第27話 眠りの採掘戦艦
俺は白昼夢の中にいた。なぜ白昼夢とわかったのかは艦隊の中央にいる巨大な歩行戦艦をリーダーとする軍艦の群れを鳥のように空から眺めていたからだった。
戦艦を中心に巡洋艦、駆逐艦、空母と多種多様な艦船が幾隻もいた。
移動形式も様々で歩行艦が多かったが履帯式や車輪式、浮遊式と種類が豊富な大艦隊であった。
心を震わされる雄々しく美しい圧倒的な鉄量の光景がそこにあった。陸上艦隊が進んでいた。
しかし、そこは海ではなく赤茶けた大地で砂埃が舞い上がる荒野であった。
だからこそ、軍艦には脚や履帯などの陸上を進むための似つかわしくない移動機構があった。
そこで一つの疑問が浮かび上がった。空母ってなんだろう? 空から空母を眺めると平たい飛行甲板が見えた。
そして、空母の甲板には艦載機ではなく、戦車や装甲車が並んでいた。これも艦隊と同じように様々な移動形式があった。
この場合、空母ではなく陸母にでもなるのかと訳のわからないことを俺は考えていた。
なぜならば空母の正式名称は航空母艦、航空機を多数搭載して海上の航空基地の役割を果たす軍艦であったからだ。
決して空の母、スカイかーちゃん、空ママと言った意味合いではない、そんな事は言わなくてもわかるだろうが一応、言っておく。
航空機の母艦、航空母艦、それを略して空母となっているのだ。航空機を母の如く慈愛を持って運ぶと言った点では母らしいが、イザとなれば死地に航空機送り込む無慈悲さから母性が感じられない点を考えればおのずと母性を感じるなどという妙な考えは消え去るだろう。別の解釈もあるだろう……異論は認める。
でだ、この世界に実際に空を飛ぶ事ができる航空機は存在しない。
そして、戦車や車を搭載する移動基地として歩行空母を表現するならば戦闘車両母艦、そこから車母……これではなにか違和感がある。そこで空に対して陸の戦闘車両の母艦、すなわち陸の母で陸戦母もしくは陸母とすべきではないかと俺は考えた。
何かもっと上手い表現の仕方があるのかもしれない、だが空に対しての陸、空母と陸母……対比としてこれはこれで良いと思えるのだ……俺としては……
しかし、そんな馬鹿な考えはすぐに消えた。ぶっちゃけどうでもよかった。
艦橋にいる自分の姿が目に入った。そこに意識が集中した。
その姿は艦長服をマントのように羽織っている自分がいた。
もしくはキャプテンジャケットと言うべきなのだろうか? 黒く見える紺色ベースの軍服に白ベースに黒のツバがあるキャプテンハットを被った己の姿を見ることができたからだった。
そして、己の周りにはゴージャスな美女を侍らせていた。凛々しくも艶と嫌味のない色気を持った美しい軍服をまとった女性たちがいた。
女性たちが俺を見る眼差しは尊敬に満ち溢れていた。俺はその視線を心地よく感じ、誇らしく思った。
この夢がいつまでも続けばいいのにと思っていたら、けたたましい騒音によって遮られた。
女たちは何かを言っている。騒音で聞こえない。
聞こえないから手を耳にやって、聞こえないとジェスチャーをする。
一人女が俺に耳打ちする。空母は空母でいいんだと……何を言っているんだ?
