第44話 試練
地盤沈下により道路が透き通った水で沈んでいる地域、ここは廃墟ビル群が集まるゴーストタウンだ。建物には所々、たくしく生きようとする緑で覆われている。空はどんよりとした雲が覆っていて、しとしと降り続ける雨が鬱陶しい。
最終試験の第1部、対人戦闘ミッションはスタート地点から歩行艦までたどり着く事がミッション成功条件だ。
状況設定は遺跡探索の帰りに発掘品を狙った盗賊に襲われ逃げ切ると言う内容だ。
「撤退ミッションか……急かされるのは好きじゃないんだけどな」
「アタシも好きじゃないな、ムサシ。追われるだけでなく、おそらく待ち伏せも予想されるってトコかな」
「そんなところよ、クリス。今までの訓練の厳しさを考えるとな、警戒しておくに越したことはない」
「ゴーストタウンを拔けて歩行艦までたどり着くミッションだね。お宝はポケットサイズが少々って事だからありがたいね。テンションが上がる」
装備を点検しながら意気込みを見せるアーニャがいた。
「探索の帰りという設定だからMAP情報はあるのな。通ったって設定の経路がある。コレを見るに道路歩けるなら3km弱ってところか」
端末から空間ディスプレイで逃走経路を悩むムサシがクリスに相談する。
「道路の殆どが水没してるけどね。水が綺麗だから底にある白い砂がよく見える。場所によってはくるぶしが濡れるくらいで歩けるな。崩壊した建物の瓦礫も経路になるだろう。まぁ、水がある場所は動きが鈍るし水音も出るから基本は通らない方針で」
「逃走経路は豊富だからトラップは警戒しつつ……高層のビルもあるから待ち伏せの狙撃を警戒。光学迷彩を持ってきたのはクリスだけか。誤算だったな。まぁ、なんとかなるか? 迷彩は場所によっては先行偵察に使えるかな?」
「うむ。折角の光学迷彩だ。有効活用しよう。狭い挟撃ポイント、追い込まれやすそうな待伏せ場所、1本道がそれほど無いからトラップは気にしなくてよいだろう。それよりかは見渡せる広い空間がある所を警戒したほうが良いかな」
「屋内戦闘を気にするべきと俺は予想する……んー。いや、狙撃も怖いし気にしとくか」
「探索ポイントの高層ビルがスタート。ビルとビルを繋ぐ連絡通路をメイン通路として、ポイントは大きめの集合施設、駅ビル、で最後の密集廃墟、ここが注意ポイントか」
「ゴール地点の歩行艦付近はひらけた場所で護衛がいる設定か……最後の密集した廃墟を抜ければゴールと見て良いだろう」
「ふむ……逃走経路はすでに通った経路、情報があるところを通りたい」
「装備が重たいので短いルートがいいです、隊長」
隊長と呼ばれたムサシがクリストの相談を止めて背負コンテナを装備するナギに怪訝な表情を向ける。
「屋内戦闘はM4って言ったのに。デカブツガトリングなんて持ってくるから……」
とても良い顔をしてハンドサインをするナギがいた。
「なにサムズアップしてんだよ。褒めてねーよ」
「おっと、そろそろスタート時間だ。みんな準備はいいか?」
「「 OK 」」
高層ビルの中からスタートする。
連絡通路に向かうため、一旦屋外に出るムサシたち、狙撃を警戒する為に物陰に隠れながら進む。
雨が降る屋外に出た直後にクリスの様子がおかしくなった。
「ウグッ!!」
「クリス? どうした?」
本来は光学迷彩のため、見えないはずだが、移動時コミュニケーションのため、フードから覗く、顔しか見えていないクリスが呻き声を上げた。雨水の為か光学迷彩の様子が乱れてクリスのシルエットが壊れた光彩を放ち妙なモザイクの様に見える。しゃがみこんでうずくまるクリスの様子が伺えた。
「頭が痛い……気持ちが悪い。光学迷彩と私のナノスキンセンサーが……不具合を……グッ…… 」
苦しそうに呼吸するクリスを心配してナギが駆け寄る。
「クリス? 光学迷彩を無理やり剥いでもクリスに問題はないか?」
