第59話 コルセアリンクス
女性陣がやらかす、お買い物トラブルに見舞われて心身喪失しかけたムサシはアミから不吉な事を伝えられ、精神を引き締めざる終えなかった。
なぜならば祝賀会にて艦長になる為の資質を見られる事があると言われたからだ。確実な話ではないがそのような話も聞くとのことであった。
ハンターから有能なものに艦が授与されることがある。都市の監視カメラやハンターカメラにより収集されたあらゆる情報を分析し決められるとのことであった。もっとも仮に艦が授与されなければ自らの力で発掘するなり野良艦を捕獲するなり道はある。選択肢をわざわざ狭めることもない、確率を上げるためにあらゆる事をするべきだ。
そう思いムサシは祝賀会までではVR訓練による経験がタフな精神を取り戻した。模範的なハンターとして振る舞い訓練試験の授賞式から卒業式まで滞りなく行い儀式は終えることができた。その後の打ち上げの立食パーティでは訓練を共にしたほかの仲間たちや次々に現れる武器商やハンター組合等の組織営業担当と歓談してリーダーとしての務めを果たした。
最初から最後まで訓練を生き抜いたのは結局の所はイケメン君のチームだけであった。新しい訓練者たちと今後の健闘を願い祝杯をしてムサシたちは会場を後にした。すぐさま移動したことには理由がある。訓練生の打ち上げは酒やら料理やらを暴飲暴食することが多かった。
コレを楽しむものも避けるものも自由な風潮があり、退避する者は特に何を言われることも無く立ち去ることができた。大抵は訓練生たちが醜態をさらすことが恒例であった。だがムサシたちには重要な会談が控えていた。サラに用意されている世話になる軍艦の持ち主と会うからだ。
ムサシたちは会場から移動した。そして時間通りに指定されたカリブの海賊酒亭に来た。
看板からして海賊を匂わせる装飾がある愉快な店構えであった。海賊旗にカトラス、骨董品であろう火縄銃が描かれた看板が無駄に冒険心を掻き立てる。だがしかし、高級レストランにでもいるべきであろう礼儀正しい仕草の制服を着たホール係がいた。オーナーから指示を受けております。まずは店内にて映像をご覧になられてください。後程、オーナーの元に案内致しますと言われ席まで案内された。
店中は活気に溢れていた。店の名前に恥じずに冒険活劇の海賊島にある酒場の雰囲気といった感じもあり、所々にサイバーな感じが妙にマッチしている不思議な空間でもあった。店の一番目に付く所には巨大な空間ディスプレイがあった。
そこには黒字のバックに白字でコルセアリンクスプレゼンツと書かれていた。おそらくココを統括している組織であろう。その名前が小さく書かれているメニューを手に取る。メニューには荒々しい料理から繊細な料理から酒やドリンクなど豊富に紹介されていた。メニューを仲間に渡し、しばらく店内の様子を見ていた。
すると当店自慢の品をお楽しみください。こちらはサービスとなっておりますと店員が料理を持ってきた。とても丁寧で紳士的な対応を受ける。店の雰囲気からは合っていない様にもマッチしているようにも不思議な感覚であった。
しばらくすると料理が運ばれてきた。これまた酒の肴といった串肉、香辛料漬けの肉巻きの何か、でかい海老焼き料理、そして馴染みのある薄いポテトの揚げ物がそこにあった。サラダなんてお断りな猛々しく荒々しい料理が並んでいた。
列車で見たタンクウォッカと再び遭遇する。ナギあたりが頼んでいたようだ。いくつかの果物が後から運ばれてきたが最初の肉料理のインパクトがでかすぎて正直、果物の飾りつけは霞んで見えた。
酒が飲めない者は蛍光色の体に悪そうなソフトドリンクが運ばれてくる。味はスイカとブドウとメロンを混ぜてそこに炭酸を混ぜこみ、エナジードリンクを感じる後味にパンチを効かせた感想を抱いた。悪くはないとムサシは感じていた。
