第47話 戦車でバンバンバン
荒野を砂煙をあげて進む輸送船団がいた。船団は都市間や拠点を移動する際に敵性体に襲われる事がある為に多数の船が集まり周囲を戦闘艦に守られて移動してた。護衛の種類は歩行艦や履帯艦に少数だが戦車等の車両もいた。
外周に駆逐艦をその内側を戦艦や巡洋艦などを周囲に配置して中心部には非武装艦等の戦闘力が低い船や車両が配置されていた。その進みは車両がいる故にゆっくりとした速度であった。
その中にいる武装運搬船にムサシたちは乗っていた。武装運搬船、武装とは立派に名が付いているが銃座がある程度の輸送艦である。だが比較的安全なエリアでは十分な装備であった。
この船は観測所や前線基地等の小さな拠点に物資や戦力を運ぶ重要な船であった。特に大型艦では辿り着けない細い道や小型船でしか通れない勾配の航路等で活用されていた。
ムサシたちが乗っている運搬船は戦車数台程で満載になってしまう部類の輸送艦ではあるが小さな拠点等にとっては戦力や補給物資を運ぶ重要な船であった。
今回のムサシたちの任務は物資運搬ミッションであった。敵性体の襲撃が予想される為に観測所に物資を無事に送り届ける為にムサシたちが派遣されていた。武装運搬船の上甲板に1台戦車が設置され敵の襲撃に備えていた。ムサシはその戦車の砲塔に座り流れる景色を楽しみつつ、支給された戦車と装備を弄り回しながら雑談をしていた。
「大事なのは戦闘艦だけじゃないぞ? 補助艦や輸送艦も大事なんだ。この乗っている輸送艦だって凄いんだぞ? 俺たちの乗っている履帯式第101号型輸送艦。WW2時期に大日本帝国海軍で活躍した特設輸送艦をモデルとしてだな! 特設と名の響きは良いが実の所は多目的に物資を運べる輸送艦だ。
全長80m、最大幅9.1m、一番特徴的なのは接岸擱座揚陸が可能で艦首に門扉があり跳ね橋兼扉の役割を持たされた1枚のひら板が存在してだ。これが強く印象に残る。こいつがな!! 艦の先端、艦首部の門扉が跳ね橋として降りてきてタラップになってだ!! 艦首開口部を出入口として戦車や輸送車等の車両や物資が運搬できるんだ。
格納スペースは船内と上甲板の2箇所があり、搬入は艦首開口部と上甲板にある揚貨装置等を用いて凡そ250t程を搭載が可能だ。戦車格納数はWW2クラス中戦車14台となっている。
車両を搬入する際は巨大な魚が車両を飲みこむ様に見えるんだぜ? たまに艦首に目なんか描いてノーズアートっぽくしたデザインもあるんだ!! 可愛くない? かっこ良くない? 凄くない? フンス!!」
「フンスって、わかった、わかったから落ち着いてくれよ、ムサシ…はぁ、船の事になると熱くなるんだからねぇ。困ったもんだよ」
ナギの溜息交じりの声が無線機越しに聞こえた。
「ナギだって俺がこの戦車をハンペンみたいだとか言ったら凄い剣幕でさ?」
「ムーサーシィ? まだ言うか? イマイチ理解してないようだからもっかい言ってやる!! メルカバはさぁ? 美しいんだよ? アタシが一番好きなクルマナンダヨ? デザインからシテ凄いんだ!! 乗員保護を非常に重視した設計で作られたイスラエル製の戦車だ。
エンジンは前方に配置され前方被弾時に障害となり砲弾を止める構造なんだ。車体後部にはハッチがあり敵攻撃時ですら負傷者救出や弾薬補給ができるんだよ? 砲塔なんて実に多面体がいい味してるだろ? ハンペンなんて失礼なことを言うんじゃない!! 」
インカム越しに凄い圧が飛んできているのがわかる。たまらずにアーニャの方を向くと
「ムサシ? 逆らったら駄目だよ? わかってる?」
アーニャが口頭とハンドサインでそんな事を伝えてきた。しばらくナギのお説教を聞いて、そして自分の装備の確認をした。
少し時間がたってふと何気なく景色を眺めたくなった。船団は危険エリアを通過して比較的安全な移動ルートに差しかかると速度を落とし巡航速度に戻り進んでいた。手を止めて景色を眺める。
