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歩行戦艦ビーケアフォー 絶対対艦歩行主義  作者: 深犬ケイジ
第2章 タンクウォッカ
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第16話 そのレストラン 沈黙につき

 タクシーを使い外郭街上層の荒野が見渡せる場所に来た。


内郭街を囲む巨大な壁の外側にある外郭街は構造体の屋上を地盤とした広い面積を持つ街だ。


内部にも広い空間があり中層階は住宅向け施設、地表階には駐車場や戦車を含む車関係の施設を持っていた。  


街で一番高い場所から見たときは壁より低い位置にある小さな街並みに思えていたが壁が巨大過ぎて錯覚を起こしていたらしい。。


実際に外郭街上層の縁に来て見ると街の広さに驚く。


外郭街の縁には分厚いコンクリートの胸壁があり。 胸壁から伸びる強化ガラスの様なかなり高い壁があった。 胸壁の窓ガラスから下を覗けばかなり高いことが分かる。 高所恐怖症ではないが足がすくんでしまう高さだった。。


外郭街屋上の構造は外側から外界と隔てる胸壁があり、遊歩道、椅子や東屋がある公園、商店等が乱雑に建ち並ぶ街並みがある。 そして内郭街と外郭街を隔てる巨大な壁となっている。


外郭街は内郭街とは趣の違う混沌とした街並みが広がる。


行き交う人々や機械達は砂や埃から身を守るためか、布や樹脂製のマントの様なもので防護しているものが多かった。


街並みも人も機械も混沌としているが何かとても惹かれるものを感じる。


TVの観光番組で見た、どこかの国のエキゾチックなバザー、看板が五月蝿いチャイナタウン、西欧の植民地都市にあるの異人街を混ぜ込んで、絶妙なバランスが成り立っていて混沌とした美しさを感じる。


来る時は寂しく感じた荒野が街の空気に呑まれたのか広がる赤茶けた大地の眺めを美しく感じた。




アミと二人で商店街を歩いていく。壁とほぼ平行に大きめな通りがある。


店構えが雑然としていて散らかっていて汚い感じはするがとても活気がある。


大きい道路の両側に露店があり、商店が入った3階建て程の建築物が並んでいる。


人々が行き交い街の喧騒が五月蝿い。


店の種類は食べ物系は少なく、生活雑貨や衣類、機械部品などが多く見られた。


ある一角は昔に見た香港映画に出てくるチャイナタウンのマーケットに雰囲気が似ている思えた。


少し歩くとまた様相が変わる、今度は中東風の商店街が見えた。 散策して歩いていると変化があってとても楽しい。


前の世界と大きく違うのは売り子が自動人形やロボットが多い事。 そして、ところ狭しと動き回るアンドロイド達がよく目に付いた。


たまに通る普通の人は日光をさえぎる砂漠民族風な撒き方で布や生地で日陰を作る感じで頭を覆っていたり、体を隠していた。


中には時代劇で見た侍風な被り笠というか広い帽子というかなんとも妙な被り物をしている一団が居た。


その材質は植物繊維でなく白色の樹脂製だった。雰囲気としては網笠をしているサイバー侍な連中とでも表現しようか。


「なぁ、アミ。 あの辺りの侍みたいな人達ってどういう人たちなんだ? 刀も見えるし 侍だよな?」


「あーあれ? あの人達は山奥の小さい村からきてる旅商人かな? ムサシの国の資料で見たことがあるよ。 侍って人達だね? 」

「んー? 俺達の時代には侍はいないよ。 心持は侍って人は居たけども。 そんな時代からも来ているのかよ?」


「違う違う。 ムサシの前の時代からは来てないよ。 うんとね、詳しく言うとムサシの頭が混乱するから簡単に説明するね」


「よろしくお願い致します」


「次元を通過した移民船の話って知ってる?」


「なんとなく覚えてる、そんな船があるとか聞いたな」


「そこにいた文化保存機構の子孫って話だよ 」


「まって! まってくれ。 まったく、よくわからない」


「んー、ムサシの時代からずっと先の世代の人が昔の文化を掘り起こし再構築して、その一部の文化が生き残った?」


「アミさん、アミさん、本当によくわからない」


「私の専門じゃないからうまく説明できないや。 昔の文化を蘇らして実証実験をしてたら野性化したって感じ?」


アミは端末を弄って資料を読んで伝えてくれた。


「なんだそれ? 俺達から先の未来で生きてた連中? たしかツギハギの時代とか?」


「なんかね。 ツギハギ……何回か滅亡しかけて蘇ってた時代だね。 その生き残り? 移民船から離脱した小型船だか移動施設とかが冷凍睡眠施設みたいに眠っていてさ」


「俺みたいに唐突に叩き起こされて野に放たれたと?」


「それの超ハード版ってところかな? ガイド無し、施設の使い方分からない、体力だけある。 そして幸運にも場所がよかったらしくて細々と安全に生き残ることができたんだって。 最近に発見されて文化交流が始まったみたい。 発掘されるオーバーテクノロジーの刀とか凄いって聞くね。 たしか赤熱刀? ヒート切断技術? それを持ってたから外に放り出されても生き残れたみたい」


