第68話 軍艦狩り9
重巡洋艦はある一部に奇妙な亀裂が刻まれた崖に向かって進んでいた。
遠目ではわからなかったが何十年もかけて侵食されたにしては不自然な具合に気がついた。奇妙なほど直線な部分が多く見られたからである。
近づいてみると裂け目は崩れ突如して現れた。
亀裂は崖に見えるように巧妙に偽装されていた。
無数の大小様々な群体マシンが互いの構成物と連結し岩肌を構成していた。
裂け目は大きくなり重巡が通れるほどの開口部を作り出す。
金属支柱にトラス構造やラティス構造など様々な特徴が見られる壁を持つ通路が出現した。
光の届かない闇の奥へと続く通路を重巡は探照灯を使用し行く先を照らし進む。
しばらく通路を進むと隔壁らしきものが見えた。隔壁は崩れ開口部を作る。入口を構成していた群体マシンと同じものと思われる。
しばらくしてバクンバクンと重厚な金属音を響かせ通路の照明が順次点灯してゆく。さらに奥の基地施設の広い空間にも明かりが灯されてゆく。通路を抜けるとそこには艦船の係留スペースと思われるエリアが広がっていた。
内部はかなり広く天井は高かった。
50メートル?いや100メートルはあるか? 巨大すぎて距離感覚がおかしくなってくる。推測ではあるが洞窟のある岩山の高さと同じくらいに思える。
「岩山をくり抜いた洞窟というよりや岩山をガワとしたハリボテ空間なんだろう。ドーム球場みたいなものだな」
クリスが興味深そうに辺りを観察している。
「だから中の空間がこんなに広いのか」
「ムサシ。計測してみたんだが……やはり山の高さと天井が同じくらいだな。爆発の影響で崩れたとしても歩行戦艦なら這い出ることが可能かもしれない」
「そうか……そうかもしれない。軍艦が入るくらいの大きさはあると予想していたけど、すげぇや、それ以上だ」
壁や天井の支柱や梁と思われる部分に金属の骨組みが見え隙間から
移動により角度が変わると構造色により色が変わる薄い膜のようなものが見えた。
また通路の片隅には残骸となっている武装車両があった。よく見ると様々なところに結構な数の転雷艇や物資運搬トラックも放置されていた。
桟橋や倉庫、ドック施設と思われる構造物が見えてきた。
特に目立つのは巨大なクレーンだった。
そこは水の存在しない港が存在していた。
乾いたドックで乾ドック。
なにか悪い冗談かと我ながらに思う。
何かモヤっとした感情を呼び起こすが今はそれどころではないと思考を切り替える。
やがて第1ドックと表示板が現れた。重巡はそこに寄せるようだ。
様々な作業用VFや車両が集まってくる。
重巡は完全に停止し基地の設備による係留作業に身を委ねている。
可動式の大型クレーンや様々な作業者が集まって来る。
重巡の探照灯が灯る。おもむろに稼働し奥の通路を照らした。
モニターに照らされた通路の映像が出力されている。
「その先に戦艦があるんだな」
ムサシは呟くと画面を触り期待で胸を膨らませた。通路の奥は暗く先は闇に閉ざされていた。
「怪我人を最優先で移動させろ」
ムサシははやる気持ちを抑え仲間に指示を出す。
ボンベイに基地のデータを入手させ把握した情報を元に優先順を決めた。
ボンベイによれば戦艦に充実した医務室があるそうだ。優先的に負傷者を移動させていた。
負傷者の後に人員移動や物資の詰め込みしてくれる。作業用のVFや車両が働いている。
懸念していた一番の大荷物であるヤツカサのVFも荷下ろし用のクレーンで運搬車に積まれ無事移動を開始していた。
「皆、艦を降りたかな? 」
作業を見つめていたムサシは落ち着かない様子で誰ともなく尋ねた。
「私達で最後。ヤツカサさんにも確認取ったし。武士団のバイタル情報リンクでも確認した。重巡に取り残される人はいないよ。大丈夫」
「こちらでも確認した。ダブルチェックしてるから安心して」
アミとアーニャが艦内モニターや携帯端末で確認をしてくれていた。
「じゃぁ、俺達も行こうか」
突如、ムサシの背後で物音がした。
振り向いてみると壁には扉が開かれたロッカーらしき空間が出現していた。。
「この辺モニターだったよな? 」
「なんか開いてるね? 」
アミが不思議そうに少し離れた場所からロッカーを見ていた。
「何それ? ダッフルコート? ロングコート? ん? これって……マントかな? 」
「なんだろな? 」
「ムサシの新たな門出を祝って重巡がプレゼントしてくれたんじゃない? 」