すると輸送艦は歩行戦艦のすぐ横を通っていた事に気がついた。なぜならば壁があったからだ。あまりの巨大さに圧倒させられる。見上げるも滑らかな傾斜をした金属の壁がそびえ立っている。
「船の横腹って近づいて見るとただの壁にしかみえないな。脚もよく見てみると踏みしめてるかと思ったら滑るように進んでんのな、踏み出すときに妙な加速もあるのか? 重力制御の賜物? 見えない不思議な力で進行方向への力があったりって感じかな? まったく便利なもんだな…オーバーテクノロジーってやつは……」
「よっと」
アーニャが戦車上部ハッチから半分ほど身を乗り出してムサシと同じ様に戦艦に圧倒されて眺めていた。
「ほぁ~、鉄の壁だ…聳え立つ壁だ…艦橋なんか見えやしないよ」
そう言いながらアーニャは戦車のハッチから這い出て、アーニャが不思議そうにこちらを見ていた。
「そんなに船を見てて飽きない?」
「飽きないよ。船体のカーブが美しいじゃないか?」
「言われてみればカーブが綺麗に見える?」
首を傾げるアーニャであった。そして、その手には2個のヘルメットがブラブラとしていた。
「ヘルメット要らないって言ってなかった? 対ショック保護シートが戦車の内部に塗られてるから頭ぶつけても痛くないとか」
「そうなんだけど、最初っくらいはマニュアル通りにしよってナギが言ってたの」「なんじゃそりゃ」
そういうとアーニャはヘルメットを一つ俺に手渡してきた。
「ん」
「サンキュ。まっ、最初っくらいは付けとくか。中の二人は被ってるの?」
アーニャは俺に近寄るとインカムのスイッチを入れた。
「ちょちょっと、騒音が厳しいかな? 私の声が聞こえる?」
インカムを調整して違和感の無い様に調整した。
「クリスー。聞こえる?」
そう言ってアーニャは搭乗口から戦車上部へ移動していた。そして砲塔からぴょこんと飛び降りると不安定な戦車後部に取り付けた荷物の上を器用に移動していた。彼女は装備をゴテゴテと服に取り付けていたがすらりとした彼女の健康的な雰囲気が衣類越しに伝わってきていた。
ヘルメット付属のインカムを弄りつつも荷物の確認は済んだようでアーニャは戦車後部に移動してちょこんと荷物ネットの上に座って景色を眺めていた。俺はアーニャと二人で流れる景色を楽しんでいた。
しばらくすると景色にも飽きてムサシはヘルメットのバイザーが気になり弄っていた。
「どうしたの? 目に砂埃でも入った?」
「いや、バイザーが気になってさ、なんか色々と便利な装置が付いてるんだよなって思い出してさ」
「教科書にもそんなことが書いてあったね」
「そうそう、砂埃防御やサングラス的な使い方から暗視ゴーグルやサーマルモニターとか高性能だよな、電磁場も見れるとか」
「なんか変わったものでも見える?」
「いや、なんとなく触ってみたかっただけで…ん? おーおーこれかー! へーこう見えるのかー!!!」
「どうしたの?」
「電磁場を見えるようにしたら戦艦の周りが変な風に見える、なんかぼんやりと光る粒子的な…綺麗なヤツが見える」
「なんか新しいおもちゃで喜ぶ子供みたいに盛り上がってるね。私も見てみるかな、あぁこれ、船のエネルギーフィールドじゃない? フフッ」
アーニャは楽しそうに俺に視線を合わせていた。どうやらよっぽど嬉しそうに見えた様だ。すると突然張り上げた声が聞こえた。
「ムサシ!! 何度もコールしてるのに返事を!! ん? なにか楽しそうだね」
クリスが搭乗口から身を乗り出して俺とアーニャを見ていた。
「えっ? あぁ? バイザー弄ってた時に通信機のスチッチをオフってた、ゴメンゴメン」
「私もだゴメンねクリス」
通信機のスイッチを入れるとナギの声が聞こえてきた。
「やっと声が聞こえた。通信機をONにするの忘れてたでしょ、ムサシ」
