第15話 身体調査と基礎訓練
次は運動をしよう。
とのことなので歩いて次の施設に向かう。
途中で施設の事を簡単に教えてくれた。
身体の正常動作確認をベースにしてナノマシンや強化システムの世代や特徴等のデータも集めているとの事。
目覚めた時期や世代によって技術的に差があり、ナノスキンや体内ナノマシン等の極小機械郡技術、強化システム技術等と身体的特徴に関する調査研究部門がここの施設になるらしい。
極小機械郡技術、強化技術に型や世代による性能差があって研究者を悩ましているそうだ。
身体強化技術に関する技術調査施設と実地測定する為の運動施設が軍訓練施設に隣接している。
民間も軍も技術情報が欲しいのでお互いに協力して解析している。
都市としても都合が良いので初期訓練に噛ませて調査を実施している。
ちなみに俺は検査中に色々と通常と違うデータが結果として出た。新世代型?とスタッフをざわつかせたが結局は機材の調子が悪かったらしく再測定と機器の校正した結果、ごく一般的な汎用型という事が判明した。
その時はなんかしら凄い技術が得られてもいいのにと都合の良いことを考えていた。
多少頑丈とか素早いとか成長する事も色々あるしそんなに気を落とすなとアミに励まされた。
次に介護犬と一緒に居た傷痍軍人の機械の体について教えてくれた。
サイボーグと機械の違いは似てはいるが完全な機械で組み立てられているか? 一部が生態的な特徴を残す機械の体であるかといった点が大きな違いだそうだ。
生態的というのは栄養が必要で新陳代謝が起こるとか極小機械郡が生態システムを模倣して合成物と生体を繫いでいるとか簡単に説明してくれた。
遺伝子操作された肉体と極小機械郡による身体強化が俺の強化人間の型となるそうだ。
もっとも完全に機械化されている、完全なサイボーグと言われても脳みそまでは機械に入れ替える事はできなかったらしい。
機械化を出きるところまで進めて脳みそと脊髄だけ肉体の人も稀にいるよとアミが怖い事を言う。
ちなみに機械とサイボーグと遺伝子操作体の混合型もいるそうだ。
「イメージ的には肉よりか機械よりか?って感じで覚えとけば良いかな? 」
「じゃぁさ、箱型とか人間をやめちゃった系の機械人間とかもいるのかな? 」
「メンテナンス技術も民間まで落ちてきてるし、あまり見ないけどこの都市でもどっかに居ると思うよ 」
「肉体の面倒さに嫌気が差して機械化する人もでいるんだろうなぁ…」
「機械化はお金がかかるからねぇ。 それなりにお金と理由のある人じゃないとやらないんじゃないかな? 機械化を理由に稼ぐために外の仕事をする人も居るけどね」
「やっぱりお金の話になるのね……どこに言っても世知辛いねぇ」
「それはそうだよ。 ほとんどオーバーテクノロジー頼りだからね。 プラント頼りでナノマシン頼りだよ? 」
「プラント様々、ナノマシン様々か…」
「プラントは専門職の人しか関わる事ができないから気にする人が少ないけど、ナノマシンは生活と密着してるから困ったときのナノマシン頼りとかよく言うね」
アミはケラケラと笑っていた。
ジョークのつもりなのか個人的には笑えない末恐ろしさも感じているが……ここは笑っておこう。
俺の渇いた笑いが響く。
だいたいプラントがよく理解できない。有機転換炉、融合炉、プラント、これらがセットの機械らしいのだが莫大なエネルギー出力と何処からとも無く生産される資源によってこの都市は維持されている。
出力量とか上限があって生産管理されているとか説明されたけどイマイチ腑に落ちない。
入力なしに出力がある魔法にも思えるオーバーテクノロジーだ。
そんな事を考えながら歩いていたらアミが振り返った。
「さぁ、動いてもらうよ。 ムサシ!! 」
一見するとトレーニングジムの様相をしている部屋に来た。
実際にランニングマシーンやトレーニングマシーン的な機械を操作している人達が居る。
「では私とスタッフの指示に従ってね。 さぁ、ピチピチスーツになって走りましょう!! 」
それからはアミとスタッフに囲まれてひたすら運動した。
スタッフは色々な計測器や端末を抱えて調べている。
アミは楽しそうに端末を見たり俺の動くさまを見ていた。
