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歩行戦艦ビーケアフォー 絶対対艦歩行主義  作者: 深犬ケイジ
第1章 ながされて歩行軍艦
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第5話 過去の悲しき青いトラウマ

テラスから部屋に戻り、机の前まで移動する。


端末を起動させようとするが何か起動スイッチらしきものが見当たらない、操作端末でもないものかと探すがない。


困った、あれこれと手探りしていたら端末が起動した。


「初回起動です、ナビゲーターAIです。チュートリアルを実行しますか? と語りかけられた」


画面上にはナビゲーターとわかる様な格好をした女性がいた、なんか遊園地とかで商業ビルで案内する仕事をして感じ、そんなのだ。


とりあえず、チュートリアル長いのかな? とつぶやくとその女性がそれほど長くありませんと答える。


「じゃぁ、はじめてくれ」あえて曖昧な指示をだしてみた。


ナビゲーターはチュートリアルを開始した。


何をはじめると正確に言わなかったがナビゲーターはチュートリアルを開始した、賢いAIなのだろう。


自分の居た時代の何しろあれしろと細かく正確な情報で指示を出さなければならなかったAIとはやっぱり違うなと感じていた。


チュートリアルを要約するとナビゲーターは音声入力対応で細かい所まで気が利く秘書の様な機能を有していた。


自分が居た時代の秘書の仕事の様な事はだいたいできるらしい。


チュートリアルの最中も疑問をつぶやけば対応してくれた。


設定変更でナビゲーターの名前や容姿も変更ができ、ジャェスチャー入力や起動、音声起動など色々と設定できた。


あらかた説明が終わると簡易説明を終了します、とナビゲーターは言う。


次回、起動する時にまた手間取るのが嫌だったので、起動方法の音声式にした。


とりあえず、ナビ子ちゃんと名づけた、容姿はこのまま。


ちなみに起動スイッチは側面の角を触ればよかった、ナビ子ちゃんが教えてくれた。


ナビ子ちゃん気が利く。


ひと息ついたのでTVが見たかった、朝のニュースが見たかったのでナビ子にお願いした。


「もうしわけありません、要望するニュース番組はありません、TV放送がないのです。代わりに市長の連絡掲示板を見ては如何でしょうか?」


ナビ子さんが提案してくる、やはり凄いAIだ。


感心していると唐突にいやらしい事を思いついてしまう、ほんとうに唐突で自分でも呆れる。


が興味が出たのでしかたがない、うん、仕方がないよな。


だいぶ余裕が出てきたな自分……


「それも見たいが……」俺は格好がいいポーズをとり、イケてるボイスで「君のセクシーな姿が見たい、熱いヤツだ!!」


ナビ子は少し考えると「少々お待ちを」と言って画面の端に移動しそのまま消えて行った。


俺は期待に胸を膨らませ、自分が想像する素敵な光景を描いて待った。


気が大きくなり、体も大きくなったような気がしている。


俺は高校2年生、受験に向けて夏の強化勉強シーズン真っ最中だった、そんな事を思い出していた。


表面ではエロ事が好きなのを隠して、裏ではむっつりスケベ、女の子をエロい目で流し見しちゃう


ちょっと硬派なのが格好が良い、そんな気質だ。


オープンスケベに至る度胸も覚悟もない恥かしがり屋な、そんな高2の夏が最後の記憶だ。


しばらくして、テニスウェアを来たナビ子が出てきた、健康的なテニス女子だ、なぜか少し汗をかいているように見える。


何か引っかかる事を感じた、俺のエロセンサーが、何かを発見した。


ナビ子はテニスラケットを持ち、神経質な様子でラケットを弄っていた。


おもむろに素振りを始めた、2回、3回、真剣にラケットを振る。


俺のエロセンサーは健康的なエロを受信した。


「そう、もっと強く!! 早く振るの!! 諦めない頂上に立つ為に!! 勝つために!!」


動きながら息を吐きながら言葉を放つ。


俺は対照的に静かにセンサーに感アリ!! 高エネルギーだ、と心の中で呟いた。


振り続けるナビ子、カメラは徐々に近づく、カメラが変わり顔のアップや肩や手、また全身に戻る。


「諦めない、もう少し頑張るの!! どうしても先へもっと先へ!! ダメダメダメ諦めない、こんな所で挫けない!! 」


