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歩行戦艦ビーケアフォー 絶対対艦歩行主義  作者: 深犬ケイジ
第3章 涙の20.3cm連装砲

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第41話 ワシ掴みの大勝利!!

 訓練生について語ろう。


第1期訓練では世俗から切り離し精神を試す行軍から始まり訓練は壮絶さを増していった。2チムーに別れ、訓練の中で争ったり、訓練生全員で乗り越えるような大規模な訓練もやった。


それゆえに問題も起こった。疲れからか本性を暴かれ人間性をなくしつつある者もでてきた。訓練目標を達成できずに文句を言い合い終いにはリーダー争いに発展したり、不和なメンバーが言うことを聞かなかったり。脱落者と復帰者で混沌さも増えた。訓練で体力と精神をすり減らした訓練生たちのチームワークは乱れに乱れた。 

 

しかし、アミ教官などの誘導や訓練目標を達成した高揚感などから徐々にまとまりを見せた。そうしてなんとかチームワークを発揮することが可能になった。


おっさん訓練生ズとは元より普通に仲良くなれた。彼らは精神的に熟された大人だったからだ。自然と仲良くなれた。


第2期第3期になっても訓練生はさらなるまとまりを見せた。訓練生の目標が同じであったからだ。戦士になること。その為、時期が進むと非常に良いチームワークが育てられた。


それにブタヌキ、ピヨン、シリュウの3馬鹿トリオとも初対面はアレだったが多少は仲良くなれた。なんだかんだ突き抜けてる酷い部分もあったが、己の欲望に忠実で生き汚い点などは、厳しい世界で生き抜くためには必要なことと思えた。機転の効いた部分なんかは素直に尊敬できる部分もあった。


ただ、しかし、潔すぎる醜い点は目に余った。彼らはずる賢く何かにつけて訓練をサボろうとしていた。まぁ、スグに見つかりひどい目に遭っていたけれど。


そんな彼らが近づいてきたので俺は気晴らしに聞いてみた。


「なぜ、ズルをするのかって? ほいたらお前さん。何が正しくて何が悪いか誰が決めるんや? 簡単に決めれへんやろ? 自分らで決めるんや。無駄に厳しい訓練に納得しとったらええで? ワイは納得しとらへん。後で自分に帰ってくる? その前に死ぬかも知れへんやろ? ワイは現実主義や罰もご褒美もすぐ欲しいんやん? それにな? 我慢して訓練して辛い目におうてな、ワイは本当はできる子なんや? 耐えに耐えて、いつかいつかはやってやるんやと思って耐える。こんなん負け組の発想や負け癖が付いとるんや? いつもニコニコ現金払いでスグサマ支払いや。リボ払いなんてするやつはアフォや? マニュアル通りにしてたら勝ちに行けんのや! 知らんけど」


「教官に付けられたあだ名には納得してるくせにこのピヨンは。なぁブタヌキ言うてやれ」


「せやなぁ、シリュウ。ムサシはん、そいつの言うこと真に受けたらあかんで。そいつは、こねくり回してるだけやで? こねくり回して、自分を正当化してるように見せかけてるだけやで」


「わかったよブタヌキさん」


シリュウ君が俺の肩に手をかけて言う。


「せやで、なぁムサシ、アイツがズルしてたスグに知らせろや? シバイたるでホンマ。ワイらまで罰を受ける。頼むで」


「せやなぁ」


「おっおう」


「なんやて? ワシはお前らの為と思ってな!! ワシが、お前らが我慢してるから、ワシがやったんやで? ワシかてそんな事、普通はやらへんで?」


「やるやろ」「やるな、やるやる」


「お前ら酷いな、本人の前でそこまで言うか?」


「ムサシはん……友達だからこそ言うんやん? 影でこそこそ言ったらただの嫌味やん? 堂々と言うのも友達の仕事なんや。ウチらの中ではな。ブタとタヌキはホンマは優しくて賢いんやで?」


