第42話 封印される必殺技
「いや、そう言うんじゃないから。授けた能力はそんな風に使うんじゃないから!! だいたい君は艦長になるんだろ? 軍艦乗りだろ? 格闘最強とか無いから? 武器使えよ武器!! 脳筋馬鹿が!! 最強の男になる? 馬鹿じゃないの?」
「ウルセェ!! そんなことより軍艦よこせ!! 軍艦置いてけ!! なぁ!! 軍艦あるんだろ? なぁ!! 軍艦!!」
ハッ!!
妙な夢から目覚めるとベッド際にアミがいた。反対側にはアーニャがいた。ナギも……クリスはモニターとにらめっこしていた。
「「ムサシィィィィ!!」」
俺は3人にダイブされもみくちゃにされた。
「わぁい、両手に花……どころじゃないな。なんて言うんだ、こういう場合?」
「「ムーサーシー!!」」
「バイタル正常、身体も打撲があったけど応急セットのナノジェルで治った。健康体だよ、ムサシ」
クリスが騒がしい中、説明してくれた。
「えっと、みんなオハヨ。とりあえず落ち着け」
「やっと起きたな。寝ぼすけめ……頑張ったね。頑張ったよ。うん、ムサシは私が育てた!!」
「そうだな。アミ……ありがとな……」
「凄かったんだよ。ムサシ。倒れても倒れても立ち上がって」
「アーニャもありがとな。声が聞こえてたよ」
「ンムゥザァジィィッツ!!」
「ハイハイ、ドードードー。ナギの張り手が戦ってる最中に熱くってさ……助けられたよ。年上の癖に1番取り乱すなよ。ありがとな。クリスも装備のおかげで拳がもったよ」
「あれは皆で選んだんだ」
「グリズが先に言いだしたんぁぁあッ!! スタンが良いって」
「ナギ、鼻水をムサシに付けない。ホラこっち来なさい」
「貴方は試験に合格して倒れたの。焦ったわよ……訳のわからないこと言い出して原因不明の現象を起こすんだもの……」
「いやぁ、なんとなく身体が勝手に動いて……なんとなく調子に乗っちゃって……」
「ナノジェルとスタンナックルの相互干渉……だけでは説明がつかん……がそういう事にしておいた。調査結果も特に異常はない。健康体だ」
「幸いムサシも最終試験に挑める状態だし。チームの皆も同じだ。他の訓練生や待機訓練生の関係であと2、3日後にはなるけどね」
「そいつは良かった。実は気になっていた。俺って合格してたんだな。よかった……」
「って、無言でバシバシ叩くなよ。アミ? なんだ、なんだよ?」
「こっちがどんなに心配したか……起きたら起きたで澄ました顔して」
「ごめんよ、何だか必死だったんで最後の方はよく覚えてないんだ。兎に角、心配かけてさ。ごめんよ」
「ハィハィ、貴方たち……満足した? 次が控えてるからどきなさい」
「「はぁい」」
三人が名残惜しそうに退くと今度は犬たちが飛び込んできた。
俺は諦めて無抵抗になった。顔中を舐められ足蹴にされ……あぁもう、無茶苦茶だよ。
犬たちの興奮が収まる頃に女性陣はモニターを眺めている事に気がついた。
そして、どこかで聞いたことがある声が聞こえてきた。
ベットが犬まみれだったが若干興奮収まらぬ犬がいた。
「お前たち。ヨーシヨシヨシヨシ。オシャシャシャシャ!!おーちつけ。スティ!! スティ!!」
俺は犬たちを大人しくさせて女性陣の様子を見た。
「状況は理解しました。こちらの設定が甘かったようです。データは完璧に得たはずなんですが。成長したのでしょう、短い期間にね。私の計算を超えるとは……制限のあるAIとしても、演算を外すとは。恥ずかしい」
女性陣は空中に浮かんだ白い画面と話していた。
「ムサシ忘れていることはない?」
「ん? なんか変な夢見た。なんだいクリス? 怖い顔して……」
「そうじゃないでしょ? 何か言うことあったでしょ……話はだいたい聞いたけどさ」
「アミまで、なんだい? 一体全体?」
「これでも思い出しませんか?」
「その声は? VR訓練の時のAIさん?」
「あなたは……軍艦を制御する力を与えったってのに。なぜにホワィ? 機械獣をぶち壊すことに力を使って……」
「薄っすらと記憶にあるけど。いやぁ、ノリに乗っちゃって……音楽も盛り上がってたし?」