「さっきクリスに怒られたよ」
「ムサシ、私は怒っていない。注意しただけだ」
クリスが妙な顔をしていた。
「ううん、優しく注意してくれたね」
アーニャはくすくすと笑っていた。
「それで何を盛り上がっていたんだ?」
クリスは俺に問いかけてきた。
「向こうの戦艦を電磁波モードにして見てたらエネルギーフィールドが見えたんだ。初めて見たから少し感動しちゃってさ。なんて言ったらいいかな? 不思議な粒子に浮かんでいる? 喫水線まで浸かって? オーロラーの様な? 虹彩? 波紋? 何って表現した方がいいのかな? なんか綺麗で良い感じの多重の膜?」
俺は歩行艦のエネルギーフィールドについてなんと表現したら言いかわからずに妙な言い回しになっていた。
「それはそうとアノマリー注意報が出てる。用心の為にそろそろ車内に入ったほうが良い」
エネルギーフィールドの表現に困っていたムサシにクリスの救いの手が入ってきた。
「障害が出るレベルになるのは遠くのほうでしょ?」
「情報が揃って無くてな、念の為にだ。対応手順の確認もしたい」
「OK、アーニャ、中に入ろうか?」
「ん」
戦車内部は狭かったが空調が完備されており快適であった。
「普通は外が見れないけど、今回はヘルメットのバイザーに車外が投影できるタイプを選んでみました」
「贅沢に装備ポイント使ったね?」
「溜め込んで何か失敗するより折角なので使ってみました。それでは早速使ってみましょうかねっと」
ヘルメット脇のスイッチを操作して車外を見てみた。戦車内風景から外部風景が目に飛び込んできた。
「おぉ、はっきり見えるもんだな。車内が見えないくらいだ。端末情報も一緒に見れるんだな。イイネイイネ、テンション上がるわー。ステータスオープン!! なんちて」
俺は自分でもアフォな事を言ったと思いながらもお約束は大事と思っていた。そして、しばらく車内で大人しくしながら風景を見ながら今回のミッションプラン書を眺めたりして時間を潰した。
やがて、俺たちの船は離脱ポイントに到着して船団から離れ単艦で目的地に進んだ。
「船団から離れたけどイキナリ襲ってこないよな?」
若干不安になる俺を他所に栗栖の冷静な声がインカムに響く。
「ムサシ? 危険地帯まではまだまだ遠いんだ。まだ気は張らなくていいんだ。ほらリラックスして…」
「そうは言うけどさ。護衛艦がいないと寂しいわけよ?」
「アノーマリ警報も無くなったから外で一息つくといい。戦車にはワタシがいるからナギもアーニャもムサシと一緒に休憩してきな」
そう言うとクリスは優しく微笑んだ。
「それじゃ、先に小休憩させてもらおうかな?」
「あー、あたしおトイレ行きたい」
「ナギィ? もうちょっとなデリカシーをだな?」
「インカムは付けたままにしとくのよ? 聞こえるようにね」
「ハーィ」
そんな感じでクリスを車内に残して俺たちは外に出た。
それぞれが好きなように休憩していると起伏の多い風景に変わってきた。荒野ではあるが台地や山谷が目立つ地形だ。そんな風景が数日続いた。
ある日、輸送艦の艦長から通信が入った。船の進路上に襲撃の後が見つかったそうだ。そこはちょっとした谷で破壊された車両が数台転がっていた。俺たちは前甲板にいたので監視に借り出された。
「と言う事で監視してますが…何か見つけましたよ。敵ではないね」
「んー? 」
「発光信号? SOSを連続発信してるね。艦長に連絡して」
確認してみると発光信号を出しているのは足回りを破壊された対空戦車であった。
「うわっ。珍しいメルカバを魔改造したクルマじゃないの? ん~タカまるぅ~ッ!!」
「ナギのテンションがイキナリ上がったよ?」
「圧が凄いね。こら降りるな。何してるのさ? コラ!!」
ナギは肉眼で見ようと運転席から出てお目当ての戦車を眺めていた。