料理が出揃う頃には巨大な空間ディスプレイに映像が写りだした。
すらりとしたシャープな艦影にどこと無く危険な獣性を感じた。巡洋艦を思わせるが見たことが無い仕様である。日本艦の匂いがするがムサシの記憶には無かった。やがてその艦の見せ所が豊富なムービーが始まった。艦が進む姿に始まり静かな映像から戦闘が絡む激しいムービーが映っていた。
やがて艦の性能を知らしめる為のムービーに映った。艦の色を自由に変ることができるカメレオン艦がいた。敵性体を待ち伏せすべく光学迷彩を使用して風景に溶け込み。そして敵性体を撃滅する段階では勇ましいダズル迷彩の軍艦となった。そしてそこでは激しい主砲発射シーンが繰り広げられていた。その足元や甲板には各種ヴァリアブルフレーム、陸戦兵が繰り広げる敵性体との戦いがあった。クライマックスは大型敵性体と軍艦の無駄にも思える見栄えの良い近接戦があった。それは手に汗握るスペクタクルであった。
半時間ほど海賊事業の内容を夢中で見ていた。
意外にも海賊らしい略奪行為の映像は殆ど無かった。輸送護衛、敵性体の駆除、遺跡などの調査、目玉と思っていた私略船事業は大人しい臨検ぐらいのものであった。私略船事業では地域図から始まり地図上を移動してムービーが流れた、ファンティアとは反対側の地域が映っていた。
アミの教育で学んでいた都市連盟に加盟していない遠い地域の事を思い出す。ファンティアや洞窟都市が加盟している通商連盟から外れている事を理由に秩序を守る行為として大義名分の下に略奪行為をしていることが強調されていた。
次にハンター協会推薦の優良企業認定を得たことや、福利厚生、各種保険完備の説明があった。なにより違和感があったのが船員同士での船内議会によって船が運営されていることであった、逸れは特に強調されていた。海賊船といっても軍艦の様に細かい階級があるわけでもなく艦長、副長などの役職があるくらいであった。その説明の後には船員による権利制度などの説明があった。
権利は船内共有施設の利用関係の話であったが基本的には平等な印象を受けた。許可が要る立ち入り区域は船の運行や安全管理に関わる程度の場所であった。他に気になることとしては報酬関係があった。これは特に詳細が語られていた。疑惑があれば情報の開示が行われるなどの徹底がされている。内容は平等さが強調されていた。明確な給料配分、インセンティブに関して、フリーライダーを防ぐ取り組みについて等、ダイナミックに説明されていた。驚いたのは艦長の分け前が最低給料の船員の2倍程度であったことだ。
ムサシは自分の持っていた海賊のイメージとだいぶ違う事をアミに聞いてみた。暴虐武人で戦闘ばっかりしてたら怪我人やら戦死やらで赤字になるんでしょうよ。海賊といっても都市から略奪免状を貰った正式な武装艦になるからね。対外的にもお行儀がいいんでしょよ? 私略船だよ? と真顔で説明された。だが映像の中にはやる時はやる感じであり、赤い色がチラホラと写るモザイク映像があった。この事にはツッコまないでおいた。言わなくても理解できたからだ。
そんな説明をシレっとするアミは料理を楽しみながら話を続ける。
「ハンター組合でも対人トラブル解決の仕事があって、依頼内容は血みどろな感じもたまにあるよ」恐ろしい事を言われた。ある程度の覚悟は完了しているので問題は無いなとムサシは思う。もっとも好き好んでやりたいとは思わないが。それは兎も角、我ながら立ち見したもんだと自己評価をする。
「条件的には問題ない。それどころか、かなり良い条件だと思う」
アミは事前調査分の資料を確認してはいたものの全てを飲み込まずに警戒していたのでハンター協会への問い合わせをなどを行っていた。改めて確認作業を行いながら呟く。