「そうか? そうなの? か? 」
ムサシは若干戸惑いながらマントともコートとも思える物に手を伸ばした。
「コートではあるのかな? 新品だな」
濃いネイビーの丈夫な生地に丈は長く膝近くまである。新品さながらの状態で保存されていたらしい。
「あながち間違いではないのかもしれない。いま、重巡アマツバメから航海日誌。データを受け取った。それとムサシに艦長権限も与えられた。」
円柱状に手足のついたロボであるボンベイの各所では謎の点灯や点滅をしていた。解析中の時にこんな発光をしていたなと一瞬余計なことを思い出す。
そして場違いなツバメという鳥の名前が気になった。
「アマツバメ? 」
聞いたことがない鳥の名前だ。
「この重巡の名前だ。認められたのさ。ムサシ艦長殿」
自分が知っている日本系重巡の命名規則に沿わないと不思議に思ったが異世界やら多次元宇宙やらが存在するのだから名前など、いくららでもあるんだろうと自分を無理やり納得させた。
「それにしても。それにしてもだ……最後に認められて。艦名を知るとはなぁ。嬉しいのやら寂しいのやら複雑な気分だ」
与えられたのであろうコートに袖を通す。ムサシに合わせて作られたかのようであった。
短すぎる重巡アマツバメでの思い出が走馬灯のように巡る。
「一瞬だったな……」
深く息を吸い込む。だが短すぎるゆえに回想はひどく短いものであった。
「総員。退艦!! 」
振り切るように声を張り上げた。
皆が重巡から降りる。ムサシは最終確認して艦を後にする。名残惜しそうに艦を手で擦りながら重巡を降りた。
タラップを降りる際に戦艦のリアクター起動準備を開始したのであろう。重巡と基地に無数のケーブルや配管が接続されていた。
重巡の各所が軋みを上げる。エネルギー供給ラインなのか所々の配管が橙色の輝きを放つ。配管の周りの空間は蒸気のような粒子が滲み出し灼熱の炎のように脈打ちながら駆け巡る。
おそらく高エネルギー化した、なんらかの凝縮粒子なのであろうか?
残光が揺らめくように辺りの空間を歪め揺らいた。
空気そのものが薄らかな光を帯び密度の違いか複雑な色の干渉波が見えていた。
「チェレンコフ光とかじゃないよな? 青白くないもんな」
不安げな声でムサシは誰ともなく問いかけた。
「現状、人体に有害な物は検出していない」
歩く計器とも言える複数の高度センサーを持つサイボーグのクリスが眼鏡を触り、少しの間をおいてムサシに言葉をかける。
「だが未知の現象だ。手早く戦艦に移動した方が良い。全く興味深い現象だ。あぁ……心が踊る。じっくりと観察できないのが残念だ」
興奮気味な感じでクリスが重巡を眺めていた。
岸壁に降りて用意された装甲車に乗り通路を移動していく。
不思議なゆらめきを放つ光が遠ざかってゆく。
皆。自然と重巡アマツバメに敬礼を送っていた。
車両通行用のトンネルに入り艦が見えなくなるまでムサシは敬礼を続けていた。
しばらく車に身を任せ通路を進んでゆくと予感めいた何かを感じた。
空気はひんやりと重たいがムサシの心には熱くたぎるものが生まれ始めていた。
車による振動ではない別種の重低音と振動を感じる。
車両通行用のトンネルを抜けると通路の先に艦影が見えた。
装甲車を降りると薄暗い光景の中には確かに存在する軍艦があった。
タラップを渡り艦橋近くの甲板に降り立つ。
前部連装砲塔2基……艦橋の形からするとコイツは金剛型っぽいな。
近場の出入り口から自動人形が現れ艦中枢の司令室に案内された。
艦内はよく手入れが行き届いて非常に綺麗な状態であった。
しばらく歩き司令室に通された。
広いスペースに巨大なモニターがたくさん並んでいる。
「流石に戦艦の司令室だ。でかいな」
「さぁて、みんな。忙しくなるよ。まずは艦情報のチェックだ」
アミが皆に指示を出す。手短な座席に座りモコンソールを弄りだす。
ムサシは艦長席に座った。長年座っていたお気に入りの椅子に愛着を抱くようなような感覚と安堵感を覚える。
「戦艦瑠璃金剛。それがお前の艦名か? 」
脳裏に焼き付くように戦艦の名前が浮かび上がった。
その刹那、電気ショックを受けたような感覚に襲われる。
突然現れた金属チェンバーにムサシは椅子ごと格納された。
「なんだ? ここはどこだ? 」
気がつくと暗闇の中にいた。身体を自由に動かせない。だが不思議と不安感はない。
停電か? なんだココ?
