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歩行戦艦ビーケアフォー 絶対対艦歩行主義  作者: 深犬ケイジ
第4章 じゃじゃ馬ならし

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第52話 行軍終了

 終わりの見えない行軍にウンザリした。気合を入れるために色々と思考をめぐらせた結果、歩行戦艦のことを考えた。そうする事でネガティブな事を考えずに気持ちが楽になる気がしたからだ。


効果は絶大だった。とどまる事を知らぬ大暴走!! 妄想に妄想を重ねてわけがわからなくなる程だった。 ヒートアップし過ぎたことを自覚して醒めやらぬ気持ちを何とか押さえようと試みた。しばらくしてから精神は安定を取り戻しつつあった。


はぃ、深呼吸、深い呼吸。スーハースーハー!!


歩きながら何度か深く息を吸って吐く。そうやっていつもの自分をなんとか取り戻した。


心に余裕が出来ると落ち着いて周りを認識できるようになる。すると自分以外の呼吸音に意識が向いた。


小さく小刻みなリズミカルな音だ。おそらく後ろのアーニャだ? 時折リズムが乱れることが気になる。


ちらりと後ろを確認してみるとアーニャが苦しそうにしていた。その後続のクリスも表情から辛そうであった。


おれ自身は疲労しているが体力に余力がある。握りこぶしを作ってみると問題なく出来た。足腰も踏ん張りが利く。まだ何とかなる。無理が出来ると体が言っている。そして彼女たちをフォローしなくてはと思った。彼女たちの荷物を軽くし負担を軽減しよう!!


先導している行軍監視用のヴアリアブルフレームに確認する。仲間の荷物を俺が代わりに持つ。こいつは問題ないか? ムサシの問いにAIが答える。問題はないとの事だった。一旦、行軍を停止して仲間の不調に対応する。


重量調整する事を彼女たちに伝える。ナギに目配せをする。ナギはクリスの面倒を見れるかと? 意図は伝わったようでナギはそっとサムズアップをして答えた。ナギは工作や整備系のサイボーグ体なので、多少の重量物は軽々と持ち上げ作業が出来る。


それに比べクリスは調査や研究等で使われるセンサーや研究に適している機能を持ったサイボーグ体だ。その差を理解していたムサシは適切な重量配分を指示する。元々無理が来る前に重要調整を行うつもりではあったが彼女たちの意思を尊重して提案を我慢していた。息が上がった事を頃合と思って調整を実施したのであった。


アーニャは一度断ったがムサシは説得した。まだ先が長い、俺たちはチームだ。余裕がある奴が荷物を持てばいい。アーニャが大丈夫そうなら荷物を返すからと言ったら彼女は仕方なさそうに承諾した。俺たちはそれぞれ手分けして荷物調整を行った。


ナギとクリスも俺たちと同じようなやり取りをしていていた。なんだか似た者同士のやり取りに思えて仲間内で笑みがこぼれた。


重量調整を終えて具合を確かめると具合が良かった。荷物は増えたが重量バランスを整えたので問題なさそうに思えた。本当に余裕が出てきたのだろうか増えた荷物の重さがあまり苦痛に思えなかった。


「ナギお前の荷物少しこっちよこせよ。俺、まだ余裕あるよ」


「アタシはまだ平気だよぅ。それよりさ。足止めちゃったじゃない? 足止めちゃったら次ぎ動きだすのしんどいくない? アタシ、正直キツインデスケド…」ナギが片言で提案をしてきた。


「「あ…」」俺以外は疲れがどっときているようであった。ナギの意見はもっともである事は彼女たちの顔を見れば明らかだった。


「もうちょっと、休憩しよっか」


仲間たちは木陰を探して体を休めていた。疲れが溜まっているのだろう。顔に陰りが見える。


自身の体調を確認する。疲れてはいるが少しだけ回復しているような気がする。


水を補給してリラックスする。数分後、仲間たちを伺うと疲れてはいる様子だが彼女たちの目に力が宿っていた。お互いに体調を確認するとムサシたちは行軍を開始した。


休憩後の一歩が辛い。また歩き出す。だが歩き始めれば何とかなる。この感じは何回目だろうかなと思うと不思議な笑みがこぼれる


ひたすら歩く。睡魔に襲われながらも歩く。己の限界をギリギリで歩く。本当に駄目になる前に休んで行軍する。これを飽きても何度も何度も繰りかえす。


ある時、不思議な感覚に襲われる。体の中に強烈に光が刺すような感じがした。限界を突破したのか何らかの覚醒をしたのか? 体が慣れてきたのか? 理由はわからないが体の調子がすこぶる良い。