俺は訳のわからないままベッドに横たわっていた。夢だったことに気がついて、騒音の元を探す。
携帯端末からは喧しく音が鳴り響き、起床を促していた。
微睡みの中、さっきの夢は何だったんだろう? 俺の潜在意識がなせる願望だったのか? 確かに美女を侍らせて戦艦に乗ってみたい気持ちはあった。だって格好良くね? 格好のよろしい軍服に身を包んで凛々しく雄々しく溢れんばかりの男らしさを振りまいて美女を魅了する……自分の発想の卑しさと想像力のなさに自己嫌悪に陥ってきた。
頭を抱えてみる。
なんて自分は間抜けなんだろうか? もう少し色々あるだろうと? 自分でツッコミを入れて誤魔化しながら自分自身を慰めていた。
間抜けなことをやっているうちに頭も次第に冴えてきた。気を取り直して身支度をすることにした。
部屋の扉を開いて応接間に行くとアミがいた。ナギやクリスも出発の準備をしていた。
すぐに出発するから準備してねと声をかけられた。
そして、寝る前に伝えた出発時間が間違っていたことを謝罪された。
叩き起こすのも悪いからギリギリまで待っていてくれたらしい。
大丈夫だ、アミ。男の身支度なんてすぐに終わると伝え準備を急いだ。
宣言通り、短時間で準備は終えた。全員の準備が整うと俺たちは列車を降りた。
アミが端末を操作すると何処からか現れた送迎用と見える車が止まった。荷物が沢山乗せられそうな如何にもな車だったからだ。
どうやらこれに乗り込むらしい。アミが運転席に俺たちは後部座席に座ってとアミに言われて指示に従い座った。
助手席にはアミの荷物が置かれ、アミが端末を少し弄ると助手席の荷物の上に端末を置いた。
車はアミの運転で出発した。
駅のプラットフォームはかなり広かった。多くの車が行き交う騒々しさだった。
列車は谷間に止まっているようでその谷の高さは相当高く見えた。列車の高さを考えてビルの20階くらいの高さだろうと思えた。
車は谷脇にある道を進んで列車の進行方向にある街へ進むと思いきや横道にあったトンネルにすぐに入ってしまった。
アミから谷沿いに街があって先端まで行くと扇状に広がる巨大な空間があって、そこが街の中心地区になるんだよと教えられた。
ナギやクリスが行きたかった街はどうやらそこだったらしい。二人は残念そうにしていた。
そして訓練が終わったら遊びに行けるからと二人を宥めていた。二人の元気が戻っていた。それをなんだか可愛楽しく思ってしまう自分が居た。
窓の外のコンクリート製に見えるトンネルの壁と流れていく誘導灯を見るのも飽きた頃に急に強い光を感じた。
目が慣れてくると緑が見えた。そこには高原地帯の木々、高原の避暑地に思える森があった。
「アミ? 森がある? 木がある……緑が沢山ある……」
「んー? そっか、ムサシの時代って森がなかったんだったかな? あぁ、都会だったからあんまり見る機会がなかったの? 森ぐらいあるでしょ? 」
「いや、俺の世界にも自然の森はそれなりにあったさ。驚いたのはこの世界で目が覚めてから荒野ばかり見てきたんで、屋外に緑がこんなにたくさんあるなんて思わなかったから……緑なんて都市の中にしか無いと思ってたから……緑が……沢山あって……なんかホッとする……」
俺は勝手に思い込んでいたらしい。この世界には荒野ばかりであると……移動時間だって長かったんだし、そりゃ地域が変わることもあるよなと勝手に納得していた。
「洞窟の都市あっただろ? あの長ったらしい地平線まで続くテーブルマウンテンのところ」とナギが会話に参加してきた。
「あの辺から大気中に水分が多くなって緑が増えてくるらしい……ムゴッ!!」
「テーブルマウンテンの気候っていうのがまた独特でね。ちょっと説明してあげようかしら!! 」
クリスがナギの奥から身を乗り出して会話に入ってきた。珍しくナギがぞんざいに扱われている。
「この辺の自然環境ってね!! 科学者として興味がそそられるのよ!! 面白いのよ? ここの地域!! ここはテーブルマウンテンの頂上とだいたい同じ高さでね。気候帯として独立していて荒野に比べて大気中の水分量が段違いなの。だから樹木があって森を形成してね……どうにもテーブルマウンテンと荒野の境目、断崖絶壁の所の気流とかなんらかの現象がこの環境を作り出しているようなんだけど……巨大なアノマリーって話もあるの。あっクリスごめんなさいね」
「いや、クリスってばこういう解説好きじゃない? あたしは潰されようともクリスを応援するから……輝いているクリスがスキダカラー」
最後の方のセリフが棒読みのナギさんがそこに居た。そしてその目は達観した眼差しをしていた。ナギはナギで苦労をしているらしい。少し同情してやろう。
クリスは落ち着きを取り戻して体を座席に収めた。潰されていたナギの服装を申し訳無さそうに正していた。
