第46話 戦場オーケストラ
「第2部 サバイバル試験は1位でした。凄くない?」
「ムサシ? 調子に乗っちゃダメだよ? ムサシは調子に乗りすぎるとドジる気がするよ」
「アーニャ? 真顔でどうしたの? まぁ、気をつけるよ。 でも1位通過だよ? 少しは喜ぼうよ?」
「勝って兜の緒を締めるんだよ?」
「ハィ、わかりました」
「アーニャは文化的な言葉を知っているんだな。その言葉はだな、昔の戦士が」
解説を始めようとするクリスをナギが抑える。
「ハイ、ストップ!! クリス。今は次に備えようよ。そんでもって一つ俺から提案がある。順位を気にするの止めない? 理由としては金を稼ぐために派手なことをしてアピールするのも大切だけどさ。なにより命が大事!! と言う事でサバイバリティを重視していきたいかなと?」
「ムサシ。なんか弱気になった? なんか急に弱気になっちゃったよ? ねぇ クリス? どうしよ?」
「ナギ? 落ち着きなさい。ムサシの言う事も正しいと思う。私は賛成だな。死んでしまっては元も子もない」
「私も賛成だな。生き残る事はとてもとても大切。死んだらお金を使えない」
「おおぅ。みんな。賛成してくれるか」
「んんん、まぁね、たしかにね、命が大事、、、、わかったよ。ムサシの意見にあたしも賛成」
意見がまとまった所で試験AIによる状況説明が始まった。空間ディスプレイには周辺の地域と要塞の俯瞰図が現れて回転していた。
環境は連なる広大な丘陵にいくつか存在する台地の一つにある要塞だ。台地は頂上が平らな地形でそこには堅牢な要塞と旧式の歩行艦数隻が存在していた。要塞には急斜面の崖を思わせる堅牢な強化コンクリートの壁を持ち、その壁に存在するいくつかの監視所や堡塁から周囲が見渡せる。
任務内容は拠点防衛。要塞の作りは敵の進行してくる方向に攻撃が集中できるようになっている。台地は切り立った崖で小型敵性体でも登るには難しく。要塞の壁には歩兵用の射撃施設があり防御効果を高めている。要塞には要塞砲、砲兵、数隻の旧式艦がおり砲陣地に配置されていた。
敵の攻めてくる反対側には両側が崖になった道がある。これは要塞の補給ラインとなる。その道は台地に連なる山の稜線に存在する歩行艦がやっと通れるような道で攻撃点となる施設が重厚な防衛ラインを敷いている。
「俯瞰図で見ると小さいけど、台地は約240mの高さでその上に乗っている要塞の壁が平均40mだって。軍艦も何隻かいるね」
「ほとんど山だな。ものすごい眺めが良いんだろうな。そんなところにあれば艦影もさぞ映えるんだろうな」
「きっといい眺めだろうさ。大砲で敵をバカスカ撃つために存在していると言ってもいい様な要塞だ。長期滞在も可能で娯楽設備も揃っているそうだ。敵さえいなければ楽しめそうなんだけどね」
俺とアーニャが話していると話題にナギが混じってきた。
「そうだね。敵がいなければだよね。アタシは夕焼けとか朝焼けとかみたいかな?」
「皆、現実逃避はやめよう。ブリーフィングの資料見てみろ? 状況が嫌な感じになってるぞ」
気が抜けていた3人をクリスが締めて与えられた状況設定を元にムサシたちのブリーフィングが行われる。
「ふんふん。敵性体の間引きの季節で? 軍と傭兵とハンター組合による共同防衛任務で統率していたと。んで指揮官連中が揉めて連携が取れない状況になってて? んん? 隙きを突かれ攻城虫に砲撃距離まで近づかれて攻撃されたと……オマケに通信設備が損傷したと」
ムサシは不穏な空気が場に流れてきたのを感じる。ナギを見ると眉間にシワを寄せて苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「この件が責任の押しつけに発展して? 更に揉めて傭兵連中が契約違反だと言い出して撤退したと。そんで、泣きっ面になった要塞の下士官と新米のハンター組合担当者が必死になって立て直している最中と……うへぇ。毎回毎回、面倒くさいシチュにしてくれるなぁ」
「ムサシ。攻城虫が気持ち悪い」
読み上げていたムサシを遮るようにアーニャが顔を歪ませて文句を言った
「ワラワラと大軍で攻めてくる敵だもんな、おまけに虫っぽいし俺も気持ち悪いと思う。射撃装置も装備せずに数を頼りに攻め寄り爪やら牙やらで近接攻撃により壁や隔壁を破壊し蹂躙する要注意敵性体だってさ」
ムサシがブツクサと文句を言いながらもブリーフィングを進めているとクリスが与えられた情報を多角的に分析してムサシをフォローする。
「でもマイナスばかりじゃない。増援部隊の軍艦がこちらに向かっているそうだ」
「それは心強い。他になにかいい話はないかクリス?」
「だが残念な事に敵の本体が来るまでに要塞の前面には布陣できない」
