第64話 軍艦狩り5
激しい爆発音の後に突入する。
すぐにクリアリングを行い、部屋の隅となる制圧点を抑え、全体を視野に入れ危険がないことを確認した。
内部に敵は居なかった。
「ナギ、クリスは通路の警戒を頼む」
ムサシは落ち着いた口調で命令する。
見回すと操舵室は酷く質素であり、各所に設置されている窓から明かりが差し込んでいる。
各種データが表示されているディスプレイの中に重要と思われる大きめのコンソールと壁掛けモニターがある。
それは後部のディスプレイであった。
そこには、航行データが表示されていた。
艦は静寂に包まれ、制御されるのを待っているかのようであった。
「意外と狭いのね」
警戒しながらも、アミがムサシに話しかける。
「操舵室はこんなもんだろ。それより、俺はトラブルが無さすぎて怖い」
ムサシはどこか間の抜けた返事をした。
「さて、やっとワィの出番やな」ボンベイがいつの間にかに肩に移動していた。
「お前いつの間に? 戦闘中は大人しくしてやがって。マガジンポーチで震えてたろ」
「せやかてワィ、戦闘用じゃないもんでな。ムサシはんが軍艦をゲットするために存在するAIなんやで?」
「たまには戦闘補助とかしてみろよ」
「専門はなにゆえ専門か? ワィが活躍する場は、ワィが自分のタイミングで決めるねん。そういう風にできておまねんや」
いつもの戯言を言い合っている間に、ボンベイはコンソールに通信ケーブルを伸ばし、アクセスを試み始めていた。
「ムサシ、モニターに手を置いてや、ピタッと動かさないでなー、侵入開始……システムリンク確立っと」
ものすごい勢いでデータが流れてゆく様子がモニターに見える。
複雑に織りなすシステムネットワークがグラフィカルに変化してゆく。
セキュリティなのか赤や緑の文字やら点やら線の光が激しく変化する。
「ムサシのおかげでセキュリティが無いに等しいもんやな、これ。スィスィ進むわ。向こうさんからお迎えされてる感じやな」
「俺、手を置いているだけだけどコレで良いのか?なんかピリピリする。なんかチクっとした」
「そのままでいてな、もうちょいやからな。生体認証が必要でな、手をそのままかざしといてな」
「わかった」
「防壁解除、仮マスター権限取得。戦闘停止命令出すで」
「やってくれ」
ディスプレイには艦の各種システムが表示され制御下に置かれる様子が次々に視覚化されてゆく。
司令室や機関室、重要箇所がムサシの制御下に置かれる。
「大人しいもんやなっと。後は司令室で正式に進めないとあかんな。さっすがワィ、短時間でようやったやろ」
ボンベイが有線ケーブルを解除してムサシの肩に登りでドヤ顔をしている。
ホロディスプレイに頭部となる位置に目と口を描いてアピールしている。
「司令室ってどこだ?」
ムサシが問いかける。
「艦内情報のデータ落としとる、ワィが案内したるさかい、ついてきぃ。艦内の戦闘モードは解除されたから楽にしてええで」
戦闘解除され艦を制御下に置いたことにより緊張感が緩む。
みんな足取りが軽いようだ。ボンベイの指示で司令室まで移動する。
「ねぇねぇ、ムサシ?」
「どうしたアミ?」アミがなんとも言えない様子で問いかけてきた。
「これで船をゲットできたの?」
「実感は無い。だけどさ、何て言うか上手く言えないんだけどこの艦は俺のッ!!って感じはする」
「そんなものなの? もしかしたら司令室のドアがムサシを拒否するかもよ? 油断するとムサシはいつもトチるから」
「変なフラグ立てないでくれよ、なんだか心配になってきた」
「心配してるくらいが丁度いいのよ、ムサシは特にね」
実際、ムサシは油断した。
ムサシを訓練してきたアミはその油断を見抜いていた。
「ボンちゃん、マジで制御下に置いてるの?」ナギがボンベイに心配気味に問いかける。
「ワィのデータ上ではそないなことになってるな、船は嘘つかないっていう話やから大丈夫でっしゃろ」