それが終わるとナギとクリスの解説が再開した。
「でね、ムサシに理解できるように解説するとしたらー……荒野を海と見立てて、テーブルマウンテンを大陸や島とする。違う……水の分布が逆だ……」
ナギが解説に苦労している。手の動きがワタワタと解説しようとも意味のない動きをしていた。
「あー? テーブルマウンテンの方には水が豊富にあると?」
「そうとも言い切れないのよ……荒野にも水がある所ない所、色々あるのよ……」
クリスがナギをフォローしてきた。
「貴方のいた世界の地球と違うところが多いのよ……この世界……自然現象がだいたい同じなんだけど……私たちの科学で解明できない現象や自然環境やバイオーム、地形が沢山あるの……わからないことが盛り沢山……研究者として興味がそそられるんだけどね」
「アノマリーってやつですか?」
「それは現象ね。不可思議な現象。とりあえずは、ほとんど解明されてない自然現象と考えておいて。たぶん訓練で学ぶことになるから。今、私が話すことは適切ではない」
「アミのお勉強シリーズで一通り見たと思い……」
クリスと問答しようとしたら、アミに遮られてしまった。
「ムサシー? 知識だけでは全てじゃないよー!! 身を持って経験、体験して、理解するために訓練しに来たんだからね。知識を叩き込んだだけで知った気になっては駄目だよ? まだまだ未熟なんだから」アミがいつになく厳しい。確かに知った気になっている自分がいた。反省しよう。
「了解、アミ教官。クリスも気を使ってくれてありがとうね」
アミが前の席でこちらを見ずに俺に手を振っていた。
「簡単に言うとこの辺では水が大気中に豊富にあって、樹木が存在できる環境が整っているの。不思議と標高が高いはずなのに酸素が薄くならなくてね。それなりに雨が降るらしい。気候としてはそれほど暑くなく、それほど寒くない、過ごしやすい感じ。雨量はやや少なめで年較差が少なくて安定している。君の世界で言うと……西岸海洋性気候と言うのが似ているのではないかな? 」
「西岸海洋性気候……授業でそんなんやったような気がする……そう言えば……話変わってゴメン。ここには季節ってあるの?」
「場所によりけりかな……私たちはこの世界を完全に把握していないから……地図だってろくなの無いし……衛星が打ち上げられればとは思うのだが……例のごとく飛翔物体には原因不明のトラブルで……いつものようにナノマシンが悪さしてるんだろうがな……ええぃ忌々しい……」
クリスが恐ろしい目つきになっている。これ見ちゃいけないやつだ。悪寒とともに慌てて窓の外を見る。
すると窓の外にどでかい不思議な物体が見えた。
巨大な曲面……最初は木の陰に隠れて見えなかったが開けた場所に出ると全容が見ることができた。
それは軍艦だった。履帯のある戦艦に見える。しかし、船の前方部分に円柱状の物体があった。トンネルに栓をするような感じで筒のような円柱が前にあった。その筒は船体をカバーできるほどの大きさだった。
「ムサシを驚かそうと言わなかったんだ!! なにかわかる? ムサシの好きそうなものだよ?」
そう言って車を路肩に止めるとアミは車を降りた。俺たちも続いて車を降りた。
船の下側は木で見えなかったが木から上が見ることができた。前方にいびつな筒を持った戦艦がそこにあった。
「さて。ムサシ!! あの船は何でしょう?」とアミが満面の笑みで俺に聞いてきた。
いつものやつだな? また俺を驚かせ喜ばせようとしている。
「後ろと中間が戦艦だな、んで、前方のやつは……なんだあれ?」
「ボーリングマシン」「ボーリングマシン?」
「あれでトンネル掘るの。削り進むって言ったほうが良いのかな? 列車で乗ってきたでしょ? あれもこの戦艦で掘ったトンネルなんだって……掘削戦艦アルバール。見た目はそんなに良くないけどね。今は休眠しているらしい。いつもの如く理由は不明で調査中です。学者さんたちが懸命に調べてるそうです」
「トンネル掘る戦艦ってのはロマン成分があって良いのだけれど……もの凄く不満です。なんだろうトンネルを掘る戦艦にあたってひどく侮辱しているようにすら思えます。けしからん、実にけしからん……」
「ムサシ? なんか、いつもと違うよ? ムサシ? ねぇ? どうしたの?」
心配そうにアミが俺を見ていた。
しかし、俺は掘削戦艦アルバールとやらに視線を戻す。前方には艦底から艦橋まである。艦の全高をカバーする径を持つ巨大なシールドマシンが異彩を放って存在していた。それに対して異常な憎悪を感じていた。
前に巨大な筒を持つ、艦の何倍もの長さの円柱とでも表現すれば良いのだろうか? 不格好なボーリングマシンがあった。
俺はそのボーリングマシンを認めたくなかった。
何ていうかこういうのはドリルだ!! ドリル戦艦であって欲しかった。ドリルでなければならないのだ!!
