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歩行戦艦ビーケアフォー 絶対対艦歩行主義  作者: 深犬ケイジ
第4章 じゃじゃ馬ならし

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第53話 殺意の波動

 行軍が終わり訓練艦鹿島に揺られて帰路に着いた。また犬たちがいる訓練施設に戻ることができるのかと思うと嬉しくなる。


しかし、疲労はピークで艦の休憩室ではぐったりしてうつらうつらとしていた。そして、いつの間にか眠ってしまった。無理やり起こされ寝ぼけた頭で艦を降ろされた事までは覚えていた。


しかし、自分の部屋まで移動したことは覚えていなかった。目が覚めると見覚えのある部屋だったが違和感を覚えた。清潔な柔らかなベットで脳裏に浮かぶのは行軍が本当に終わったんだ。もう歩かなくていいんだという気持ちが一番大きく、ほっと胸を撫で下ろした。


そして大量の犬たちに囲まれていることに気がついた。犬たちは静かにベットの横で思い思いの格好をして過ごしていた。犬たちは尻尾を振り俺に飛びつきたいのを我慢しているようだった。


おいでと合図をするといつもの如く、もみくちゃにされた。歓迎されていることが無性に嬉しく思えた。顔中を舐められモフモフの毛を飽きるまで楽しんで何時もの訓練服に着替えた。


「おぉ、そうだそうだ。たしか、今日は丸一日お休みだったはずだよな…私服で良いんだったな。ゆったりした服も用意されているしこいつにきがえてっと。なにしよう…あぁ、そうだ体を休めなきゃないけないな」


おぼろげに帰還途中に鹿島のシャワールームで説明された事を思い出していた。大抵の者は行軍で疲れて帰還中にすぐに寝てしまう等の配慮から、目が覚めているうちに通たちする。これが行軍後のお約束だそうだ。


一人分の仕切られた個室のシャワールームにて機械仕掛けの味気の無いお世話様ロボットから淡々と繰返し説明された。熱いシャワーを浴びながら、身体を拭きながら、衣類を着ながら、繰り返しの通達にウンザリしながら…おかげさまで寝ぼけた頭にもちゃんと記憶として残っていた。