「そりゃ、砲塔だけ動けばいいからって運転席から出ちゃって…ん 」
文句を言っていると艦長から通信が入った。内容は発行信号を出す戦車の様子を見てきて欲しいとの事だった。
「お出かけの準備だ。ナギーッ!! 対空戦車を見に行くから運転席に戻れって」
「マジ? すぐ戻るよ!!」
少し離れた所に船は止まり下船して確認に向かった。戦車の上に小銃を構えてアーニャとムサシが肉眼で周辺警戒。クリスは戦車の搭載観測機器を使って周辺情報を調べている。そして、ナギはうきうきしながら運転していた。
対空戦車に近づくと上部ハッチから戦車には不釣合いなメイドさんが出てきた。敵意が無いことは砲塔が明後日を向いている事や手を必死に振っているメイドの様子から見て取れた。
そばまで近づくと足回りが派手に破壊されて履帯がだらしなく緩んで地面に垂れていた。メイドさんは起用に戦車を降りると徒歩で俺たちに近づいてきた。
「エネルギー反応正常。爆発物も問題なさそうだな」
クリスがほっとした声で言った。
「安全距離とって話してみよっか」
俺は頼りなさそうにぽつんとしているメイドに話しかけた。メイドはアンドロイドだった。そいて淡々と状況説明をしてくれた。
「車に乗ったレイダーに襲われて輸送隊の殿を命令されて守っていたと…隊が逃げ切れそうになった所で足回りを潰された…それでも抵抗して戦い、んで、そのままアノーマリの電磁気嵐に巻き込まれた。レイダーはアノーマリを嫌がって撤退。仲間には見捨てられて動けなくても命令を守って囮になってココで待機していたっと」
「YES、その解釈で間違いありません。こちらの要望はこの先の観測所まで対空戦車と私を連れて行って欲しい。御礼は観測所が支払うと思われます」
「って事だけど皆さんどうする? 」
「アタシが戦車の様子を見てみるよ」
そう言うとナギが俺たちの戦車ごと対空戦車に近づいて行った。メイドはとことこついてきた。手ごろな所に戦車を止めて被害状況をメイドに聞きながら対空戦車の周辺を廻って一通り眺める。
「足回りだけだね、他は綺麗なもんよ。ただねぇ…引っ張ってあげてもいいんだけど足回りが余計に壊れそうだね。そうだなぁ」
ナギは困った感じで腕を組んで悩んでいた。
「なぁナギ? あたりは開けてるし多少は大岩があるくらいだ。船のクレーンで後部甲板に積んじゃえば? 」「そうしたほうが早いかもねぇ。ムサシの手で行くか」
方針は決まったので艦長に話をする。艦長はレイダーが戻ってくるかもしれないので戦車を捨てて先へ進みたいとゴネたが声だけでもわかるナギの神にすがる様な必死の懇願で対空戦車を積む事となった。
対空戦車は問題無く船の後部甲板に積み込まれた。そして臆病な艦長はレイダーが来る前にとっとと発進しようとしていた。
「艦長のヤツ、俺たちが置いて行かれそうな位に急いでるな」
「対空戦車の破壊具合からレイダーも大口径装備を持ってるからね。そら嫌だろうさ」
「オーライオーライ。もうちょい」
「よっと、っはーぃ停止。お疲れ様でした」
戦車を収納して門扉を収納すると船は素早く発進した。
「ムサシ。アタシさ!! 修理したい!! 対空メルカバちゃんが気になるから修理をできる所までしてきてもいいかな?」
「ナギ? そんな目をするな。止めたってやるんだろ? 」
「えへへ」
「よし、GO」
「ありがと、ムサシ」
ナギは工具箱を自分の戦車から取り出して対空戦車がいる後部甲板に消えていった。
「ムサシ…ありがとう」
「クリス? まぁな、船がさ、似た様な状況だったら。俺もナギと同じ気持ちになるからさ。たぶん」
「規模は違うから船と戦車では話が違うと思うの…ムサシ…でも、私からもありがとうを言わせてくれ」
「ムサシ、なんか優しい顔してる。可愛い」
「アーニャ…からかうなよ…こっち見んなよ」