ランニングマシーンで10分ほど走っていると戦闘機乗りがつける様なマスクを装着されて息苦しいまま走らされた。
苦しいマスク付き運動を終えて一息つく。
「良いね。 なかなか良いね。 はじめから凄くいい数値が出てるよ。 次ぎに行ってみよう」
アミはだんだんとテンションを上げていった。
次はトレーニングマシーンを幾つも操作して筋力を調べられた。
結構なウェイトを追加されているが苦しくなく操作できた。
「なかなかいい体みたいだね。 いい強化具合だね」
「そうなのか? 実感がわかないけどさ。 こんなバーベルも持ったなかったから以前の限界が分からないや」
「今のところね。 そうだね。 男性を掴んで振りまわすくらいは楽にできると思うよ」
「やだ怖い俺の体」
「だから事故らないように使い方を学んでいくんだよ。 さてとこんなもんで良いかな? 次は運動場行くよ」
スタッフとアミに連れられて開けたとても大きな部屋に来た。
天井は高く、陸上競技場やアスレチク施設やよくわからないモノが色々あった。
スタッフとアミが端末を見ながら話している。
「ムサシは頑丈みたいだから結構無茶しても怪我しないよ。 データ的には」
「データって。 んで、無茶ってどんぐらいよ? 」
「そこの高い場所から受身無しで落っこちても痛いだけで済むくらい? 」
アミは離れた所にあるアスレチック施設を指差す。
「かなり高いと思われるんですが? 」
「試す? 」
「とりあえず、お試しで優しいレベルからにしてください」
「ごめんごめん。 冗談だよ。 しょっぱなから厳しい事はしないよ。 さぁ! 続けていってみようか!! 」
トレーニング器具を使った運動は終わりとなった。
そこからは屋内陸上トラックで走ったり飛んだり、アスレチックで動き回った。
アスレッチクの途中で自分的に結構高いところから落ちたが体には痛くなくて身体に影響が出なかった。
正しく言うと一瞬痛かったけどすぐに痛みが収まり問題が無くなった。
立ち上げって身なりを整えるとスタッフからそこの高いところから飛び降りてくれと言われた。
ちょっとした飛び込み台くらいの高さだった。 取り敢えず階段を登る。
縁に立ってしり込みしているとアミにケツを蹴られて落下した。
俺は声にならない叫びをしながら落下した。
落下する時間はとても長く感じ、とてもゆっくりと景色が流れた。
落下中に体を動かせそうだったので捻ったり体を動かして着地態勢をとってみたら、体は柔らかく転がってショックを吸収して着地した。
少し転がって最後は仰向けになった。
するとアミが上から落ちてきた。
「運動神経もよいみたいだ。 これはなかなかの体ですな」
「アミさんよ。 蹴り落とすのは酷いんでないか?」
「とっさの反応が見たくてね。 トラックで回収したデータから問題なと判断してみたけど…大丈夫! 大丈夫! 実際に平気だったでしょ? 」
この娘さんノリノリで怖い事しやがる。
でも確かに高所から転落したり、ちょっとした交通事故でも耐えられそうな気もしてきてはいる。
やらないけどな。 痛いのはやだしな。
「それでは…次は私と鬼ごっこしましょうか? 」
「何を言っているのかな? アミさん」
「アスレチックで私と鬼ごっこしようと言っているの」
アミは奥にある大規模アスレチックを指差している。
指の先にはテレビ番組で見た事がある様な筋肉自慢が暴れまわる施設に子供どころか大人も喜びそうなアスレチック施設が合体して様々な入り組んだ構造物があった。
さっきから見えてはいたから気にはなっていたんだ、これ。
アミに引っ張られてそこに向かう。
「私にタッチしたらムサシの勝ちね。 負けたほうがお昼を奢る。 どう?」
「お嬢さん。 舐めてもらっては困る。 小学校時代に飛び猿シーモンキと呼ばれた、この鬼ごっこマスターに勝負を挑むとは…」
「自身ありげだね。 強化体に慣れて調子に乗ってきたかな? 新兵くん。 私を楽しませてくれたまえよ」
このチャンスに例の神様の顔がちらつく。
タッチどころか抱きついてやろうと俺の邪な心が囁く。
だがお前は調子に乗るとすぐにへまをするから止めておけと善なる心が呟く。
俺の手が掴むのは栄光か? 挫折か? この強化された力で掴むのは何か?