おーいみんな無事か?
声を上げるも誰一人として返事をしない。
一体何があったんだ?
座っていた椅子の感覚がない。それどころか床に足をついていないことに気がつく。
なんなんだここは?
若干不安な気持ちになってきた。落ち着け、落ち着くんだオレ。パニクったところで事態は良い方へは動かない。
こういう時はどうするんだったかな?
アミの顔が浮かぶ。あぁ、そうだったな幸運の女神様を引き寄せりゃ良いんだったな?
アミのアドバイスを思い出し不安を隠すかのように鼻歌を歌いだした。
こういう時は鼻歌でも歌って気持ちを楽にしないとな。今のところは敵も危険もないだろうし問題ないだろ。
プラス思考で先のことを考えよう。
戦艦手に入れたらどうしようか?
やっぱり傷つけたくないから記念艦とか良いよな。
戦わない戦艦が一隻くらいあったって良いよな。そんなコト言ったらアミたちに怒られそうだけど。
俺は平和利用がしたいのだ。まぁ街の防衛用とかで敵性体と戦うくらいはやっても良い。これくらいが落としどころだな。
なぜ戦う?
どこからともなく声が聞こえる。
戦艦をなにゆえ欲する?
格好良いからかな?
声の主は反応しない。少し腹がたった。問いかけてきたのはソッチじゃないか?
戦わないのがそんなに変か?
戦う船を道具として平和利用したっていいだろ。
苛立ちを言葉にして謎の声の主に投げかける。反応はない。
少し時間が過ぎると無数の映像が空間に広がる。
夜間だろうか? 都市近郊である。ビル群が見える。
戦闘映像が流れてきた。
ビルの合間から砲撃を行いながら進む艦隊がいた。数十隻の艦隊は群れをなし巨大な機動兵器や無数の自動機械兵器群と交戦している。
砲火の閃光が闇夜を切り裂き都市を白く照らす。
敵軍もまた激しい弾幕を張り圧倒的な物量で押し寄せる。
双方の砲撃が絡み合い嵐のように爆炎と破壊をもたらす。
断片的な戦闘映像が流れる。
艦隊の背後には巨大な壁を有する中枢都市があった。
そこには艦隊が守る人々がいた。
戦場の喧騒に掻き消されるほどに小さな息遣いをして艦隊の勝利を願い見守っていた。
砲撃、轟音、閃光、砲煙弾雨。
降り注ぐ砲弾や銃撃。都市の建造物は瓦礫と化し鋼鉄の巨体達は膝を折り。金属の身体を削られ。血しぶきの代わりに爆炎を噴出し崩れ落ちる。地上には地獄の釜が出現していた。
一進一退の攻防を繰り広げる。
艦隊が突出していた。見覚えのある重巡が中心にいた。またムサシ達が乗り込んだ艦影に似た複数の戦艦が猛攻撃をしていた。
その中の一隻が奇妙な空間の歪みを伴う光を装甲の隙間から放ち始めた。
それは何か戦艦内部から膨大なエネルギーを解放させる前触れかのようだった。光の波動は蜃気楼のようにも霧のようにも見える粒子となり静かに戦場に広がってゆく。
戦闘はお互いの距離を縮める。さらに攻撃は激しくなり敵味方入り乱れる混戦となる。
異常な光を主砲から放つ戦艦は猛烈な攻撃を行う。砲煙。主砲弾は赤い電撃を尾のように靡かせた。
敵巨大機動兵器はその主砲弾を何発も受ける。
激しい閃光と爆発。敵機動兵器は狂ったように敵味方も区別のつかない攻撃を乱れ撃つ。
味方の重巡は異常な光を放つ戦艦の身代わりになるように敵機動兵器の間に滑り込む
被弾を受け重巡は動きを止め炎上した。
敵も味方も嵐のような爆炎を周辺に撒き散らし互いに数を減らす。
自分の力を持て余すかのような味方艦すら巻き込む攻撃を行いながらも戦艦は砲撃を行う。