思わずナギはクリスに目線で助けを求める。
「私を見ないでよ、こんなの専門外よ。一応サラから貰った軍艦狩りマニュアルは読み込んでいるけど。細かいところまで書いてないのよ」
ナギとクリスが不安げに顔を見合わせていた。
「大丈夫っぽい感じみたいだよ? 自動人形が攻撃の様子もなく礼儀正しくしているみたいだし」
先頭を進むアーニャが弾んだ声で人形を指さした。
司令室までの通路で自動人形達が導くかのように並んで待機している。
すれ違う自動人形達はまるで高級ホテルで従業員に迎えられるような気分になる。
戦闘用ではなくメンテナンス用なのか薄い装甲板すら見られない無機質な肌のような外観をしていた。
服装は日本製っぽい軍服だがどことなく給仕係の者っぽい服装である。
仕草だけはやたら優雅さが見て取れる。柔らかくも異質な冷たささを感じた。
「なぜメイド服を着ても居ないのにメイドっぽさを感じるのだろうか?」
ムサシは呟く。だがしかし、その問いに答えられるものは居なかった。誰もその答えを知るものは居ない。
何体目だろうか自動人形が主人を出迎えるよなメイド仕草で道を開けてゆく。
薄明かりの艦内通路に足音だけが反響している。
周囲の無機質な金属製の壁に圧迫感を覚える。
「司令室はここや」ボンベイは有線ケーブルを手の様に扱い重苦しい扉を指す。
目的地の司令室前まで来た。
ムサシが手を扉にかざすと扉はゆっくりと開いた。
「なんか司令室兼CICってやつかな?思っていたのと違うなぁ」
ムサシは中に入ると部屋を見回して言う。全員部屋に入ると扉が閉まる。
巨大モニターが並び中央に席や大型のタクティカルテーブルがある。青白い光がモニターやホログラムを照らしている。
「コレ絶対に艦長席だよな、そんな雰囲気している」
ムサシはそう言うと進み颯爽と座席に座る。
座ると周辺の壁がモニターに変わり艦の周辺が映し出され谷の風景が映し出される。
次に各種戦闘データや被害の様子がホログラフィックによりムサシの周囲に浮かび上がる。
「おおぉ?」
ムサシは驚きの声を上げた。
冷たい金属壁に囲まれた司令室では、今やこちらの制圧下になった事を知らせるディスプレイ表示がされている。
制御を奪ったことを確認すると艦長ムサシ、カッコ仮となっている。
「(仮)……んん? 制御取れているんだよな?」思わずボンベイに確認する。
「操縦は戦闘状態なら可能。目的地進路は取れてないな、ナビゲートシステムにロックが掛かっている。ふむ、他は…色々と限定的許可になっとるな。コレは貰っていたデータにないな」
「えぇ……」ムサシは思わず遠い目をモニターに送る。
モニター越しにだが外部から差し込む陽の光がやけに眩しく感じる。
「とと、現実逃避してる場合じゃない。自動人形、戦闘停止確認。それから武士団に通信を、できるかボンベイ? あとすぐに要救助者対応するぞ。ボンベイ!!医務室は稼働できるか?」
大型のタクティカルテーブルには各階層に分かれた簡易艦内マップがあった。そこには要救助者と表示された幾つかの人形マークが甲板や艦内に表示されていた。ムサシはそれに気がついた。
「すでに稼働してる。武士団に通信は……と艦内スピーカーが使用可能。ムサシが連絡したれ、腕の端末に繋げたで」
ムサシはすぐさま武士団に対して艦の制御権を取ったことを伝える。そして近場の通信用端末に出てほしいと連絡する。
「あー、通信端末ってこれか? コール音にピカピカと煩い、きっとこれだな? おぅ聞こえるか? 乗船攻撃隊リーダーのヤツカサだ」
通信端末のモニター越しにサイバー感溢れる武者姿が映し出されている。
「艦長のムサシだ。戦闘を停止してくれ。艦の制御権を奪った。怪我人がいれば救助させる。さっきまで戦っていた自動人形が行くがソイツらは制御下に置いたからもぅ仲間だ。攻撃しないでくれ」
「了解した。正直助かる。重症者が多い、よろしく頼む」