そして、数日過ぎた。護衛任務をしながらも修理可能な箇所をひたすら直していくナギを手伝いつつ時間が過ぎていった。
「調べてたら足回りだけでなくて砲塔の細かいトコまでやられてたよ。そこが大変でね」
「直せるの? 」
「もうちょいかな?」
インカム越しにナギと話しながら頼まれた修理部品を補給物資の中から探していた。
「装填装置が衝撃で歪んでるのか、うまく動いてくれないんだよ。ここなんかさ、ちっさい部品なんで物資に無くてさ、自作してみたんだ。もぅちょい修正したら動くと思うんだけど。あぁ、やっと取れた。どれ…ここをもうちょい削る感じかなぁ? 」
「ナギ…声がイキイキしてる」
「そら元々、戦車修理やカスタマイズがアタシの仕事だもん。それに怪我したままじゃ可愛そうじゃない? 直ったら嬉しいし」
「故障じゃなくて怪我か…そういうもんなんだな」
「そういうもん」
無い部品は現場改造で何とかして修理を続けた。
「やっとリストの部品見つけたよ。コレで最後か」
「お疲れちゃん、こっちに持って来て。ついでにお腹減ったから、なんか頂戴。思ったより内部も壊れてるみたいで厄介かなぁ」
「気を落とすなよ。ちょっと待ってな、厨房寄ってなんか貰ってくるから」
「待ってるよー」
俺は厨房によってサンドイッチとコーヒーを貰ってナギに頼まれた部品と食事を持っていった。
ナギはそれらを受け取ると一瞬休憩するように見えたがメイドや修理ドローンに指示をだしていた。俺が渡したサンドイッチを右手で、コーヒーを左手で、そして空間ディスプレイを広範囲に展開して状況を確認しつつ、口頭指示で修理を監督した。ナギから感謝の言葉と自分の仕事に戻れと言われ俺は自分の監視の番が近づいていた事を思い出して戦車に戻った。
監視、仮眠、監視、マジ寝、何回か繰り返した頃に対空戦車は足回りを残して応急修理が完了していた。
「足回りは結局駄目だったの? 転輪がさ、結構な数が駄目になってるみたいでね。リフトアップしたり設備が充実した所でやらないと難しいからさ」
「まぁほら、そろそろキチンと休まないとさ。ナギの体がイカレっちまうからさ」
「ムサシだってアタシの監視時間を代わって余計に仕事してるじゃない? そっちが休みなさいよ。後はドローンに任せられるから手もほとんど掛からないんだよ。ちょっとだけ心配だから見てるだけ見てるだけだから、ね? だからムサシこそ休んでよ? 」
「それを言うならナギこそ休めだよ。ほとんど寝てないだろ? 」
「いやぁ、気になっちゃって眠れなくてさぁ」
「修理ドローンに任せられる所まで確認してたじゃん?、昨日の本来の仕事なんかは思いっきり寝てたもんな、居眠り監視だよ? 」
「ごめーん」
「まぁいいって。居眠りしてた間は俺見てたし、どのみち襲撃だって無かったから」
「やめて、フラグ立てるとレイダーが来ちゃう」
「大丈夫だって砂煙ひとつないから…」
他愛の無い会話を楽しむ、そしてフラグに警戒していた。
その日は平穏に過ぎるわけも無く…雑談が終わった頃に艦内のスピーカーから敵襲警報が鳴り響いた。後方数キロに砂塵アリ、車両に乗ったレイダーによる襲撃であろうと艦長は判断していた。追いつかれるまでは十分に時間はある。俺たちはひとまず自分たちの持ち場に戻った。
戦車まで戻るとアーニャが砲塔の上に仁王立ちで立っていた。その手にはヘルメットが2個ぶら下っていた。
「遅い!!準備して」
「スマン」
ヘルメットが投げ渡された。俺たちは装着してから戦車に乗り込む。
インカムから艦長の通信が入った。内容はこのまま逃げ切れるだろうから戦車チームは車内待機し撃てそうなら撃てとの指示だった。
戦車に乗り込むと運転席にはナギが砲手はクリス、装填手がアーニャ、そして車長が俺という具合だった。体力がある俺が装填手をするべきと思ったのだが車長としてハッチから身を乗り出したり、覗き窓から外を眺めるにはアーニャの体格が小さくて都合が悪かったからだ。本人も車長としての判断が難しいから変わって欲しい、装填は問題なくできるよ、との申し出だった。そんな訳でこの様な編成になった。