「問題ないやってくれ……だが……迷彩システムが壊れる」
クリスが言い終わる前にムサシは行動に出た。
乱れているとはいえ目視が難しい光学迷彩を手探りでクリスから剥いでいく。
「ひとまず、先にあるビルまで移動しよう。アーニャ先行偵察頼む。クリスが休めそうな所を探してくれ。多少隠れられる場所でいい。ナギは後方警戒」
「「了解」」
低い姿勢で隠れながら通路を進むアーニャ。
ムサシはクリスを抱きかかえるとナギに移動すると伝えアーニャが駆け込んだビルに向かう。
ビルに駆け込むとアーニャが手招きをしていた。
指示に従って部屋に入る。
「敵はこのフロアにはいない。たぶん、ビル自体にいない」
「サンキュ。アーニャ。追手の警戒を頼む。部屋の入り口から見張っててくれ」
「了解」
「ナギ。背負コンテナを降ろせ。クリスを背負う準備をしろ」
「了解、ムサシ」
「クリス、具合はどうだ?」
「命に別状ない……が動けそうにない。私を置いていけ……」
「脚下だ。バカタレ。装備外して楽な状態にするぞ」
虚ろ気な目を見せるクリス。ムサシは腹の立つ意見を出すクリスに少し苛立ちを覚える。そして、置いていく訳ないだろうがとか少しはマトモな事を言えなかった自分に腹が立っていた。
「すまない……」
「ナギ。クリスの装備を外してくれ。俺はなんか考える」
「わかった」
ナギはクリスの装備を外していく。ムサシはコンテナを見て考えていた。。
「コンテナに……入らないわな。背負子みたいにするのは無理か……ナギ、クリスを背負ってゴールまで走れるか?」
「絶対、走る」
「実際にできるかどうかを聞いている。気合の話じゃない。背負う事を交代しながら進む事も考えてる。で、実際のところどうだ」
装備を外し終わりクリスを身軽にし終えたナギがこちらを向かずに答えた。
「メンテナンス用のサイバネだ。筋力、耐久は問題ない。3倍の距離でも余裕だ。背負いきってやる。クリス、大丈夫?」
クリスは苦痛に顔を歪め、苦しそうにしていた。
「わかった。ナギにクリスを任せる。クリス、苦しいだろうけど背負うぞ? イケルか?」
苦しそうな表情を見せながらも目は力強い光を放っている。
「荒っぽくしてもいい。ナギ。ごめんなさいね。お願いするわ。でも気持ちがかなり悪いから、もしもの時に備えてね。危なくなったら貴方の身体のどこかしらを叩いて合図するから」
「OKOK。アタシが酔いつぶれた時にいつも背負ってくれたりしたでしょ。たまにはアタシに背負わせてよ」
苦悶の表情を浮かべながらも仲間に気を使うクリス。そして、そんなクリスに優しい笑みを浮かべるナギがいた。その光景にある種の力強さを覚える。
「ナギ。武装はクリスのヴェクターを使え。邪魔にならない所に装備できないか」
「背負いながらだと……まぁ、なんとかなるかな。OK。ムサシ」
「弾薬と手榴弾、応急救命キット俺が持つ。携帯観測機器は捨てていく。すまないがナギの装備のほとんどを捨てていく」
「クリスが助かるなら全然いーよ」
「さて、ナギ、クリスを背負って。一応持ってきてたパラコードで落下防止処置を施すぞ」
「OK」
ムサシはクリスを背負ったナギに器用にパラコードを使って固定する。
「ラペリング降下ん時とかのロープワークを真面目にやってて良かったね。こんなに早く使うとは思わなかったよ。うん。ムサシ、上手上手」
ムサシにされるがままにしているナギが軽口を叩く。
「うっし。準備はできたな。それじゃ速やかに撤退しようか」
「ムサシちょっと待った。捨てていく装備がもったいないから、さっき通った連絡通路にブービートラップ仕掛けよう」
「時間あるかな?」
「アーニャ。動きは?」
「敵の動きは確認できない」
「やるか」
「話は聞こえていた。やれるよ、ムサシ」
ナギと協力して捨てる装備を通路に持っていく。