インパクトの瞬間にセクシーカメラショットに変わる、またカメラが変わりスカートの部部がアップになる、正直、実に艶かしい。


「みんなが応援してくれてるの!! 自分に負けちゃ駄目!! あと!! あと少し!! もう少しでたどり着けるんだから!!」


最後に画面外からテニスボールが出てきて激しく打ち込む、自分の見ている画面から飛びでてくる、そんな勢いだ。


急に先ほどのナビゲーターの格好に変わりバストアップのナビ子に変わる、口調も淡々とした先ほど感じだ。


「ご満足いただけたでしょうか? ご要望に沿えると思える形で表現いたしました、別の趣向になりますと、その……」


少し困ったような顔をするナビ子だが。


「おそらく本当にご要望される姿となりますと、申請が必要になります」


俺は無言で一本を立てる、そしてイケボイスで告げる。


「申請する!! まごう事なき申請を!!  のぞむ申請する!!」


「市長に申請いたします、少々お待ちください」


「待て待て柄って待てって待て待てよお前、待ってください」


俺は一瞬であの綺麗なお姉さんに、市長に知られるのを止めた。


そんな恥かしい事は御免だ。


そして前の記憶が強烈に思い出された。




一人で静かに、誰にも知られず、自由に、エロに救われなきゃ駄目なんだ。


孤独に緩やかな、でも静かに興奮しながら、充実して、満たされて……




冷凍睡眠される前の記憶。


中2頃だった。


エロ関係は親の絶対包囲網により見ることが出来なかった。


漫画のお気に入りグラビアでさえ見つけられ次第捨てらていた。


当然、俺は親にネットの閲覧制限をかけられ、エロい動画も見れなかった。


俺、エロいのに。


唯一、手に届くエロの象徴が古き、麗しいエロ本だけだった。


何度か買いに行こうと思ったが隠し場所も見つからず二の足を踏んでいた。


ある時、友達と冗談を言い合い、たまたまエロ本の話になり、こいつエロ本持ってないんだ、ダサいんだぜ。


友達にからかわれていた。


エロい癖に、想像だけでさ、格好悪い。と言われ頭にきていた。


実際に持っていなかった、興味はあったが買う度胸がなかった。


その事もあってイライラしていた。


俺は少しでも格好を付けたかった、何が格好良いのか理解もしてないが中2特有のアレでコレな気持ち、何か負けた気になってエロ本ぐらい持ってるさ。と言ってしまった。


そう、間抜けな自尊心を満たす為に嘘をついてしまった。


直後に、じゃぁ、お前のエロ本持って来いよ、ハッパをかけられた。


友達のお前には出来無いだろ。この腰抜けがと言わんばかりの言い方に腹を立てた。


後に引けなくなり、その夜に決意を固め、遠くのコンビニにエロ本を買いに行った。


足が付かないように仮想通貨のカードは使わない、現金、札を持った。


前の世界では未成年が色々余計なものを買わないように規制されていた。


目的地に着き気持ちを切り替える、映画で見た敵地進入工作員を心に宿す。


コンビニのおっさん店員がレジにいる事を確認する。


この地域のコンビニ情報はすでに調べている、抜かりはない。


悲しいかな買う準備は前々から行っていた。


他の客がいない事を確認し、駐車場もゼロ、店内に入る、自然にだ。


ほんのコーナーで目星を付ける、新たに車で来る客もいない入念に確認する。


店員のおっさんがレジに居る、ときおりこちらを見ている、エロ本コーナの位置に俺は居る。


視線を感じる自然な感じにだ、やつもプロだ。もう俺はエロ本を買う客として見られているだろう。


さりげなく店内を見渡す、さも何か他のものを探すように…


客は俺だけだ、千載一遇のチャンスが到来した事を確信して動く。


高鳴る熱き、若き衝動を胸に、夢見るアルカディアを、ユートピアを、新大陸を発見する直前の探検者の期待に溢れる心持を抱き


万が一、他の客の来襲に備え、週間のマンガ雑誌を2冊とり、エロ本取る、そして間に挟む、財布から現金を取り出す。


用意はできた。


もう一度、店内と店外を確認する。行ける、今なら、行ける。


慎重な足取りでレジに直行する。


全体を見渡せる様に警戒しながら出入り口から遠い奥へと回り込む。


じいちゃんが言っていた、ここぞと言う時は慌てず急げ!! 心でつぶやきながら、ついにレジへ、すぐたどり着く!!