艦内確認用のカメラに映る武士団の様子を見ながら艦内データを確認する。
「ほな、自動人形に救助開始させたるわ」
「ボンベイ、頼む。やってくれ」
自動人形たちが忙しく動き出す様子が映されている。
会話が途切れるとナギとクリスがなにかアピールをしていた。
「どした?」
「ムサシ、私ら応急救助多少はできるし、手伝いに行くよ? 自動人形に任せっぱまずいかなってさ」
心配そうにナギがムサシに問いかける。
「それもそうだな、大丈夫だと思うが一応フォローに行ってくれるか? ナギ、クリス頼む」
「了解。行ってくる」
頼まれた二人は急ぎ足で武士団の元へ向かう。
「こちらの仲間、ナギとクリスを送る。よろしく頼む。何か他に伝えるべきことはあるか?」
ムサシは武士団を気遣いリーダーに問いかける。
通信端末に映る武士団のリーダーは安堵の表情をしていた。
「救助が開始された。礼は後で改めてする。他に重要な連絡がなければ仲間の面倒を見たい」
「了解した。通信終わる」
そう言うと通信は終了した。
「さてと…アーニャとアミは俺のフォロー頼む。何やっていいかわからん」
「私もわからないけど、とりあえず索敵しとく」アミは戸惑いながらも軽快に答える。「私も」アーニャも嬉しげに適当なモニターのある席につく。
「何をするべきだろうか?」
ムサシは独り言を呟いた。
アミが間髪入れずに答える。
「アン船長に連絡じゃない? 海賊船へ通信繋がるかわかんないけど。今のところナノマシンの妨害も少ないみたいだよ?そんなに距離も離れてないだろうから試してみたら?」
アミの助言により先程のようにボンベイにフォローを求め通信を試みる。
雑音混じりではあるが海賊船ルェティ-ガに通信が繋がり通信手に軍艦の奪取成功を伝える。
一通りこちらの状況説明が終わると急に雑音がひどくなった。ナノマシンによる電波障害の影響だろうか?
最後の方で気になる通信内容があった。雑音混じりであったが不吉な単語が聞こえた気がした。
「なぁ? アミ。今の通信ってさ。でかいのがそっちに。気をつけろだとか? どうこう言ってなかった?」
「なんか私もそう聞こえた気がする。アーニャはどう聞こえた?」
「私も同じに聞こえた」
3人で顔を見合わせる。
「ムサシ? とりあえず重巡の状況確認しよ? 戦闘可能かどうかとか? 被害状況とかさ。敵が来るかもなら準備を可能な限りやっておきたい。せっかく拿捕した艦、捨てて逃げるなんてできないでしょ?」
アミがモニターを見つめながら端末を忙しく操作する。
「お、おぅ。ボンベイ、みんなフォロー頼む」
3人とボンベイで状況整理を行うと兵装関連は右舷側以外は概ね使えるようだった。
前部50口径20.3cm連装砲塔2基使用可能、
後部50口径20.3cm連装砲塔2基損傷大使用不可
40口径12.7cm連装高角砲6基、25mm連装機銃4基、13mm連装機銃2基、右舷側ほぼ全損。左舷側使用可能
61cm3連装魚雷発射管4基使用可能
センサー類損傷警備使用可能、索敵可能
船体、脚など特に異常無いが機関不調のために速度低下気味
「兵装関係の応急処置はできそうにないみたいだね、それにしても弾薬残り僅かだね」
アミが心配そうにムサシに語りかける。
「ところで問題がある。ある程度は速度落としたりできるけど止まったりできません。なんか目的地変更はできないけど操舵は可能みたいな? 戦闘中は操船可能になるとか書いてる。アミなんか知らない?」
「そんな話聞いたこと無いんだけど? でもまぁなんとかなるでしょ」
ムサシはアミの問いかけになるべく明るく答えるが今後の見通しに不安を覚えていた。
「コレ絶対に艦長(仮)のせいだ。とは言え艦をゲットした以上は捨てて逃げ出すつもりもないけどね。ここまで苦労したんだから
「MAPにある何かの施設に向かっているみたいだけど、なんかデータないかボンベイ?」