「問題なし。やっぱりここは評価高いよ。もともと羽振りのいいってのは聞いていたけど。今では事業規模も凄いことになっているのね、ココ。最新事情を確認してみたら凄いのなんのって。うん、大丈夫そうだ。知り合いの情報屋でも確認取れたよ。ここに加盟していいと思うよ。むしろ私が凄く気に入ってる」
入手した情報を仲間たちに見せるアミの笑顔がまぶしかった。
映像が気になって仕方がないムサシは集中していたのでアミの言う事がほとんど耳に入っていなかった。ムサシにとってはここでの仕事は魅力的に思えた。アミに頬を指で押され夢中になり過ぎと笑われた。和やかな雰囲気でこの組織は問題ない事を改めて伝えられるムサシであった。
映像が終わりになると踊り子たちの情熱的なショーが始まった。少しばかり見ていると迎えが来た。海賊レストランには似合わない軍の礼装を着た凛々しい女性がいた。ここに来る前に資料で見たここの組織のナンバーツーであった。
案内された部屋の前には扉は無く、厚手の生地がカーテンの様に出入口を塞いでいた。
その中から声が聞こえる。
「お貸しした額は限度を超えています。勘弁してください」うろたえる男の声がする。
「ツベコベツベコベと言い訳ばかりで男気の一つでもみせてくれまいか?」酒焼けのするハスキーでもあり、透き通ったようにも思える勇ましいとても女性の綺麗な声が聞こえた。
「そうは言っても通常の3倍ですのでもうこれ以上は無理かと」
「だらしのない金貸しだね。なに金を貸してくれと言う訳じゃない、物資を流してくれと頼んでいるんだ。次の山で必要なんだ。こいつがあれば一気に返せるんだ」女の声はネットリ絡み付くようであった。
「そう言って前回も!!」
「まぁよく考えてみな。投資のチャンスと考えて欲しい。美味しいネタがあるんだ。間違いないってレベルの。なに裏取りもできているんだ。ネタは渡した資料で既に見ているだろ。よくよく考えてくれたまえ」
男の声にならない苦悩の音が鳴り響いた。
しばらく間を置いてから「みんなで幸せにならないかい?」女は静かに脅迫めいた言葉を放った。
鈴の音がすると副長が返事をする。
「客人がお帰りだ」
部屋の中にいる女は声をかける。
部屋から慌てて男たちが出てきた。表情は憎しみと恐れが混じる疲れた表情を見せる。
「クッ、あの魔女め」
小さな声で捨て台詞を吐き足早に去っていった。
副長に案内され薄暗いランプの灯る部屋に入る。
カリブの海賊映画にでも出演していそうないかにもな格好をした女海賊と妖艶な雰囲気を醸し出す妙齢の高級娼婦とも見えるが貴族めいた上品さも持ち合わせる不思議な女がいた。
その女たちはむせ返るような甘い香水と煙草と酒の香りが混じる中に存在していた。
「キャプテンアンだ」
女海賊はムサシを見定めるような目線を送り声を放つ。
女海賊の威風に気圧されるもムサシは己と仲間の紹介をする。
最後列にいたアーニャを紹介し終えると素っ頓狂な声を聞いた。
「オオネェ?」
アーニャから聞いたことも無い声色がした。
「なんだいいきなり? ノーラネェさんだろ。アーニャ」妖艶な女は答える。女海賊は楽しそうに葉巻を吹かしている。
「んんん、ノーラネェ、オヒサ」
「元気そうで何より、アーニャ。もう少しねぇ、なんとかならないのかい? 久しぶりなんだ、愛想の一つでも……したらどうなんだい?」
「なぜここにいるの?」
「まず落ち着く。焦ると途端に駄目になるね。冷静沈着があんたの売りじゃないのかい?」
豪華な刺繍がある下品過ぎず見事な退廃的な雰囲気を与えつつも冒険心を煽られる不思議なソファーに座らされた。
ノーラと呼ばれた女は煙草を艶かしく吸っていた。部屋に漂う紫煙は薄暗い部屋の中でランプに照らされ重厚な雰囲気を作る。
「相変わらず嫌われたもんだね。ここにいる理由かい。キャプテンにはそれなりにね。お金も人も貸してるのよ。艦に乗るハンターはウチの元用心棒なんだ。ここの店の踊り子はウチの女の子が派遣してる」