「なんでまたハッキング能力なんて? 艦とシンクロする為の通信信号を無意識に利用したみたいですけど……まぁ、偶然でしょうけど、何でかリミッターも突破して……これじゃ、リミッターの意味がないじゃないですか……はぁ……貴方にはより強い権限で制御機構を……防御システムを構築しなければなりません。当面はポケットサイズの端末にAIを乗せてなんとかして封印しますからね。本当にどうなっているんですかあなたのシステムは? そんなの組み込んでませんよ? だいたいハッキングフィンガーって何ですか?」
「ハッキングフィンガーはあれじゃないかな? 土壇場で閃いた技とかで。あとはあれだ!! 決意した人間はAIの予測を超える? 無限の意思力でレディゴー的な必殺技みたいな?」
「はぁ? 意味がわかりません。当面はクリスさんに簡単な調査やメンテをできるようにしておきます。そうそう、軍艦制御は剥奪せずに残しておきますのでご安心を」
「細かく教えてもらったから簡単な部分は私が確認する。だがな、あまり無茶をしてくれるなよ」
「さんきゅ、クリス。でさ……そもそも使い方をさ? 教えないAIさんが悪いだろ?」
「船によって色々あるんですよ。船の入手時に説明しますよ。だいたい急に候補者が出てきて……こちらとしても段階を組んで……こんなに早く覚醒する予測もありませんでしたし……まぁ、それはそうですね。こちらの準備が足りていませんでした。それは謝罪します」
「AIに言い訳させて、更に謝らせたよ……ムサシ、君は凄いな」
クリスを筆頭に女性陣はなんとも言えない顔をしていた。
「それはそうとして!! AIから能力授かったとかこんな大事なことはスグに言わないとダメでしょ!! わかってるの? ムサシ!!」
「ゴメンてアミ。でもよぅ。訓練が辛くて疲れてさ、試験に落ち込みまくってて落ち込んでたし……そもそも考える暇なかったんだよ。それぐらい厳しかったじゃん?」
「「それはわかる」」
ナギ、クリス、アーニャがうなずく。
「グヌヌヌ。正論を……仕方ないじゃないない。一応訓練メニュー通りだよ。組合の規定も守ってるし。訓練施設伝統の感じだよ? 効率だって……」
「まぁ、実際、鍛えられたし、生きてるからいいけどさ。それより俺の必殺技どうよ? すごいっしょ?」
「それなんだけど……ムサシ。あの技は使ってはいけない。身体にも負荷をかけるし。大人の事情がある」
「クリス、マジ? マジか……なら仕方がないか……」
「ナノジェルとスタンナックルのオーバーロードによりEMPとかエネルギー爆発とかって事にしてあるからね。上手く誤魔化したよ」
「まれによくある現象だね……」
「??? 稀に? よくある?」
「格好は良かった」
「だろナギ!!」
「ナギは理解してくれると思ったよ」
「でも身体に負担が掛かって良くないよ」
「わかったよ。アーニャ」
「体の具合は正常のようだ。安心していい」
「クリスがいると助かるよ。ありがと」
「妙な技は封印します」
「AIめ……あんなにメチャクチャかっこいい技なのに」
「封印です」
「はい」
俺たちの和やかな空気に犬たちも反応してか温かい空間ができていた。
「普段は結構真面目にしてるのになんか変な時に妙なスイッチ入るよね。ムサシってさ。見ててハラハラしちゃったよ? わかってる?」
「フッフフフッ! アミ教官? 言葉使いがアミちゃんになっていますことよ」
「へっ? ナギ? いいのいいの、今はね。半分プライベートみたいなもんだし。ノーカンノーカン」
「そう言うことにしておこう」
「何だよームサシまで? そんなに鬼教官の私がイイの?」
「あれはあれで良い。とてもセクシーだ。どうせならキッチとした軍服を召したメガネアミになってもらって……教鞭で叩かれたいかも」
「「うわぁ」」女性陣はドン引きである。
「冗談だよ? 本気にするなよ? 冗談だって……ホントに冗談だって」
女性陣は俺を無視して犬達をかまっていた。
「可愛いなーお前達は、クリスーこのコ飼っちゃダメ?」
「費用が凄いわよ? 許可降りるのも大変なのよ。ダメ」
「よーしよし。いい子。あんな男に育つなよー。はぁ、教官スタイル変えようかな」
「この子、毛並みが綺麗。とてもいい匂い。落ち着く」
「そう言えば。犬だけでなく他にも猫とかいるらいいよ。ココ」
「「猫? 気になる」」