「ワィ、艦内制御とかムサシはんのフォローで大変忙しなんやがの? しゃーないなもぅ。それっぽいデータ見つけたからそっちで確認してや、送ったで」
送られてきたデータを見ると何やら隠れた補給所の資料が見つかる。
「目的地ってココみたいだな。山岳要塞?洞窟の補給所らしいけど……ここに逃げ込んだら敵に見つからないとかないかな? なぁアミどう思う?」
「どうだろ?でも弾薬もあるっぽいね、この艦の砲弾とかも置いてるみたいだね。この船の寄港地だったのかな? 防衛用の自動人形やらロボットやらあるみたいだけど」
「数日前の情報ってなってるな」
「この地域にそんな施設あるって聞いたこと無いけど?」
「未探索地域みたいなもんだから調査前なんだろう? そこに逃げ込んだら良いのではなかろうか? 敵もきっと知らんだろ?」
「知られてなければ良いんだけど。発見されてたとしてあとは敵の規模次第だよねぇ、撃退できるか? そもそも敵がいつ来るか?肝心なところで通信切れたけど。敵が向かってるって前提で話すべきね。味方艦からそれほど離れている訳じゃないから敵が来るまで数時間は余裕あると思うけど」
「破損箇所の補修は無理として、戦闘準備を行いつつ、警戒態勢、索敵を厳にって感じかな」
「そんな所だね」
「お侍さんにも伝えないと今後の方針相談しないと」
「医務室で怪我の治療してるみたいだな近くにナギがいるみたいだから通信繋がらないか?ボンベイ頼む」
機械使いが荒いと文句を言いながらもボンベイは通信を繋いでくれた。
武士団のリーダーは言う。そもそも治療中の仲間もいるからここで降りるわけにもいかない。船はムサシの支配下だから指揮下に入ると伝えてきた。
「話の分かる人だね」
通信を終えるとアーニャが語りかけてきた。
「見てくれは奇妙なサイバー武士だけど状況を理解してくれてる、正直助かるよ」
ムサシは胸をなでおろし安堵の表情をする。
戦艦ではないが重巡洋艦だが。やっと艦を得る事ができた嬉しさを噛み締めていた。
「苦しかった訓練やってて良かったでしょ」
アミが満面の笑みで話しかけてくる。
「まったくだ、俺達のチームでは死人も怪我人も出てない。武士団の人達には被害が出ているようだが」
「彼らもそれを承知でここに来ている。だが、感謝と弔いをするためにも、この船を無事に持ち帰らないとね」
「そうだな、帰るまでが軍艦狩りだもんな。とは言え……ナビゲーションを解除できない。ろくに操船できないんだよな。困ったな」
「まぁ補給所? だか何かわからないけど味方識別は出てるわけだからこのまま向かうしか無いんじゃないかな? とは言え。少し休憩しましょう。緊張しっぱなしも良くないからね。艦のマニュアルでも出してもらって読みながら一息ついたら?」
アミがマニュアルの話をした直後にボンベイが激しく何やら操作している。
「そう言うと思って艦のAIに指示して簡易マニュアルデータベースから拾ってきた。ゲームかよってくらい簡単なやつ用意したで」
「サンキュ、ボンベイ。お前が活躍するところが見れて俺は嬉しいよ」
「ムチばっかりじゃあきまへん、アメもたまにはやらんとな」
「いつも苦労かける」
用意された資料を見ながら休憩する。
戦士達につかの間の休息が与えられる。
「せやかてワィ、戦闘用じゃないもんでな。ムサシはんが軍艦をゲットする為に存在するAIなんやで?」
「たまには戦闘補助とかしてみろよ」
「専門はなにゆえ専門か? ワィが活躍する場はワィが自分のタイミングで決めるねん。そういう風にできておまねんや」
いつもの戯言を言い合っているとボンベイはコンソールに通信ケーブルを伸ばしアクセスを試みていた。
「ムサシ、モニターに手を置いてや、ピターと動かさないでなー、侵入開始……システムリンク確立っと」
ものすごい勢いでデータが流れてゆく様子がモニターに見える。複雑に織りなすシステムネットワークがグラフィカルに変化してゆく。セキュリティなのか赤や緑の文字やら点やら線の光が激しく変化する。