アミが刀を持ったフリをしてエア剣劇をしている。 


二人に妙な間が生まれ、沈黙が少し続いた。


「でも俺が知っている侍とは全然違う。 様相がサイバーでクールなロボット侍か、もしくはサイバー忍者みたいなんですけど? 」

「それは私もわからないよ…資料も少ないし。 彼らの施設が再稼動したとか? ここの技術者と交流があるとか言ってたし。 交易とかで手に入れたんじゃないかな? 私の担当地域よりかなり遠方で離れているからあんまり知らないんだよね」


「格好いいなぁ…最高にサイバーパンクだ。 見てよあの未来甲冑みたいな素敵装甲服……きっと銃弾とか刀で叩き切るんだろうな? 」


「それはないね。 聞いたことがない。 残念だけど…ムサシそれは無いんだよ? 幾らなんでもオーボーテクノロジー過ぎるよ」


「ないのかー。 そうかー。 残念だなぁー。 またつまらぬ物を斬ってしまったとか見たかったのに…」


「あーそれなら。 装甲版をバターみたく切れる刀はあるらしいね。 ヒートソードとかあるらしいよ 」


「そこ詳しくお願いします」


「ええとね。 振動式ブレードとかはこの都市にもあるんだけど。 それよりも遙かに性能のいい熱で斬るヤツ? 高周波とかレーザーとか? 彼らが持ってるオーバーテクノロジー刀より性能は落ちるけど、凄く切れるのがあるんだって。」


「なにそれ素敵……でもお高いんでしょう?」


「そりゃぁ……ね。 もの凄くいい値段がする。 怖いくらいの値段と聞いたよ」


「オーバーテクノロージーか……夢が膨らむなぁ」


「それより。 私はご飯でお腹を膨らませたいかな? 」


「そう言えば。 俺もお腹減った。 お店はまだなのかい?」


「すぐそこ。 そこ曲がったところ」


少し奥まった場所に質素な店の看板と日本風な装飾で飾られた入り口があった。




エレベーターで建物の屋上まで登る。


結構な階数を登っていく。フロア案内に目を向けると途中階には武器装備、中古品買取、雑貨取り扱い等の店が紹介されていた。


そのうち最上階で止まりドアが開いた。


なんか間違った感じのなんちゃって日本風レストランがそこにあった。


名前は『沈黙のレストラン』となっていた。


サイバー甲冑を来た、銃を持った武者がディスプレイされていた。 


レストラン内では沈黙はしておらず、客は普通に会話していた。


「別に沈黙しなくてもいいんだ」


テーブル案内の者も普通に会話していた。


「なぁ、アミ。 ここの名前のさ、沈黙って部分はどういう意味なんだ?」


「ここのオーナーがね。 凄腕って意味」


「それがどう繋がるんだ?」


「まだまだ勉強が足りないね。そのうち教えるよ」


アミが何か思惑のある含みのある言い方とアイサインをしていた。


スタッフに案内され窓際に通された。


そこには数キロも続くであろうかという港湾施設が広がっていた。


手前には乗船ターミナルが。奥側に造船所やドックヤードと思えるものが見えた。


幾つものビルの谷間に船舶が嵌っている様に見える。


港湾施設に見えるが水が無いのでとても違和感がある。


「乾ドックとかいった形式だったかな? いや待て水が無いからそもそも乾いているし…そういう意味じゃなくて…ゲートなんて必要ないから…ええい普通に港でいいのか? 兎に角、すっごいなコレ!! 」


気がつくと俺は子供のように窓に張り付いて興奮して見ていた。


大型クレーンが沢山あり、コンテナや物資運搬用の大型車が行き交う。


乗船ターミナルでは出航の儀式なのか小規模なオーケストラ楽団が曲を奏でていた。


店内BGMと防音ガラスなのかまったく外の音は聞こえない。


港の外には入港待ちのランドシップ? 陸上艦? 歩行軍艦など様々な船が見える。


「脚じゃない船舶もあるじゃないか? 履帯式? 車輪式もあるな? ホバーっぽいのもあるな。 色々あるじゃないか?」


数々の船舶に興味が注がれる。


赤茶けた大地と港の金属光沢とコンクリートの黒や灰色気味の色合いがとてもいい味を出して何か魂を震えさせるものを感じる。


しばらくすると声をかけられた。


「やぁ、アミちゃん。 久し振りだね」


ポニーテールにオールバックという、ネイティブアメリカンを彷彿とさせる人物が、そこに静かに立っていた。


風貌がそれっぽくて、特に胸飾りや太い腕輪にターコイズの北米大陸の民族的装飾がされていたのでそう思った。


「オーナーでメインシェフのルイです。 アミちゃんにはよく食材を仕入れてもらっているんだ」


「ムサシです。 起きたばかりで苗字も思い出せなくて。 すいません」


「よろしくムサシさん。 起きたてだとよくあることだからそのうち思い出すだろう。 今日は楽しんでいってください」


ルイさんはごつい大きな手で握手を求めてきた。


握手は見た目と反して優しく丁寧だった。


「ルイさんは超有名で凄腕のハンターだったの。 今ではオーナーで最強のコックでシェフ。 敵がすぐに静かになるのでサイレントって異名がつくらい凄かったの。 そして私の先生の一人」