前を見るとおっさんは何かを察したらしく無言でうなづく、優しい顔だ仏様の優しさだ!!


手には普通のレジ袋ではない厚紙の袋、中が見えないやつだ、それも大きめのものを用意している。


あなたは神か!! マイゴット!!


もう少しでレジに着く、直線であと数メートルだ。


周りに客がいない事を再確認して、出入り口に客の気配もない、俺は勝利を確信した、勝った!! 心でつぶやく。


手は少し汗で湿り、気持ちは勝利を確信し、探していた財宝を苦労の末に発見したサルベージャーの様な快感を感じていた。


唐突に女性の声がした。


「店長ーッ!! これもうやるのやだ!! あたし事務仕事苦手なんですよー、レジやるから変わってください、ホントお願いします」


凛とした透き通る、さながら夏の避暑地の清流と林の間を流れるそよ風の様な声がした。


俺は声に気をとられるも目的を思い出した、そんな事では俺は戸惑わない、日本男児はとまどわない!!


「お客さんちょっとすいません、あぁ、うん、チョット待って、今ね、会計してるから、終わったら、すぐ変わるよ」


ナイス、神様!! ありがとう神様!! そうだ、このまま、会計すれば何も問題はない、何も問題はないんだ!


もし、ここで店員交代があればさよなら逆転負け、俺は敗北者だ。


薄氷の上に立ち恐れる、割れれば極寒の水の中へにだ、神様に目で合図して、静かに会計を促す。


風の如くに素早くブツを渡し、林の如く静かに現金を渡す、商品スキャンの間は山の如く動かず、火の如くブツを回収する、影の如く誰にも知られずに去り、雷鳴の如く激しく素早く離脱する。


プラン通りすれば何も問題はない。俺と神の連携があれば問題はない。


「うん、すぐ会計しますね、すいませんお客さん」


神様は俺の味方だ。


「店長、そうやってめんどくさい事、いつもあたしにやらせる、騙されんぞ!!、こないだの貸し、今返してください。それともあれ、バレても良いのかなぁ?」


小さい声だったが聞こえた。


「っ…… それは止めてくれ」 神様は高い店員用の声を変え、深い渋い地声になった。


おっさん、早く会計してくれ、はやぐぅ!!


「もー駄目、チェンジ、」


神は残念そうな悲しい目をした、そして深く静かにつぶやいた。


俺の時間が緩やかになり静かな時間が流れる、本来は数秒だが、とても長い長い時間だった。


「すまない、ほんとうにすまない、お客さん、すまない」


使えない神は言う、最後の方は搾り出すような声だ。


だが、まだワンチャンある、綺麗なおねいさんなら精神的に大ダメージ、だが男の扱いを知る老練のおばちゃんだったりすれば、ダメージが少ない、むしろそれはそれで救いだ


声の綺麗なおばちゃんだって世の中には存在する、まだ諦めない。


悲しい目をした神様はスキャナーを置き、静かに奥へ引っ込んでいった


その足取りを目で追う、鼓動は高くなり嫌な汗が頬を伝う。


出てきたのはお嬢様系女子高に居そうな、長い黒い髪を纏めた、綺麗目メイクが映える、はつらつとした美少女が居た。


俺は放心状態だった。個人的にはドストライクなんだが違うそうじゃない、今じゃない、今は駄目なんだ……


お姉さんはひとつ目の雑誌をスキャンする。


諦めの境地が訪れる。今なら逃げれば、どうとでもなる、しかし、男の意地がある、負けられないんだよ、男の子は!!