「ムサシのお陰でセキュリティが無いに等しいもんやな、これ。スィスィ進むわ。向こうさんからお迎えされてる感じやな」
「俺、手を置いているだけだけどコレで良いのか?なんかピリピリする。なんかチクっとした」
「そのままでいてな、もうちょいやからな。生体認証が必要でな、手をそのままかざしといてな」
「わかった」
「防壁解除、仮マスター権限取得。戦闘停止命令出すで」
「やってくれ」
ディスプレイには艦の各種システムが表示され制御下に置かれる様子が次々に視覚化されてゆく。
司令室や機関室、重要箇所がムサシの制御下に置かれる。
「大人しいもんやなっと。後は司令室で正式に進めないとあかんな。さっすがワィ、短時間でようやったやろ」ボンベイが有線ケーブルを解除してムサシの肩に登りでドヤ顔をしている。
自身の身体にわざわざホロディスプレイで頭部となるであろう位置に目と口を描いてアピールしている。
「司令室ってどこだ?」 ムサシが問いかける。
「艦内情報のデータ落としとる、ワィが案内したるさかい、ついてきぃ。艦内の戦闘モードは解除されたから楽にしてええで」戦闘解除され艦を制御下に置いたことにより緊張感が緩む。
みんな足取りが軽いようだ。ボンベイの指示で司令室まで移動する。
「ねぇねぇムサシ?」
「どうしたアミ?」アミがなんとも言えない様子で問いかけてきた。
「これで船をゲットできたの?」
「実感は無い。だけどさ、何て言うか上手く言えないんだけどこの艦は俺のッ!!って感じはする」
「そんなものなの? もしかしたら司令室のドアがムサシを拒否するかもよ? 油断するとムサシはいつもトチるから」
「変なフラグ立てないでくれよ、なんだか心配になってきた」
「心配してるくらいが丁度いいのよ、ムサシは特にね」
実際、ムサシは油断した。ムサシを訓練してきたアミはその油断を見抜いていた。
「ボンちゃん、マジで制御下に置いてるの?」ナギがボンベイに心配気味に問いかける。
「ワィのデータ上ではそないなことになってるな、船は嘘つかないっていう話やから大丈夫でっしゃろ」
思わずナギはクリスに目線で助けを求める。
「私を見ないでよ、こんなの専門外よ。一応サラから貰った軍艦狩りマニュアルは読み込んでいるけど。細かいところまで書いてないのよ」ナギとクリスが不安げに顔を見合わせていた。
「大丈夫っぽい感じみたいだよ? 自動人形が攻撃の様子もなく礼儀正しくしているみたいだし」
先頭を進むアーニャが弾んだ声で人形を指さした。
司令室までの通路で自動人形達が導くかのように並んで待機している。すれ違う自動人形達はまるで高級ホテルで従業員に迎えられるような気分になる。戦闘用ではなくメンテナンス用なのか薄い装甲板すら見られない無機質な肌のような外観をしていた。服装は日本製っぽい軍服だがどことなく給仕係の者っぽい服装である。仕草だけはやたら優雅さが見て取れる。柔らかくも異質な冷たささを感じた。
「なぜメイド服を着ても居ないのにメイドっぽさを感じるのだろうか?」ムサシは呟く。だがしかし、その問いに答えられるものは居なかった。誰もその答えを知るものは居ない。
何体目だろうか自動人形が主人を出迎えるよなメイド仕草で道を開けてゆく。薄明かりの艦内通路に足音だけが反響している。
周囲の無機質な金属製の壁に圧迫感を覚える。
「司令室はここや」ボンベイは有線ケーブルを手の様に扱い重苦しい扉を指す。
目的地の司令室前まで来た。
ムサシが手を扉にかざすと扉はゆっくりと開いた。
「なんか司令室兼CICってやつかな?思っていたのと違うなぁ」ムサシは中に入ると部屋を見回して言う。全員部屋に入ると扉が閉まる。
巨大モニターが並び中央に席や大型のタクティカルテーブルがある。青白い光がモニターやホログラムを照らしている。
「コレ絶対に艦長席だよな、そんな雰囲気している」
ムサシはそう言うと進み颯爽と座席に座る。