クリスは冷酷に伝える。
「そんな事だろうと思った。その情報いる? 間に合わないなら来なくてもいいじゃん?」
ナギが間に合わない増援に対して不満をぶつける。
「まぁまぁ、落ち着けよ、ナギ。増援があるだけマシと思いなさい」
クリスはナギの不満を和らげるように優しい口調でナギを諭す。
「弾薬は充分。ハンターたちの士気も練度も高いらしい。そのハンターたちと連携が取れたら良いんだがな」
クリスの提案を無視するかのようにAIは容赦なく試験開始を告げた。
俺たちは拒否権もないので大人しく試験開始を受け入れて第3部が開始された。
「といった訳で試験が開始されましたが現在時刻は夜明け前です。暗いです。シチュエーション設定があるのか肉体的に疲れてる。ついでに眠たいです」
「連戦で体が疲れてる設定なんだよ、きっと。戦闘中じゃないだけマシと思おう」
「ムサシ。眠たい。疲労感が凄い。体がだるい」
「アーニャ辛いだろうけど頑張ろう。はぃ、安全に元気になれるガムだ」
「ありがとう、クリス」
「プラシーボ効果で長持ちするぞ」
「それ言っちゃだめなやつじゃん。でも、俺にも下さい。気休めでも欲しい」
そんな感じで俺たちは試験の為にVR世界へ飛ばされ設定に弄ばれていた。
要塞中央の広場でとぼとぼと任務登録の為に戦艦内目的地に向かって歩いていた。
「んで、ライトアップされた戦艦が眩しく光り輝いて神秘的にすら思えてくるので近くで拝みたいのですが?」
「あぁ、行こうか。武装の引取と配置説明をこの艦でやるみたいだからな」
「よかったね。ムサシ」
「あっコラ!! 走んな、待てムサシ!! 子供か?」
俺は船見たさに我慢できなくなり駆け出していた。
艦を間近で見ると旧式だが見た目はずんぐりとした印象を覚える。艦橋は低いが装甲の厚さと主砲と幾つもある舷側砲に迫力を感じた。
「すっごいなぁ、敷島型戦艦……だよな? 煙突が2本で……足が8脚。艦橋に違和感が。なんか俺の知っているのと違う。艦の名前はなんだろう? 」
「名前は何ていうのこの子?」
「ん? アーニャ。それが俺の知っている特徴に当て嵌まらないんだ? 敷島型戦艦なんだろうけど……なんか違う」
首をかしげる俺に合わせて目の前にいたアーニャも俺の真似をして首を傾げていた。そこにナギとクリスが後から会話に参加してきた。
「現地改修もあるからな。見た目が結構変わっていることも多い。コレなんかは拠点防衛用に砲を増設しているようだな。無理して色んな所に速射砲を追加している」
「艦橋とか船尾にもに大砲があるね。普通はあんなところには設置しないぞ?」
「動かなくていいからな。改造による能力低下は主に脚にくる。速度が特に影響を受けるからな。旧式艦になるとだな能力低下が顕著に……」
クリスが解説を始めようとするが俺とナギは目線を合わせコレを阻止しようと合図した。
「船体から砲が無造作にピョコピョコ出てて。これは美しくない」
「ちょっと無骨すぎるって言うか? なんていうか、ごちゃごちゃしてるんよな。通常は横腹に綺麗に単砲が並んでるのが普通なんだけど」
「やたらめったら大砲を乗せるだけ乗せてみた感じが……」
「そうそう、なんていうか凄い強引」
「美的センスがないのか? どう思いますかね? クリスさん」
「あぁ? んーそうだな。過剰かな? 砲撃力を重視した改修と見える」
「可愛くないかな。せっかく船体がぷっくりしてて可愛い感じなのにね。全体の雰囲気を活かしきれてない」
「アーニャは独特な表現するな」
「ムサシ風に言うとシュッとしてないけど安定感があってドッシリとした姿?」
「本当は美しい優美な軍艦なんだ。そもそも敷島型戦艦はだな……」
「まぁまぁ、外見だけじゃ物はわからないし。中も見たいしさ? ひとまず受付に行こうか?」
俺たちはそう言ってクリスの難しい解説を回避して任務登録を進めた。クリスは不満そうであった。
船内には案内アンドロイドがいて俺たちを誘導した。作戦室とネームプレートが掲げられた部屋を通り過ぎてハンター事務所臨時出張所と書かれた部屋に来た。
受付を迅速に済ませた後は解説できなくて不満そうにしていたクリスではあったが部屋にあった戦術情報を見かけるとウキウキしながら携帯端末を使って分析を始めた。
「分析するの好きよな」
「そら天職だからね。分析以外も調べ物や解析をさせとけば気分は上々よ。そんでプレゼンとか始めて暴走します。止めてって言えば要求を聞いてくれるからさ、まぁいいんだけどね」
「付き合いが長い分、よくご存知で」
「そしてアタシは車をイジらせとけば幸せいっぱい夢いっぱいってね」
「そんなコト言ったって今回は俺たちに支給される車は無いぞ? 特に砲撃用の車両なんて要塞の砲撃陣地の指揮官たちで取り合いになってる。掃討戦でも始まれば話は別だろうけど?」