「そうや、そうや」


「ンマッ!! そう言うことやから、お互いうまくやりまひょ」


「ワシが言いたいんわな。お前の物語はお前が作るんや 自分の人生やで? 主役はお前や? 好きにしたらええねん。 成功するんも死ぬんも自由や。知らんけど」


「ありがとうピヨン。何が言いたいのかわからないけど。とにかくありがとう」


こんな話ができるくらいには仲良くなった。



そして次にイケメン君が声をかけてきた。このイケメン君だが意識を改めなくてはならなかった。彼は実際にはとても良い人であった。


イケメン君は全方位男女平等いいヤツであったからだ。苦労しているチームがいれば爽やかに助け、訓練生全体がうまく動けるように立ち回る。メインからサポートまでスキ無く動いた。我々のチームも大いに助かっていたからだ。


ただしチームとして問題があった。彼を中心とするハーレムチームは女性陣たちが表面上は仲が良かった。裏では隠していた血で血を洗う壮絶な女の戦いが垣間見えたのだった。


それに彼は非常に苦労しており、男だけになると男たちに愚痴っていた。そこんところは好きになれそうな点であった。パーフェクトではない部分がとても魅力に男たちの救いになったからである。


「ムサシ。君のところは本当に仲が良くって羨ましい……コツとかあるのかい?」


「んにゃ? 俺の所は何もしてないぞ? いつもあんな感じだ。なんもしてない、何もな。それがコツだ」


「そうかい? ウチは大変なんだよ。公平平等にしてるつもりなんだけどね……」


「上手にやっているように見えるけど? スーパーホストみたいだ」


「ホスト? なんだいそれは……まぁねなんだ……見えない苦労ってのもあるから……」


「ソウデスカ……」


「困っていることがアレば僕に言ってくれ、さてとお姫様たちをみてくるかな。きっと寂しがっているからね」


「ゴミ女のボヤキがウザイのと、ゴミ女が何かやらかす時に貴方がいない状況が自然になるのをやめて欲しい……」


「ゴメンゴメン聞こえなかった。あっはっはっは! なんだいハニーたち? どうしたんだい?」


「そーういうトコだぞ? なぜタイミング良く難聴になるんだアイツ? これがスキルか? そうなのか?」


一部はどうしても仲良くなれない奴もいたがそういうのは自然と消えていった。それぞれ相性ってものもある。そこは大人の対応で……そんな一応のまとまりを見せて俺たちは訓練をこなした。




で、温かい支援の言葉を頂いた後に今に至る……が……俺は他の試験に合格していたが個人戦闘訓練に落ちまくり。中間成績がドンケツのビリだった。それで最下位の称号「(いかり)の男]が授与された。


訓練生全員と教官と監督からの募金で作られた鎖の紋章が描かれた絢爛豪華なワッペンが授与された。


とりあえず、俺のベットに飾っている。


そして今夜は簡易的に作られた台で表彰されてダンスを披露することとなった。問答無用でやらされた。伝統ある儀式だそうだ。


最優秀者のイケメン君の表彰の後にコレだ。俺はイサム監督から授かったリズム感の良い曲をかけて軽いダンスと歌を歌った。


クリスは曲に目を輝かせていたりした、ナギもアーニャも俺に気を使って楽しんでいる様子だった。まぁ、他の訓練生にも受けたのでヨシとしよう。


そして訓練生たちは知っていた。錨の男になった者がその後にどうなるかを……それゆえに知っている訓練生の大半は真摯にリズムを合わせ手を打って祭りに参加していた。


最下位賞……ここではイカリの男。


士官学校やハンター訓練、様々な学校にで最下位に贈られる称号には色々ある。ヤギだの、ドンガメだの、赤い肩に塗られた最低野郎だの、錨の男だの……この辺の地域では中間試験成績の最下位の者に称号を与え祝福する伝統があった。


いつから始まったのかはわからないが初期の頃から存在する伝統であった。


ある者は厳しい訓練に負けた犬となり、堕落してサボる愚か者だとかになった。


だが、成績が悪くても努力を積み重ね、目覚ましい昇進を上げる者、戦果を上げる者、偉業を成し遂げる者が多く現れたからである。


大半の最下位者は諦めることを拒絶し自分の力を信じ続け挫折しても立ち上がり不屈の魂を持つ者になる事が圧倒的に多かったからだ。


実際の話しとして証拠もある。最前線に送られ激戦の末に昇進する者、無謀な作戦に放り込まれ奇跡の勝利をもたらした者、誰もが諦める状況で味方を鼓舞し難門をクリアする者、調べてみるとそのような者たちは最下位者が多かった。