座ると周辺の壁がモニターに変わり艦の周辺が映し出され谷の風景が映し出される。
次に各種戦闘データや被害の様子がホログラフィックによりムサシの周囲に浮かび上がる。
「おおぉ?」ムサシは驚きの声を上げた。
冷たい金属壁に囲まれた司令室では今やこちらの制圧下になった事を知らせるディスプレイ表示がされている。
制御を奪ったことを確認すると艦長ムサシ、カッコ仮となっている。
「(仮)……んん? 制御取れているんだよな?」思わずボンベイに確認する。
「操縦は戦闘状態なら可能。目的地進路は取れてないな、ナビゲートシステムにロックが掛かっている。ふむ、他は…色々と限定的許可になっとるな。コレは貰っていたデータにないな」
「えぇ……」ムサシは思わず遠い目をモニターに送る。
モニター越しにだが外部から差し込む陽の光がやけに眩しく感じる。
「とと、現実逃避してる場合じゃない。自動人形戦闘停止確認。それから武士団に通信を、できるかボンベイ? あとすぐに要救助者対応するぞ。ボンベイ!!医務室は稼働できるか?」
大型のタクティカルテーブルには各階層に分かれた簡易艦内マップがあった。そこには要救助者と表示された幾つかの人形マークが甲板や艦内に表示されていた。ムサシはそれに気がついた。
「すでに稼働してる。武士団に通信は……と艦内スピーカーが使用可能。ムサシが連絡したれ、腕の端末に繋げたで」
ムサシはすぐさま武士団に対して艦の制御権を取ったことを伝える。そして近場の通信用端末に出てほしいと連絡する。
「あー、通信端末ってこれか?コール音にピカピカと煩い、きっとこれだな? おぅ聞こえるか? 乗船攻撃隊リーダーのヤツカサだ」
通信端末のモニター越しにサイバー感溢れる武者姿が映し出されている。
「艦長のムサシだ。戦闘を停止してくれ。艦の制御権を奪った。怪我人がいれば救助させる。さっきまで戦っていた自動人形が行くがソイツらは制御下に置いたからもぅ仲間だ。攻撃しないでくれ」
「了解した。正直助かる。重傷者が多い、よろしく頼む」
艦内確認用のカメラに映る武士団の様子を見ながら艦内データを確認する。
「ほな、自動人形に救助開始させたるわ」
「ボンベイ、頼む。やってくれ」
自動人形たちが忙しく動き出す様子が映されている。
会話が途切れるとナギとクリスがなにかアピールをしていた。
「どした?」
「ムサシ、私ら応急救助多少はできるし手伝いに行くよ? 自動人形に任せっぱまずいかなってさ」
心配そうにナギがムサシに問いかける。
「それもそうだな、大丈夫だと思うが一応フォローに行ってくれるか? ナギ、クリス頼む」
「了解。行ってくる」
頼まれた二人は急ぎ足で武士団の元へ向かう。
「こちらの仲間、ナギとクリスを送る。よろしく頼む。何か他に伝えるべきことはあるか?」
ムサシは武士団を気遣いリーダーに問いかける。
通信端末に映る武士団のリーダーは安堵の表情をしていた。
「救助が開始された。礼は後で改めてする。他に重要な連絡がなければ仲間の面倒を見たい」
「了解した。通信終わる」
そう言うと通信は終了した。
「さてと…アーニャとアミは俺のフォロー頼む。何やっていいかわからん」
「私もわからないけど、とりあえず索敵しとく」アミは戸惑いながらも軽快に答える。「私も」アーニャも嬉しげに適当なモニターのある席につく。
「何をするべきだろうか?」ムサシは独り言を呟く。
アミが間髪入れずに答える。
「アン船長に連絡じゃない? 海賊船へ通信繋がるかわかんないけど。今のところナノマシンの妨害も少ないみたいだよ?そんなに距離も離れてないだろうから試してみたら?」
アミの助言により先程のようにボンベイにフォローを求め通信を試みる。
雑音混じりではあるが海賊船ルェティ-ガに通信が繋がり通信手に軍艦の奪取成功を伝える。
一通りこちらの状況説明が終わると急に雑音がひどくなった。ナノマシンによる電波障害の影響だろうか?