お姉さんはふたつ目の漫画雑誌に挟まれていた本を手に取る。


すると気が付いたようだ、ほんの数秒だが少し手が止まる。


長い時間に思えた。


お姉さんはすぐにスキャンする。


むなしくスキャンの音が店内に響く。


あぁ、気づかれた、きっと気が付いた。


そら分かるだろう表紙はドエロイ単語と女性が印刷されている。


恥かしい、顔から火が出る、どうしてだ、作戦は完璧だったのに……


よりによって、一番最悪のパターン。


店員の綺麗なお姉さんからエロ本を買う、これがご褒美の業界もあるんだろうが、知った事か!! 俺はそこまでレベルが高くない。


ムッツリ全開の多感な高校生だ。


この時間 このコンビにはおっさん一人だけだったはず


みっつ目の雑誌がスキャンされる。


三冊を袋に入れている、丁寧な仕草でしっかり掴んで漫画雑誌を袋に入れる、エロ本はつまんで袋に入れてる。


おねいさんは値段を言う、正直、なにを言っているかわからない、俺は頭が回っていない。


現金を渡す、顔なんて見れない、下をむいたまま、渡す、恥かしくて耳が熱い。


お釣りを言う、おねいさんの手を見ながらお釣りを受けとろうとする。


手を伸ばして、お釣りを受け取ろうとする。


が……そこにあった光景は無慈悲だった、実に無慈悲な光景があった。


はるか上空から落とされる硬貨、数枚、緩やかに落とされる、時間が加速している。


さながら第二次世界大戦の爆撃機が爆弾を落とす、そんなイメージがあった。


ゾーンに入った、白黒の絶望の世界だ。


ゆっくりと手のひらに収まる硬貨。


しばらくして硬貨が手のひらに全部の硬貨が収まる。


そこそこの枚数だったが硬貨を落とさずに器用に落とされた。


落とす方も受け取るほうも何か天空からの意思があるように……


「お品物です」もの凄く冷えた極寒の言葉の風を感じる、いや、これは凍てつくブリザードだ、経験した事ないけど。


ブツを受け取る。


その刹那、袋に入ったエロ本とダミー雑誌を受け取ろうとするが


あせった俺はお釣りを落としてしまう、カウンターにばら撒かれる硬貨、響き渡る軽い金属音。


舌打ちの音がする。


無駄に反応して顔を上上げてしまった、お姉さんの顔を、目を見てしまう。


その奇麗な顔は何か嫌な虫を見るような、侮蔑の目だ、さげすむ色をしている、深く冷たく、心底、嫌そうだ。


奇麗なだけに突き刺さる、心が折れる、とても冷たい汚物を見る目。


俺は悟る、心を無にする、ここは戦略的撤退、被害は甚大、もぅ逃げるしかない。


プランBだ。


カウンターに散らばった硬貨をそのままに、言う。


「お釣りは募金します」


おねえさんは品物を渡した手をビクッと引っ込め、手を胸のほうに寄せて精神的な防御の体制にになる。


辛い、ただ辛い、いっそ笑い飛ばしてくれ。


奥の方から使えないゴミがしきりに謝るジャスチャーを送っている。


誰のせいでもない、俺の運がなかった……


俺は出口に向かい歩く、しかし、つまずく、不幸は重なる。


本が袋から出る、あわてて拾う。


回収して出口に向かう、もう少しだ、この辛い空間から逃れられる。


しかし、自動ドアが開かない、不幸に回り込まれた。


最悪だ 何もかも最悪だ


ドアの前でもがいているとドアが開き、逃げれた、裏に止めた自転車に猛ダッシュする。


頭が真っ白だ、完璧な作戦に思えた。


最後の大事なピースがハマらなかった。


完璧と思っていた作戦は弱く脆く穴があった。


凄く悲しい、勝負に負けた、TVで見た全力を出し戦ったボクサーが戦い負け、判定で負け崩れ落ちる、そんな気持ちだ。


全力を出した。心が崩れていた。


自転車に飛び乗り、力の限り逃げた。


夜の風は優しく俺を包んだ。


手に入れたエロ本は苦い思い出とともに戦利品になった


友達には見栄を張れた、とても小さな、代償の大きい見栄を。


その後何ヶ月か経つとコンビニは潰れていた。


神だと思ったが、ただの使えないおっさんは脱税してらしい、風の噂で聞いた


あの女性はその後見ていない。


あれが未だに俺の心に残っている、あの恥かしさと悔しさを。


蔑む冷たい目を、あの舌打ちの音を……


幸いにも性癖は歪まなかった、辱めを御褒美と言う別の次元に旅立った男達にはならなかった、いや、成れなかった。


心が成長すればその高みに、頂に上れるのだろうか?