「ナギ。警戒してくれ。アーニャと俺でトラップを作る」
物陰から警戒態勢につくナギ。アーニャが辺りを見廻していた。
「ムサシ。コンテナをこっちの物陰へ。材料は……」
「ガトリングの弾と……ナギのクリスヴェクター。C4爆薬まである。点火用信管がこのタイプなら……」
「あぁ、座学でやったな。踏み抜き型から紐付け起爆まで自在にできるな。一応遠隔起爆もできるけど? 見せトラップで置いとくか」
「ちょうど良くガレキで誘導しやすそうだし。結構いけるんでないか?」
「手榴弾ブービートラップとワイヤーで連鎖するようにしとこう」
「OK」
アーニャとムサシはテキパキと用意した。ナギが警戒して。細かい細工はアーニャ、ガレキやわざとらしいトラップはムサシと手分けをして仕掛けた。
「よし、できたら。さっさと移動しようか」
「ムサシ。動きはまだないよ」
「よし、では動こう」
ムサシたちは素早く立ち去った。
しばらく警戒しながら逃走ルートを進む。少し前を進むアーニャに先行偵察をさせた。
崩壊しかけている建物の間をグラップリングショットを使い3次元的に動くアーニャ。その姿が頼もしく思えた。ちなみに爆発推進は音が激しいので使っていない。
集合施設を超えるまで会敵せずに済んでいた。しばらく時間が立った頃にトラップが発動して大爆発の音が遠くで聞こえた。
ココまでは上手くことは運んだ。しかし、次の警戒ポイント駅ビルへの連絡通路にたどり着く頃には追跡者に追いつかれ厳しい状況となった。事が不味い方向へ進んできているので、ムサシは苛立ちを覚えていた。
しかし、苦しみながらも状況分析しチームの少しでも役に立とうとナギの背で無理をするクリスの事を考えるとその苛立ちは消え去った。この困難をチームで乗り切る。その事をムサシは腹に決めていた。
アーニャを先頭にナギと背負われたクリス、殿にムサシの移動隊形で逃げ続けた。
自分たちに取って有利な環境になり次第に出て徐々に敵を減らしていった。だが時間を激しく浪費することになった。
現在は時間稼ぎの単発的な戦闘になっている。
「ムサシ。ここなら広くて私の高機動戦闘ができる。反撃したい。次のゾーンに行く前にケリをつけたいんだ」
「アーニャ……確かに次の連絡通路では無防備になる。ここで反撃に出るのも有利に思える」
場所は何本もの路線を抱えた駅ビルの中央改札あたりにいるのだろう。広い吹き抜けのある空間にいる。外への通路はガラス張りでよく見える高所がる。見張りをするには好都合だ。路線を超えるように橋の様な連絡通路がある。迎え撃つには良い場所だ
「二人でヤレそうっちゃヤレそうだな。敵のレベルもだいたい理解したし。やるか……アーニャ」
「了解だよ、ムサシ。そうだね。撤退の連絡通路にナギ、ムサシは十字砲火可能な位置に。私は底のガラスから監視、上から強襲する」
この作戦は半分上手くいった。敵の襲撃が俺たちの予想の範囲内であったからだ。十字砲火は成功して敵のほとんどを倒せた。
しかし、最後のツメでアーニャがミスをした。
アーニャが敵のいるフロアに降りるまでは良かった。敵が隠れたので追撃しようと回り込んだ時であった。敵が苦し紛れで投げた手榴弾を避けようと初めて使った爆発推進システムが悪かった。手榴弾は避けられた。
だが、激しい爆発と共に投げた敵に凄まじい回転をしながら突っ込むアーニャがいた。
敵を掃討してアーニャに駆け寄ると止めを刺した敵と寝転んでいるアーニャを発見したのであった。アーニャに怪我はなく安堵するが。彼女はノビていた。
「アーニャは無事っぽい。オイ。起きてくれ。大丈夫か?」
「おぉぉ、目が回る。ムサシ……気持ち悪い……」
「怪我してないか? 見た目的には平気そうだな。アーニャ? 脳震盪で済んだのか? 運が良かったな。まったく」
