第65話 軍艦狩り6
重巡を手に入れたムサシ。
艦長(仮)となった。
そのためか、自動航行装置へのアクセスを拒否され、行き先を決められずにいた。
それでも、艦は勝手に進んでいく。
操艦はある程度は右へ左と多少の進路変更は可能だが、すぐに設定されている進路に修正される。
そんな状況にもどかしさを感じながら、ムサシは複雑な表情でモニターを見つめていた。
谷を抜け岩山や奇岩が多い地形を進んでいる。代わり映えのしない岩山ばかりがモニターに表示されている。
数時間が経っただろうか。
ムサシは敵が本当に来るんだろうか、などとのんきに構えていた。
そのとき、アミの鋭い声が響いた。
「レーダーに感あり」
「敵か?」
ムサシはレーダーモニターを確認する。
だが、反応はなかった。
「まだわからない。でも一瞬反応があったの。反応があった方向はあっち」
「カメラ、望遠にして映してくれ」
「反応した方向に最大でカメラ向ける。そこのモニターに出すね」
巨大な岩山が多い複雑な地形が表示される。軍艦が隠れることが可能な程の大きい切り立った岩山や奇岩が敵を隠しているのだろう。敵の姿は見えない。
「手の空いているものは監視してくれ」
指示を出した直後、モニターに一瞬の違和感を感じた。付近の岩山の影に何かが見えた気がした。
岩肌には見えない金属光沢のする構造物が見えたような?
チラチラと何かが光る。
見間違いではない岩肌とは確かに違う構造物が見えた。
あれが敵か……敵だろうな。うん。やるしかない。やるしかないんだ。
ムサシは心のなかで呟く。
身体は無意識に決意を表すかのように握りこぶしを作る。
敵は徐々に姿を表しつつあった。
艦の計測器に捉えられた敵は、搭載されているAIによって即座に解析される。
敵性体のシルエットは絶滅種エラスモテリウムに似ていた。
つまり、ツノがやたらでかいサイだ。
しかし、頭部のツノや鎧のような皮膚の部分には、甲殻類を思わせる殻に似た装甲があった。
大きさは重巡洋艦クラス、サイ型、四脚、背に軍艦のような艦橋構造物が存在している。
データベースで照合され、モニターには攻殻類ライノタラスと表示されている。
「ライノタラス。重巡クラス1、雷撃艇クラス5。来るよ」
アミが冷静に敵発見の報告をする。
「なぁアミ、重巡クラスならこの艦の主砲で倒せるよな? 」
「うん、んーん? この艦にあるデータ的には装甲は有効射程で貫通するみたい……だけど……?」
「みたいだけど? 」
「成長した黒い個体だと、装甲厚が増えてて貫通できないってデータに書いてるね、ちなみに通常個体は白」
「ちなみに向かってきてる敵は成長個体か?なんか灰色っぽいが? 」
「装甲の色は黒寄りの灰色だね。嫌な予感がしてきた」
「アミ? これどっちだ? 通常個体だと良いんだが……主砲当ててみないとわからんか? 」
「だね」
「ひとまず、先に近づいてくる足の早い小型の対処しないと、機関不調で速度出てないから追いつかれるのも時間の問題だ」
「うまいこと岩山や遮蔽物に隠れて進んでくる。少し開けたところで迎え撃ちたいところだけど……いい感じの距離を取って、左舷を敵に向けて対処するのが妥当かな? 主砲を旋回させて榴弾を装填、左舷の生きている銃座と高角砲で対応しよう」
「足元に来られたら狙えないけど。艦を傾けたら高角砲でも照準できるか? 」
「たぶん」
対応手段をあれこれと相談する。
だが、あまり有効な案は出てこない。
焦りが思考を鈍らせる。
計器類を確認するためにコンソールを操作しようとするが、指が思うように動かない。