精神的にも疲れて果て淀んでいた思考が段々と冴えてくる。自分が歩いている方角、距離や時間の感覚も安定してきた。周りの風景に目を凝らせるようになった。仲間の体調もより気遣うことが出来た。


調子のよいナギに先導を任せてムサシ自身は最後尾に着き仲間の歩みを見守りながら歩く。


仲間の歩みを見守りつつ行軍を順調にこなす。辺りの環境の変化に意識を配る。森林帯を抜けたのか辺りの木々の背丈が低くなってきていた。鬱蒼とした木々の間をすり抜けるような小道を機械の先導者に従い進んでゆく。


森を抜け、広々とした空間が目に飛び込んできた。目の前にパノラマに広がる低い草が生えている小高い丘があった。その丘にはダラダラと続く長い赤茶けた坂道が頂上まで続いていた。自然とそこを目指す事を理解する。こいつを登るんだろうなと…


これから登るのかと思うと長く続く坂道が余計にきつく感じる。登り始めてすぐに心臓破りの坂になる。舐めていた訳ではないが限界突破しているの体にはやたらとこたえる。仲間の進むペースが遅くなる。彼女たちの体も限界を通り越しているのであろう。


しかし、遅くとも歩みを止める気配が無い。彼女たちも訓練で自分の限界を理解している。やばくなる前に休憩するはずだ。彼女たちを信じてひたすら登る。ゆっくりと確実に頂上を目指す。


頂上に人影が見えた。こいつでラストだ。気合を入れろ!! これはアミの声だ。凄く懐かしく感じる。そいつを糧に最後の気力を振絞り坂を登る。仲間たちも最後の力を振絞っている。心なしかペースが上がったように思える。


少し距離を開けられていた。息が上がるが足元を見て一歩一歩、しっかりと焦らずに地面を踏みしめながら坂を登る。もう、ゴールを見るのが辛い。永遠に坂道が続くように思えていた。歩みを止めずに自分のペースに集中する。


しばらくすると地面が平坦になった。顔を上げると仲間に監督が労いの言葉をかけていた。


頂上に着いた事を理解した。イサム監督が厳しい面持ちがあった。辺りを見回すと現在地より高い所はない。岩肌が露出する乾いた環境だった。そして、とても気持ちがよい爽やかな風が吹いていた。


訓練終了だ。イサム監督がそう伝えてくる。


「お前たちが最後だ。そしてムサシ!! いや、流石だ!! アンカーマン。一番最後になるとはな…粋な真似をしてくれる。ご苦労!! ヨシ!! 向こうで休んでいろ」イサム監督から言われた。行軍最後の者はムサシであった。


何か答えようとするが口が動かない。呼吸を整えることしか出来ない。体は酷く重い。


アミが駆け寄ってくるのが見えた。


「ムサシ、メディカルチェックをするけど向こうまで歩ける? って無理だよね。アーニャ、クリス、ナギも…駄目か。ま、良くやったよ。お疲れさん。んー、タンカは必要ないかな? うん。衛生兵!! 彼等をメディチェックまで連れて行け」


疲労で動けずにいたムサシたちは救護メイドに支えられ連行された。


救護メイドに連行されていくと坂を上っている間は見えなかった丘の頂上を越えた先が見えた。広場になっており、救護テントや車両が並んでいた。そして先についていた訓練生たちが地べたに座りこんでいるのが見えた。


顔は汚れ、体力も極限に達しながらも、喜びと感動で涙するものも多く見えた。


その間をメデカルチェックのスタッフや救護メイドロイドがせわしなく動いていた。


俺たちも最後の力を振り絞って救護メイドに支えられながら移動する。


救護テントが張られた一角、検査場所に着くと荷物を降ろして身軽になった。体に食い込んでいた重量が無くなる。その解放感は格別だった。まるで羽が生えたようにも思えた。そこからは医療スタッフの言われるがままにメディチェックを受けた。検査を受けながら他の連中の話を聞いた。


俺たちの後ろにいたチームは全て途中でリタイアしていたそうだ。ちなみに猪肉が原因ではないので余計な心配をしなくてよいと諭された。純粋に疲労やトラブルによるリタイアであるそうだ。その事を行軍が終わった開放感共に聞いていた。残念だが仕方が無い。よくあることらしい。