「だよね。基本は要塞からの砲撃だもんね。一応は掃討用の車は用意してるみたいだよ。少しでも活躍が見られればなぁと思ってさ」
「追撃用の軽車両すらハンターたちには充てがわれないんじゃないかな?」
ナギが車に興味を惹かれているが俺は車の出番はないと考えていた。
「ムサシ、ムサシ」
「どした、アーニャ?」
「ナギと話してる所にゴメンね」
「担当官に聞いてみたらさ。敵の斥候がちょろちょろ来るそうだよ。それを狙撃するのがここでの主なハンターのお仕事みたい。詳しくはクリスが行った部屋で説明してくれるんだって」
「そっか。データ登録が終わったら。そっちに行こうか? って言うか作戦室に行けって指示が出たよ」
「んじゃ、行きましょうかね」
俺たちが作戦室に向かうと分析を終えたクリスが饒舌に語り始めていた。作戦室の説明員が困り果てていた。
「間引きの季節で巣はすでに目覚まし部隊が突っついていくつかの敵斥候が巣から出て偵察に来だしている状態だそうだ」
「俺たちはそいつ等を撃つって感じか」
「そうだね。例年通りなら斥候、先行部隊、次に本体って感じで攻めてくるようだ」
「そして俺たちの主な敵がコレだ」
クリスが端末を弄って空間ディスプレイが表示される。
そこには青黒いしっとりとした質感のゴムっぽい表皮のエビに似た生物がいた。四本脚で顔だけ潰れたエビ顔で体には毛がない犬っぽくも大型の猫科にも似ている体躯であった。
「アーマーは無く、ソフトスキンだ。通常の狙撃銃でも十分な効果が期待できる」
「大砲でもブチ込んだらいんじゃないの?」
「費用対効果に問題があってな。狙撃したほうが効率的なんだそうだ」
「距離があるから大口径の狙撃銃がオススメよ」
「バレットM82が装備課から支給されるのでそいつを使うといい」
「私はバレッタだと体が合わないかな? 昔よく使ってたレミントンがあればいいんだけど」
「そうだな。リストにはM24スナイパーライフルがある。こいつはレミントンM700からの派生型ライフルだ。こいつを使ってみるといい。恐らくアーニャでもなんとか使えるだろう」
「取り敢えず、試射してみるといいゼロインは装備課が高台からの撃ち下ろし用に調整してくれているからな」
「それでいいかい? アーニャ」
「お願いするよ、クリス」
「クリスー、アタシはもっと大口径の奴が欲しい撃つと体に響くようなヤツがいい」
「これなんかどうだ? 携帯型小型大砲と言うのらしい」
「んーどれどれ? ブッ!! なにこれ」
「うわぁ、帆船次代の舷側砲じゃないか? しかも、ご丁寧にスコープがついてる。台座にでも置いて撃つんか?」
「コレは無い」
「冗談だ。ふむ、そうだな。ではダネルNTW-20。これなんかどうだ? ここで人が構えるヤツでは最大級じゃないか?」
「おー? おー!! イイネイイネ!! コレにするよ」
「どれよ? クリス俺にも見せてくれ。うわぁ、何だこのバケモン。手提げハンドルが銃身に付いてやんの」
「腰だめで撃ちたいスタイルだねコレ」
「違うわバカ。このハンドルはどう考えても持ち運び用だろ。普通はバイポット使ったり、何かを台にしたり、もしくは寝そべって撃つだろ? って言うか。もはやコレ小型砲だろ?」
「こういうんがいいのよ。ロマンだろ? それに長距離なら大口径ほどいいでしょ? 」
「異論はあるが……まぁ、そうだろうけどさー。限度があるだろ? んんぅ、ナギのサイボーグ性能ならいけるか?」
「いけるかなぁ? どうだろクリス?」
「少し待ってくれ。データを見てみる。うーん、衝撃は問題ない。肉体的な疲労があるが……センサー系も問題ない。ふむ、問題ないようだ。ただし」
「ただし、耳栓が必要だ。あと周りには人がいないほうが好ましい。色々と音的に危ないから。んーこういうトコだとあるはずなんだが、あったあった。コイツを、無線付きイヤーマフを使おう」
「それ良いね採用。それにしても軍艦の大砲があるんだし、そんなに気にする? 」
「ナギ? 狙撃は繊細なものよ? あなたは変な所でガサツなんだから。そもそも、あなた本来は丁寧で繊細なのにどうして……」
「クリスクリス。お説教は後で聞くからさ。イヤーマフと一緒に銃も申請しといてよ」
「わかったわかった。それでは私もアーニャと同じM24にしとこうかな」
「その方がクリスにも優しい。センサー的にも安心だよね。スポッターも兼任するよ」
「アーニャ、ありがとう。慣れるまではお互いをカバーしよう。よろしく頼む」
「そんじゃ、俺ははナギと組むか」
「クリスから離れたくないんだけど」
「組は別れたって言っても。数十メートル離れるだけよ?」
「俺へのフォローは? ナギさん」