「ムサシ、お侍さんのVF使えないかな? 一機だけ脚部損傷くらいの状態だけど銃は撃てるみたいだよ」
艦内カメラで各所を確認していたアーニャが提案してくれる。
「ナイスだ、アーニャ。ボンベイ、武士団のリーダーに繋げ」
通信を行うと、武士団のリーダがモニターに表示される。
状況確認をするとVFはすでに修理を始めていたらしい。
ナギが艦内の補修材で修理していたそうだ。
ムサシは敵が迫っている状況を説明し、戦術を伝える。
武士団の戦闘可能な者はリーダーのヤツカサ含めて数人、自動人形を含めても数小隊が編成される。甲板戦闘の対応はヤツカサに任せることとなった。
「用件終わった? ちょっと変わって貰っていいかな? VFのことなんだけど」
忙しく修理をしながら通信に答えているヤツカサに代わりナギが変わってVF修理経緯を説明してきた。
「機体の状況確認しててさ、さっき修復可能ってわかったんだ」
「マジか? ナイス」
「30mmの銃を使えるんだ。片脚がやられて擱座してるVFでも砲台代わりにあったほうが良いかと思って。艦内備蓄品のナノマシン修復材が適合するか経過観察しないとわからなかったんだ。連絡遅れてごめん」
「各自がやれることをやってくれたんだ。それでいい。ありがとう。で、時間はどれくらいかかりそうだ?」
「あとは馴染ませて設定調整するくらいだから、そうだな……敵があの辺にいるから追いつかれる感じがあーなら……あっ見えなくなった。うーん、岩山に隠れたから迂回してくるんだろうから……数十分ってとこだろ? そうだなぁ。まぁギリギリ間に合うんじゃないかな? 敵が30mmの射程に入ってくる前くらいには間に合うかな」
「了解した。やるだけやってくれ、なんとか時間を稼ぐ。通信終わる」
通信を終えて深く一呼吸する。自然にふとアミの方を向いて自分の行動が正しいか目で言葉を求めてしまう。
ムサシの不安げな視線による無言の問いかけに気がついたアミは答える。
「軍艦の戦術は専門じゃないけど、ムサシの対応で良いんじゃないかな? 可能なら逃げたいんだけどね。改めて計算してみたけど、この速度じゃやっぱり追いつかれる」
「仕方ないさ、覚悟をして迎撃してやるさ。敵が有効射程に入ってくるまで多少時間がある。操作マニュアルやらなにかチュートリアル的なものとかもう一度確認しておくか」
ボンベイが出してくれた艦の簡易マニュアルを確認する。各自、映し出される情報を食い入るように見ている。
本来はもっとゆっくり情報を頭に叩き込み訓練時間をたっぷり取って慣熟する必要があるのだが、AIにより艦制御が自動化されていることから、最低数人で艦を操作可能となる。
ムサシたちはそれゆえに操艦できている。
各自がやれることをやる。時間は刻々と過ぎてゆく。
敵集団が遮蔽物に隠れて以降、姿が確認できずに張り詰めた緊張感を保ったまま重苦しい空気が司令室に漂う。
静けさの中、突如警告音が鳴り響く。
「敵襲!! 近くの岩陰より敵小型接近、総数5。左2右3に分かれた。背中の構造体に複数のレイダーを確認!!」
アーニャが敵を発見し報告する。戦況モニターには敵認識のついた光点が表示されている。
砲戦距離としてはかなりの近距離である。
「ムサシ?主砲発砲開始するよ?」
主砲操作を担当することになったアミが戦闘開始を要求する。ムサシはすぐに許可を出す。甲板には主砲発射警報が鳴り響く。
「照準、捉えたらブチかませ!左舷を敵に向ける。速度そのまま」
ムサシは艦のAIに操艦指示を出す。