自分でも理不尽だと思えるが湧き出る怒りがどうしようもない感じに、いきり立っていた。
「シールドマシンは技術的に凄いと思うよ? でもね……こうね、掘り進んでいる感じが欲しいっていうかさ……ドリルが欲しいんだよ? わかる? ドリル? ドリル成分!! 先がトンガってて…いかにも掘ります!! 掘りまくります!! って感じのがさ!! これでは圧倒的ドリル成分が足りない!! これじゃぁ……突撃するときのドリルがさ? ラムアタック的なドリル特攻ってのがさ? ドリル戦艦の花であってさ!! 絶対的にドリルって言う存在が重要だと思うんだよね。ドリッテドリドリッテドリルってのがさぁ!! ドラリララララ怒羅羅羅羅羅羅羅羅羅ッ!! っていうくらいに天に轟く感じでさぁ!!」
俺は思わず握りこぶしをして力説していた。
「わかる!! わかるよ!! ムサシ!!」
ナギが同意をくれる。俺の肩に手を置いて、しみじみと言う。
意気投合だ。お見送りサラさんに関わる一件以来、警戒していたが何だこの人話の分かる人じゃないかとナギに対しての好感度が上がっていった。
これまで気さくなお姉さんって感じで仲良くしてくれている。こちらとしても男友たちに近い親しみを懐き始めていたのだが。
昨日の戦車の件で少し感性が違うと考えを改めるべきかと考えていた。しかし違った、こやつは同志だ。そう俺の魂が感じていた。こいつは魂の戦士であると。
しかし、その者のバルジは凶悪であった。
意気投合して肩を寄せ合うハグをする俺とナギであった。その姿は他の者から見れば同じ思想を持った同志が理解し合う微笑ましい暑苦しい光景に見えたことだろう。
彼女のハグが強めだったのもあり軸線がずれてしまった。ガッシガッシと肩を寄せ合うハグは姿勢を崩しつつあった。彼女はそれを修正しようとグイングインくる。
その度にお互いの肩を組み合う側で……彼女の胸のバルジは俺の胸のあたりに当たっていた。
今までの流れでわかると思うが彼女は天然無意識セクスィー大魔王である。王女? クィーンの方がしっくりするな。
俺の敏感センサーになっていない側の肩をビシバシ叩いて、戦艦のいい部分を褒めていた。
こっちはあんたのいい部分で大変なんだよと……理性を保つのに手一杯なんだよと……ていっぱい……ぱーい……理性だ、危険が危ない。
俺の世界は時を緩やかにしていた、時間がゆっくりと進む。ゾーンに入ってしまったようだった。
俺は意識を保つためにワンちゃんの呪文詠唱を始めた。
アメリカンゴールデンレトリバー……その犬種は19世紀のスコットランドから誕生したとされているイングリッシュゴールデンレトリバーに多種多様な犬種をかけ合わせ誕生したとされています。
確実なことが言えないそうですが小型のニューファンドランド犬とツウィードウォータースパニエルを交配させて誕生したとされ、アメリカに渡り品種改良されて誕生したようです。主人に対して従順で忠実、愛嬌もあり穏やかで他の犬や動物とも友好的になれる社交性を持った種として人気があります。
飼い主と共に働くことを喜び、賢く温和で知的で親しみのある愛らしい最高の友と表現されれいます。
頭もよく、サービスドックとして警察犬、盲導犬、介助犬として活躍する事が知られています。狩猟における水鳥の回収役として活躍した歴史があり、その訓練のしやすさや愛嬌から愛されてきました。水鳥の回収役としての習性なのか水浴びが好きな子が多いと報告されています。運動が好きで日々の散歩に十分時間をかける必要があります。
ストレートなフッサフサのダブルコート、アンダーコートは防水性の高めでゴールドに輝く毛並みからブラウンまで幅のある毛色と種類がありとても毛色が美しいのが特徴です。大きな頭、垂れた耳、アーモンドを思わせる、つぶらな瞳で愛らしい表情が印象に残る素敵な犬種です。
美しいゴールデンに輝く毛艶、体躯は実に豊満でゴージャス、そのバルジは凶悪です……
ゴスッ!! 俺は背中に強い衝撃を覚えた。振り向くとアミがいた。
「いつまで盛り上がっているのさ? そろそろ行くよ?」
そう言って俺の背中を小突く少し拗ねたようなアミ見えた。多分、拗ねたように見えたのは気のせいである。
俺たちは車に乗り込んだ。
「もう少し走ると、訓練施設に着くから」
アミが運転しながら教えてくれた。
森の小道を走り抜ける。車窓から見える緑と爽やかな風が吹く風景を楽しむ。
赤茶けた荒野しかないと思い込んでいたから、本当に心の底から緑が落ち着く。
何より、山並があることが素晴らしい、山の稜線、でこぼことした地形のゆらぎが心を癒やしてゆく。
だだ広い地平線はそれはそれで素晴らしい雄大な眺めだったが、多少は見慣れている山の風景が懐かしくも寂しくも思えた。