「あまりおだてないでくれよアミちゃん。 どこのどいつが言ったんだが知らないが私はおしゃべりなんだよ? それをサイレントとかって言ってくれて…だが最強ってのは気に入っている。 響きがいいからな!! ガッハッハッハッ!! 」


アミとルイさんは仲良く茶化しあっていた。 ルイさんのウィンクがとても凄みがあったがスルーしておこう。


「それで店の名前が沈黙なんですね?」


なんとか会話に参入してみた。


「そうそう。 支援者の総意で名前が決まってしまってね。 最初は違和感があったけれど今ではお気に入りさ」


「そしてコックへの指導が厳しくてスタッフが怯えて調理場が静かになっちゃうとか」


「そうだったか?」


「冗談。 こんな感じでいつものやりとりは終わります」


「そりゃないぜ? アミちゃん? 初回のお客さんが困惑するのを眺める。 俺のお楽しみを……まぁいい。 今日はいい魚が入っているぜ? 鮎だ。 都市の水産部門が試験的にやってやつをまた流してくれてな 」


「本当!! やった!! それ!! それにして!! こないだの塩焼きのヤツ。 すっごく美味しかったの」


「今日のは魚の油の質が違うそうだぜ? コケをタンマリ食わせてさ。 よく太っているのさ、これがな」


二人は楽しそうにボディランゲージを駆使して盛り上がっていた。


「それじゃ、調理するから、これで失礼するよ。 この景色と料理を楽しんでくれ」


ルイさんはそう言って厨房に颯爽と消えていった。


「それにしても、この都市は食が豊かなんだな。 うなぎに鮎にこんな荒野でよく育てられるな」


「都市の内部のバイオトープとか自然空間研究施設で色々育ててるからなんだよ。 もっとも、この市民の異常ともいえる食に対する執念と言うか……防衛とライフラインが構築できたら食糧事情に全力で取り組んじゃったみたいでね。 特に凄いんだここ」


「そういう方向性で頑張ったんだね。ここは……」


「ちなみに日本食は普通に高いです。 この都市での生活費用2週間分くらいはします…」


「マジか、物価はまだ感覚が無いから油断してた。 ハッ!! 君はそんなものを俺におごらしているのか……?」


「目覚めた人用の初期割引中だからムサシのお財布にダメージは少ないよ? 安心して? 失礼だな。ちゃんと考えてるんだから」


アミは茶目っ気たっぷりに軽く怒っている顔をしたがすぐに笑顔に変わって笑っていた。


「安心したよ。 そしてごめん。 一瞬疑ってしまった」


「酷いナー。 私がどれだけムサシの世話を焼いたと思っているんだい?」


「ごめんて、感謝します。 この通り」


俺は必死に謝った。


アミはメニュー表をとるとある場所を指した。


「しかたがないなぁ。 アイスも追加でゆるしてしんぜよう」


「はーはー。ありがたき幸せ」


二人は変な間があったが、すぐにクスクス笑いあった。


「しっかし、携帯食料の配布とかあるから安いと思ってた」


「逆だよ、天然モノ食品プラントの生産品は貴重だから高く設定されてるの。 他の街じゃ、宝石泥棒や武器泥棒より食料泥棒の方が利益が高いくらいなんだから」


「天然モノがプラントから生産されるとか意味が分からないがこの都市はかなり恵まれていることは理解したよ」


「市民が並々ならぬ努力で生産環境を整えて農場プラントを作り上げたってのもあるけど…ここは食べ物への執念のおかげで高いけど物はあるって状態になっているの」


「感謝して食べるよ」


「そうだよ? 内郭街の人でも自然食品を食べるのは苦労するんだから。 外郭街の人だってお祝いくらいじゃないととても手が出せないんだから」


「そうか、だから起きたばかりの俺みたいなやつはこうやって最初にいい思いをさせるのか? これで外の仕事に行かざるをえなくなる……と言う事は訓練中は飯が不味い…そういうわけか?」


「感のいい兵士は長生きするよ? ムサシ……この店を出ると……覚悟する事だ。 新兵……」


アミは真面目な口調で怖い顔で言い放った。


出てきた料理はとても美味しくいただいた。


鮎の香ばしさがたまらなく美味く、ご飯も味噌汁も絶品だった。


最後に出てきたアイスなんて、言葉にできないくらいの美味しさだった。


窓の外には歩行船が見え、港は力強くその機能を果たしていた。


俺の心は次に訪れるであろう訓練のことを思う。それが恐ろしいものに感じて仕方が無かった。

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