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歩行戦艦ビーケアフォー 絶対対艦歩行主義  作者: 深犬ケイジ
第2章 タンクウォッカ
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第17話 安全wanaby

 『沈黙のレストラン』を出て地下通路で港に向かっていた。


美味しい昼食に満足して気力は十分だ。


少し歩くと明るい光が差し込んでいる出口が見える。


そこから、けたたましい騒音が聞こえてきた。


「運搬車とか多いから気を付けてね」


アミに注意されて警戒しながら外に出た。


外に出ると資材やコンテナが山のように積まれ、運搬車や機械人形達が行き交っていた。


奥のほうにはクレーンやコンベアで搬入出をしている船が見える。


「凄いな……埠頭? 乗船ターミナルってところか?」


「そうだね。 本当に周りに気をつけてね。 ここでは人より運搬車の方が偉いから。 道をあけないと大声で怒られるよ」


「わかった気をつける」


アミの後を注意してついて行く。


実際に下に降りてみると上から見ていたのとかなり印象が変わり、ビルの谷間に見えていた港は船の大きさによって色々と高さが変わっていた。 地表の高さは同じで船に合わせた高さに岸壁や搬入路があった。


大通りが緩やかな傾斜をしていて長く長く続いている。


手前から大きな船と段々に小さくなっていくようだった。


荷下ろし用のクレーンや昇降式のステージが稼動して搬入を行っている。 移動式で高さを帰られる橋みたいなものもあった。


しばらく進むと妙なものが目に入った。


カンガルーが安全ヘルメットを付けていた。しかも、人間の言葉を話している。


「なぁ、アミさん。 カンガルーが言葉を話しているんだが……しかも、怒っている」


「安全ワラビーだね。 ちなみに機械人形だよ。 うかつに危険行為すると怒号喰らって蹴られるよ」


確かに人が蹴っ飛ばされてる、というかボコられている。


「死にたいのか貴様!! そこは先に安全を確保してからだろぅ!! 安全第一!! 安全は何よりも優先される!! 安全に命を捧げろ!! 安全のために命を惜しむな!!」


無茶苦茶な惨劇がそこにあった。


「なに? なんなのあの狂気? なにあれ……恐い……」


「見た目ほど痛くないらしいけど、怖いよねあれ。 ああでもしないと事故が減らなかったらしくて導入されたんだって」


「ちなみに効果は?」


「抜群の効果です。 無事故記録を更新してるらしい、ズル無しでね。 確かに運搬車まで人に気をつけるようになったしね」


「あっ? お仕置きが終わったみたい。 なんかお互いに握手してる」


「愛のムチだからね。 やらかした人も理由付きで怒られてるから理解しやすいし。 なによりワラビーが可愛い」


「最初は怖かったけど、大人しくしてると確かに可愛いな、ちっこいし」


姿はとても可愛かった。 大きさは1メートルくらいだろうか? 


でも、良く見ると目つきは鋭かった。


他の作業員と挨拶を交わしている。その姿はとても可愛いんだが……妙な貫禄を感じる。


その奥の光景に色々歩行形式な船が見える。 大きさも様々だ。


「アミ!! 船はどんなのに乗るんだ? 窓から見ててもさ! 色々なのがあってさ! もの凄くワクワクしているんだ!! 」


「4脚だったと思う。 古いけど大きくて、揺れが少なくて、いい船だったよ」


「乗った事あるのか? 」


「定期航路船なんだけど、護衛で乗り込んだり、普通に乗客としても乗ったことがあるよ。 残念ながらムサシの好きそうな軍艦じゃないよ。 フェリー船って言うのかな? ムサシの時代にもあったやつ」


