第55話 サラ再び
部屋にはサラとクリス、そして対面にムサシがソファーに座っている。そしてクリスだけがイキイキとした表情をしていた。対照的にムサシは難しい話が続き少し疲れ、しょんぼりした顔になっていた。因みにボンベイさんは興味がないのか静かに手足を収納して部屋の隅に筒状に変形して大人しくしていた。生意気に目の部分と思われるバイザーにはZの文字が並んでいて、スリープモードになっていた事を理解した。
「話がムサシのギフト話からズレちゃうけど…ギフトとの関係あるしね、うん。少し話をして頂こうかしら? あ、でもね。最初に言っておくけど船がロボットに変形するなんて事はこれっぽっちも報告されてませんから。都市情報網でも研究者の間では可能性の話としてすら出てないからね。がっかりしないでね。さてと長くなるだろうから私は何か甘いものと飲み物を用意してくるね」
オーバーテクノロジーで何でもありと思ったけどさ、常識のラインについて少しだけ理解した気がした。船がロボになるのは異常なのな。OK、理解した。前の世界ではアニメなんかで結構メジャーな話だったんだけどな。少しだけ残念だな。
ムサシが無言で考えている様相で察したのかサラはムサシを気使う様な優しい口調で話しかけた。
「船ロボが無いのは残念そうな感じだけどゴメンね。でもね、聞いといて悪い話ではないかな? 内容的にムサシが好きだと思うんだ。それではクリス。お話をお願いします」
サラは残念そうな顔を少しだけすると部屋の隅に移動した。何やらお茶の種類を選んでいるようであった。。
話のバトンを渡されたクリスは解説を今にも始めようとウズウズしていた。クリスに視線を向けると妙にイキイキとした顔を見せてから話を始めた
「では、コホン。解説を始めようか。そうだなヴァリアブルフレームが生まれた話でもしようか。都市で目覚めた人に正体不明の情報を持っていることが確認されたんだ。とりあえず調べてみて生命や健康を脅かすものではない、問題がなさそうと言う事で放置されていたんだ。後で判明するんだがその情報。専門家や研究者の間ではこれを因子と呼ぶんだが」
「一般的にはギフトと?」
「そうだ」
「それで開拓街ができた頃に発見された最初の因子、これがヴァリアブルフレームに関連するテクノロージーだったんだ」
「ヴァリアブルフレームって、あの良く見かける4Mから6Mぐらいの人型ロボットですよね」
「そうだ。元々はパワースーツと当時は未知の物質であったヴァリアブル物質との事故が発端だな。その操縦者の治療中に因子のひとつ。ヴアリアブル因子の詳細がわかったんだ」
ムサシはにわかに興奮を覚えた。ある世代ではロボットの概念が色々と変わるがムサシにとっては乗り込むタイプの人型ロボ、これががムサシの時代では身近にあり、嫌いではなかった。やはり男の子である。乗り込めるロボットには興味がそそられる。ムサシはムネの内に熱くなるものを感じた。
「今では補修物資の素体だったり、艦船の重要部分の構造体になったりする万能物質。それがヴァリアブル物質なんだけど。当時は綺麗な金属結晶体、何かの宗教的装飾品程度に思われていたんだ。儀式的な建物なんかでそれなりの量が見つかったんだ。時々電子回路の様な模様のある物が発掘されるので興味を持った者が調べてみようと発掘工事をした。その工事でパワードスーツ作業員だった目覚め人が落盤事故に遭遇してな。落盤した瓦礫の中にあったヴァリアブル物質に押し潰されそうになったんだ。その事故で偶然にもパワードスーツとヴァリアブル物質が強く接触する事になった。この二つが融合した。それまでにはそんな事はなかったんだ。瞬間的な変化だったそうだ。パワードスーツが激しく発光して、そして少し大きく膨れて元の形と違ったパワードスーツになった。事後に調査してみるとその物体は特殊合金と変化した未知の凄く頑丈な部分があって。丁度フレームの様な役割をしていた。金属結晶による骨格だな。材質と形状が変化してその頑丈さで事故から被害者が守られたと言う訳だ。その後その機体を調査した結果、変化したフレームに削岩機械や武器なんかを取付けたりしたらフレームが変化して取付けた機器がまるで元から取付けることを設計されていたかのように。変化後に調査として色々な物の取付けテストをしたら一瞬で変化したり数日かけて変化したり様々にフレームの変化が確認された。それらから骨格部分を含めパワードスーツと言うより大きさ的にロボだね。その後似たような状況を人為的に作り製造された。これらのロボがヴァリアブルフレームと命名されたんだ」