巨大兵器は自身の質量を武器として戦線を押し込む。味方の被害を無視して進み異常な光を放つ戦艦に迫る。
双方の軍は都市シェルターまで押し進まれ、何もかもを巻き込み爆発した。
爆発は連鎖し都市は瓦礫と化した。
やがて動くものは戦艦一隻だけとなる。
その戦艦も光を失いゆっくりと停止する。
廃墟となった都市を背に戦闘が終わり戦場の沈黙を受け入れるかのように長い長い警笛を鳴らした。
声にならない悲痛な叫びにも聞こえる音を響かせる。
絶望の中に轟く最後の音を。
戦艦の慟哭はやがて止まる。
「なんて悲しい音だ……」
ムサシが呟き終わると映像は変わる。
司令室にいるみんなが見えた。ナギとアーニャは慌ただしく動き回っている。クリスはモニターに齧りついていた。
その中でアミは身じろぎ一つせず考え込んでいた。
皆の報告を聞いてみると艦内の隔壁が降ろされたらしい。部屋から出られない。艦内の移動ができない。その状態に困惑している。
ムサシは突然に基地と通信が繋がったかのように状況把握が可能となった。客観的に大量の情報が理解できる。不思議な感覚を覚える。
戦艦下部にはVFが格納され物資の積み込みが行われていたらしい慌ただしく作業が行われている。
医務室では武士団が騒いでいた。
騒がしい中でアミとヤツカサが冷静に話していた。
「まだ脱出班の用意すらできていないんだが。他に艦外に出る方法はないのか? 外に出る通用口があったてのに。扉を破壊して出る事も考慮にいれてもいいか? 」
「艦内に武器弾薬が乱雑に積み込まれてる。どこで誘爆するかわからない。危険過ぎるからやめてください」
「むぅ。仕方がない。ならば爆発の影響で洞窟が崩落するかもしれん、戦艦中心区で大人しく待機している」
「そうしてください。戦艦はこちらでなんとか動けるようにしてみせます」
モニターから動揺を隠しきれないアミの様子が伺えた。
「そうだ戦艦を起動させないと。待ってろみんな。オレがハッキングでもして動かしてみせるからな」
ムサシの声は届かない。
警告音。何かに引っ張られるように身体が基地の外へと引っ張られる。それと同時に映像は変わる。
高い山の頂だろうか高所から基地の出入り口周辺を見下ろしている。自分達が通ってきた航路が光の筋として見えた。
赤く表示された点が見える。敵だ。5匹の重巡級ライノタラスを中核とする群れが基地に迫っている。特に黒い個体を中心に輪形陣をとっていた。
基地への道筋では分光解析か何かの計器で観測された敵の血の跡が続く状況がモニターされている。敵はそれを匂いで追ってきたようだ。
出入り口はすでに把握されていると思われる。
やがて基地出入口前に一匹の黒い重巡級ライノタラスが進み出る。走り出し勢いをつけ偽装した扉に向かって突撃を行う。
激しい突撃に耐えきれずに扉がひしゃげ破壊された。黒いやつは引き上げ別の大型に攻撃を任せ基地から離れる。
それに呼応し小型の敵が侵入した。
入口通路に殺到する敵を阻止するかのように隔壁は閉鎖を始める。
基地主要区画に通じる通路への侵入は閉じた隔壁により阻止されたが一時的な足止めに過ぎないことは明白であった。大型が次の隔壁を壊すまで数分も持たないことは明確であった。
すでに侵入した小型の敵が内部の構造的に弱い部分を狙い破壊を始める。
突如、通路上で爆発が起こる。乗り捨てられた雷撃艇が爆発している。いたるところで小爆発が発生する。
小型は爆発の影響で見るも無惨な姿に成り果てる。
しかし、次の攻撃が始まる。洞窟の入口を崩し隔壁を破壊した大型が通路を突進する。