ノーラと呼ばれた女はアーニャをまじまじと見る。
「そんな事よりだ。まずはアンタだ。アーニャ、随分大きくなったね。前に会った時はこんなだったってのに」
手で背丈を表現していた。
「うるさい。思い出した。貸したお金返してよ」
「この子は会うとすぐにこれだ。金の亡者かぃ? 利子付けてちゃんと返すよ。まったくなんでこんな風に育っちまったんだが」
「ノーラネェの教育でこうなりました」
「教育たって実践的な算数を教えただけだろうに」
「あれは仕事じゃないか! 孤児院の経理関係ぶん投げておいてよく言う。それに私のお小遣い勝手に使ったこと忘れてないから」
「増やして返したろ」
「そう言う問題じゃない」
「ちっこい頃から小言が多くてねぇ。黙ってりゃ可愛いのに」
「スン」
アーニャとノーラのやり取りを見てアーニャ的には苦手な感じであるが本気で嫌がってはいないかに見える。馴れ馴れしい感じ、親戚に小言を言われてじゃれている、そんなヤツが脳裏に浮かぶ。
「私は出資者兼経営アドバイザーとしてここにいる。 ついでにアンタのボスの顔を見とこうと思ってね」
「ムサシに会いたかったった?」
「アンタが世話になるのなら一度な、顔を見ておこうと思ってね」
ノーラはそう言うとムサシを舐めるように見る。冷たくもネットリした感覚を味わう。
「悪くない面構えだ。仲間に美人さんが多いのが気になるけれど。有名人のアミさんを連れている所はポイントが高いね」
「ドウモ、ハジメマシテ、ムサシです。アーニャには大変お世話になっております」
「アミデス、コンニチワ」
妙な感覚に囚われたムサシとアミはカタコトの言葉を思わず放ってしまう。
「礼儀正しい子だね。ウチのボーイにならないかい? 給料はずむよ?」
「勧誘しないでよ、ノーラネェ」
ぬるい空気が辺りに流れる。
「さてと茶番は終わったかい?」
「来たばかりのゲストさんを捕まえてごめんなさい。後は任せるわ。キャプテン」
「コルセアリンクスのアンだ。キャプテンと呼んでくれ」女海賊は座ったままの姿勢を崩さずにムサシに言う。
「組織の概要は見てくれたかい?」
「はい。実に魅力的な内容でした」
「そうかい。気に入ってくれなによりだ。アンタ方に求めるのはな、メインは遺跡なんかの調査、あとは甲板戦闘員、偵察。慣れた後にゃ、やれることがあれば色々追加するがね。まずは偵察や見張り要員だ。で、どうだい? ウチに来るかい?」
「よろしくお願いします。是非にここで仕事をしたい」
「良い返事だ。じゃ、アンタの覚悟と運を見せてくれ」
「?」
「なに、ロシアンルーレットなんてのはさせやしないよ。ノーラ、そこのカードとってくれ」
「ちょっと待ちなさい。用意するわ」
ノーラはカードをまとめてアンに渡す。
受け取ったアンはカードを起用にシャッフルしてゆく。
アンの手元に一枚。ムサシの手元に一枚置かれる。さぁ取れと言わんばかりな両手の仕草をする。
「カードを取るのか? なにすりゃいいんだ?」
「いいかい? ワタシとムサシで勝負だ。簡単な賭け事だ。カードゲームをしよう。私より大きな数字を引いたら君の勝ちだ。良い部屋を用意して仲間に迎えてやろう。小さけり…そうさな…半年分の給料は無しだ。どうだいやるかい?」
クリスが咳払いを小さく一回した。何かの合図に違いない…がわからない。鈍くてゴメンヨ。
勝負を受けるか迷う。アーニャが目で何かを訴えている。なんだ? なにか不味いのか? この勝負は受けたら不味いのか?
あれだ? 一瞬、莫大な借金を背負う展開が予想したが、せいぜい半年間給料無しで済むんだ。違う違う? そう言う問題じゃない? なんかそんな風なイメージを抱かせる仲間の仕草が目に入る。あれだな、この流れは不味い。そうなんだな?