数分後に検査が終わったことを医療スタッフから告げられる。そうして行軍が終了した事を改めて理解する。仲間内の検査はムサシが最後であった。周りを見回して仲間を見つけ近寄っていく。


ナギ、クリス、アーニャを見ると薄汚れた酷い顔だった。きっと自分はもっと酷い顔をしているんだろうなと思う。ナギは感動で泣き出し、それをクリスが潤みながらもなだめていた。アーニャは放心状態で頬に一筋涙が流れていた。終わったよ、これで終わりだと静かにないている様子だった。


やり遂げた感動を皆と分かち合いたかったがその様子をしばらく眺めていた。行軍をやり遂げた感動で目頭が熱くなっていたが仲間の顔を見てしまうと急に冷静になってくる。目も潤んでいたはずだがいつもの状態に戻っていた。


少しは格好をつけたい欲が出てくる。リーダとして多少は威厳がついてきたのかもしれない。仲間を労う余裕も出てきたが気の効いた台詞が出てこなかった。口ごもっているとアーニャがムサシが現れたことを察知して駆け寄ってきた。


そのままムサシの胸に飛び込んできた。ナギがそれに気がつくと右腕側に駆け寄ってきて抱きついてきた。左手が余っていたのでプラプラさせていたがクリスがこの様子を眺めていたのでなんとなく空いている手でおいでおいでをしてみると。彼女は少し複雑な表情をしてたたづんでいた。


そのうち何か観念した表情をすると、静かに近寄りムサシ左手側に寄り添った。ムサシたちは最終的にアーニャを取り囲んで円陣を組むようにハグをしていた。そうして自分たちを称え行軍が終わった事を仲間内で何度も確認する。その儀式めいた行動を十分に堪能すると円陣を解いた。そして膝から崩れ落ちた。皆へたり込んで座っていた。


だが、ムサシだけは立ち尽くし、遠くを見つめていた


雄大な大自然が目の前にあった。緑深い森がある。遠くには蒼い山脈が続いている。


視線を落とすと丘の下に練習艦鹿島が見えた。


鹿島の姿は訓練の時と同じではあったがやけに輝いているように見えた。とてつもなく綺麗でオーラを放っていて、そしてまぶしい。その淡い光の粒子のようにも見えるオーラはムサシを魅了した。


鹿島は礼砲を放つ。腹に響く衝撃音が数回発生する。その音にムサシは癒しと喜びを感じていた。


そして再び不思議な感覚を覚えた。視野が広くなった感覚を覚える、それでいて遠くの物が見える。辺りの風景がやたら綺麗に見えた。蒼くそびえる山脈や雲の隙間からの日差しの美しさがとても尊く感じた。また遠くの小鳥の羽ばたきや水のせせらぎの音すら聞こえる気がした。


その感覚に呆けているとアミが近寄ってきた。鬼教官のアミの表情ではなく俺と始めて会った時の柔らかな表情だった。


「ハィ!! 調子はどう? あれ? 何をぼーっとしてるのさ? おーい! ムサシ? ハロハロー? どうしたの? 大丈夫? ムサシ?


「あぁ、アミか…この世界ってスッゴイ綺麗だったんだな。空気もやたら美味いし。俺、なんでこんなことを知らなかったんだろうな、なんだか…何もかにもに感謝したい…」


「本当にどうした?


「ムサシが壊れた!!


「んぁ?」


「どうした?」


「ねぇ、ムサシ?」


仲間たちがムサシを気遣う。


「なんか世界が綺麗とか言い出したんだけど」


アミが心配そうな顔でムサシを覗き込む。


「ムサシ、あなた疲れてるのよ」


クリスが当たり前の事を神妙に言ってくる。同じようにナギとアーニャも心配そうに見ていた。


「疲れてるけど壊れてないって。安心しろよ。大丈夫だって」


ムサシはサムズアップして問題が無い事をアピールした。


「もっかいメディチェック受けようか? ね? ムサシ?」


「あぁ、アミ、何回でも受けるよ。でもさ、もう少しだけ、もう少しだけこの光景を見させてくれ…眺めていたいんだ」


ムサシは練習艦鹿島を、大自然を、世界を眺めていた。あぁ綺麗だ。美しい。なんて美しいんだ。この世界に来れた事を感謝する。ありがとう……。


今なら、どんな事理不尽や不思議な事があっても受け入れられる気がした。


素直にありのままに……なんでも……。

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