこちらに座ってくださいと促され席につく。給餌用の自動人形がテーブルにお茶を用意していた。
「お前さんのおかげで大儲けだ。そして賭けにも勝った。重巡を得られない方に賭けていたんだ」
「不本意ですが。負けました。こんな意外なことになるとは思いませんでした」
船長と副長が二人で賭けていた話を振ってきた。
「俺が失敗する方に賭けていたってんですか? 」
と問いかけると船長は妙な笑みをしてムサシにゆっくりと語りかける。
「お前さんはな。重巡どころかな。もっとでかいもんを得るって直感が働いたのさ。そして私の感は当たった」
「はぁ……」
妙なことを言う船長に思わず間抜けな返答をしてしまう。
「すまないが祝勝会はすでに終えている。ムサシはのんきに寝ていたからな」
「迷惑をかけました」
「うん、良い働きをしたんだ。気にするな」
「俺がもっと上手くやれていれば重巡も基地も手に入ったかもしれないのに。上手くやりきれませんでした」
重巡を沈めてしまった後悔の念だろうか知らずに強く握りこぶしを作っていた。
アン船長は少し驚いたような表情をして、その後すぐに吹き出していた。笑い終え息を整えるとアン船長は高揚した様子で語りかけてきた。
「お前ッ。ハハッ。聞いたか? 副長。 やっぱりコイツは海賊に向いている。戦艦を得たくせに重巡と基地まで欲しがってやがる。欲張りなやつだ、良い。実に良いぞ。こんなに愉快なのは久しぶりだ」
副長は相変わらずな冷静沈着さでこちらを眺めている。
なんか気まずいな。俺も笑ったほうが良いんだろか?
「あぁ素敵だ。大変結構だ」
愉快な口調とは裏腹にアン船長は目は何か言いたげな鋭い眼光をムサシに向けた。
「早めにでかいミスをして後悔の味を知るべきだな。まぁいい。お前さんは今回の軍艦狩りの評価をまだ見ていないだろう? 見せてやれ副長」
軍艦狩りの内容がダイジェストとなっていくつもの空間ホロビジョンに投影されていた。
各人員に装備されているハンターカメラデータを回収しフネのAIによって編集され映像となっている。自分にも装備されている超微細カメラに思わず手をやってしまう。
TOPは索敵班だ。重巡を見つけて来たからだ。サラ市長提供の情報が大元ではあるが見つけた奴らがTOPだ。
異論はない当然である。
作戦ブリーフィングでも言っていた。
獲物を見つけなければ何も始まらない。
2位は1番槍。
主砲命中が1番槍だったからな。
砲雷科。
つまりウチのところだ。
車両突撃班にやってもらいたかったんだが、うちの連中が運良く、遠距離を当てちまったからね。
3位は先駆けして2番槍を付けた車両突撃版の連中だ。
優秀な制御プログラムを組んでくれたもんさ。
囮車両で被害を引き付けて人的損害を殆ど出さなかった。
大した奴らだよ。
こちらとしても慰霊金を出さずにすんで助かった。
それにウチの艦と連携をして、目標艦を上手く谷に誘導もしてくれた。
よい働きだった。
勢いよく突っ込んできた車両が、派手に吹き飛ばされて転がり、ようやく停止した。
その瞬間、乗員が脱出する様子が映し出されていた。
あれで生きているのすげぇなと思ってしまった。
「ゲーミング武者達の光る鎧がよく見えるだろ? あれで誰が誰だかと識別しているんだ。評価の時に便利だろ」
不敵な笑みをしてアン船長はムサシに語りかける。
4位は乗船攻撃チームだ。
前部砲塔にウチの主砲でうまいこと損害を与えていたのもあるが、崖からの銃座潰しが効いて、理想的な乗り込みができた。
派手な演出も決まって艦内防衛隊を引き付けてくれた。
少数だと言うのに攻撃力のある良いチームだ。
弾薬を使い切っても近接武器で白兵戦闘をする。
小銃弾を防ぐ鎧があるとはいえ危険な役割を果たしてくれた。
色鮮やかに各部パーツの輪郭が光る鎧を纏い武者たちが勇敢に戦っていた。
「彼らは撃破率が一番多かった。海賊の評価ではこの順位だが。個人的には赤く発光しているあの武者を一番評価したいと思っている。よい戦士だった」