「出力調整をミスした。びっくりしたよ……ごめん」
「無事ならいい。だが練習では上手く扱ってたじゃないか、どうしたよ」
「イキナリ手榴弾が来たので、びっくりした。脳波デバイスの使い方も慣れてなかったから……ホントにごめんなさい。でも次は上手くやる」
「元気そうなら良し」
すまなそうにしおらしくした次には悪びれずに闘志を燃やすアーニャが頼もしかった。
「アーニャ無事で良かった。クリスは大丈夫?」
「気分は相変わらず悪いが気にしないで戦ってくれ。生き残るのが最優先だ」
「うん。なるべく揺らさないようにするから」
クリスを気にしてナギが声をかけていた。
「さてと。アーニャはフラフラしてない……かな? ダメそうなら……」
「ムサシ。問題ない。目眩も落ち着いた。いける」
「次に誰が何かしでかしたって。俺が許す。俺がリーダーやる限りは全員生き残るからな。俺がなんとかしてみせる」
ムサシは自分を鼓舞するように呟いた。
気合を入れたところで何かあるかと思ったが駅ビルを拔けてからは順調であった。
案の定待ち伏せにあったが爆発推進とグラップリングショットを使いこなして3次元戦闘をこなすアーニャがいたからであった。廃墟の敵を一層した後に名誉を挽回したアーニャがフンスと息巻いていた。
予定は多少狂ったがなんとか上手くやっていた。ぶっちゃけ戦闘はアーニャ頼りになっていた。
「俺は後方警戒してるだけになってるな……さっき意気込んだのが少し恥ずかしくなってきた」
「ムサシ。適材適所だよ。アタシなんか装備選択を趣味に走ってミスって敵を倒せないし……」
「ナギ……それを言ったら私もだ……ムサシ」
「クリスは無理するな。ナギも謝らんでいい。俺が判断したんだ。俺の責任だ。今は生き残りを最優先だ。反省会は酒でも飲みながら有意義な発言でやろう」そういい終わる頃にひらけた空間の先にゴールの歩行艦が見えた。その姿は太い足が8本ある豪華客船がいた。
ムサシたちは豪華客船との間にスモークグレネードを撒いて、とりあえずの安全を確保して進んだ。
「なんでまた豪華客船なんだよ。戦闘艦だろ? 危険地帯だろ?」
「設定で一応の安全確保された探索地域だからって事だからじゃない? 一応は格納庫に戦車とか、たんまりいるし。現地で研究できるから結構こういう使い方されるみたいよ? 探索者にとっても宿泊所から病院までセットになった移動拠点として使えるし」
「装甲薄いじゃん? 怖いじゃん?」
「ほら、ムサシムサシ。遠くの方に戦闘艦もいるよ? やったね?」
そんな事を言いながら煙の中を小走りで進む俺たちの後方で突如爆発音がした。
安心しきった俺たちは半分ほど進んで気が緩んでいた。追加の追撃者が近づいてきたことに気が付かなかったようだ。
廃墟からRPGでをスモークの切れ間から単発で撃ってくる襲撃者が見えた。それらとセットで見えないが音的にアサルトライフルの発砲音が聞こえた。無鉄砲に撃ってはいるようだが生きた心地がしない。
あともう少しのところで追加のRPGのを構える追跡者たちが見えた。一瞬心臓が止まるような恐怖を覚えるが、そいつらから放たれた弾は俺たちの上を通り過ぎていたので安心した。しかし、歩行艦側から下を見てみると出入り口が破壊されていた。
「もう少しだったのにー!! 残りのスモーク投げるね!!」
「アーニャ。投げろ!! その後、甲板にグラップリングで飛び乗ろう。ナギ、クリスごといけるか?」
「仕様的に問題ないはず。いけるよ。ムサシ」
「じゃ、行くぞ!!」
グラップリングワイヤーの射程範囲まで走るとムサシたちはそびえ立つ豪華客船の舷側を登っていた。
登っている間もスモークによって視界が遮られているが敵の発砲は続いていた。
「護衛が全然倒してくんないじゃないか……」
「主役は私たちだからね。敵を倒すのは私たちだよ」