頭では理解できる。何か罠があるのだろう。だが店の雰囲気やキャプテンアンの勇ましさから腹のそこから湧き上がるものをムサシは感じていた。ココゾって言う時にバクチを張れないでなにが戦士だ。
思慮深いハンターになりたいだとか思っていたが実際に選択を迫られると無性に飛びつきたくなる、そんな感覚を覚える。それにキャプテンアンの期待めいた子供がお気に入りのおもちゃを見つけた目を見ると何故か断るのも辛いものを感じる。
「自分の性格的に相手の事やイカサマの情報なりを手に入れて。勝てる確立を上げたい所だが…そうもいかないんだろう? キャプテン? せめて俺にそのカードを引かせてくれ。キャプテン、自分で引くなら諦めも付く」
キャプテンの目を見る。鋭い視線が自分を見つめる。好きにしろとジェスチャーを受けて。改めてカードをシャッフルする。
いいさ、勝負に乗るさ、乗ってやる!! カードを止め運命を引き寄せる気持ちでカードを選ぶ。
「理屈っぽいやつだな。腹は決まったかい?」葉巻を吹かしながら問いかけられる。
「皆、いいか?」
「まぁムサシのお給料だけでしょ? まぁいいんじゃなぃ?」とアミが言う。
はぁ? 俺だけかよ。俺だけが対象の賭事なの? こういうのはチーム全体でやるもんじゃないの?
訴えるように提案者を見るもニコニコ顔で言い渡される。ムサシの給料に関しての賭け事だと…そして、さぁ早く引きなと急かされる。万事休すの南無阿弥陀仏。清水のお寺からサイコダイブ!! 背中に冷や汗を感じながら追い詰められたムサシは覚悟を決めてカードを引く。カードに願いを集中する。キングよ来い!!」
残ったカードをテーブルに置き。相手に一枚渡して自分の手の中に一枚取る。く
自分のカードを捲ろうとしたその瞬間、ムサシに電流が走る。これはボンベイの電流攻撃だ。なぜこのタイミングで?
その時、耳に内蔵していたインカムからボンベイの囁き声が聞こえた。
「ムサシィ、イカサマだ。イチャモンをつけろ。なんでもいい、はやくしろ。ワィがフォローしてやる。ほなら、ワィちゃんの言う通りに言え」
言われたままに口を動かす。
「船長さんよぉ!! コイツはイカサマだ。あんたの負けだ」
「言いがかりかい?」
「コイツは一体なんだ?」とボンベイさんに言わせられる。
テーブルの上に置かれたアンのカードに腰に装備しているボンベイからのスキャンが始まった。
ワザとらしいレーザー光線が当たるとカードの絵柄がデジタル映像ノイズが現れる。
「光学的な技術を応用したイカサマかい? おそらく薄いデジタルモニターか画像を変えられるマテリアルフィルムでも張っているんだろう? 刺激を与えりゃこの通りよ」
ムサシは一向に理解ができていない、冷や汗で背中がべったりしている。
「あんたは確認の上にこの勝負に乗った? 違うかいムサシ? それをいまさら」
キャプテンアンがドスの効いた声で答える。しかしすぐさまアミが文句を言う。
「海賊様が、随分ちんけなイカサマをしてくれるね。あなたの左のソデにあるのは何?」
「アミ?」
「そちらさんが何やら仕込んでいる様だから、アタシも注意して見てたんだ…勝負前、カードはまだ伏せたまま。イカサマを見抜いた時点でコチラの勝ちよ」
アミが指摘した通りにアンは隠していたカードをそっとテーブルに置く。いつの間にかにくすねていた様だ。アーニャはアーニャで混ぜていたイカサマカードにいつの間にかにマークを付けイカサマに細工をしていた。ボンベイを挟んでナギとクリスがコソコソとしていた。ボンベイとナギがグルで仕掛けを見破り、クリスがタイミングを計り仕掛けていようであった。
突如、アン船長は大声で笑い出す。