アン船長はティーカップをゆっくりと口元に運び、優雅に飲みながら彼らを褒め称えている。
「敵を引き付けてくれた。だから俺達の突入が予定通りに行えた。そう理解しています」
「副長。こいつは少しはマシなうぬぼれのようだな」
「そのようで。あまり誤解を抱かれるような発言は控えたほうがよろしいかと船長」
「コレでも褒めているつもりなんだがな」
「船長が大変失礼を……」
船長の横に居た副長が無表情で謝罪してくる。正直少し怖い。
「で、5位はムサシ。君達だ。よくやった。詳しい説明はいるか? 」
「いいえ。基地も巡洋艦は損失。手に入れたのは戦艦だけです。それも成り行きで手に入れただけです。俺の実力じゃない」
「だが運良く手に入れた。運は大事だ。もっと喜んでいいのだ。ムサシ。と言った所までが重巡戦までの評価だ」
一呼吸貯めてゆっくりとした拍手をしてきた。
「全体評価はお前さんがTOPだ。ムサシ。そして2位がヤツサカの武者チームだ。君ら戦艦乗り込み組2チームが大手柄だ」
無言で拍手を受けるしかなかった。副長さんまで拍手をしていた。
「えっ。あっはい。ありがとうございます」
「運も実力だ。海賊に運は非常に重要なことなんだ。結果が全てさ。ムサシ」
「ありがとうございます」
なんだかありがとうございますしか言葉が出てこない。アミとアーニャが良かったねと言い合っている。
「と、いったところだ。市長」
船長が向ける視線の先には市長が映ったモニターがあった。振り返るとそこにはサラ市長が映し出されていた。
「うおッ。サラさんだ。いつの間に? 」
「おかえり。ムサシくん。おひさー。元気してた? モニター越しで失礼するね」
「ただいまです。さっきまで入院してました」
「うん、報告で知ってました。ムサシたちも。チームムサシも無事で何よりです」
妙にテンションが高い市長が居た。
「あ、忘れんうちにヤツサカんとこへのだ。戦死者への香典を渡しておく。お前さんの分だ。後で持っていきな」
市長の高いテンションをぶち壊すかのようにアン船長が話を遮ってきた。自由だなこの人。
「お侍の人たちは名誉と弔いを大事にするからね。大事なことだから覚えておいてムサシ。ちなみに費用は都市から出てるからね」
サラ市長は先ほどとは違い神妙な顔つきで戦傷病者及び戦没者遺族への支援や弔慰について簡単に説明してくれた。
被害は乗船攻撃時に多く出ていたらしい。意外にも車両突撃時の被害は戦死者は出ず怪我人くらいであった。
「どうしても乗船攻撃時に被害が出てしまうからな。被害担当として覚悟があったというがやはり指揮側としては重く受け止めねばならん。ともあれ。戦艦を得た収入が救いなんだ。彼らもコレでよく戦いよく生きたと眠れるだろう。感謝するよ。ムサシ」
アン船長は苦虫を潰すような顔つきで重い言葉を呟いた。
「でね、ムサシ。戦艦ゲットおめでとう。そしてお疲れ様です。で大事な報告があるの」
今度はサラ市長から前半は明るく警戒に後半は重く苦しそうな話し方をしてきた。
一抹の不安がよぎる。
「あのね。戦艦を得たからと言って安心しないで」
「と、言うと? 」
「結論を言うと。のんきにしているとムサシは爆発します。ドコがとは言わないけれど」
「え? ドコが? 何が? 」
「聞かないほうがあなたのためよ。チェンバーから出るときに手が光ってたって聞いた? あれね、ナノマシンにかなりのエネルギーが集まってたからというのがウチの研究陣の見立てなの」
「はぁ……」
「でもね、それを抑える方法があるし、解決の道筋もある」
「ですよね。そうですよね」
「あなたは経験を得てくる役割があるみたいなの。生きた情報集積デバイスとでも言えば良いのでしょう」
「ん? つまりどういうことですか? 」
「戦艦のAIが言ってきたらしいのだけれど。あなたには戦闘経験やらいろんな経験を得てくる役割を付与したそうなの。学習結果から新しい技術が出てきてその中に爆発を抑える事が可能となる技術もあるだろうとのことなの。戦艦が何を目的としているかは謎なんだけどね……あ、もちろん市としてムサシに人権があることは保証しているから安心してください」