「セーフティゾーンなんかあったもんじゃない」
グラップリングワイヤーで上昇中に軽口を叩くムサシたちだが敵によるRPGの乱れ撃ちが襲う。
その中の何発かが俺たちのグラップリングフックを吹き飛ばす。
爆風で揉みくちゃにされながらも再度グラップリングガンを船体に撃ち込み難を逃れようとする。
その行動はなんとか俺たちを救う結果となったが甲板より高い位置にグラップリングフックは固定され上昇、スイングして、そして甲板に投げ出される、最後に激しく転がる着地という無様な結果となった。生き残られればどうという事はない。
敵の自棄気味の乱れ打ちの余波があったので甲板から退避して船内に駆け込む。
「ゴールだろ? ゴールしたろ? 終わりだろ?」
「ムサシ、落ち着いて」
「アーニャ、すまん」
横ではちょうどよい高さのテーブルがあったのか手をついて突っ伏してゼーゼー言っているナギがいた。
落ち着いてあたりを見回すと俺たちのいる場所は雰囲気のあるレストランに思えた
「豪華客船か……」
「メニューがあるよ。ムサシ」
「アーゴノーツ号 プレゼンツ? Dinner in the Rising & Greed 骨付きリブロースのトマホークだって? なにこれ」
「豪華客船のレストランかな?」
「巫山戯た話だなオイ。だいたいなんで護衛が迎えに来てないんだよ……」
「今回みたいに大型の敵性体とかの危険性がそんなに無いところだと、こんなもんよ。搭載してる戦車で決着がつくから」
「設定とは言え腹が立つ……でも許す。生き残れたんだ。何もかも許す」
文句と軽口を言っていると、艦内スピーカーからVRのミッション連絡が来た。
「お疲れさまです。試験終了です」
「ふぅ、やっと終わりか……しんどかった……クリスお疲れさん。大丈夫か?」
終了の合図にほっとして自分の荷物を降ろし、装備を置いて楽になる。
「なん……とか……ナギ、今は動かないで……目がまわって……んっ……」
ナギに背負われ満身創痍ではあったが、クリスはサムズアップをして、意思表示をしていた。
顔色は悪いようだがなんとか意識を保っているようだ。
その一方で机に突っ伏して楽な姿勢を取っているナギは辛そうであった。彼女はずっとクリスを背負っていたから疲労が溜まっているようだった。呼吸が荒くなっていた。
「よし、じゃぁ、クリスを降ろそう」
ナギにそう言っているとサムズアップしていたままのクリスの姿が気になった。手が震えていたからである。
そして、その手はゆっくりとサムズダウンに変わっていった。
「ん?」
気がつくとクリスの顔色が酷いことになっていた。
「おい、クリスを早く降ろそう。なんかヤバそうだ。クリス、手を降ろしていいよ。クリス?」
「ムサシ……クリスがね。今ね? 小刻みに震えているの……」
「わ、わかった、とにかく、早く降ろさな」
クリスを固定したパラコードにもたつく。
「お腹側のパラコードがキツくなってって解きにくい。もう少しだ。今、楽にしてやるからな」
テーブルに手をついてかなり深いお辞儀をしているようなナギ、その下に潜り込む俺となんだか妙な構図になっていた。
ナギのお腹辺りにあるパラコードに苦労しているとナギが俺の頭の上の方から声をかけてくる。
「移動中に結び直したから、ムサシ、そこじゃないと、もっと腰側のおへその下辺りに結んだ。もうちょい、そっちじゃない。こっち」
「結び目がが硬いんだよ。締めすぎ!!」
ナギの腰辺りの結びを解いている時に、それは起こった。
オロロロロロロ……。
クリスからだろうか不思議な音がした。続いてナギから小さな声にならない悲鳴がそしてまた変な音がした。
「今度はなんだ?!」
ロッパー!!
ナギからの生暖かい液体を頭からカブるムサシがいた。
ビチャビチャビチャ……。
無慈悲な惨劇がムサシたちを襲う!!