「フェリーか乗った事はあるけど、その時は車を使わなかったな。 ここは海がないけどフェリーなんて意味あるのか?」


「えっとね、海はあるよ。 かなり遠いけどね。 敵とか地形のせいで近くに行けなくて。地平線の彼方に見えるだけだけどさ」


「海はあるのか? そうか、よかった。 俺さ、海の近くで育ったから海が見えないと寂しくてな。 歩行艦船なんかあるから海がなくなったのかと思ってた」


「私は見たことないから、知識だけだけどね。 うっすら青いのが見える写真しか見たことがないんだ」


「そうか、ここの地平線も凄いけど。海の水平線も凄いぞ? なんて言うか……一面のブルーに心が洗われるような。見ていて気持ちがいいんだ」


自分としてはこちらに来てから茶色い荒野ばかりなので青い水溜りが少し恋しくなってきたところだった。


「ふーん? そんなにイイモノなんだね。 何時か見てみたいな……」


思いにふけるアミが外界の何かに気づいて指をそっとさした。


「ふふふ、海も良さそうだけど。 これなんかどうかな? きっとムサシも気に入ると思うんだけど」


指の先には戦艦が2隻いた。入港中のようでこちらに近づいてくる、


この間の映像で見たような高い構造体を持つ戦艦だった。


その奥には手前の戦艦に比べて低い構造体を持ち、印象はずいぶんとずんぐりむっくりとした感じだ。


しかし、2隻とも重厚さと無骨さを兼ね備えた戦闘艦の機能美がとても印象に強く残った。


「うぉぉぉッ!! 格好いいなぁ!! あふれ出るロマン! そびえ立つくろがねの城ッ!! 素晴らしき巨体に!! たわわな巨砲ッ!! 」


ちょうど目の前をグラマラスな整備のお姉さんが通った。 そのバルジは豊満であった。


しまった、つい目で追ってしまった。 うっかりしていた。


「たわわ? 」


「噛みました…… あたわぬね、あたわぬ、素晴らしい船体に、どんな船でも敵わいない巨砲って意味ね。 うん」


「ふーん」


アミの視線が冷たい。


「いやぁ、これはどちらも素晴らしい機能美にあふれておりますなぁ」


「お気に召したご様子で」


何かを疑うような目線で見つめてくる。そしてチラっとグラマラスなお姉さんを見る。


「そりゃぁ、素晴らしいね。 見てよあの四本足と履帯。 これは何かふつふつと湧き上がるものを感じますよ。 これ!!」


俺は思わずはしゃいでいた。 目にした2隻がどんどん大きな姿になってゆく。


「しばらくここで見てていいよ。 乗艦手続きと確認してくるから、この辺にいてね。 そこの岸壁なんて運搬車が通らないから安全に見れるよ」


「あぁ、そこで見させてもらう」


言われた場所に着いて軍艦を眺める。


低い構造体の船は別のドックへでも行くのだろう、進路を変えていた。


履帯の高い構造体を持つ巨艦がそばのドックへ入港してゆく。


「やっぱり、こっちの方が好きだなぁ? 高い砲が見栄えて。 機能的に思える。 突き出したアンテナかな? これがまた実に奇麗だ」


「なかなか面白いところに美を感じますな。 お若いの」


突如、話しかけられた。 それと同時に心の声が漏れていた事に気がついて少し恥ずかしくなる。


いつの間にかに小粋な服装のどこかで見た事があるような気がする老紳士が横にいた。


「ええと、あのそびえ立つ塔のような。 一番高いところがとてもかっこよく見えて、砲台も格好がいいんですけどね」


「艦橋ですかな? 前の部分は第一艦橋と言いましてな。 戦艦の顔と言っても良い場所ですな」


「艦橋っていうんですか? 知りませんでした。 なんて言うかお城というか? 塔ですかね? そんな重厚な印象を受けます。 それがとても綺麗で 」


「良いご趣味をしていらっしゃる。 鉄の城と表現する者もおります。 私はね。 戦艦が好きでね。 美しいでしょう? 」


「はい。 とても美しく思います」