「な……なんだと? 」
「ほらグラップリングの特許覚えてない? あれなんだけど。ムサシとアーニャの因子からデータを抽出して改良型が制作された件
「ありましたね。かなり便利になった事で業界じゃバカ売れしているらいいですね」
「そのような話が結構あるのよ。因子絡みの新技術発見ってのが」
「ムサシは特にその傾向が強く出ている。何らかの経験により新しい技術の種を構築して生み出す因子というか……それが戦艦の思惑も重なりそこに戦艦がいろいろと追加した結果、因子が混じったみたいな? 」
「歯切れが悪いですね。なんか他にもあるんですか? 」
「君の因子は技術を出力してくれる系譜らしいの。都市AIにウチの研究陣、戦艦のAIがそう言ってるわけだから間違いではないのだろうけども。研究中だから正確ではないのだけれど今の所わかっているのはそんな感じです」
「なんとなく理解はしましたけど。なんだがすごい話になってきましたね。それに大変そうだ」
「本当に申し訳ない。あと、ボンベイを君に授けたの覚えている? 特にもとの機能面なんか忘れちゃったかな?」」
「浮気防止でしたか? 」
「その件。特に重要らしい。他人の因子が混じってはいけない。遺伝子的なといえば良いかな。ナノマシンにも型があってムサシのは結構特殊だから他の影響をなるべく受けないでほしいと」
ちなみに俺以外は全員女性がこの部屋にいる。サラ市長はそれを気にかけてやたら遠回しな表現をして言っていた。
「要は童貞を守れってこった」
アン船長が抜群の切り込み具合で会話に入ってきた。さすがの海賊である。
「あっ。ハイ。理解してます」
サラ市長が慌てて気まずい雰囲気にフォローを入れようと、おもむろにエアーろくろ回しを始めた。
「えっとね。ムサシ。輸血や簡単な接触ぐらいなら特に問題はない。それはこちらでも確認している。その……濃厚接触は控えてください。都市としても野生の戦艦を。より良い技術を得るためにお願いしたいのです」
「まぁ戦艦を得ることができたから良いってことにします。俺は……えっ? 例の件って継続ってことですか? 戦艦を得るだけじゃ駄目なんですか? サラさん? 嘘でしょ? 」
「悲しいけどコレ事実なんです。すぐわかると思うけど。戦艦はまだ……」
「まだ? 」
「それはそれとして。ムサシ。あなたには期待してます。今後とも頑張ってください」
サラ市長が強引に話を終わらせようとしてくる。
「頑張るしかないでしょ。頑張りますよ。だから支援はよろしくお願いしますよ」
「前向きで助かります。我々の誠意として全力でバックアップします。戦艦の修理や係留なんかの諸々費用支援。戦艦買取金額の支援とか」
「なにそれ怖い。費用? 」
「君は……契約書の大事なところ、忘れているか読んでない感じね? 」
「そ……そんなことないですよ? 」
「国家が所有し運用する艦船を個人で所有することができるわけないでしょう? 」
「それはそう」
「都市やハンター組合なんかがバックアップするか、それなりの拠点か組織を持たないと普通運用できないからね。艦船なんて」
「アッはぃ」
「ちなみにウチは半官半民だ。軍属でも民間でもある。私掠船だからな」
アン船長はサラ市長との問答にスルっと紛れ込んできた。それはそれとしてサラ市長の熱弁が続く。
「エネルギーはともかく修復ナノマシンジェルや弾薬から各種資材。野生艦を得たから人員は無視してよいとしてもね。ムサシ一人で国家予算クラスの用意ができる? 」
「できません。できるわけがありません」
「まぁ、知らないことだらけでしょうし。仕方ないですよね。これくらいにしときましょう」
サラ市長にはこの手の苦労があるようだ。何も今ぶつけることはないじゃないかと口に出そうだったが飲み込んだ。
「都市に所属するのかハンター組合に所属するのかおいおい決めるとして。私達が。ティーパーティがバックアップするから心配しないでください」