「あの野郎、速度騙してやがったな遮蔽物に隠れている間に増速しやがって」
操舵指示から少し時間が経ってから艦が進路を取り始める。
艦は傾き不規則な揺れを伴いながらゆっくりと回頭し進路を取る。
砲塔はすでに左舷側に砲身を向け、発射待機状態になっている。
迫る3機のうち先頭を進む敵に直接照準を定め発砲する。
前部50口径20.3cm連装砲塔2基は順次射撃を行う。
轟音と爆炎を伴い、主砲から砲弾が次々に放たれる。
敵は激しく砂煙を上げ回避行動を取る。
敵の至近に着弾し、炸裂する。
だが、敵はひるまずに肉薄を試みる。
アミがコンソールを操作して砲撃照準を調整している。偏差がうまく取れていないようだ。
「砲撃感覚がうまく掴めない。次弾装填してる間にサポートしてボンベイ。艦内AIでなんか使えるのあるでしょ? 」
「了解した。砲撃補助にリソースを割く。誤差修正。弾道予測線、出す」
二人のやり取りをよそに、ムサシは戦場全体を俯瞰して捉えようとしていた。
大型はどこにいる? いや、違う。今は目先の脅威である小型の処理だ。
初めて艦長としての役割を与えられ戸惑いながら自分の思考に疑いを持ちながらも判断を下している。
何が正しいのかわからない。
ムサシは経験の無さから、その判断には迷いが出ていた。
特に脅威判定が曖昧である。
ならば味方を信じて任せてしまえ。アミの次発発射に期待する。彼女の射撃センスは抜群にうまい。だから主砲を任せた。小銃から大砲に変わったとしてもAIのサポートがあればきっと当ててくれる。アミを信じてムサシは見守っている。
何かブツブツと呟いていたアーニャに気がついて、彼女へ視線を送る。
「有効射程に入ったら撃つ。有効射程に入ったら撃つ」
「アーニャ、まだ撃つなよ有効射程に入ってからだ。高角砲と機銃は射程も発射間隔も違うからな。アミと同じようにしては駄目だ。マニュアル読んで理解してるだろ。アーニャのやり方でやってくれ」
高角砲と機銃を任されたアーニャはモニターに表示される兵装ごとの有効射程のラインを注視する。
「了解、有効射程に入ったら撃つ。有効射程に入ったら撃つ」
アーニャは任された責任を重く受け止めプレッシャーと戦いながらも心の整理に努め発射タイミングを待っている。
「有効射程に入ったら撃つ。有効射程に入ったら撃つ」
主砲の次弾装填にかかる時間がやけに長く感じる。
突如警告音が鳴り響く。モニターには機関不調による速度低下の警告が表示された。
「こんなときに機関不調だなんて……これじゃぁ、速度差がついて、あっという間に追いつかれる。一方的に撃てる距離で数を減らしたかったのに」
嫌なタイミングでトラブルは起こる。
こんな時に機関不調のトラブルが起きた。ことがうまく運ばずにムサシはいらだちを覚える。
戦況を見つめ、仲間を信じ敵撃破を願うが戦況はあまり良くない方向へ進んでいる。
ムサシの首筋には脂汗が流れる。
「まずい。敵が右舷側に集まりだした。右舷の損傷が激しいことも、撃てない後部主砲にも、気がついてやがる。チックショウ!! 艦尾にうまいこと隠れて攻撃できなくなっちまった」
「結構派手にやられてて、損傷が目立つもんね」
「なんとか照準に入るようにやってみる」
ムサシは敵の姿を主砲の射界に捉えようと必死に操艦する。
「射程に入った!発砲開始!!」
狡猾な敵の動きに翻弄されるもアミの照準で命中したかに見えた。
しかし命中はしていなかった。
敵は着弾により発生した砂塵を切り裂き怯みもせずに突進を続ける。
続いて高角砲が敵を捕らえ発砲を開始する。