老紳士は満足そうな笑みを浮かべて優しく戦艦を眺めている。


「戦艦も好きですが……艦長と言うポジションも私は大好きでね。 昔ね、戦艦乗りだったんですよ」


「そうなんですか?」


「戦艦は良いですぞ。 強くて、重厚で、格好が良くて……それに沈みにくい」


「おおぅ。 沈みにくい! そのような見かたもあるのですか……勉強になります」


「もっと良い事がありますぞ」


老紳士はウィンクをひとつして、いい顔といい声で語った。


「それに艦長はもてる。 女の方から寄ってくる。 奇麗どころがより取り見取りじゃて……」


とても良い顔をしていらっしゃる。


突然、ある思いが心によぎる。 気がつくと熱く口走っていた。


「俺!! 戦艦乗りを!! 艦長を目指します!! 」


少しの間を置いて老人が厳しい口調で語った。


「難しいですぞ? 」


「目指さないでどうしますか? この世界に来たときに!! 最初に戦艦を見た時の衝撃と言ったら……」


「ほっほっほっほ。 男はでかい夢を持ったほうが良い。 精進しなされ。 お若いの」


「はい!! 頑張ります」


お互いの目が合う、その瞳はとても優しく、そして力強い輝きを見せていた。


俺は老紳士と何か通じるものを感じた。


「ムサシー!! どこー!!」


突然に後ろからアミの呼ぶ声が聞こえた。 振り向くと少し遠いところでアミが呼んでいた。


「おーい。 アミ。 ココ!! ココ!! 」


アミに向かって手を振る。 アミが気がついた様で手を振り返している。


「おじいさん。 連れが呼んでいますので、コレで失礼って、あれ?」


老紳士の方を向いたつもりだったが居ない。 戦艦との立ち位置を考えて間違っていないはずだがそこに居なかった。


あたりを見回しても見当たらない。


あたりは運搬車や人や機械人形でごった返していた。


しかたがないので老紳士を探すのを諦めてアミの方へ歩いていく。


「どうしたの? 」


「老紳士と戦艦について語り合っててね。 気がついたらどこかに行ってしまったよ。 それで見回してた」


「ムサシみたいに戦艦の美しさを語る人は沢山いるから。 すぐ友達もできるよ、喧嘩友達もできるけどね」


「喧嘩友達? 」


アミは指をわしゃわしゃと動かしていた。


「移動形式の派閥から艦種の派閥、世代的な派閥とか。とにかくね、沢山の趣味があるみたいなの」


「そいつは楽しみだな。 さしずめ……俺は戦艦派で……巨砲派閥かな?」


「メジャーなところを選択するね」


「戦艦と言ったら巨大な砲じゃない? 」


「それはそうだけど……駆逐艦も可愛いよ? 」


「それぞれの良さはあるさ……でも……惹かれるところは人それぞれさ。 ここが好きってポイントがあるだろ? 」


「そうだね。 好きは大事だね とと、ムサシ、そろそろ船に乗らないと」


「ごめんごめん、つい戦艦に見とれちゃって。 急ごうか」


古いが暗い茶系色で塗装されたフェリーが見えた。


船は脚のせいか岸壁から離れて止まっていた。


長くて大きい可動桟橋があった。 


船の先端にある車用の乗船口からは誘導員の指示に従って戦車や車が乗り込んでいる。


自分にはとても違和感のある光景だった。


搭乗するためにターミナルと思われる建屋に入って階段を登る。


アミの後ろについて行きながら、脚や履帯の船、水がない港、フェリーに乗り込む戦車の事を考えていた。


そして、ここが異世界であることも思い出していた。


「戦艦か……」


最初に見た戦艦の姿を思い描く。


巨大で美しい船体を……巨大な砲を……とてもシャープで重厚な船体を……


ゆっくりと脚を進める雄大な戦艦と荒野の美しい景色を脳裏に浮かべていた。

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