「良いね。実に良い。あんたたち…クックック、合格さぁ!! 気に入ったよ。面白いヤツだな。実に良い。サラのヤツ…粋の良いヤツを紹介してくれた。感謝するよ。退屈しなさそうだ。あぁ…今日は実に酒が美味い。こんなに気分が良いのは久しぶりだ。クックック…」
ノーラは呆れていた。
「よくやるわよ…まったく、綺麗めなお嬢さんたちに見えて悪くない判断だ。中々のモノね。良いところの出身じゃないかねぇ。まいいさ。あんたたちの勝ち。私も楽しめたよ。ありがとね」
「それはそれは。お褒めの言葉を有難う御座います」
ノーラに向かってナギが刺のある返しをする。
アーニャは面白くない感じで様子を見ている。
「俺の勝ちでいいのか?」
呆けているムサシは空気を読まずに言葉を発する。
「あぁ、ムサシ。勝ちだ。お前の勝ちだよ。不利な状態でも決断のできるやつは良い。良くも悪くもな。実に良い。それに良い仲間を持ったな」
観念した様子のアンキャプテンは残っていたグラスの酒を飲み干す。「副長!!」と声をあげる。
アンキャプテンが副長を呼ぶと部屋の影から出てきた。
副長はアンキャプテンの耳元でなにやら話をしていた。
「ふむ、わかった。さて、すまない、待たせたな。はじめてくれ」
そう言ってアンキャプテンは副長に指示をする。
「そこに立って。であちらに向かって。これを読み上げて宣誓してくれ。あぁ、棒読みはやめてくれ。多少の演技力を見せてくれ」
副長と呼ばれた女は携帯端末で文言を空間ディスプレイに出力した。
仲間たちと指示されたように対応する。
「我々はぁ、都市の圧制によりぃ、莫大な借金を背負い、海賊に売られたぁ。契約によりぃ、苦渋の決断でぇ、己の命を守るためにぃ、海賊に組するものであるぅ」
宣誓の後に己の名前を言って、記録を撮った。そして、この妙な儀式は終えることとなった。
「まいどコレやるの何とかならないのか? 副長?」
「決まりですので…」
「チッ!!」
「君たちを組織に迎える。洞窟都市にある私の艦にすぐさま向かうと良い。必要な情報は君たちの携帯端末に送っておく」
副長は凛とした声で通達を行う。ムサシがすっかり存在を忘れていた手に取ったカードをテーブルに置く。
「よろしくお願いします。それでは失礼します。本日は有難う御座いました」ムサシがそう言うと仲間たちはそれぞれの流儀で礼をする。
「あぁ。よろしく。いい働きを期待する」
アンキャプテンのいったいったと言う手のジェスチャーにて送り出される事となる。
一方、アーニャはノーラとなにやら話をしていた。
「それとアーニャ、たまには連絡しなさいね。他の子たちが心配するから」
「ノーラネェこそ、たまには里帰りしなよ」
「私が帰ったら付近住民がびっくりするだろ? やめとくさ…」
「ありがとね」
「なんのことだか…」
「兎に角、ありがと」
「ホラあんたたち。キャプテンの気が変らないうちに退散しな。ホラ、早く早く行った」
ノーラに急かされる。
二人の間にはある種の信頼感があるように思えた。最初はぎこちなく思えたがなにかと視線が優しく思えた。
ムサシたちは副長に案内されて仲間たちと部屋を立ち去った。
アンはテーブルに置いてあるカードを手に取る。そしてクスリと笑うと呟いた。「サラが懐くはずだ。あの子、やはり…持っている…」
満足そうに葉巻を味わう。
「そもそも負けてたとしてもサラの頼みだから、この賭けをうやむやにして笑いのネタぐらいしてやろうかと思ってたんだがな。ムサシの奴め、自力で何とかしやがった」
「あきれた、本当にイカサマしかけてたの?」
「あぁ」
「そこのカードいい? 見せてもらっても?」
ノーラはカードに手を伸ばす。カードはキングのハートであった。