戦車のセンサーとリンクしたクリスが今までに無いくらいに張り切っていた。ここ暫くは良い所が無かったのが頭の片隅にあったのだろうか? 妙に張り切っている。
「センサーの具合も良い、久しぶりの計算が楽しい!! 弾道計算に敵まで測距、分析器ほど繊細ではないが中々どうして戦車装備もタフで使い心地が実にいいではないか!! フフフッフフフッ!」
クリスが実に楽しそうで何よりです。
船は緩やかな蛇行を始めた。進路を読まれない様にするためだろうか? ときをり敵の砂煙の中心が見えるようなタイミングが出始めた。点の様に小さいが金属の鈍い光が時折確認できた。
敵車両の形がはっきりと見える頃になる敵からの小銃の発砲が始まった。
距離が遠く当たる訳も威力も無いのだが相手は緑の無駄に凶暴なレイダーだ。撃たずにはいられなかったのだろう。
口径の大きな車両に取付けられた銃座もどきなんかの奴は少しは賢いのだろうじっくりとこちらに照準を合わせて有効射程になるまで待っているようであった。
「敵さんは小口径の手持ち銃、車両搭載のは20口径位かな? まっそんな所だろう。そしてこちらは120mm44口径滑空砲に安心安全な装甲つきだ。少々可愛そうにな気持ちも沸いてくるが…ムサシ、そろそろ撃ってもよいかな十分過ぎるほど有効射程に入っているんだが? 」
「あごめん、戦車戦がはじめてだったからボケッとしてた。クリスの好きなタイミングで撃っちゃって」
「了解。では発砲を開始する」
クリスの冷静な呟きとともに戦車から発砲が始まった。発射の爆音の少し後に小さく響く破壊音がした。センサーカメラ越しに敵の車両が派手に吹っ飛ぶ光景が見えた。
「弾種このまま榴弾を継続、装填頼む」
榴弾の効果を満足そうにしてサムズアップしているクリスが実に清々しかった。しばらく撃ち続けると敵は距離を戦車砲撃の射程外に置いて様子を見ていた。
「この距離では外しても仕方が無いかな?」
「無理に撃たなくてもいいぞ?」
「計算してみたら当てられそうなので…撃ちたい」
「落ち着きなさい、興奮しないの。少し休憩して残段確認しよか」
「ムサシ…残弾も把握して撃っているぞ? 今日のムサシは少し私に対して厳しい…」
「休憩して欲しかったの、俺の優しさで言ってるの」
「クリス、はい飲み物、少し休憩しよ」
「ありがとうアーニャ、ムサシもな」
「まぁまぁ、クリスも落ち着いてね。アタシなんか運転の必要ないから暇よ? 出番無くって寂しい限りよ?」
「でもなぁ、ナギの出番があるなら船もいよいよって感じになっちゃうよ」
「まぁね」
「それよかさ、確認できた敵の数に対して弾は足りそうかな? 」
「外したとしてもも至近弾で弾が炸裂するからねぇ、タマに数台巻き込んだチェーンショットになってるし。敵の数も順調に減ってるから増援が無ければな充分」
「なぁ、無駄にフラグを立てないでくれよ」
クリスと俺が珍しく漫才をしていると砂煙の中から大量の車両集団が…バイクも混じって現れた。
「くっそー!! こりゃ弾不足になる」
「ナギ!! 俺と一緒に来い!! 船底倉庫から弾を持ってくるぞ」
「でもアレ補給物資じゃ?」
「死んだら元も子もない」
「そらそうか」「間に合わせるぞ!! 」
俺とナギは大慌てで船底に向かった。
「敵がめっちゃいたね」
「あぁ最悪だな」
「持てるだけ持ってって感じかな?」
「おっちゃん!! この台車借りるよ!!」
「そら急げ!!」
倉庫に着いて片っ端から弾を頂戴して、すかさず自分たちの戦車に戻った。敵はすでに船に肉薄しつつあった。