歴代の様々なリーダーになった者、ハンター長、艦長、提督、市長、将軍、そして長になれなかったとしても教官や教授、著名な探索者、治安維持の功労者、様々な尊敬するべき愛される人材が多く輩出されていた。


個人の資質と言い切れることもあったが人々は英雄を求めた。それが最下位者でも祝福される要因になったのかもしれない。ともかく、最下位者は蔑まれずに祝福される事になる。


その事をムサシはアミから聞かされ心を震わされていた。そして明日に備えて気持ちを高める為にイサム監督から授かった音楽データを聞きまくっていた。出撃したくなるコレクション、気持ちを高ぶらせるセレクション、勝利確定勝ち確ミュージックなどを……

寝ながら明日の個人戦闘試験に勝つ為のイメージを抱いていた。ちなみにこの耳かけ端末のスリープ機能は脳波で勝手に始動する。


翌朝は初回から俺の試験であった。朝の目覚めは清々しく力強い気持ちで起きた。準備中に仲間たちからの熱い言葉を貰った。


「ムサシ……私のお兄ちゃんが勝つ時にしてた匂いがする。スンスンスン。間違いない。この匂い懐かしい……それにムサシはなんだかんだ動きが良い。勝てるよ」


「アーニャ? 近距離ナイフ戦の得意な君に言われると自信がつくよ……」


アーニャは俺の懐に入り抱きついていた。


「大丈夫だよ。私は信じてる。私のバディは強いんだ」


抱きついてきた彼女から美少女特有のいい匂いがする。グヌヌッ!! 気持ちが若干それる。アーニャは俺を鼓舞してくれているのに俺ってば、やましい気持ちに……こういう時はアレだ。犬の詠唱だ。


ドゴアルヘンティーノ。そう呼ばれる白い滑らかな短毛を持つこの犬種はアルゼンチン生まれの珍しい狩猟犬です。

初期の頃に優れた嗅覚を見いだされ狩猟犬としてピューマなどの大型獣用の猟犬として計画されました。

闘犬のちから強さをコルドバ・ドッグから、狩猟の能力をイングリッシュポインターから得て、穏やかさと優しさと力強さをボクサーより、足の長さとスタイルの良さをグレートデーンから、さらなる狩猟能力の獲得にアイリッシュウルフハウンドの血筋を、穏やかさと純白の毛並みにする事を目的にグレートピレニーズをかけ合せ、チカラこそパワーと言ったのか不明だが強さを求めスパニッシュマスティフを。こうしてドゴアルヘンティーノは生み出された。


大型犬、大きな頭部、小さい暗色ブラウンかブルーの瞳、白い短毛の美しい毛並み、プライドが高き攻撃性のある狩猟から闘犬までこなせる。しかし、愛情を与えると主との服従訓練により家族的な愛情を持つ忠実的な性格になります。初心者には向かない犬である。犬に慣れた訓練資格を持つ紳士にオススメした気高く勇ましく美しいワンちゃんである。


ヨーシ。問題ない。闘争心はそのままオーケー俺ちゃん。アーニャが離れ闘気を燃やし続けることができた。


「今朝はいつになく良い目をしているな。ムサシ……期待しているぞ。皆で相談して君に適切な装備を用意してみた。衝撃を和らげる事を主眼にしてみた。拳など衝撃吸収する素材でかつスタンナックル仕様だ」


「クリス……ありうがとう。やってやるさ」


「オッハ。ムサシ……元気そうだね。あたしが気合い入れてやろうか?」


「おうよ!! 頼むはナギ。でも気持ちが逸れるといけない、変なやつは勘弁なッンガハッツ

!!」


バチーン!! 「そぉいッ!!」


「背中が……アリガトウ……いい張り手だ!! 気合が入る」


前に回り込んだナギサがいい顔をしている。


「もう一丁!!」


今度は頬をブッ叩かれた。2回目の張り手だと……。


「アリガトウ、ンナァギィ」


ナギは満足そうに仁王立ちしていた。




俺はこれから試験に挑む……今までは目を背けていた。今は違う。夢は夢のままではない。気炎万丈……自分でもわかる。何かが弾けるようなこの感覚……迷いはない……恐怖は少しはあるが確信があった。行けると……


