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歩行戦艦ビーケアフォー 絶対対艦歩行主義  作者: 深犬ケイジ
第3章 涙の20.3cm連装砲

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第28話 虎の尾を踏む男

 森を抜けると開けた平地に小規模な基地があった。そこには歩行軍艦が1隻と複数の多脚戦車がいた。


基地には訓練用の楕円状の競争路やフィールドアスレチックがあった。少数だが走っている者もいた。


基地のそばには修理工場兼ガレージの建屋があった。ガレージの前には修理中の多脚戦車がいた。


車輪式や履帯式の戦車は多脚戦車の数より圧倒的に少なかった。そして俺たちを乗せた車は訓練施設のそばに止まった。


「ふぅ!! 到着っと!! お疲れさまでした」


そう言うとアミは助手席の荷物を持って車を降りた。俺たちも続く。


俺は降りると気になっていた歩行軍艦を見た。軍艦となるとやたら気になる。これまで見てきた軍艦のタイプとしては船首が高く見え、艦橋構造もコンパクトに見えた。


「おおおぅ!! やっぱり近くで見ると軍艦はデカイなぁ!! 主砲塔の数が少ない? 艦橋も大型に思える……船体中央が広く取られている気がするな……」


「皆が乗り込んで訓練する船になるのがこの練習巡洋艦香取です。ちなみに私もこの艦で訓練しました。ぱっと見、商船っぽい形だけど訓練に必要な装備は充実していて武装もしっかりしてるんだよ。綺麗でしょ」


更に近づいた。見上げてみると首が痛くなるぐらいな角度でようやく砲塔の先が見えた。近距離で軍艦を下から見るとデカイ壁に思えてくる。艦の巨大さに圧倒されていると、アミからいつまで眺めているのさと声をかけらた。


声をかけた本人は荷物を持ってさっさと訓練施設に入っていった。


俺としてはもう少し眺めていたかったが皆が施設に向かって歩いていくので仕方なく皆に続いた。


中に入るとモニター付きの端末がある机に座らせられた。


「それじゃ、訓練施設使用の手続きと訓練承諾手続きをしてください。画面に従って入力していけば簡単だから。わからないことがあったら私に聞いてね」


アミに指示された。


ということで入力作業を行う。アミが近くにあった椅子に座ると、さあさあとボディランゲージで入力を急かしてくる。


端末を見ると画面に向かって手をかざしてくださいと表示されているので命令のとおりにする。


手をかざすと入力項目に名前などのパーソナルデータが入力される。名前のところにはムサシと入力されていた。なにか違和感を感じる。


「なぁ、アミ? ちょっといいか? 」「どしたー? 」と言いながらアミが俺に近づいてくる。


「俺の名前の所、ムサシってなってるけど大丈夫なの? 家名とか名字とか? 名前には色々あるだろ? ムサシ単体っての大丈夫なの? 」

「んー? どれどれ」と言ってアミが俺の肩越しにモニターを覗く。


「ムサシ……所属都市名はファンティア……IDナンバーもあると……うん、大丈夫だね」


「こんなんでいいの? 」


「まぁ、裏で生態認証とかIDチップとかで確認してるから大丈夫だよ? 」


「そういや、サラさんに認証系の話をしてもらったな……量子技術系によるシステムだったかな? やたら強固な暗号化技術と認証システムとか……そんなこと……都市とか基地のシステムにはセキュリティが完璧で安全とか言ってたな」


「ちゃんと聞いてなかったの? 」


「ごめん、すっかり抜けてた。今思い出したよ……すいませんでした」


「ん。じゃ、続きをよろしく」「了解」


入力を続ける。特に気になる点もなく訓練施設使用の手続きは終わった。そして訓練承諾手続きだが……


のっけから気になることが書いてある。


「なぁアミ? また、ちょっと良いか? 長いのを要約して……当施設における管理や業務等に起因する事故により怪我や命を落としたとしても一切の賠償を請求いたしません。ただし、救命処置、安全な医療行為、精神的サポート、社会復帰の為のリハビリテーションからサイバネ技術の提供まで幅広い支援を受けられることをここに保証します。死亡時の保険金受取がうんぬん……費用については要相談って的な事が書かれているんだが?」


「要約されてないじゃん? あー……ここに書かれてる事にビビらなくていいから。安心して!! めったに死なないから……ここ10年は訓練中の死亡事故は起きてなかったと思う。医療とかの費用ってのもそんなに怯えなくても大丈夫だよ? 」「ほんとうに? ホントのホント? 具体的に安心できる点がひとっつもないんだけど? 」