最後の方で気になる通信内容があった。 雑音混じりであったが不吉な単語が聞こえた気がした。
「なぁ? アミ。今の通信ってさ、でかいのがそっちに、気をつけろだとか?どうこう言ってなかった?」
「なんか私もそう聞こえた気がする。アーニャはどう聞こえた?」
「私も同じに聞こえた」
3人で顔を見合わせる。
「ムサシ? とりあえず重巡の状況確認しよ? 戦闘可能かどうかとか? 被害状況とかさ。敵が来るかもなら準備を可能な限りやっておきたい。せっかく拿捕した艦、捨てて逃げるなんてできないでしょ?」
アミがモニターを見つめながら端末を忙しく操作する。
「お、おぅ。ボンベイ、みんなフォロー頼む」
3人とボンベイで状況整理を行うと兵装関連は右舷側以外は概ね使えるようだった。
前部50口径20.3cm連装砲塔2基使用可能、
後部50口径20.3cm連装砲塔2基損傷大使用不可
40口径12.7cm連装高角砲6基、25mm連装機銃4基、13mm連装機銃2基、右舷側ほぼ全損。左舷側使用可能
61cm3連装魚雷発射管4基使用可能
センサー類損傷警備使用可能、索敵可能
船体、脚など特に異常無いが機関不調のために速度低下気味
「兵装関係の応急処置はできそうにないみたいだね、それにしても弾薬残り僅かだね」
アミが心配そうにムサシに語りかける。
「ところで問題がある。ある程度は速度落としたりできるけど止まったりできません。なんか目的地変更はできないけど操舵は可能みたいな? 戦闘中は操船可能になるとか書いてる。アミなんか知らない?」
「そんな話聞いたこと無いんだけど? でもまぁなんとかなるでしょ」
ムサシはアミの問いかけになるべく明るく答えるが今後の見通しに不安を覚えていた。
「コレ絶対に艦長(仮)のせいだ。とは言え艦をゲットした以上は捨てて逃げ出すつもりもないけどね。ここまで苦労したんだから
「MAPにある何かの施設に向かっているみたいだけど、なんかデータないかボンベイ?」
「ワィ、艦内制御とかムサシはんのフォローで大変忙しなんやがの? しゃーないなもぅ。それっぽいデータ見つけたからそっちで確認してや、送ったで」
送られてきたデータを見ると何やら隠れた補給所の資料が見つかる。
「目的地ってココみたいだな。山岳要塞?洞窟の補給所らしいけど……ここに逃げ込んだら敵に見つからないとかないかな? なぁアミどう思う?」
「どうだろ?でも弾薬もあるっぽいね、この艦の砲弾とかも置いてるみたいだね。この船の寄港地だったのかな? 防衛用の自動人形やらロボットやらあるみたいだけど」
「数日前の情報ってなってるな」
「この地域にそんな施設あるって聞いたこと無いけど?」
「未探索地域みたいなもんだから調査前なんだろう? そこに逃げ込んだら良いのではなかろうか? 敵もきっと知らんだろ?」
「知られてなければ良いんだけど。発見されてたとしてあとは敵の規模次第だよねぇ、撃退できるか? そもそも敵がいつ来るか?肝心なところで通信切れたけど。敵が向かってるって前提で話すべきね。味方艦からそれほど離れている訳じゃないから敵が来るまで数時間は余裕あると思うけど」
「破損箇所の補修は無理として、戦闘準備を行いつつ、警戒態勢、索敵を厳にって感じかな」
「そんな所だね」
「お侍さんにも伝えないと今後の方針相談しないと」
「医務室で怪我の治療してるみたいだな近くにナギがいるみたいだから通信繋がらないか?ボンベイ頼む」
機械使いが荒いと文句を言いながらもボンベイは通信を繋いでくれた。
武士団のリーダーは言う。そもそも治療中の仲間もいるからここで降りるわけにもいかない。船はムサシの支配下だから指揮下に入ると伝えてきた。
「話の分かる人だね」
通信を終えるとアーニャが語りかけてきた。
「見てくれは奇妙なサイバー武士だけど状況を理解してくれてる、正直助かるよ」
ムサシは胸をなでおろし安堵の表情をする。
戦艦ではないが重巡洋艦だが。やっと艦を得る事ができた嬉しさを噛み締めていた。
「苦しかった訓練やってて良かったでしょ」
アミが満面の笑みで話しかけてくる。
「まったくだ、俺達のチームでは死人も怪我人も出てない。武士団の人達には被害が出ているようだが」
「それも承知でここに来ている。彼らに感謝と弔いをする為にも無事にこの船を持って帰らないとね」
「そうだな、帰るまでが軍艦狩りだもんな。とは言え……ナビゲーションを解除できない。ろくに操船できないんだよな。困ったな」
「まぁ補給所? だか何かわからないけど味方識別は出てるわけだからこのまま向かうしか無いんじゃないかな? とは言え。少し休憩しましょう。緊張しっぱなしも良くないからね。艦のマニュアルでも出してもらって読みながら一息ついたら?」
アミがマニュアルの話をした直後にボンベイが激しく何やら操作している。
「そう言うと思って艦のAIに指示して簡易マニュアルデータベースから拾ってきた。ゲームかよってくらい簡単なやつ用意したで」
「サンキュ、ボンベイ。お前が活躍するところが見れて俺は嬉しいよ」
「ムチばっかりじゃあきまへん、アメもたまにはやらんとな」
「いつも苦労かける」
用意された資料を見ながら休憩する。
戦士達につかの間の休息が与えられる。