部屋で準備が終わった。昨日聞いていたリングに向かう為の恐怖に負けない止まらない為の曲が頭に流れていた。


廊下を進む。今まで気が付かなかったが拳の跡に見える汚れがあった。いたるところに付いていた。重ねてみると両拳を壁に祈るような精神統一をするような姿勢になった。過去の訓練生も同じ様に祈ったのであろうか。


姿勢を戻し壁を見ると拳の跡がなかった。実際には存在しなかったのかも知れないが、しかし、俺にはオーラのような朧気な光を放つ微かな拳の跡が見えた。


外に出ると既に大盛りあがりである。訓練場に向かう道筋に訓練生たちが集まっていた。応援の声をかけられ、そのうち昨夜に歌った曲のドラム部分をマネて足踏みする者、手を叩きリズムを取るものが出てきた。お前たちのエールは頂いた。俺はウィニングロードを進む。


ドンドンズズン、ドンドンズズン。俺は地響きするレベルの振動で鼓舞されていた。


訓練場には遠巻きにギャラリーが、俺の端の方に虎型の機械獣がいた。訓練場に入る前にアミ教官とイサム監督に目で何かを言われた様な気がした。模擬光線銃を渡され戦闘が始まる。


戦いは開始され。何時ものように様子見の間合い取りが始まる。お互いを一定距離に保ち訓練場の中央を軸として円を描くように相手を見据えて動く。最初に動いたのはムサシであった。