「説明すると長くなるけど……私に免じて信用してもらえないかな? 本当にこの辺の保証はしっかりしてるからさ……」


「ムサシ? このへんの話は信用のある話だから安心していいと思うよ? 」と不安な俺にクリスが気をかけてくれる。


「そーそーハンター協会と都市連合のお墨付きだしな」とナギも会話に参加する。


「そんなこと言われてもなぁ? 俺はそのへんの信用するべき事柄がまったくもって知らないし安心できない……」


「じゃあさ……私が完全に保証するって言ったら? 」


「アミが保証するって? そりゃぁ、アミのことは信用するけどさ……」


「強化人間だからそもそも死ににくいし、ムサシの再生医療用の生体サンプルも私が預かってるし……あーじゃぁさぁ……ムサシが再起不能になったら私が養ってあげる。3食昼寝付きでさ!! これならどう? ただし、訓練中は私の監督下で必ず言うこと聞くってのが条件、もっとも監督管は私なんだけどさ。そもそも私に拾われなかったら荒野で野たれ死んでたんじゃない? 実は今もムサシの命は私の預かりなんだよ? そこに免じてね? 信用して」


「んんんんんッ!! 」


確かに拾われたことや俺の面倒を見てくれていることを言われると何も言い返せない……。


しかし、今までの行動を考えても、確かにアミの行動は信用に値すると思う。そして、これだけの条件を突きつけるからには生命を預ける絶大な信頼を寄せてもよいのではないか? でも仮に頭を銃で吹っ飛ばされたらそれまでだよな? ヌゥ!! これは難しい問題だ……。


クリスが咳払いをしている。なんか俺に話があるようだ。一先ず、なにか意見を言ってくれるのだろう……クリスの方を向いてみる。


「ムサシ……サイバネ化費用を払わないといけない私たちと違って、君は無理をしなくても良い……だが本当にこの世界の生命維持技術は信頼してよいんだ……状況にもよるが運が良ければ、そうだな例えば生体凍結保管設備があったりすれば首だけになってもサイバネ化技術で生存が可能となる……脳を半分に吹っ飛ばされても……この場合は記憶が多少飛んだりするのだが……最悪クローニングで……この場合は魂がどこに存在するとか哲学的な問題が発生するが……とにかく信用してくれて良い、そういう世界なんだ……ここは……」


そうは言ってもクリスさん? 貴方のことも信用しているけど……この問題は難しい……


「ムサシ? あたしからも言わせてもらうけど大丈夫だと思うよ? 前にカスタムショップで働いていたけどこの手の保険で生きながらえた人が沢山いたよ? 費用だってまぁ納得できる額だったって……保険使った人たちが言ってたし……そもそも私たちもその技術で大事故から生き残ることができたし……私たち二人分の生き証人がいるんだから安心していいよ……」


心配そうな感じにナギが声をかけてきた。


「皆のことは信用している……でも……この問題は……とても難しい……」頭の中がぐるぐると回る、自分がこんなに文字上の死を見ただけで怯えることになるとは……この世界の実情を知ったと思っていたけれども覚悟ができていなかった……自分が情けない……


ナギがうんーんと唸っている。ハッと何かを思いついたようで俺に色々とあれな感じでアピールしていた。


「じゃぁさ? ムサシ? こう言うのはどうだ? ムサシがヤバイことになったら私が何でもしてあげるから? 」


「なんでも…だと? 乗った!! その話乗った!! 」瞬間的に勝手に声が出た。なんでも? と言う魅惑的ワードに飛びついてしまった。すぐに気がつく、不味い!! 何たる失態だ!! お陀仏!! 


やっちまったいう感情が信号となって脳内シナプスに弾け飛ぶ。すると俺の背後に不穏な気配を感じた。


ガッス!! 俺の脳天にアミのチョップが決まる。なかなかの衝撃だ……と言うか地味に痛い……


「あたしの信用は? 短い間だったけど積み上げてきた私の信用はどこにいった?? いやね? 女の私から見てもナギは魅力的に思えるよ? でもだ? これは普通……納得がいかないよね? わかるかな? ムサシ? 私の喪失感っていうのかな? わかるかな? ムサシにはがっかりだよ? これまで目をかけてきてあげたのにねぇ? これはない……ないなぁ……これはない……」


アミがそう言いながら俺の脳天に連続した軽いチョップを入れてくる。


「場を和ませようと軽い冗談のつもりだったんだけど……言った私も……うわぁって思っちゃった……」ナギが少し引いていた。


「ナギ……あんたって子は……もう少しねぇ……色々とあるでしょう……貴方はムサシの性格をある程度知ってる癖に……ムサシの年齢だったら仕方がない部分もわかるでしょうに……」クリスが呆れていた。