「じゃぁ、ムサシでいいや」
「おんまえっ、そこはムサシが良いとか言っとけよ」
「了解了解。んで持ち場は?」
「この戦艦の近くだ。要塞の端っこの胸壁付近を頼まれた。地図で言うとこの辺だ。砲からの衝撃を避けられ、見晴らしが良い特等席だ」
そう言うとクリスが空間ディスプレイで場所を示していた。
「あら素敵。試験的配慮かな? この後が予想できるのが嫌だなぁ。どうせ、敵も盛り沢山来るんだろうねぇ」
「まぁ、そうだろうな。でも沢山倒せばポイントが沢山もらえるぞ」
「限度がある。アホみたいに攻めてこられてもなぁ……敵のおかわり連発が容易に予想できる。こんな弾薬箱を持たす気配りをしてさ、露骨に嫌らしい状況を繰り出しやがってさ、この試験えげつないくない?」
ブツブツと愚痴っている俺たちを他所に試験AIが冷淡に問いただしてきた。
「状況について、もっと知りたいですか?」
「詳細データを俺の端末に送っといて下さい。さあ、それでは皆さん装備課に行って、それから持ち場に行こうか」
俺たちは装備を受け取り、試射を済ませてから持ち場に移動した。
持ち場は敵が進行して来るのを待ち構えるには絶好の見晴らしのいい場所であった。胸壁から撃つのも良し、その後方の少し高台になっている場所も伏射に適していた。持ち場に立って荒野の眺めから振り返ってみると旧式戦艦が見える。その姿は巨大で頼もしい鉄の城であった。
台地の頂上にある要塞に戦艦がいる光景は見慣れないものであったが圧倒的な存在感が違和感を吹き飛ばしていた。
そもそも船体から突き出している脚がいびつで奇妙に思えていたから意識がそこに集中していて全体を誤魔化すかのように無意識に違和感を無くしていたのかも知れないとムサシは思っていた。そして持ち場につくと狙撃環境に慣れる為に試射を行っていた。
「あぁ、マタ的外した」
「何回目?」
「5回目です。長距離で弾がこんなに狙いから外れてさ、弾が落ちるなんて思わなかった」
「弾が今まで扱ってたのより重たいからね。でも、それ以上にムサシは三角関数や物理を勉強すべきだな」
「痛い所をお突きになるね。わかってるさ、でも計算が難しいんだよ」
「なんか、理解してないって感じの弾道だよ。弾丸は真っすぐ飛ばないってのを理解するんだよ。それで撃ち下ろしだから飛距離が伸びるんだ。ボールを投げるときを想像してみて? 高台から投げるんだから水平に投げるより距離が伸びるでしょ? 経験や体で覚えるってのも大事だけど。頭で計算するのも大事だよ? 初撃から大事に撃つんだよ。ついでに風とかを体で感じるんだよだよ」
「アーニャさん? 途中から、からかっていやしませんかね?」
「そんなコト無いんだよだよ」
仲間たちが試射を終えて暇になったのか標的を外しまくる俺を心配したのか俺の周りに集まっていた。
「360度全てを把握して、頭の後ろにも目をつけるんだとか無茶は言ってないんだから。そろそろ当てようよ」
「そうは言っても。座学でやったけどさ? 難しかったんだよ? 微分積分に三角関数に弾道計算……熱が出そう」
「艦長になるにしても大砲の計算ができたほうが良いよね? 今度、付き合うからお勉強しよ?」
「ナギって数学とか強かったんだね」
「そら戦車のカスタマイズなんか趣味にしてりゃ強くもなるさ。設計なんか計算に次ぐ計算だよ? 」
「世の中で最も美しい理は数学って言う人もいるくらいだ。砲撃に関しては統計学や確率やら速度、加速度、コリオリ……」
「クリス、ストップストップ。今度やるからさ。今は感覚でやらせて下さい?」
「今度、みっちりやるからな? ムサシ?」
「わかったよ。ナギ。ん? なんだ? アーニャ」
「勉強は私も混じりたい。今までは経験と感覚でこなしてきたから。いい機会なので学び直したい」
「OKOK。一緒にやろうか。って言うけど狙撃が一番上手だったのアーニャだったろ。必要か?」
「体でわかるのと頭で理解するのは別。両方できたほうがいい。理解してるつもりかもしれないから」
「ムサシより。できた子だよ。この子は」
「まったくだ。本当にできた子だよ」
「そんなに褒めても何も出てこないよ?」
「可愛い笑顔が見れるのでアタシ的には結構満足だよ」
「ナギ? あんまりイジらないで欲しいんだよ」
「ごめんごめん」
「さて、皆。お遊びは終わりにしようか。配置に就くんだ。監視のお時間だ」
俺たちは気合を入れて配置に就いた。
いつの間にかに周りには緊張感が漂っていた。
時間は深夜、要塞の周辺だけは照明によって明るかった。しかし、敵が来る地平線の彼方は暗闇に覆われていた。
「これだけ暗いと森林帯じゃ無いのがありがたいな、遠くの方が真っ暗で全然見えない」