尊厳を持つ勇者達になりたい、心の底から思った。


しかし、あの敗北から、俺はエロを隠した。実質体感で数ヶ月前のだけど……


正直、エロ恥かしさがばれるのがトラウマになっている。


AIだからと油断していた。


パーソナルナビゲーター、プライバシー完全保護とか説明で言ってたのに。


いや待て、通信する前に確認してきたから保護はされているのか……




「申請を一時、中止します、よろしいですか?」


「お願いします、通信しないでください、ごめんなさい」


「承ります、18禁解除申請を取り消します」


ナビ子は淡々と言う。


俺の平穏は訪れた、尊厳も守られた。


この世界は素晴らしい……心の安定をとりもどした。


すっかりアミに連絡をする事を忘れていた。


「メールで連絡したい、出きるか?」


「承ります、音声入力ですか? 手入力でなされますか?」


「選べるのか?」


「はい、恋文を声で入力される事を嫌がる方もいらっしゃるそうで……そのようなデータにありました」


「ありがとうメールついでの連絡確認するだけだよ、口頭で頼む」


当たり障りのない内容で連絡確認のメールを作った。


「まだ、朝が早いので起きていないでしょう、もう少し後の時間で送りましょうか?」


出来たナビゲーターである、実に優秀な気配りが出きる、ついでに少しエロイ。


テニスウェアで感じた爽やかなエロスを思い出すがすぐに気を引き締める。


余裕が出るのは良いがなんかやけにエロイ事が頭に浮かんでしまう、なぜだろうか?