何も言えねぇ……クリスの優しさのあるフォローが逆に俺の良心に響く。


「あー……そーのー……そのー……なんかごめんね……アミちゃん? 」とナギがアミに謝罪する。


「アミちゃん。ナギは悪気があって言ったんじゃないの? この子ね。良かれと思ってね? 思ったこと言ってしまうの……」とクリスが狼狽え気味にアミに言う。ナギとクリスがこんなに狼狽えるのは初めて見た……と俺は現実逃避をしていた。


「ナギ? アナタに対してはそれ程ね……問題じゃないんだ……大丈夫……問題はムサシなの……わかってるムサシ? ねぇ? 」


俺、ナギ、クリスが同時にヒエッと声が漏れる。ゆっくりと俺の方に向きを変えるアミの目は冷ややかであった。それ程、今のアミはドスが効いている。闇よりもなお深き色を雰囲気にまとい静かに俺を追い詰めてくる。


そろそろ、ケジメを付けねばなるまい……俺は覚悟をする。しかし、あまりの殺気にオレの心は折れる。後ろを向いてアミを見ることが出来なかった。


「アミさん? 今のは全面的に私が悪かったと思います……その」俺はなんとか声に出した。しかし、背筋に冷たいモノを感じる。


「ムサシ? こっちを見て話してくれるかな? 私の目を見て話そうか? 」と俺の謝罪を遮ってアミは静かにゆっくりと言う。


俺は見えている地雷を踏んだ……オレの心の弱さが生んだミスだ。俺はなんて間抜けなんだ……


この恐怖をどう説明すればよいのだろうか? きっとアミは暗黒微笑を携えているに違いない……それがものすごい怖い。しかし逃げられない。振り向いて彼女の目を見るしか無いのだろう……当たり前だが……この不始末は自分でつけねばならない。そう俺は心に誓い振り向いてアミの目を見た。


案の定……暗黒微笑でした。そして、目にはハイライトがなかった……ジッサイ怖い……が……ここまで来るとある意味何も怖くない……嘘だ……ヤパパリ怖い……


「この度はワタクシめの愚かな行動で……アミさんに多大な不快な思いをさせて大変申し訳ありませんでした。本当に文字通り申し開きがありません。何卒この失態をお許しください……汚名挽回を……」


「ムサシ? 汚名挽回では間違いになる……汚名返上、名誉挽回の方が一般的だと思うのだが……いやまて?世界線やら時代で言葉の意味も変わる事もあるかもしれない。詳しく意味を聞いてみたいところだが?」


「クリス? 説明をありがとう、でも言いたいことは雰囲気からわかる。だからね? ムサシには私がきちんとお話するから……ね……」とアミが冷たく言い放つ。クリスがシュンとしている。そしてアミは続ける。


「で、ムサシ? 貴方の言いたいことは理解できたよ……君の雰囲気でね。それが言葉としてあまり正しくなくてもね。気持ちはある程度伝わったよ? でも……今回に限ってはそんな言葉には意味はないの……それでね。こう言うのはね。実際に行動で示してもらわないとね……私としては納得ができないかな……そうだ……そろそろ、丁度良いかもしれないね? お客様待遇はここまでだね。今からは戦士の流儀で……訓練官としてムサシに接するね……立派な戦士になって挽回して頂戴? いい? 返事はイエスマムorはいマムね? 」


アミの気迫が静かに恐ろしいモノへと変貌する。これは断ったらイケないやつだと俺の第六感がビンビンと警報を放っている。


「イ……イエス……マム。 イエス、マム!! 」


「うん、じゃぁ……画面のそこにサインしてね。タッチパネルでサインできるから……」


戦艦の艦長になると決めたこの身!! ある程度の覚悟があった事を心の奥底から拾い上げる。この道中に決めていたことだ。艦長になる。そう決めたじゃないか? アミに背中を押されているんだ……そう思い込むことに決めた。


俺はサインをした。画面上では登録終了の文字が浮かんでいた。


俺はたぶん後戻りができないんだろうなと何故か感じていた……後で外仕事か内仕事か決めることが出来るよ。そんな事を言っていたアミの事を思い出していた。


「ナギとクリスも終わったかな? それじゃ、次の場所に行こうか? 」とアミが静かに圧力のある感じで話しかける。


軽い威圧のとばっちりを受けたナギとクリスが抱き合って怯えていた……そして声なく首を縦に振っていた。無理もない……それほどアミの雰囲気が変わっていたからだ。


優しかった俺の保護者だったアミはもういない……今、ここにいるのは冷たい微笑を抱いた……どす黒い悪魔のようなオーラを纏ったアミ教官の姿があった。


頭には2本の角が生えている……そのように見えた……見えた気がした。


目の奥にいつもあった温かい優しさのある光が消え、赤く燃える炎が……静かに揺らめく闘争の炎が見えた……気がした……


絶対に踏んではいけない見えていた地雷を踏んだ自分の愚かさを呪いながら鬼教官の後を追った。

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