基地内部に敵が侵入し重巡に敵が迫る。
状況を見ていた仲間は戦慄した。
「遅かったなぁ! 」
ボンベイが叫んだ。
戦艦のリアクターにエネルギーが満ちた。
だが戦艦は沈黙したままであった。
死が迫る切迫した状況のはずが焦る気持ちも無くムサシは意識体のまま無感情に状況を眺めていた。
自分の体が格納されている金属製チェンバーが見えた。
ムサシの顔が見える覗き窓に拳を振り下ろすアミがいた。
「起きろムサシ!! あたしの教えた奴らはタフで死ににくいって。評判だったのに!! 泥つけるつもりか? このまま死ぬ気かバカムサシ!! 」
アミは深く呼吸をするとチェンバーから距離をとった。そしてアミは腰のホルスターから愛銃を取り出してチェンバーに向かって発砲した。
チェンバーは無傷である。
「何やってんだ!! ムサーシ!! 」
アミは渾身の力の乗ったパンチをチェンバーに叩きつける。そこには完全にキレたアミがいた。
そんなアミの気迫に応じたのかムサシの瞼は開いた。
「力を貸してくれ戦艦!! みんなを守るために!! 」
声は出なかったがムサシは強く願った。
それと同時に戦艦は唸るような鼓動を響かせ始める。
エネルギーが溜まり起動シーケンス開始された。
エネルギー臨界、ケーブルカット。重巡が爆発します。衝撃に備えてください。AIによるシステムボイスが艦内に響く。
戦艦がいた岸壁にある通路の隔壁が閉鎖する。
基地の施設と重巡洋艦のリアクターが臨界に達した。空間を揺らす振動波が発生した。
直後にリアクターの耐久壁が圧力と熱量で限界を超え大爆発を起こす。
施設全体が震え上がる。衝撃波が走り粉塵が巻き上がり、爆風が逃げ場を探し通路を駆け巡る。
分厚いコンクリートや金属の骨組みは熱量と衝撃波により砕け散る。
洞窟基地を内包する岩山のそものが崩れ破壊される。激しい轟音と衝撃により洞窟は吹き飛んだ。
大量の土砂、そして基地を構成していた薄い金属層、コンクリート層、骨組み、岩盤、何もかもが吹き飛ぶ。
周辺は一瞬太陽光で照らされるが爆発で天井から大量の土砂が巻き上げられ一面は薄暗くなった。
粉塵を撒き散らし落ちてくる土砂は黒い豪雨のようであった。
爆発で生じた膨大な土砂と基地構成物は辺り一面に破壊による残骸を生み出す。
薄暗さが一転し光が射した。無機質な洞窟の天井はすでに存在せずそこには青空があった。
巨影が姿を表した。艦橋にある多数のライトが唸るように光を灯される。
戦艦は健在であった。
戦艦が存在する施設に爆発の余波が迫るが隔壁が衝撃波を受け鋼鉄の隔壁が爆発熱に灼かれ徐々に赤熱化する程度であった。
「戦艦瑠璃金剛、抜錨!! 」
戦艦の警笛が低く重く鋼鉄の咆哮を響かせる。
瓦礫に埋もれた戦艦はその身を震わせる。
突如、前部主砲が火を噴き爆炎と衝撃波で降り積もった堆積物を吹き飛ばした。
それに呼応するかのように基地の各所で爆発が起こる。
戦艦の船体が爆発により吹き飛ばされた瓦礫を掻き分け、ゆっくりと確実に進み出す。
戦艦の巨大な四脚が押し蹴られた残骸の塊を破壊し大地を踏みしめる。
爆発により薄暗い洞窟は存在せず青空が広がる乾いた大地に周辺環境は変化した。
重巡がいた辺りはかつて施設だったものや基地の外殻を支えていた構造物が熱で溶けたのか溶岩の塊のようになっていた。
「ムサシ? 抜錨とか言ったよね? ねぇ? 」
アミはムサシの入ったチェンバーに駆けより答えのない問いかけをした。