「見渡す限りの荒野だもんね。たまにあるテーブル状の小山や丘がアクセントになってて趣があってアタシは結構好きだけど」
「まぁな、俺も嫌いじゃないかな」
戯言を言っていると耳栓代わりの防音ヘッドホンからクリスの通信が聞こえてきた。
「そろそろ先行部隊が来る頃だそうだ。警戒体制になるので要塞の明かりが消える。暗視モードに移行しろ」
「了解」
各自スコープを暗視モードにして敵に備える。
地平線の彼方には微かに蠢くものがいた。
最初は点だったがやがて姿が見えるようになった。
「言ってた通りに潰れたエビ顔だな。そんで四脚だ」
「有効射程に入るよ。最初はムサシに譲ってあげよう。失敗したらアタシがフォローするから」
「了解。っんじゃ狙いまーす」
「射程内まで3,2,1、入った」
ムサシは静かに引き金を引く。発砲音後にアーニャが一言。
「残念、ハズレ」
その声を確認するとナギが伏射で狙撃を行う。
「ハズれよハズレ大外れ。貴方も何してるのよ?」
「あっれーおかしいな。試射では上手くいってたのに」
発砲音の後にクリスが厳しい口調で二人に問う。
「ムサシは上下を気にして。ナギはぶれぶれよ。撃つ前から変なのよ。後で腕立て伏せね」
「クリスー?」
「メッ」
俺たちは散発的に現れる斥候を片付けた。撃ち漏らしは多少あったがなんとか迎撃を行っていた。
「第2防衛ラインから撃ち漏らしのクレームが付いたぞ?」
「ムサシ、少し黙って。そうかこれか? この撃ち方か!!」
散発的な攻撃に緊張を重ね気疲れとクレームにうんざりしていると不調であったナギがおもむろに叫びだした。
最初は伏射をしていたナギだが具合が悪いようで胡座をかいた姿勢で撃ったり、土嚢を積んで射撃姿勢を安定させて撃ったりしていたがナギはどれもイマイチのい様子だった。そんあ叫びだしたナギの方を見てみると妙な笑顔をしていた。
不敵な笑みが終わると近場にあったコンテナを銃身の支えにして腰だめ射撃をしだした。ナギがシャイニングショットとか言って腰だめ撃ちをしだす。しかし、そのウチの何発かがあたった様子だ。そして数マガジンこなすとこれが何故かよく当たる様になった。
「なんでそんな射撃姿勢で当てられるんだよ?」
「大きいから伏射だとバランスが上手く取れなくてさ」
「銃が大きいもんな。でもそんなにバランスが悪いとは思えないんだけどさ」
「悪いって、上手く収まらないんだよ。おっきいから」
「銃が?」
「胸が」
ナギは弾倉が空になったのか銃を置いて胸をワシワシやっていた。
「はい?」
「撃つ時にさ? 衝撃があるじゃん? なんかブンッて来るのよ。その衝撃が抑え込めなくてさ。ブレちゃうんだよ」
「ナギ? コラ、ナギ? はしたないから止めなさい。ワシワシするのやめなさい」
「んー? クリス? あぁ、ごめんごめん」
「貴方は本当に、もぅ」
「おっきいと大変なんだね、クリス」
「肩凝るんだよ、アーニャ」
「休憩中にほぐしてあげるね。私、マッサージ上手いんだ」
「お願いするよ。なんか今日のはすんごい疲れるからさ。ありがとうね」
俺は無心になって撃った。何故だかだかわからないがそこそこに当たるようになった。
「ムサシ!! アタシ、輝いてる?」
「お-よく当たるな。よくその姿勢で当てるな。うまいぞー、輝いてるぞー」
「なんだよー、なんで呆れてるのさー、自分はミスってばっかのクセに」
「そっとしておいて下さい。今は調整中なんです」
足元が薬莢だらけになる頃には襲撃感覚が徐々に短くなってきたことに気がつく。本体が近づいてきた予感があった。
サイレンが鳴り響き終わると全体無線で照明弾を打ち上げ迎撃体制を敷く。大砲も撃ち始めるので注意との内容が伝達された。
要塞の砲台からは照明弾が打ち上げられ辺りに明るくなった。明弾によって照らし蠢く敵軍が見える。小型中型入り乱れて動いてた
戦艦の主砲が火を吹いた。轟音が鳴り響く。弾着を確認するまで待っていたようで静寂で耳が痛かった。確認が終わると次々に戦艦の主砲が吠えた。そして舷側の速射砲が次々に撃ち出される。
その後に備え付けの要塞砲も続き。銃座からは小口径の乱れ撃ちが騒がしい連続音を作り出す。アチラコチラで爆発や光の線が見えた。ときおり曳光弾が地面に跳ね返り明後日の方向へ飛び散る。敵物量は自軍の投射量で掻き消えていた。そうして戦域には盛大な戦場オーケストラが出現した。
「ブーンッ!!」
砲撃の激しさに興奮したナギが謎の言葉を口走っていた。
俺たちが担当している狙撃目標地点では砲撃による大爆発が次々に起きている。
「暗視機能をOFFにしておこうか。オートで調整してくれるけど気持ち的に閃光で目がやられちまう」
「こうなると俺たちは見てるしか無いかな?」
「倒せばポイントが追加で付くから……やっちゃう?」