女性陣はアフォなことを言う俺を放って置いて犬ざんまいしていた。
ひとしきり話題が尽きた頃にアミが神妙な顔をしていた。
「話は変わるけど最終試験がね。この地域全体のお祭りに騒ぎになるの。それで賭け事もあるんだけど、訓練生の誰がトップになるか。順位がどうなるか。そういう類の賭け事なんだけどね。旧世代にあった競馬? ってのを模してるとか?」
「うん?」
「私はムサシのチームに賭けようと思うの。皆はどうする?」
「そういや、最終試験は順位があるんっだっけ?」
「凄い盛り上がるんだ」
「ファンティアでも中継があったな。緊急回線使って贅沢にライブしていたな」
俺とアミの会話にクリスが入ってくる。
「端末で読んだけど遺跡発掘とか賞金首争いとかのハンターの競争生活を模してるらしいな」
「遺跡発掘は特に競争だ。貴重品が多かったりするからな。悲しいことだ。貴重な発掘品を取り合うなどと……」
「クリスは発掘品が壊されることがいやなんだよね。まぁ、汚い連中の襲撃や裏切りなんてのも稀にあるからね」
「世知辛いことだよ」
ナギとクリスがヤレヤレとしていた。
「お宝は大事。ロマン。お金になる」
「どうした? アーニャ?」
アーニャがフンスと言わんばかりに気合が入っている。
「賭け事は燃える」
「アーニャ……以外だね」
「一発当てるのはロマン」
アーニャがなんかたくましく見える。
「俺も折角だし、自分に賭けたいんだけど。生活費用を抜いてどんくらいかな?」
「んー? 今どれくらいあるんだっけ? チップ見せてね……ハィ、ありがと。ムサシはね……生活費抜いて……ん……初期装備整える費用抜いて……小遣いとして……こんくらいかな?」
「ではその分を最終レースに単賭け……いや……倍プッシュだ」
「私が言った通りにしときなさい」
「あい……」
「アタシは自分に賭ける」「私もお小遣い分を自分に」「私も気持ち分を自分に」
「最終レース単勝でいいかな? 他の待機組も加えて8チームだけど。複勝、隊単、ワイド、3連単とか色々あるけど」
「競馬かな? 俺たち馬かよ?」
「訓練費用がどこから出てるか知ってる? 費用自己負担の一発試験をやる凄腕新人じゃないんだよ? ただより高いものはないんだよ? ちょっと端末開いて? 」
アミはそう言うと何かを操作していた。壁にモニターが出現して街の盛り上がりを移していた。画面にはスポンサーやら広告やらの宣伝が飛び交っていた。
「こんな感じです」
「広告がエグい。すごいなこれ」
「試験でアピールができれば良い依頼や良い所に所属できるんだし? ほら、このスポンサーなんて超有名だよ?」
「ナギ、ムサシは聞いてないぞ」
「まーた。画面に軍艦出たら見入っちゃって、まぁ」
「 最上型重巡洋艦だ……しかも後期型?」
画面には洞窟都市に入港許可を取る最上型重巡洋艦が荒野を進んでいた。
やがて、洞窟入口にあった灯台砲塔が大砲を放った。
「礼砲撃ってるね。ってことはVIPか?」
「なら。鈴谷だろうね。今この辺に他の最上型いない。艦長さんが大会イメージキャラになったんだっけ?」
ナギがそう言う横でアミが含み笑いを堪えているようだった。しかし、それを堪えて神妙な顔をして言った。
「あー。和やかなところ、すみませんが。教官の立場として言わせて頂きます。最終訓練が残っているので気持ちの準備をして欲しい
「まぁね、他の訓練生もムサシに当てられて気合が入っちゃってね。今回は凄いことになっちゃうよ?」
「最終試験が憂鬱だ……」
「ごめんね。内容は言えないけど。気楽に言って地獄です」
「「はぁ~ッ」」
一同は深い溜め息をする。
「気楽で地獄て……訓練であれだけひどかったってのに……」
「アタシ。なんだか泣けてきた」
「これまでの訓練以上になるんだろうな……おっと、義眼の洗浄液が……」
「訓練は嫌だ、訓練は嫌なんだよ……」
「ナギ? クリス? アーニャ? 泣くなよ。俺まで思い出したら泣いちゃいそうだ」
画面には最上型巡洋艦鈴谷の主砲が返礼をしていた。
青い空が広がる荒野に20.3cm2連装砲が力強く咆哮していた。
訓練生たちにとっては地獄の、都市の人々にとってはお祭りで最高の娯楽、それぞれの最終試験が始まる。