30分ほど過ぎたのだろうか? 結局、俺が掴んだのは空気だった。
アミに翻弄されまくって追いかけっぱなしでちっともさっぱり彼女を捉えることはできませんでした。
アミはギリギリのところで身をかわして俺を弄んだ。
ひらりひらりと余裕の笑みすら浮かべていた。
自分の集中力が途切れ始め、自身の動きが散漫になってきたことに気がつく。
アミは少し躓いてスピードが落ちた。
俺は最後のチャンスと思って飛び掛った、そして捕まえたと思ったら何か遠くの光が目に止まり、気がそれた。
そして激しい衝撃と回転する周りの風景を認識した。
何が起こったかわからなかったがアミに見下ろされている事に気がついた。
アミに避けられてアスレチックの柱に激突して高所から落下したらしい。
俺は情けなくギブアップを宣言した。
「最後はいい線いってたけど惜しかったね。 どうしたの?」
「なんかそっちの方で光る何かに気をとられてさ。 気がついたらドカーンよ」
地面に座り込んで降りてきたアミに状況を伝えた。
こんなに素早いと思わなかったよとか言い訳を考えていたがアミの感心した様子が気になり言葉を引っ込めた。
「スッタッフにライフルのスコープをね、気がつけるか仕込んでおいたんだ。 最後の方でちょろっとムサシに向けたんだよ。 あのタイミングで気がつくとは思わなかったよ 」
ライフルを抱えたスタッフがこちらに歩いてきた。
「スコープ? ライフル?」
アミの説明によると激しい動きをしている最中にスコープの光を認識できるか? といったテストも行っていたそうだ。
「よいスカウトになれる素質があるよ。 ムサシ」
「スカウトって何さ?」
「私のメインのお仕事、一緒にやる? 専属で鍛えてあげるよ?」
「とっても魅力的なお誘いだけど? それって危険なんだろ? まだ何ができるかも分からないのに選べないよ」
「そんなの何が好きかで決めてもいいんだよ? 直感でさ」
「直感ねぇ」
歩行戦艦の絵が脳裏に浮かぶ。
そしてすぐにアミの魅惑的な鍛える訓練を想像した。
「これだけ動けると色んなことができそうな気もするけど。 まだ何も分からないんだよな。 敵性体だっけ? それもわからん
「午後の移動の時に説明するよ、それも今日のお仕事の内容だから。 さぁ、午前中の最後の訓練だよ」
「最後はなんだい?」
「これだよ」
アミはスタッフからライフルを受け取り構えている。
そのれは奇麗な射撃姿勢であった。
それからスタッフと別れて少し歩く。
広い大きな空間から扉を隔てて別の空間に来た。
そこは射撃場だった。。
100メートル位だろうか? 長い射撃場があった。
アミから指導を受けて拳銃、自動小銃、ライフル、散弾銃の説明を受けた。
実銃を従えて取り扱い、構え方、機構について一通り説明してもらった。
「ムサシの世界じゃ、ゲームでこういうの結構使ってるんでしょ?」
「やったことあるし結構得意なゲームだったけど実際に撃ったことはなかったよ。 銃口を覗くなとか映画とかアニメでの知識があるぐらいだよ」
「こっちじゃ、これが命を分ける事もあるから真剣に覚えてね。 市民は全員使えるように訓練されてるから。 ムサシもね」
アミの真剣な口調に気圧される。
「わかった。 自動小銃からでいいかな?」
「銃の種類とか余り気にしなくていいから今日は慣れるとこまでやろうか? どれから行く? 」
俺は自動小銃を取り構えてみた。