考えても分からないのでひとまず、ナビ子の提案を受入れる。


「よろしく頼む」


「承りました、メールの送信設定を行います。市長事務所に向かう時間は数時間後ですがシャワーでも浴びると目が冴えるでしょう、如何ですか?」


「そう、しようかな、シャワーを浴びるよ」


シャワールームがあるのは知ってた、だが昨日は疲れて服を着たまま寝てしまった。


「外出用の服とかってあったりする? 昨日の着てた服が汗臭いんだ、そのまま寝ちゃってたし。」


「ではクリーニングを致しましょう、数十分もあれば終わります、ドア近くのボックスに入れてください」


そう言うと箱が足元からせり出した、クリーニングボックスと書いてる。


これは便利だ。


脱ぎ箱に入れる、しばらくすると自動で箱が壁に収納される。


見届けるとシャワールームに向かう。


扉を開けると知らない男が立っていた、違う、鏡だ。


それに知らなくはない気が動転したからそう思っただけだ、冷静になって見ると自分に良く似ている、背もでかいし筋肉質だ。


体を動かすと鏡の中の成長した自分が同調して動く。


成長してるんだよな……いい感じに、男前? になってるそんな気がした。


全体的に成長していた、とてもいい感じに全て成長していた。


しばらくトレーニングジムに通うような男達が良くしているポージングをしてみた。


彼らほどムキムキではないが使い込まれた良い筋肉に思える。


すこし、鏡の前でポーズする気持ちが理解できたよ。


きっとピンクの波動、エロい思考が突発的に現れるのはこの体が原因だ、そうに違いない。


これが夢でない事を確認する為、とりあえずシャワーを浴びた。


鏡の中には知らないおっさんが居た。


体はでかくてそれなりに良い筋肉をつけている。


老け顔で間抜けな顔をしていたが自分の顔だと気がつくのにかなりの間が必要となった。


色々顔や体を動かすと意思のとおりに鏡の中も追従した。


数分で考える事をあきらめて現実を受入れた。


シャワーはとても気持ちがよく、これが夢でない事を確認した。そういうことにする。


シャワーを終えて体を拭く、クリーニングは終わり奇麗に畳まれて膝下の高さ位の箱の上に置いてある。


手を伸ばし、服を着る、アイロンまでされている、実に着心地が良い。


塗れたタオルをシャワールームの扉にかけ、端末前の椅子に座る。


すると先ほどの箱から細いアームが出てきた、シャワールーム前に移動するとアームが伸び、先端がふたつに開く。


扉に引っ掛けたタオルを回収し、クリーニングボックスに入れる。


作業を終えると壁際に行き、壁にくっ付くと、そのまま壁にめり込むように消えていった。


「なにあれ? ナビ子ちゃん、さっきの何?」


「先ほどの機械人形ですか? 四角い箱型のものですか?」


「そうそう、また出てこれる?」


「えぇ、万能型お世話人形です。」


そう言うと壁から四角い先ほど人形と言われた物体が出てきた。


「ナビの様に話す事は出来ませんが、大体の家事をすることが出来ます、ご愛嬌機能もついてます」


四角い箱もとい、万能型お世話人形? 箱は左右から二本のアームを少し出して、クルリと一回転した。


「愛嬌ね、こうしてみれば愛嬌がある…か…名前はなんて言うの? お世話頼む時どう呼べば?」


「お好きに及びください、登録されます」


「オブイェークト、相性オビィで、たまにオイとかオーイとか呼ぶ」


「登録しました、名前を忘れた時は適当な名称、お世話してくれる箱とかアレとか言って頂ければ問題ありません」


「すんごいな……」


進んだ科学を漠然とした凄いと言う感情でした表すことが出来ない。


少しづつ慣れていくのかな? 自分自身に問う。


するとナビ子が「コーヒーなど如何ですか?」と勧めてきた。


「あぁ、頼む」


「何かご要望はありますか? アメリカンを設定しておりますが……」


聞きなれた音に懐かしさと安堵の感覚を感じる。


「アメリカと言う国があることがデータにあります、アメリカンコーヒーとして登録があります」


「あぁ、それで頼む、アメリカンが飲みたい」


万能型お世話人形ことオブイェークト、相性オビィが収納されていた壁に行く、すると壁の一部が変形して奥に若干引っ込み


コーヒーサーバーだろうか? 手に収まるサイズのモノが小さな音をだして稼動している。


オビィがアームを伸ばし、その機械の中央にある小さな扉に近づく、すると開き中にカップが出てきた。


とても良いコーヒーの香りがする。


カップを掴み、安定したバランスでこちらに運ぶ、さながら熟練したウェイトレスに思える。


オビィは俺に近づく、カップの中のコーヒーは揺れていない、液体が揺れていないのだ。


受け取る、コーヒーは実に旨そうだ。


飲んでみると普通のコーヒーだが味が良い気がする。


「うまいな、これ」


ナビ子は「ほら、オビィ、喜びの舞!!」


そう言うとオビィはくるくる回った、なんとなく可愛く見えてくる。


すぐ止まり、仕事を終えたので壁に向かい、そして消えていった。


「これは便利だ、凄いな」


ナビ子は優しく微笑んでいる。


「それもアルゴリズムか? その仕草」


「はい、微笑みアルゴリズムです、目覚めたての自動人形に慣れていない方を暖かく迎えるアルゴリズムです、ご不満でしたか?」


「いや、悪い気分じゃない、問題ないよ」


しばらく、ナビ子を使って遊んでいた、実に自然に受け答えする、ジョークまで言う、しかも面白い。


だいぶ時間が経ってナビ子が市長事務所に向かう時間になりましたと伝えてきた。


そんなに時間がたったのか…驚いていると確かにそんな時間だ。


「じゃぁ、行ってくるよ、戸締りはしてくれるのかな?」


「はい、ドアを閉めてください、それで自動ロックがかかります」


ドアを閉めると鍵がかかる音がした。、俺は市長事務所に向かった。


朝から濃密なやり取りをしてで気持ちが無駄に高ぶっていた、今日は何に驚けるのか実に楽しみである。


足取りは軽く、弾むようだった。

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