武装輸送艦の後部から小型対戦車パンジャンドラムが発射されるのを見たが明らかに気休めであった。車両を数台破壊したが後から後から敵が砂煙から出てくる。そして敵の銃撃は激しくなる。
「こういう時はメルカバの後部ハッチは便利だな」
「無駄口叩いてないで搬入!!」
「YES!! 搬入!!」
敵小銃から放たれた弾丸が戦車の装甲を叩く。
「弾はアタシがやるから戦車備え付けで撃ち返してムサシ!! 」
「了解!! 」
ナギに言われるまま、後部ハッチから入り車内を通り上部ハッチへと移動する。
「ちょいとゴメンよ、アーニャ!! ちょっと通りますよ」
「ん」
狭い車内で器用に隙間を作ってくれているが流石戦車だ。お互いの体を重なる様にしないとハッチに移動できなかった。ようやく車長用キューポラまで来ると敵を肉眼でも確認できた。既に船の横に来て艦橋を銃撃していた。敵の意識がこちらに向いていないうちに7.62MM機関銃を掴み銃撃体制に入る。艦橋狙いの車両を排除、次にバイクの数台を破壊して所で増援の本体に気がついた。
「おぃ、これ不味いぞ?」
「明らかに弾薬不足だな」
「あー、白兵戦になる?」
「バカ!! こちらが蹂躙されるわ」
「それでもハンターは戦わねばならない!! っと」
「だね!! 」
「飛んでくヤツ持ってくれば良かった」
「アーニャ…爆発推進システム気に入ってるよね」
「あれはロマン…痛いけど…」
車内が和んだ所で各自白兵戦の準備をしていた。
「次ので砲弾終わり」
「いよいよか」最後の砲弾が発射され車内に置いてあった銃を各自に回してそれぞれは甲板に降り立った。
輸送艦の備え付けの銃座がなんとか肉薄しようとしていた敵の一団を防いでいた。遠くにはまだまだ沢山の敵が見えた。俺たちも含め輸送艦全体に悲壮感が漂った最中に間の抜けた声が通信機を通して響いた。
「修理が完了いたしました。当方に射撃の用意有り。当艦に所属はしておりませんが迎撃のご許可を」
続いて艦長の泣き声がした。何でもいいから助けてくれと。
「ラジャ!」
対空メルカバ搭乗員のメイドさんが言うと低い連続音が響いた。3連射が数回続くと敵車両から線香花火のような火花と激しい爆発が見えた。
「うっわ!! えげつなッ!!」
重火器至上主義のナギさんが嬉しそうに目を輝かせて見ていた。敵集団には数秒間の連続射撃をお見舞いした。見る見る敵の数が減っていく。数分もすると近中距離の敵集団は壊滅していた。遠めに眺めていた集団は眺めるだけになっていた。しかし、しばらくすると前進してきた。
なぜなら、増援の中に戦車が現れたからだ。装甲を盾にして戦車に隠れながら車両集団が近づいてきた。対空メルカバの攻撃は効果が無い様子だった。弾は装甲で弾かれて精々流れ弾の巻き添えで間抜けな敵車両が壊される程度の被害であった。
再び輸送艦に悲壮感が漂うと思いきや、今度は艦長から落ち着いた声で援軍の到着の知らせがあった。援軍は観測所護衛の駆逐艦であった。輸送艦の構造物で見えなかったが進路変更で駆逐艦お姿が見えた。
その姿は戦艦ほどの圧倒感はなかったがほっそりとした船体にちょこんと乗った艦橋や煙突等の構造物が可愛らしくも逞しくも見えた。そして各所にある単装砲郡が愛くるしく見えた。
が…異物があった対戦車大型パンジャンドラムが魚雷の変わりに積まれていた。そのパンジャンドラムが発射され景気良く大地を転がり、しばらくして敵を巻き込む大爆発があった。これに単装砲の攻撃が加わり敵は恐れをなして退散した。
「一時はどうなることかと思ったが何とか助かったな」
「駆逐艦って戦車に強かったのね」
「ナギめ、すこしは見直せ!! そりゃ俺は戦艦贔屓だけど、駆逐艦だっていい船なんだぜ?」
「ムサシ…お説教は今度聞くからさ…もう限界なの寝かして」
甲板に寝転がるナギが言った。ナギに突っ込みを入れようとしたところで、ミッションは終了となった。