連続で弾を命中させる。敵はさらに怯み大きく回避運動を行う。
うねるように進む重巡洋艦を追う5匹の敵。
速度差があるので、追いつかれ肉薄されるまでに至る。
小規模な爆発が重巡の甲板に発生する。
敵小型ライノタラスの背中にある構造物の影から、ロケットランチャー撃つレイダーがいた。
対抗して甲板にて防衛する武士団と自動人形が応戦する。
お互いに自動小銃や携帯式ロケットランチャーを撃ち合う。
いくつかのロケットランチャーが重巡の脚に命中する。
「銃座をか? いや? 脚を狙ってる? 脚は壊されやしない。だが速度低下でも狙っているのか? そんなもんじゃダメージ受けないぞ、馬鹿め!!」
近づかれすぎて重巡の兵装で対応しきれずに一方的に攻撃される。甲板にいる防衛隊が下方射撃で対応する。
「ムサシ、待たせた。VF動けるよ。私もゲパードGM6 Lynxちゃんで迎え撃つ。目にもの見せてくれる」
「え? おま、ちょ、やめとけって、おい」
ナギが参戦するとか言い出して慌てて止めようとするムサシであったが彼女は慌ただしく通信を切った。
慌てて指示を飛ばすがムサシの声はナギには届かない。
誰か止められるやつは居ないか?
ムサシの脳裏に浮かぶのはクリスの姿だった。
「クリス? クリスはいないか? ナギを止めてくれ」
艦内スピーカーを通してムサシの悲痛な叫びが響く。
「小型の魚雷艇くらいの大きさだぞ?12.7mmでどうこうできるんか?」
うろたえ、慌てるムサシは思わずアミに問いかける。
「割とうまく射撃してるみたいだよ? ほら、モニターに出すよ」
アミが落ち着いた声でモニターを出す。
そこには、機械の尻尾を支えとして器用に対物ライフルを操るナギの勇姿が映し出されていた。
「器用にレイダーを狙ってヒットさせてる。VFもいい感じに対処してるね。あ、小型1匹倒した」
「ウッソだろおい? でっかいのも近づいて来てるんだから引っ込んどけよ。巻き込まれるぞ」
対物ライフルの特徴的なロングリコイルが大砲の駐退器のような挙動をしていた。
絶好調なナギが実に楽しそうに攻撃している。
下方射撃により、艦の遮蔽物を利用し敵射撃の合間で自分の攻撃を仕掛けている。
「うっわ、ナギ楽しそうにしてやがる。なぁにこれ。あ、クリス来た。ナギを止めてくれよクリス。危ないったらありゃしない」
ナギのもとに来たクリスは、自動人形を従えていた。
台車に大きな箱を乗せて。一抹の不安がムサシを襲う。
クリスはナギに何やらゴツい物体を渡している。
「Mk19 自動擲弾銃だね、あれ……」アミはぽそりと呟く。
ナギは自動人形に手伝われながら三脚を設置し発射準備を整えてゆく。
自動人形から送られてくる映像から、良い笑顔をしたナギが狙いを定め、攻撃を開始する様子が見える。
人が心配しているのになんて奴だ。
ムサシは自分の気持ちの整理がつかないまま攻撃を見守る。
まぁ、遮蔽物もあるし、あらかたレイダーの姿も見えない。
そう危険はなかろうと判断しナギの攻撃を見守る。
撃ち出される40mm×53mmは構造物をも破壊しながら軽快に敵を蹂躙してゆく。
小型艇程の敵にも有効のようだ。
「撃ちやすいように離れてあげたら? 頭を狙えそうな感じで。射角厳しそうだし」
アミは的確な指示をムサシに飛ばす。
「あ、はぃ……ナギィ? 満足したら引き上げて艦内で待機してな」
ナギに音声通信を送る。
モニター画面では、サムズアップして指示に応えるナギが見える。
何か納得がいかない気持ちはあったが、ムサシは指示通りにコンソールを操作し、艦を操作した。