「西側の銃があるけどなんか理由でもあるのかい?」
「結構詳しいんだね。 この都市で生産されるのが西側系だからかな? あんまり考えたことないや? 自然と周りに合ったし」
「そんなもんかね? 」
「こだわっている人は特注生産とかするけど。 最初はよくあるヤツでって用意してみました」
アミが耳栓を渡してくれた、装着した。
あたりの音は消えて耳が痛いくらいだった。
「聞こえる? 耳栓と通信を両方備えた優れものなんだよ、これ。 原理はわからないけどマイク機能もついてる」
「ありがとう教官。 聞こえるよ。 それでは撃ってみるよ」
それからは実に楽しいひと時であった。
射撃の反動は心地よく、的に弾が吸い込まれていく感じが気持ちよかった。
まぁ、弾は見えないんだけどさ。 的を近くに寄せてくれて命中具合を教えてくれるので当たっている事がわかった。
拳銃は左にそれる傾向があった。自動小銃は奇麗に的の中心に当たっていた。そのはかもまぁまぁな感じだった。
「銃に慣れてないとか言ってたけど実戦レベルで良いじゃない? ムサシ」
「俺は映画の真似とか、近所の友達とサバイバルゲームで鍛えただけのお遊びレベルなんだけど? 」
自分でも銃を普通に使えるので驚いている。 説明を受けたとはいえ、マガジン交換もすんなりできた。
実銃なんて触った事も無いのに不思議と懐かしさも覚える。
そんな感じでひたすら撃ち続けた。
そのうちメイド人形が出てきて銃を片付けていた。そして用意した弾も撃ちつくした。
最後の余韻に浸っているとアミが声をかけて来た。
「上出来、上出来。 私の生徒は覚えが良いみたいだ。優秀な様で素晴らしい!! 」
「銃を撃ち続けて手や肩が痛いよ。 楽しかったけどさ」
自分の手や肩が発射の衝撃によって擦れて痛くなっていた。
衝撃自体はそれなりな気がしていたが実際にはかなり皮膚に負担がかかっているようだ。
「拳銃のトリガーなんてなんでこんなにギザギザしているのさ」
「それは素人さんが滑って暴発させたり、注意を促すためじゃないかな? 自分のはそんなギザギザにしてないな」
「初心者用ってことか。 確かに激鉄を起こす時にザラっとした感覚で注意が向いていたな」
「なにげない配慮が大事なのだよ。 新兵」
「これから身に着けていかないとならない事なんだな」
「そうだね。 他にもセーフティの状態や残段数とかも意識できる様にしてね」
「努力するよ」
最後に触っていた拳銃をメイド人形に渡して射撃訓練は終了した。
「さてと、お昼にしようか?」
「俺の驕りだったな、何を食べる? うなぎか? 」
「それも良いけど。 今日はこれから乗る船を眺めながら食べる事にしましょうか? 」
「訓練はここでやるんじゃないのか?」
「実践的なフィールドワークもするから、ここから離れたとこでやります」
「遠いのか?」
「それなりに遠いね。 外に出るから危険に備えて銃を撃つ訓練をしたの」
「いよいよか……」
「もしもに備えての訓練だから移動中は基本的に安全だよ? 」
もしもと危険なと言った部分が非常に気になるが……この短い訓練で少しは自信がついた。
不安と気体が同時に起こる。
一方、アミはご飯ご飯と独特な歌を陽気に歌って歩き始めた。
「ゴゴッハーン、ゴゴッハーン、おっひっるゴハーン」
この子はいつも明るいなと考えながら彼女を追った。
どんな船に乗る事になるのだろうか? 期待に胸が膨らみ、心は鼓動を早めていた。