事故当時の状況からパワードスーツがヴアリアブルする様子を空間ディスプレイ映像に表示されていた。
「それで厄介なのが生まれた原因だ。事故当時は本人しかいなかったし、意識の混濁があったからヴァリアブルフレーム誕生の瞬間をよく覚えておらず、当事者は覚醒と表現していたぐらいの情報しかえられなかった。けれど出現したヴァリアブルフレームや証拠品と詳細な証言。これらを解析して色々と特性やら何やらが判明した。だが被害者のギフトとブァリアブル物質が相互干渉したとか被害者のギフトが発現して変化が起こり搭乗者を守ったとかな、何故この現象が発生したのか? キーとなった発端は何か? この辺が特にわからなかった。そもそも、ヴァリアブル物質は宝石扱いとかで既に事故の前から民間に装飾品として流通してたんだ。だから覚醒、ヴァリアブルするのであれば既に所持している人間によって何らか発見やその他の不思議な現象が起きているはずだとか都市のギフト持ち調査の時に何か兆候があったはずだ。それが確認されなかった。
ヴァリアブルフレームが誕生した理由は解明されていない。ヴァリアブル現象について状況的にギフト持ちがヴァリアブル物質との接触、事故発生によるギフト持ちの激しい感情のゆらぎ。これらが現象を引き起こした主原因だと考えられている。最初のヴァリアブル現象が発生したことを境に各地でヴァリアブル現象が多発した…例えば戦場で危機的状況になったパワードスーツ乗りが御守として持っていたヴァリアブル物質のペンダントから激しい光が発生して覚醒したりと……状況は様々であったがね。全く不思議なものだ本当に……」
そう物凄い早口で解説すると、一呼吸して困った様子でクリスは肩をすくめた。
「研究は進められているんだがな未だに不明なんだ。研究者や学者を悩ませている…その中の一人が私なんだが実に興味深い……発見があればまた新たな謎が増える…ワクワクさせてくれるものだ」
クリスがいつの間にかメガネを取り出して装着具合を調整していた。ほんといつもメガネを何処から取り出しているんだろう。
「正体不明な情報、因子から特殊技術は見つかっていた。しかし、ギフトの内容が変化する成長するとでも言えばいいのだろうか? その様なギフトの発見が始まったのはヴァリアブル物質との事故からなんだ。研究者はより解明にのめり込んだ。私も何度悩まされて徹夜したことか……解析結果を利用して都市生産施設からヴァリアブルフレームが量産されるようになって普及したんだ。私たちの生活では色々な所でオーバーテクノロジーに依存しているからな新しい技術の活用はすぐに始まったんだ。わからない事だらけだが安全に使用はできたからな。搭乗者が無茶しなければの話だが…あぁ実に興味深い……ギフト……それは私を魅了する」
クリスは話がズレながらも解説をしたことによる満足感でご満悦であった。そんなタイミングでサラが戻ってきた。
「私個人で思う事は安全に有効活用しているからそれはそれで気にしなくてもいいんじゃないかなって思うのだけど……ハンターや軍では無茶もするけどね。車の運転みたいなものじゃない? エンジンの仕組みがわからなくても操作方法を理解していれば動かすことはできる。安全危険は使うものによって変ってくるけどね。そして私は無茶せざる負えない状況をなんとかしたいんだけどね」
サラが肩を竦めてクリスの方を向いて妙なサインを送っていた。
クリスがそれに気付くとメガネの位置を調整してメガネを光らせていた。
「そうは言っても。動作原理を知っとくべきだし。未知の技術の内容は究明したいじゃないか? わからない事をそのままにするのは我慢がならんのだ」
クリスは珍しく熱っぽく言い放った。
「へぇ、面白い。そう言う話は好きですよ。もっと知りたい」
「そうねぇ、他のギフトの話なんかは…ムサシの好きそうな話があったわ。艦船の脚なんかは実はこれらの特殊な目覚め人の力による功績なんだよ。最初は都市の工場で艦船製造データがあるのか謎だった。海が近くに無かったしね。目覚め人の持ってギフトから特殊データを抜き出して解析した結果、何故か艦船が歩行可能となる技術が生まれた。しかも経験を積んだ目覚め人のギフトが変化してデータが改変していった。これまたギフトの変化と経験のパターンに関してなんかは不明な点が多いのだけれど。とにかく特殊な目覚め人のギフトのおかげで技術が変化して活用されて都市が豊かになるの。これは確かな事なのよ。でもね普通の人たちの努力でも豊かになるって事も知っておいてね。みんなが努力して結果を出しているからね」