用意されていた衣類に着替え、トイレに行き様を済まし、朝の身支度し終えて、犬たちをあやしているとアミから通信があった。


「ちょっとお邪魔してもいいかな? ハッキングフィンガーして欲しいんだけど」


「はぁ? ちょっと待って? ハッキング?  」


「ムサシのピカッて光るアレだよ」


「あぁ、あれか? っていやよくわからん。何を言っているか全然わからん」


「もぅ起きて着替えてるでしょ? バイタルセンサーでわかってるんだからね。そっち行くからちゃっちゃと用意しといてね」


そう言って有無を言わさずに一方的に通信が切られた。程なくして予告通りアミが現れた。


「さぁ、さっそくグラップリングフックにハッキングフィンガーかましてみて」


「なんでだよ? 意味がわからない」


「後でわかるから? いいから、いいから」


「ポンポンとブッ放すなって、AIのなんとかさんに言われてるんだよ? 名前忘れちまったよ。それにあれやると凄い疲れるんだよ?」


「訓練終わってるんだし、今日はお休みでしょ? つべこべ言わないで、さっさとやる!! 鬼教官モードに戻ってもいいんだよ? 」


アミの目が妖しく光った気がした。「ハイワカリマシタ…」


あの目にはどうも弱い、俺は大人しく従う事にした。


「とは言っても。ハッキングフィンガー? あのワザって都合よくできるのかな? 俺さ、意識して使ってないんだけど? 」


「なんとなく様子からそんな感じかなとは思っていたけど…やっぱりそうなの? 」


「あれな、気持ちがブワーって盛り上がったり、必死になると無意識でやってた気がするんだけど」


俺はそう言うと。テーブルの上に置かれたグラップリングフック一式に手をかざしていた。


「こうかな? えっと、ハァッキングゥフィンガーァ!!」


手をかざし叫んでみたもののウンともスンとも言わない。


「あるぇー? フィンガー!! もぅ一丁!! フィンガー!! あ、駄目だこれ 」


「そうかそうか、ムサシ、必死にならないと駄目なんだったね。ちょっとまってねぇ」


そうネットリと絡みつくような嫌な雰囲気で言うとアミはゆっくりと俺の背後に近寄って来た。


「後ろに回るよ。気にしないでフィンガーを出す事を意識してて」


「お、おぅ」


背後に立たれて、全身の産毛がゾワゾワしていた。背筋に冷やりとしたものを感じる。


「さぁ、ムサシ。ハッキングフィンガーをやろうか? やらないと…そうだね。地獄の訓練を用意しようか? そいれとも実践式の格闘訓練にしようか? 何がいいかな?」


気がつくと首筋にナイフが当てられていた。金属の冷やりとした感覚が皮膚から伝わってくる。


「ナイフバトルとかまだ教えて無かったね…ムサシには必要ないかなと思ってたけど…経験しとくのも大切だよねぇ」


その声はとても冷えた何かを纏っているようだった。首からナイフは離れ、背後にたったアミは別種のモノに変化しているようだった。


「ハッキングフィンガーしよっか? ホラ、ハッキングフィンガーって言ぃなよ…」その声はどす黒い何かでできていた。


「ハィワカリマシタ」アッこれヤバイやつだ。思考が恐怖で一杯になる。逆らってはいけないと心の底から思ってしまう。


「ハッキングフィンガー」「もっと大きな声で」「ハッキングフィンガー」「声が小さい」「ハッキングフィンガー!! 」「ヤル気ないね? 少し本気だそうか? 」


突如、大きく何かが弾けた。背後から途轍もなく異質な気配を感じた。先程とは比べ物にならない冷たく凍てついた気配だ。その気配はアミから放たれた殺気であった。その事を理解したのはハッキングフィンガーの光が輝くのと同時であった。


激しい光で部屋が真っ白になった。氷のナイフで心臓を刺されたかの様な感覚に襲われる。心臓がバクバク言って自分の脈がわかるぐらいだった。


「ハッキングフィンガーって言わなくてもワザ出せるんだね。やっぱり、やればできる子だよね、ムサシって」


「その、えっと、なんか、めっちゃ、怖かったんです…なんか、パァッて頭の中に電気が走って!! 勝手にハッキングフィンガーが出てました…」


俺はチビッタ気がしたがお漏らしは無かった。人の尊厳は守られていた。朝一で済ましておいて本当によかったと思った。


俺はガクブルして肝を冷やして立ち竦んでいた。犬たちなんかは部屋の片隅に身を寄せ合って怯えて小さな振るえる塊になっていた。


「ありゃ、殺気を出しすぎちゃったかな? 怖くないよーほらー、おいでおいで」


数分間は犬たちは怯えていた。怯える目でアミを眺めていた。しかし、流石は訓練された犬たちであった。一通りの警戒をし終えるとアミに歩み寄り、危険が無い事を確認していつも通りの犬たちに戻った。


「ここのワンちゃんたちはこれぐらいじゃ凹まない様に訓練されてるはずなんだけどなぁ…戦場帰りの憔悴しきった人や恐怖におぼれて狂暴になった人を癒すために、ちょっとやそっとじゃビビら無い様にって……」


なにか恐ろしい事を言っている様子だが俺は無視した。いつもの優しいアミがそこにいるんだが別のものにも見える気がした。


「そんなねぇ? アミさん、無茶言わないでください……死神でも現れたのかと思いましたよ? ぼかぁねぇ、殺されるかと思いましたよ? 」


「だって、必死にならないとフィンガー出せないみたいだったし…まぁ、いいや。依頼は終わったし、アリガトね」


「で、なんだったのこれ? 」 


「あとで教えるからさ。呼び出しあるからそれまで休んでてね」


「お、おぅ。わかったよ」


そう言うとアミはハッキングフィンガーをぶっ放したグラップリング装備を持って部屋を出て行った。


「いったいなんだったんだ? それにしても、おっかなかったなぁ……」


残されたされた俺はベットに座り犬たちに癒されて精神の安定を行った。だって、アミの殺気がメッチャ怖くてトラウマになるかと思ったんだ。ぶっちゃけて言ってしまうとVRにおける戦場の恐怖なんかより、アミの冷徹な殺意の方が怖かった。鋭く冷たく、かといって電気を食らったようなビッリっとした感覚。今思い出しても身震いしてしまう。あんな殺意を向けられるのは心底御免だと思う。


身内と思っている普段は優しい女の子にビビッてしまったが忘れてはいけないアミは凄腕のハンターかつ泣く子も黙る鬼教官である。萎縮してしまったことは認めねばなるまいがこれも仕方の無い事だ。むしろ殺気を把握できるようになった事を良しとしよう。そう思うことにして精神の安定を計った。好都合な事にここにはトラウマバスターの犬たちがいる。堪能させてもらおう。


心底、犬たちが本当にありがたく感じる。VR帰りも思ったけど犬の暖かさが心を癒してゆく。そうやって呼び出しがあるまで、俺はつかの間の癒し空間を堪能した。

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