「こんだけワチャワチャしてると撃ったってあんまり関係ないかな? 一応スコープ覗いてるけど。撃ち漏らし狙うくらい?」
「そうだね。それにしても照明弾が明るいな。それに曳光弾が綺麗だ」
「あっちこっちから光線が出てるみたいだね。この光の線と線の間に銃弾が混じってるんでしょ」
「そうそう。光の間に数発の銃弾が飛んでるんだ。曳光弾が嫌いって人もいるらしいけど。俺は結構好きだな」
「アタシも好き。なんか綺麗」
「でも地表近くは地獄の釜かな?」
「どっかんどっかん遠慮無しに吹き飛ばしてんな。あそこにだけはいたくないわ」
「榴弾がどっかんどっかんと。地表爆発に空中爆発にイロドリミドリよ」
「それはそうとして、イヤーマフ持ってきて正解だったでしょ」
「大正解でした。防音越しにも轟音が聞こえるもん」
「それもあるけど発砲の爆風が凄いです。それに加えて閃光と共に熱が来る」
「眠気も吹っ飛ぶわ。センサー系に障害でないか心配よ」
「一応、爆風防御地帯になってるから平気だと思う。クリスも確認してくれたでしょ」
「そうなんだが。これだけ凄いと不安になってきた」
「壁側に寄っとく?」
「そうしておこう」
「なんか何時もと違う爆発なかった?」
「気のせいじゃない?」
「私も思った。振動が違う感じだった。それにガラスの破砕音があった」
「投射系の攻城兵器な敵がいるみたいだからそれじゃないかな? さっき端末に情報が来てた」
「アラートを騒音で聞き逃してたみたい。ソイツってば空とぶパンジャンドラム的な敵生体?」
「そうそう。今のが敵陣の本隊だからそんなんが混じっていてもおかしくはないか?」
話を遮るかの様に付近から爆発音が聞こえた。
「今の爆発は結構近いな。電波に磁気に狂い放題だ。砲弾虫の中にECMのキツイやつがいたみたいだ。要塞の砲台が沈黙した。アンドロイドがやられたみたい」
「軍艦のアンドロイドは生きてるな。砲撃が続いてる。艦の防御機構が働いたようだ」
「あらかた片付けた後で良かったね」
「本当だ、終盤攻撃の事故で助かったよ。あと少しで終わりなんでしょ」
「あぁそうだな。そして爆弾虫がここに落ちてこないことを祈ろう」
俺たちの話が落ち着いた頃に被害情報が通達された。いつもの第3砲塔、第3指揮所が大破、司令部直撃により指揮系統に混乱ありといった内容であった。
いつも? どういうことなのかわからないが兎に角、その第3とやらがヤられたようだった。被害担当部門かな? そもそも司令部が大変みたいだ。風向きが悪くなってきたぞ?
状況にヤキモキしながら待機している。俺たちは所詮歩兵扱いだ、でしゃばっちゃいかんと自分に言い聞かせ長いと思える待機時間が過ぎた。しかし、実際には数十分の間だったらしい。
戦闘終了後にトイレ休憩に行くと下士官たちが騒いでいた。なんでも損傷していた通信設備がさらに壊れてしまったらしい。
甲板に出ると人が集まり騒がしかった。皆が見上げる先を見てみると光が照らされていた艦橋付近に激しく損傷しているのがわかった。
通信設備が壊れたと下士官が騒いでいた。
「ムサシ。通信設備のことなんだけど。下士官に聞いてみたら私が昔に修理したことあるやつかもしんない」
「お前さん、車屋さんだろ? 通信機器なんて修理できるのか?」
「暇な時は船でも電子機器でもね。修理できるものなら何でもね。んで修理に参加してきてもいいかな?」
「修理できるの? 」
「ダメ元ってやつ? 士官に聞いたら修理を試してみて欲しいって言ってた。怪我人が多くて人手が足りないんだって。修理用データはアンドロイドから貰えるから多分なんとかなる。トライしてみたいんだけど…駄目かな?」
「通信は大事だ。お願いされた事もあるし、やるだけやってみよっか」
と言うことで俺たちは時間もあったので修理に参加した。
ナギが見てみると直せそうと言ってケーブルやら通信機器やらを弄り始めて見てるだけのはずであった俺たちも付き合わされた。
艦橋の上方にある通信アンテナを直しアンテナ線を貼り直していると朝焼けの中に要塞の麓では掃討戦やら剥ぎ取りやらが行われていた。
「シマッた? アタシたちもこれからポイント稼ぎに行く?」
「やっとく? もうちょっとで修理終わるしね」
「敵を倒してスコア伸ばしたほうが良くない?」
「今更? 修理を完璧にしておきたくない? 監視と狙撃は十分に人が足りてるみたいだし。通信可能状態にしときたくない? もしもに備えたいしさ?」
俺たちの考えを他所に他のハンターたちは好き勝手に剥ぎ取りに繰り出していた。
朝焼けの中ハンターたちは戦利品のモンスターの希少部位を剥ぎ取りに我先にと争っていた。それを眺めてはいたが頭の隅に気になることがあった。試験がこんな簡単に終わるわけがないと深読みをしていた。