「基地が吹き飛んでしまった。隔壁や崩れた瓦礫まで吹き飛ばすように計算して? それどころか置かれていた廃棄車両の残留弾薬や爆薬を爆破し戦艦の進路を作っだと……? まったく用意周到なAIだな」
クリスが眼鏡を弄りながら独り言を呟いた。
「ムサシ? これムサシが動かしてるの? 」
アミがムサシが入ったチェンバーを無造作に叩きながら問いかけを続けた。
戦艦に踏み砕かれた鉄骨が鈍い重い悲鳴をあげ砕かれた残骸は砂塵となり空へと舞い上がる。
城塞の如き巨体を誇る戦艦は分厚い鋼鉄の装甲を鈍く輝きを放った。何者も打ち砕く強力な砲を備え、瓦礫で汚れ傷ついた装甲すら戦神の威風を誇っている。戦いのために建造された圧倒的な王者は威風堂々と荒野に君臨する。
その光景の前に敵は動きを止めた。
圧倒的な強者の貫禄に敵は時を止めたように停止していた。
身じろぎ一つしない敵に対して主砲が無慈悲に発射される。
前部主砲塔による砲撃。破壊の奔流が敵を襲う。対象は基地から離れ観察していた黒い個体である。
黒い個体に命中した主砲弾は生物から出るには違和感のある金属音を発生させ胴体中央に穴を穿った。
過貫通となった主砲弾は敵を突き抜け背後にあった崖に衝突すると爆裂した。
戦艦主砲の前では敵の防御効果は存在しなかった。
崩壊した基地跡地を進み崩れ落ちた黒い個体の絶命を見届けた戦艦は標的を変更する。
身動きを止めていた敵の群れはにわかに動きを見せた。残存する敵大型4体と無数の小型は砲郭から攻撃を開始しつつ十字砲火を狙い2のグループとなり別れた。
辺りに強風が吹きすさび、砲煙と砂塵が舞い上がり、周囲が視界不良となった。
それを好機と見たのか大型は、戦艦に対して包囲を狭めジリジリと詰め寄った。
その行動が命取りであった。
戦艦は重く低く汽笛を響かせた。
時が止まったかのように敵は動きを止め、戦艦の威風に気圧され硬直していた。
装填を終えた主砲は砲塔ごとに敵を補足し狙いを定める。
前部連装砲2基から斉射された4発の砲弾は大型に命中した。
重巡級ライノタラスが骸となり地に伏せていた。
もはや脅威は存在しない。
群れを形成し有らん限りの殺意を振りまく異形の敵は瞬時に倒された仲間を見て硬直した。
凄惨な鉄量の暴力は当事者たちに時間が引き伸ばさたかのような感覚を与え、また何が起きたのか理解を拒ませた。
残存する小型の敵は強力な味方を失い恐れをなして逃走を開始する。
だがそれは許されない。蹂躙が始まる。
戦艦は各砲塔で目標を捕らえ弾種を徹甲弾から榴弾に変更し鉄量と爆裂を敵に投射する。
主砲塔は獲物を求め動き装填が終わり次第に発砲する。放たれた主砲弾は敵を薙ぎ払う。
岩山と丘陵が広がっていた大地には今や巨大な砲撃痕が残る死と破壊が支配していた。
砲弾による爆発が生んだ大穴、吹き飛ばされた戦いに敗れ倒れた者たちの残骸、辺りには焼け焦げた鉄と肉の匂いが漂っている。
なかでもこの地域を統べる恐怖の巨獣であったものは無惨に引き裂かれ焦げた鉄と肉の塊を荒野に晒していた。
その全ての破壊をもたらした絶対王者は悠然と戦場の跡を見下ろしている。
眼前の敵を蹴散らまで鋼鉄の咆哮を鳴り響かせた主砲は今は静かに焦げた薬品の匂いを薄く熱を帯びた無機質な砲身から漂わせる。
敵の亡骸がある戦場の跡には歩行戦艦の影が広がりその威を刻んでいる。
戦場を支配する王者は鈍色の装甲を鈍く光らせ圧倒的な存在感を放つ。
それは圧倒的な勝利の後に訪れる静寂であり絶対王者がもたらした破壊の余韻でもあった。