サラは指をピンと立てて今のところが重要だよとジェスチャーでムサシに教えていた。
「脚ねぇ、初見の感想は…脚がある地上を進む船とか意味がわからなかった……それでも都市の豊かさ、技術の高さはギフトのおかげだけって訳ではない事は理解しています。ギフトだけで都市が豊かになっているとは思えませんよ。うまいものが食べたくて探索して何かしらを見つけて良い結果を得た話も聞きましたしね。不思議なものですよね。ほんと……来たばかりの頃、都市のデータベースを見ましたけどオーバーテクノロジーによって都市の資源や物資が自給自足できてるなんて魔法かと思いましたよ。どうりで荒野のど真ん中、他の都市ともバカみたいに距離が離れているのにやたらに物資もあって生活水準が高い。オーバーテクノロジーのロボットとかを除いても豊か過ぎると。ハテナマークが連発でしたよ。それぞれのテクノロジーに繋がりがあまり感じられなくって、技術レベルはバラバラで、ちぐはぐなオーバーテクノロジー基盤にギフトがプラスアルファって歪なテクノロジー群を運用している感じとは思いましたけど…前の世界だけど学校で習ったことだけど、人類史で石器、青銅、鉄器みたいに順番に難しい技術って言うか……必須となるテクノロジー得て進歩するってのじゃなく…たまに天才が出てきて一気に技術が進むことがあったり…なんていうのかな…兎に角、未知のテクノロジーを得て使えたことが幸運っというか…それだけじゃない…ええっと」
ムサシが悩むような物言いで纏まらない自分の思考を語った。
その話を聞くとクリスは少し難しい表情を浮かべて首をかしげた。
「ムサシって時々イイ発想するのよね。変なコトとか軍艦の事ばっかり考えているのに……」
「そいつはどぅも」
クリスは悪気がないのだろうけどその言いようには微妙に心に来るものがあった。それを察したのかサラはクスリと笑みを浮かべ話を始めた。
「ムサシの言いたい事はこんな所かな? 前提技術がないと知りえない技術を生み出せるオーバーテクノロジー。そのテクノロジーに依存してライフライン構築している幸運な世界……それだけでなく技術を自力で発見したり産み出す努力している人がいると」
「なんかそんな感じ!!」
「今の私たちの技術レベルはムサシのいた時代…私たちが都市のオーバーテクノロジーに頼らずに純粋に自力で作り出せる物は第二次大戦後レベル辺りの物ぐらいしか作れないの…場所によっては発たちした技術、ムサシの少し先の時代ぐらいそうだな…第3次前ぐらいの技術があったりするんだけどね、稀にいる天才の方々によって作られる程度なんだ…基本的には都市AIの制御する自動工場なんかで作られるオーバーテクノロジーのシロモノがベースで我々は生かされている。都市の持っているデータが所々破損していてね。情報が無かったりするんだ。都市のAI制御によって生産される技術はオバーテクノロジーすぎて解析できず…技術レベルの違うモノがゴロゴロある。テクノロジーツリーの間にあるはずのテクノロジーが不明…それゆえに人類だけで自力で作れないモノが多くある。私なんかはとても切なく不甲斐なく感じるんだけね。色々な人たちが地道に研究開発しているけど…技術や研究の人たちはオーバーテクノロジーの解析にとてもとーっても苦悩しているのよ。そこにギフトなんて希望であり問題の種なんかが現れちゃってね。一部の人たちには刺激になって研究意欲や開発魂にブーストして良い結果を出したりしているんだけどね。今、生きている私たち人類には手に余るテクノロジーがあったりしてね。問題事も多いんだけど…今の所、いきなりブラックホールが生成されて人類滅亡とか手違いで異次元空間にランダムジャンプとか絶滅危機になりそうなのは無いので安心なんだけどね…私の…今のところ特に懸念事項は都市間のパワーバランスの問題が……ねぇ?」
深いため息のあと気を取り戻すように息を飲み込み、サラは凛とした口調で語り始めた。
「さっきも話したけど私たちの生活が都市のオーバーテクノロジーに依存しているってのは把握できたでしょ?」
携帯端末を弄り、空間ディスプレイを呼び出して視覚情報を交えながら次の説明を始めてくれるようだ。