「バァァァァルカンッ!! 」 


模擬の光線銃であって決して実体弾ではない。しかし気持ちが高ぶりムサシは口走り相手に射撃をした。有効打にならず。詰められて近距離戦になる。


「いつものパターンだ」


ギャラリーは言う。ムサシはバックダッシュをしてしまう。


「逃げてはいないが……」


ギリギリで躱し続ける。銃撃は有効打にならずエネルギーは切れる。距離を取ろうとするが追い詰められる。何度も何度も襲撃される。


「何時もとは違うがこれじゃぁ、そのうちヤラれちまう。またダメなのか……」


マガジンチェンジに気を取られ、ついにムサシは虎の前足の一撃をくらい、振っ飛ばされる。


鉄の獣の、前足による一撃。その凄まじい力に、俺の身体は無防備に吹き飛ばされた。


転がった身体を起こし、再び銃を構える。しかし、奴の攻撃は執拗で、俺は何度も同じように地面を転がされた。


やがて、強烈な一撃が手元を襲い、俺の相棒である銃は大きく弾き飛ばされ、視界から消え去った。


虎は挑発するように前足で地面を掻いていた。


ムサシは地面に這いつくばり銃を探す。視界の先に銃を見つける。そしてその先にナギ、クリス、アーニャの姿を見つける。


立ち上がり駆け寄り銃を取る。そして再び虎と対峙する。


「師匠、そろそろ時間です」


アミが伝えるた瞬間にムサシは大きく飛ばされる。宙を大きく舞って地面に投げ出される。


「やられたか……」


「やったか? 」


「やってない」 


誰かがつぶやく。


ムサシは動かない。


ムサシは地面に投げ出され思う。こんなに辛い目に遭うのはなぜかと。辛く苦しい、悲しく惨めな思いをするのはなぜかと……。


意識が飛びそうだ……目が霞む……しかし、心の奥底に燻る炎があった。


錨の男、諦めない耐え抜く不屈の魂を持ちし者、熱き血潮が流れる者たちを思い出した。艦長になるんだった……な、俺。


自然と体にチカラが戻り、立ち上がる。


「ボロボロじゃねぇか、なんで立ち上がれるんだアイツ……」


ギャラリーは静まり、ムサシを見守る。


「まだだ、まだ終わらないぞ。アイツ。見てみろあの目を……まだ目が死んじゃぃねぇ」


ふたたび立ち上がるムサシの目がグリーンの輝きを見せているように思えた。


しかし、また大きくふっ飛ばされる。銃は壊され終焉が迫っていた。




なんでこんなことしているんだろう、なんの為に訓練しているんだっけ、俺は何してんだ……。


なぜ戦うんだろう……何だったっけ……VR訓練の中で誰か言ってたっけ……男は一生戦い続けるもんだと……。


その言葉を思い出して、身を起こす。ムサシの目は死んでいない。目には諦めない緑色の光を宿し、ムサシは再び立ち上がる。


「頃合いか……」


訓練艦香取から大音響でBGMが流れる。


「師匠も、お優しいことで……」


アミが笑みを浮かべる。


「なんのことかな……」


ギャラリーは熱気に駆られ足踏みを始める。


虎がムサシに飛びかかる。


「あぁ、またムサシが逃げ……ない……?」


「ムサシ……前に出やがった……」


その姿は転がるように虎の後方に移動した。ムサシは素早く立ち上がる。


「「ウォォォォォォォォーッ!!」」


ギャラリーは総立ち、足踏みは地鳴りのようであった。


虎がゆっくりとムサシに振り向く。


「ムサシ、銃がないのに」


「どうするんだ」


「まだやろうってのか……」


「スタンナックルがまだある」


虎がムサシに襲いかかる……が……ムサシの一撃により、虎の動きが止まる。


「殴っただと……」


ムサシの電撃の乗った強打に虎の動きが止まった。うまいこと虎の機械の目に拳がヒットしていた。だが拳を引く際にスタンモードが解除されていた。


「お前か……憎い!! お前が!! お前が!! アンタがニクイ!!」


ムサシは虎の顔面に苦し紛れの乱打をしていた。だが段々と威力は弱くなる。


しかし、虎の一撃で再びムサイは飛ばされ、フラフラと揺れながらムサシは立ち上がる。


「フラフラになってる……」


「もぅダメか……」


「スタンナックルが効いていない……オフってんのか? コレじゃダメだ」


「ムサシのヤツ……意識が朦朧としてスタンを使えていない事に気がついてないのか?」


ムサシは虎に歩み寄る。虎は気迫に押されたのか後ずさりをする。


「虎がビビっているのか?」


「んな訳あるかいな」


「機械やで」


虎は大ジャンプをしてムサシに飛びかかる。


しかし、ムサシは虎の前足を掴んで投げ飛ばす。


「なん……だと……何キロあると思ってんだ」


「ムサシ投げちゃった……」


投げられた虎は地面に叩きつけられたが素早く身を翻して戦闘態勢になる。


ムサシが詰め寄り取っ組み合いが始まる。


右ストレート、左フック、正拳突き。反撃にでる虎。虎の前足の一撃を掻い潜りカウンターを決める。


「ただ、ただ虎を殴っただと……」


「殴った」


「虎相手にボクシングかよ……」


「スタンモード使えよバカか? 」


虎は殴られる度によろめく。


「ムサシの打撃が強さを増している……」


「たまにいるがな……虎と素手で戦えるやつ……こいつはおもしれぇ……強化人間ってやつは……コレだから面白い。だがまだだ、あれでは電脳を破壊できない。バランサーがすぐに調整されちまう」


ムサシも虎の攻撃に吹き飛ばされるようなってくる。噛みつきはかろうじて避けている。だが闘争本能を組み込まれた機械は戦う事を止めない。組み付き吹き飛ばされ、互いにぼろぼろになる。殴る、投げ飛ばす。激しい獣と人の格闘が続く。