「あ、ちょっとまって? という事は? 船長もティーパーティの関係者なんですか? 」
みんな、あたりまえだがという顔をしていた。
「流石に感づくと思っていたんだけどねぇ。変な所で鈍い子だ」
アン船長が呆れ気味に言い放ち、ティーカップを口元に運び琥珀色の液体を飲み干す。
「知らぬは俺だけかい。まぁ別にいいけどさ。で俺は次に何をしたら良いんだ? サラさん? この流れ的にもう決まっているんだろ? 」
「戦艦は調査でしょ? しばらくドック入りだから、アン船長の所で、お勉強をしてください」
サラ市長が目線を送った先に居たアン船長は咳払いをしてゆっくりと語りかけてきた。
「一年くらいは戦艦を探し回ると思っていたんだが。数ヶ月でこんなことになるとはな。のんびり甲板員をしているわけにも行かなくなったわけだ。ムサシ。今後は司令室員だ。よろしく頼むぞ。ムサシ。お仲間もだ。戦艦での人員配置とか今のうちに考えとくんだな。さて、話は終わりでよいかな市長? 」
「ええ。ありがとう。アン船長」
「とは言っても。しばらくは休暇だからしっかり身体を休ませておきな。今日はコレで解散だ」
アン船長が優しげな声でお疲れさんと言ってお茶会は終わった。
慌てて冷めたお茶を飲み干してから部屋を後にする。
忘れないうちにヤツカサの武士団の船に行かないと。
重巡洋艦ルェティ-ガに隠れていて見えなかったが武士団の輸送船が隣に係留されているらしい。
帰りしなに副長さんが教えてくれた。忘れてはいないさ。彼らが居なければおそらく戦艦を得ることはできなかった。
そう思うことにした。何を失い何を得たかよく考えなければいけないと思う。
そう思って神妙な気持ちで武士団船に来てみたらやたら歓迎された。
戦艦を得た報酬でお祭り騒ぎらしい。ヤツカサにしっかりと香典を渡し。彼らも喜ぶと言われた。
彼らの流儀では明るく騒いで送るのが礼儀だと。空に向かって拝んでくれたら良いとのことであった。
病み上がりだろう? さっさと身体を休めろと言われて船を去った。彼なりの優しさなのだろう。
ろくな言葉を送れずに去り死者を弔う気持ちを空に送るも、靴底に粘りつく泥を取り払うようには気持ちを切り替えることはできなかった。
ただ明るく笑えばよいのだろうか? 違う。ヤツサカの言うように明るく騒いだとして彼らの犠牲が報われないと思ったからだ。何をどうしてやればよいのだろうか? VR空間内で戦死者の弔い方をいくつか体験して知っていたはずだったが思い出すことができなかった。ただ黙っていることも違うような気がしていたが誰も口を開けずに帰路についていた。
「あのさ」
最初に声を上げたのはアミであった。
彼女は任務が終わったあと、仲間がいなくなった時に、どの様に弔ったか、その後どうしたらよいかを語ってくれた。
旅立った者へ思いを寄せ、残った仲間と自分自身を大事にしたらよいんだと。
彼女なりの気持ちの整え方を語ってくれた。
「そうか、大事なことだよな。サンキュ、アミ」
「私達は幸運だった」
「そうだな」
アミとアーニャに目線を送る。アミの話を聞いてリーダーとしてやらなければならないことが脳裏に浮かんだ。
「チームムサシとしてのお祝いがまだだったな」
「誰かさんがやっと起きてくれたからね。自粛解除だよ」
「すまんて。ナギとクリスがきっと待ちわびているだろう。きっともうメンテも終わった頃だろう」
「あの二人ならメンテ中でもきっと来るよ。連絡入れとくね」
「さんきゅ。じゃぁ行こうか!! 」
久しぶりにファンティアに帰ってきた。
巨大な壁があり雑多な建物がひしめき、荒野側には大小様々な歩行する艦船が集まり街を形成している。
都市にはあまり思い入れをするほど滞在してはいないが、外郭街の様子がなんだかとても懐かしく感じる。
殺風景な荒野を見続けてきたせいもあるだろうが、やはり人の営みが垣間見える事が嬉しくも懐かしくとも思うのであろう。
とにかく、お祝いをせねば。そして休暇だ。
なんだかお腹が!!お腹が減ったぞ!!