作戦室で貰っていたデータを眺めていた。その中でふと増援部隊のデータを開くと俺は思わずニヤけていた。データには第二次大戦時代の日本戦艦群や重巡の名前がオールスター状態で並んでいたからだ。それらは歩行軍艦という異質な存在ではあるが……。
慢心してはいけない。そんな言葉が頭によぎった。
頭を切り替えて現状分析を行う。
艦の指揮系統は壊滅であった。艦橋に直撃弾があった時に上級士官はまとめて吹き飛ばされていた。その為に下級士官が慣れない感じでアタフタと臨時に指揮をしていた。その様子は悲しいかな指揮と言えるレベルのものでは無かった。右往左往、狼狽、溜息と見るも無残であった。
その様子を眺めていると無性にイライラしてくるものがあった。もぅ俺が指揮しちゃおうかと? 余計な考えが頭をよぎる。
突如、地平線の彼方を監視していた下士官が悲痛な叫びを上げた。
「第2波襲来!!」
一瞬で艦全体に緊張が走った。何時もはコレで終わりなのに何故? 味方はまだ下にいて砲撃準備が間に合わない。そんな嘆き声が漏れていた。
味方艦の砲撃で殲滅しきれない。あぁ、大型まで出てきたと悲痛な声が飛び交い艦内はパニック状態だった。そして無様な臨時指揮をしていた士官は状況を理解するとショックで気絶してしまった。
艦全体にお手上げムードが漂っていた。
だが俺は冷静でいた。
「ふははのは! アクシデントは起こるものさ。そのために備えていた。更にも! 偶然にも! 俺にいい考えがある。そら通信用意だ」
「どこに?」
「味方艦隊さ!!」
下士官を捕まえ艦隊と連絡を取れと伝えた。
「すっかり忘れてた。増援艦隊が来てたんだったね」
「既に要請済の艦隊がな。何のために通信を直したと思ってんの」
「気が付かなかった。でも、間に合わないんじゃ?」
「間接砲撃を要請する。んで、こちらは射弾観測な」
「何も前面に展開しなくてもいいんだ。最初の作戦室にいた時に貰った味方艦隊の情報を見てたんだ。方向的に砲撃可能な感じだってな。曲射なら邪魔になる地形がなかったはずだ。艦のスペックがわからないけどさ!あの大きさの艦は多分砲撃可能だ!! そんな予感が俺にはある!」
「ムサシは軍艦に関しては抜け目がないな」
「速度、距離、方向、砲撃射程、地形情報、しっかり見ておいたのさ。なんか気になってな」
俺はサムズアップして決めポーズをした。
「素敵艦隊に曲射のできる実体弾、ロマンが全開だぜ」
「調子に乗ってきたよ、この人」
「あーチミチミ、さっきの作戦を指揮できる人は残ってる? 」
「士官は全滅しました。先ほど倒れた士官殿が最後でした」
「臨時に私ことムサシが指揮を取る! よろしいか?」
「私には権限がありません、基地司令に問い合わせを?」
「自分でしてもいいかな?」
「それならば問題はないかと」
俺は即座に基地司令に通信を行い臨時指揮権限をもぎ取った。何でもいいから撃滅せよと投げやりな言葉と共に戦艦の指揮をなし崩し的にゲットした。こうなればやりたい放題である。
改めて仰々しく許可を得て通信端末を触る。
「基地司令よりこの艦の臨時指揮を任されたムサシである。全艦に次ぐ、これより増援部隊と連携し敵を撃滅する。各部署準備に入れ。次に観測射撃の経験者はいるか? 直ちに出頭せよ」
俺はそう通信して準備を行わせた。砲撃部門から連絡があり観測射撃を行える者はいないことがわかった。
「いない? 観測射撃ができないだと? ここの下士官は無能の集まりか? では要塞には? 他の艦には? 誰でもいい、いないのか? 馬鹿め!! なら仕方がない、仕方ないなーいないんなら仕方がない。じゃあ、俺が観測射撃指揮をしちゃうよ?」
「なんかノってきたね、ムサシ」
「こういうのは雰囲気でやらないと。俺にとって試験内容が御誂え向きでさ。舞台を整えてくれたみたいだ? 盛り上がって行くしか無いだろう?!!」
「味方艦隊に繋がった? よーしよし、通信替わって」
「こちら要塞旗艦艦長代理です。間接砲撃を要請します。そーそー射弾観測。できますよね。OKOK。最初は遠目でお願いします。MAP座標を言うからそこにお届け物を頼みます」
「アーニャ。映像デバイス持って見晴らしのいい所に固定してくれ」
「クリスとナギはアーニャからの通信経路を用意、俺の端末に繋いで。その後に砲撃の計算を頼む。一応こちらでもやっておきたい」
「「OK」」
「士官君。すまないがもっと細かい座標が載っているヤツをくれ給え。至急MAPくれやお願いします。ついでに下にいるバカどもに砲撃避難命令を」
指示を受けた下士官は命令伝達の為に足早に駆けて行こうとした。
「3分間待ってやるって付け足しておいて」
しかし、ナギに捕まってしまい足を止めていた。