ムサシは虎の猛撃を避けて激しいカウンターを入れる。連打に次ぐ連打。その攻撃は決して軽くはない。鈍い音が響き渡る。


虎の右目のカメラが壊れる。腹の装甲板も剥げた脇腹から蛍光グリーンの液を流している。後右足を引いていた。


ムサシはムサシで満身創痍、打撲、鼻血、東武からの出血、身体のあちこちかが悲鳴を上げている。そして虎から被った蛍光グリーンに濡れた右手を強く握り込んでいた。


手応えはある。ムサシはアドレナリンにより興奮している。


「訓練して、訓練して、訓練し抜いて!! ここまでやって来たぁ!! このまま前に歩き続ける。昨日の自分を投げ出さないから!! 仲間が信じる!! 己を信じて!!」


両者激しい乱打戦が繰り広げられている。ムサシは虎の攻撃に耐えられるようになってきた。


「虎も弱っている……のか……勝てる!!」


「勝てるぞムサシ!!」


ギャラリーは叫び続ける。


「やろう、化けやがった……止めるなよ……アミ……」


「止められないよこんなの……この先が見たい……」


3バカは驚きの表情をしている。


「たいしたやつやで……ムサシのやつ」


「意識ないんじゃない?」


「最初の頃はそうかもしれん」


「だが見てみろ……奴の目を……」


「きれいな目をしてるだろ……」


「あぁ……いい目だ」


死闘は続く。ムサシは精神力で戦っている。


虎が最初と同じ様に円周状に回り始める。


「ムサシ」「イケー!! ムサシー」


アーニャとナギは熱がこもったエールを送る。


「これが……ミュージックチカラなのか……古文書に書かれていた歌ソングエナジー……そうなのか……これがカルチャー……」


クリスがそう言って息を呑む。




ムサシは詰め寄る……真っ直ぐに……進む……。


虎は力を溜め飛びかかった。大きく前足を振りかぶって空中を進む……虎とムサシの時間はゆっくりと進む……。


おっかねぇなぁ……怖い……アレ食らったら死んじまうな……こんな奴に立ち向かえるようになれて……少しは強く慣れたのかな……意地を張って……カッコ付けようとして恥かいて……なにしてんだろうな……だんだん腹が立ってきた……怒っていいよな……。


虎がゆっくり見える……戦士ってなんだろう……こいつに勝てばわかるのかな……でっかい前足だな、アレ食らったら痛いだろうな……怖い……あぁ……ナギに叩かれた背中や頬が熱い……。


自然と身体は後退する。


「あッ!! 腰が引けてる」


「ここまできて逃げ出すのか」


「アイツ……」


観客はいつもの弱気になったムサシを想像していた。


しかし、イサム監督、アミ教官、ナギ、クリス、アーニャは違った。


厳しい目でムサシを見ていた。




一筋の鎖が……錨が引き上げられる。頭の中で引き上げられる鎖のビジョンが浮かぶ。


海底から海面まで猛烈な勢いで巻き上げられ空中を舞う錨が見えた。


怖い……だが……恐怖は飼いならした!! 怒りと錨が……皆が俺を支えてくれる。


ムサシと虎が重なった刹那。ムサシを中心に虎は綺麗な弧の軌跡を描いた。


「巴投げ……」


「バックドロップ……」


「いや、俺でなきゃみ見逃しちゃうね。奴は手刀を、恐ろしく早い手刀を」


「「違う!!」」


ムサシは虎を投げた。虎は地面に激しく衝突する……しかし、虎は跳ねるようにバウンドしてから体勢を空中で立て直そうとした。


しかし、ムサシは虎よりも素早く動いた。虎に飛びかかるように低い体勢で飛び込む。途中で前転をしたかと思うと器用に体を使って跳ねる。そして虎に両足で蹴りを入れる。


「……ッ!! あれ……私が教えたコンボを……応用してる……ムサシ……」


アミは驚愕していた。その目は少しだけ潤んでいた。


全体体重に加え弾けるような勢いを合わせ蹴り飛ばす。蹴られた虎は大きく飛ばされた。


そしてBGMはムサシにとって勝ち確定の曲が流れ始める。ムサシは大きく息を吸い込む。丹田に力を貯める。ゆっくりとした動きで構えを取る。


「俺の錨が怒髪天!! !! お前を滅ぼせと輝き叫ぶ!! 必殺!! 哀と錨と悲しみノォ!」


虎に突っ込んでゆくムサシ……光り輝く右手を突き出して「


ハァァァァアァキングゥ! フィンガーァァァァァァッ!!」


虎の頭を鷲掴みして叫んだ。叫ぶと同時にスタンナックルが異常な電撃を放つ。


虎は頭から激しいスパークを放つ、やがてムサシの手から、ゆっくりと離れ虎は崩れ落ちた。


前傾姿勢で突き出した手を下げ、姿勢を正した。そしてムサシは突き出した拳を空に掲げていた。


観客は総立ちで歓声はさらなる轟音となっていた。


「アミ、合格だ。ムサシを医務室につれていけ……」


「ハィ……」


ギャラリーの歓声がやけに響く。視界が定まらず視線が泳いだ。


ムサシは自分に向けられた声援が遠ざかってゆくのを感じた。


それと同時に不思議な開放感を感じた。


「「ムサシ!!」」


アーニャ、ナギ、クリス、そしてアミの声が聞こえた。


そこからの記憶はなかった。

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