アン船長は端末を操作して空間ディスプレイモードにして映像通信を行った。
コールが終わると通信はサラと繋がる。
「やぁ、サラ。ムサシの件は滞りなく終わった。一応連絡してやろうと思ってな」
「それはそれは。有難う御座います。アンキャプテン」
「随分とまぁ他人行儀だなぁ」
「どうせ、あなた。また賭け事でもしてぇ、新人苛めしたんでしょ?」
「アタシの事を良くわかってるな、サラ」
「長い付き合いだしね」
「で、ゲームの内容は?」
「カードだ。あいつな、イカサマ乗り越えて勝ちやがった」
「あの子…勝ったんだ」
「気に入ったよ。運のいい子は好きだ」
「あんまり苛めないでね?」
「苛めはしないが…働いてもらうさ…」
「悪い顔になってる…死なせないでよ?」
「約束はできんぞ? なにせウチは海賊だ? 危険な稼業さ?」
「私掠船でしょ? 敵対勢力以外には紳士的なの知ってるわよ」
「ハンター協会お墨付きの優良企業ですから」とドヤ顔をするアンキャプテン。
「敵対企業からはかなり憎まれているけれど…」ノーラはぼそっと呟いた。
「略奪すりゃ憎まれるさ。だが、都市の御許可を頂いて密輸船から仕事しているんだ。取られるほうも覚悟のうえで来ているんだ。文句は言わせんぞ?」
「私掠免許改定提案しようかしら?」
「厄介な事になったら…都市船を襲わないといけなくなっちまうが? いいのか? なんせ食い扶持に困った連中が多いからなぁ」
「いいわけないでしょ……まったくもう……」
「よそ様の密輸や略奪が無くなればウチらも大人しく運送業でもするんだがなぁ」
「災害級の敵生体も多いし、都市軍で監視だけで手一杯よ。やれて精々、軍とハンター共同で間引きよ。ほんと嫌になる。それに忙しくて手が回らなくて海賊の根城を潰せないのよ」
「まぁまぁ、ハンターの仕事で都市に船が集まってくれて。御蔭様で私の店は大繁盛だ。ゆるーくこのまま行ってくれれば嬉しいのだがな?」
ノーラーが静かに言う。
「どうなるか分からんぞ? 敵さんの動きが複雑だ。ゆえに状況は常に変化するものよ。あなたたちも酒場やクラブだけでなく、次の手は考えておいてね」
「はぃはぃ、サラちゃん。余った用心棒をハンター派遣へとか考えてるのよ。大丈夫。きっとうまくいくから」
ノーラは暢気な口調で答える。
「私らも、サラ、アンタのトコも上手くやれるさ。そうだろ?」
「ちょっとあんたたち、なにお酒を持ってるのよ。話し聞いてる?」
サラは映像越しに怒りをぶつける。
「輝ける我らの未来に」
「乾杯」
そう言うと女たちは乾杯をしてサラの通信を切った。
ムサシは副長からメッセージにあった内容を確認すると、織への加盟申請書、洞窟都市にある艦までの移動手順、そして組織規約についてのデータがあった。
列車の中では組織規約や軍艦での仕事に関してのレクチャーをアミから受ける。
納得がいったのでコルセアに加盟申請を端末から送る。申請が受理すると案内役の居場所が提示された。男の顔写真と名前が表示され洞窟都市の高級クラブが指定された。そこなら知っているとアーニャがいったので任せることにした。
なぜゆえ彼女が高級クラブを知っているのだろうか疑問に思ったが色々と苦労があるのだろうと勝手に解釈して任せることにした。
自動運転の車に乗り込み。街の商業中心地区に着く。入り口がやたら豪華な商業施設に止まる。入り口の屈強な男に話をすると既に連絡があったのであろう事はスムーズに進んだ。何故か門番の男はアーニャに拳を付き合わせる仲良さげな挨拶をしていた。
中に案内されるとさらに驚く事となる。クラブの従業員の女たち数人がアーニャに会いに来た。それも久しぶりに見る親戚や家族にでも会うような親しさで抱き合ったり会話を楽しんでいた。