「おぃ、ナギ? 余計な事を付け足すなって」
「いいじゃん、ノッたモン勝ちじゃん? ええい。まどろっこしい。マイク貸して、んで全体放送と外部スピーカに繋いで」
「おま、何する気だ」
「アタシも何かやりたい!!」
全体放送でナギが誇張込みの言いたい放題で避難を進めさせて準備する。
砲撃座標を敵本隊に直撃させる為に皆で計算と検討をして、それを味方艦に伝える。
そのうちに砲撃指示用のMAPを頼んだ下士官が来て用事を済ませた。そして状況を伝え準備をさせた。下士官たちは忙しく駆けてゆきどこかに消えていった。
「まぁ、教科書通りよな」
「座学でやった通りに素直な砲撃目標座標だね」
「小型中型に榴弾、大型には鉄鋼爆裂。成功はこちらのタイミング次第。くぅ燃えるね!!」
「ムサシ。ネットワークを繋いだこの端末でアーニャからの映像を確認して。艦隊にも音声通信できるようにした」
「サンキュ。準備万端。あとは結果をご覧じろと。それでは皆さん、甲板に出て最高のショーを見ようではないか? アーニャ、オッケーだ。その位置で端末を固定して艦橋に来てくれ」
「あー通信室の士官君。聞こえるかね? 艦長代理補佐のムサシです。勝利を呼び込む為にミュージックを用意してくれたまえ」
「と言いますと?」
「クラシック……かな? 。下士官君、何か重厚な景気のいいクラシックを頼むよ」
「了解しました。それでは……これなど如何でしょうか?」
「あーいいじゃないか。これはイイネ。うん最高だ。あとは威勢のいいヤツを幾つか頼む。俺の合図とともに流してくれ」
「ムサシ知ってるの?」
「フーンフンフンフンーフンフンフンフンフンフンフンフンフンーーンフフンってやつ知らない?」
「ムサシ。詳しく」
「ヌッフッフッフ。クリス、流石に食いつきが良いな。今度詳しく教えてしんぜよう。今はただ感じ給え。それが一番良いだろうから」
「わかった。楽しみにしてる」
「そろそろ準備砲撃だ」
盛大な爆発音とともに色の付いた煙が立ち上った。
「味方艦隊に伝令。誤差修正。北に3ポイント。西に4ポイント。カウントを出すから効力射を頼む。ゼロと同時に発射で頼む」
皆の興奮が手にとるようにわかる。テに汗を握り、その時を待つ。
「射撃開始用意……30秒前……3,2,1,0,撃て!!」
通信越しに味方艦隊の発砲指示が聞こえた。
「こちらも発砲開始だ、用意を。下士官君。曲を始めて下さい」
敵はかなり遠方にいたが膨大な数が見えた。試射地点付近に近づくと曲の盛り上がりとともに味方艦隊から放たれた砲弾によって地獄に誘われた。連続した爆発。辺りは地形すら変えるような爆発によって土煙が盛大にあがり砲撃位置には暗がりすらできていた。
それに合わせるように要塞の軍艦群の砲撃が加わる。
俺は思わずオーケストラの指揮者の様な仕草をして曲にノっていた。しばらくは最高の時間に酔っていた。
そして大型種が目標地点に来るのを待っていた。吹き飛ぶ敵生体を眺め続け時を待つ、そして遂にその時が来た。
「ここで曲チェンジ……ん、ふむ……コノ曲も……また良い」
静かな調べで始まる曲、選曲に関して満足して味方艦隊への指示を行う。
「さてと、そろそろ頃合いかな。味方艦隊に告げる。これより、3分後に斉射用意。弾種、鉄鋼爆裂!! 目標地点アルファ」
指示を終えると要塞の軍艦からの砲撃のみになり、少しだけ緩やかな爆発間隔になっていた。
「さぁ、そろそろいいのがオミマイされるぞ」
俺は曲の始まりを静かに待った。静かに曲は始まり徐々にテンポを早める。
「デーデーン、デーデーン、デーデーン、デーデーン、デレデレデレデレ……」
俺の指揮に合わせて爆発が起こるようだ、そんな感覚に襲われる。
あまりにもシンクロしていて幻聴で曲が聞こえる気がする。
やがて要塞の砲台が復活して発砲を始める。その轟音はオーケストラに追加された。そして忘れていたかのように静まり返っていた陣地内の旧式艦も先を争うかのように砲撃を始める。
次々に飛来する砲弾。狙ったように大型に命中する砲弾。そこからは歓喜の渦中にいた。それはムサシにとっては素敵な夢のように甘美で心震える瞬間の連続であった。
朝焼けも終わり明るくなった荒野に飛来する砲弾。砲弾の飛来する音、炸裂音、爆発、巻き上がる黒煙、全てが最高であった。
殆どの敵生体を地獄の釜の底に叩き落とし終えた。やがて曲も終りが近づいていた。
「たーたーたたッてーてててー歩行戦艦ムーサーシー!!」
俺は拳を握りしめ指揮を終えた。清々しい疲労感に浸っていた。どこからか万歳三唱が、少し遠くからは何故かUSAの連呼が聞こえていた。
米戦艦なんていたかな?
そんな事を考えていると試験終了の連絡が来た。