「粒子エネルギー炉、物質生成、艦船生成、様々なAI、自動工場、資源自動管理、など……人がこの世界で生きる為のすべてを統括管理しているのが都市マザーAIでね。基本的な部分は人が治めているけど根っこはゆるやかなAI統治が敷かれているの。ファンティアは中央制御都市管理AIなんだけど。他所じゃ分散型処理地域AIなんかもあるんだ。実質はAIによる支配…とまでは言わないけど、AIによって生かされていることは認めなければならない状況なの。特に意識しておいて欲しいのは重要な技術はギフトによって変化したりする可能性があるって事。たぶん…本当は人の手に負えない物で生かされて……AIによる統治で人々に間違いが起こらないように管理されている…とは言ってもウチのAIさんは人の自由意志を尊重してくれているから、そんなに堅苦しくないんだけどね。ファンティアのAIは人に優しいから…ウチのAIの方向性としては自由主義ってのがあってね、それが都市住民に合っているのか上手く都市として成長しているの。そんなんでも他の都市とは問題が色々生まれちゃうわけで。まぁ私の仕事が増えるから良いんだけどね」
「なんかサラさんの趣向バナシも入っているようですが……面白いから良いんですけどね」
「あぁ、ごめんごめん。気が抜けて話が脱線しちゃってるね。ムサシたちが相手だとリラックスしちゃって。クリスモいるから難しい話も楽できてね。イケナイ、イケナイ……ええっと、そうね、あと話しておかないといけないことは……うん。これは話さなきゃね」
気が緩んでいた様子のサラはまじめな顔をしてムサシに視線を合わせる。その様子にムサシは大事な話が来ると身構えた。
「ムサシにギフトの事を秘密にしていたのはギフト育成計画が他所に漏れない事を重視している都市AIからの命令ってのが一番の理由なんだ。ギフトによる変化が都市間や各勢力の戦力バランスを急に崩すかもしれない、強大な力が突然に現れると利用しようとする者や様々な思想で争いに発展する、そう言う事を懸念してるの。ギフト持ち本人が暴走してよくない結果になるケースも多かったの。精神的に未熟な者には不都合が発生するシステムにでもなっているかのごとく不幸な結果になる。統計的にも結果がでているの。なので不適合者はほぼ支援無しで平穏に普通に生活してもらっている。お互いにとって都合が良いからね。それらを見極める為に観察者を配置してギフトを育てる資格があるか検討していたの」
言い終わるとサラはまた端末を操作していた。
「ちょっとゴメンネ。そろそろ呼ばなきゃいけない人たちを呼ぶね」
操作しながらサラはムサシを見つめる。
「でね、ムサシの場合は外で自由に生きてもらう方が良さそうだと判断された。外の世界とかに好奇心旺盛の様子だったしね。都市としても支援はするし。期待しているから支援チームも良い人材を揃えている。私としてはムサシにはハンターになって欲しい。 でもねムサシには別の道も用意している」
短い沈黙の後にサラの強い言葉がムサシを襲う。
「壁の中で平穏に生きるか? 世界丸ごと味わって生きるか選択して欲しい……」
ムサシはその剣幕に負けずにしっかりとして口調で答えた。
「既に決めてます。ハンターになる。ハンターになります」
「安全に平穏に都市で暮らせるんだよ?」
「こぉんな面白いもん知ってさ、ここで終わりなんて我慢できないですよ。なにより戦艦乗りになりたい。危険に関しては経験を積んでいきゃ、ある程度は緩和できることも理解したし。それに死ぬときゃ死ぬだろ? VRんなかで思い知ったぜ。そう言うモンをひっくるめて判断した。生きてるだけで幸せなのかもしれない。でも俺は知ってしまった。夢もできた。あとは前に進むだけ、俺はそう考えています」
ムサシは静かに息を吸い心に決まっていた言葉を選び、声に出した。
「俺は戦艦乗りになる」
サラはクスッと笑う。
「えっとハンターね?」
「おっと失礼、ハンターにもなります」
これには珍しくクリスも苦笑していた。
「なんだよ、クリスまで笑っちゃってさ……」
「すまない……」
「だいたいさ、サラさん? 俺がハンターにならないって選択をすることはなっから計算に入れてないでしょ……」
「その辺は都市のAIでも推測があったし。アミちゃんからの報告で確信もあった。だって軍艦に対しての思い入れが凄いんだもの。これは断らないなと……思うわけよ」
サラは微笑を見せて思わせぶりな事を言った。
ムサシはバツが悪そうに自分の頭をクシャクシャしていた。そうしているとふと違和感を覚えた。いや違和感を抱かないようにしていた。自分を騙すように心の奥に仕舞っていた言葉を出そうとしていた。
今こそ声に出して良いのだろう……そう思った。
「?! もしかしてさ、アミが観察者だった?」
ムサシがその言葉を発すると同時に扉が開かれた。
「で、わっ! その観察者さんたちをご紹介します」