アーニャに聞いてみると孤児院の家族の姉たちであると答えてくれた。
アーニャの挨拶が終わると目的の男が現れた。軍曹と呼ばれたその男は副長に命じられ俺たちを艦に案内する事をムサシに告げた。服装はくたびれてはいるが軍装をベースとして海賊的な様相に仕立てられた男は酒瓶を手に持ち女を連れてと歩いて来た。さぞかし陽気に酒を飲んでいたことであろう。
しかし、ふとした瞬間に見せる鋭い目が完全な酔っ払いではない事を予想させた。馬鹿笑いをしていたが意識はしっかりしている。フラフラしているのは演技なのであろう。女との別れの後に軍曹は案内を始めた。
酒を瓶のまま豪快に飲み陽気に歌いながら自動運転に任せ車は艦に向かわせた。道中ではムサシたちを和ませる会話をしながら進んだ。
「甲板戦闘員と偵察の仕事だ。その後は適正にしたがって色々手伝ってもらう、うちは人手が足りないからできるヤツには仕事を振る。なにちゃんと評価してやるさ。良い働きすりゃ、分け前をちゃんと増やしてやる。しかも公正にだ。安心しろ伊たちにハンター協会からの信頼を得ている訳ではないからな。ここいらが評価されるとな、良い仕事の依頼が来るんだ。ちったぁ危ない事もあるがな。なにすぐに慣れる」
そんな内容を酔いの勢いに任せダラダラと何回も話し、言うだけ言うと寝てしまった。
やがて港の守衛の所まで来ると男は生体スキャンを受けた。どうやらセキュリティの為だけに同行をさせたようだ。
男がいなければ船には辿り着けないのであろう。そのような事を考えながら港に向かうトンネルを進む。
そしてトンネルを抜けると目の前には何隻もの出港するのであろう歩行軍艦が見えてきた。洞窟都市の出入り口に進んでいた。その光景を眺めていると車は方向を変えた。変えた先に見えたのは洞窟都市の軍港スペースであった。軍港は都市洞窟の壁、その奥に広いスペースがあり、軍艦がそこに幾隻も佇んでいた。
戦艦、巡洋艦、駆逐艦、空母、補助艦、概観から日本艦が多い様にも思えたがアメリカ艦やフランス艦もあった様に思える。近くには歩行艦が遠くには車輪式や履帯式の艦も見えた。修理ドックから工事の光が漏れ、岸壁では詰め込み作業をするロボットや作業員たちが所狭しと働いていた。
その中でもひときわ目立つ軍艦があった。ダークブルー系の色を主軸としたダズル迷彩の軍艦がいた。船首にはシャークマウスのペイントがしてあった。主砲塔には2連装であったがひときわ目立つ特徴があった。それぞれの砲塔にはドクロマークが描かれていた。それは海賊旗を掲げなくとも理解できる威圧を放っていた。
後方砲塔は見えなかったがこの調子だとそれぞれにドクロが書かれているのであろうと思えた。その他にも連装の両用砲に主砲を角としたオニのドクロが描かれていた。威圧感タップリのその軍艦の前で車は止まった。
驚きを隠せないムサシはうろたえていた。車内でまごまごしていると作業をしていたメイド型ドロイドがステップを降りて車まで来た。そして軍曹とムサシ御一行にスキャン装置を向け確認を行っていた。
「生体認証確認、クリア。連絡は受けております。ムサシ様とその御一行ですね。重巡洋艦ルェティ-ガに歓迎致します。ご案内致しますので私の後に続いてください」
そう言うと運転席で寝こけている軍曹を担ぎ、ムサシたちを軍艦に誘った。ステップは綺麗に掃除されピカピカであった。甲板にいる戦闘ドロイドは海賊船の船員の衣装を纏っていた。
正確には軍装にも見えるボロ切れが印象的な海賊服であった。どこからか冷たい目線を感じながらもムサシたちは恐る恐る海賊軍艦に乗り込んだ。
驚きと不安を抱きながらもムサシのハンター稼業は始まることとなる。




