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歩行戦艦ビーケアフォー 絶対対艦歩行主義  作者: 深犬ケイジ
第1章 ながされて歩行軍艦
11/71

第11話 食、執念、うなぎのぼり

 「市長に呼ばれてた話なんだけどさ」


アミが社務所に行く途中で話してきた。


「今日の予定変更と明日のお話なんだけどね。今日のお昼過ぎからムサシの案内をキャンセルして研究室聞き取りに変更して、明日の初期訓練を変えて最初に能力測定を行う。と、いう感じです」


「俺は問題ないよ。訳分からない事が多いし、言うように動きますよ」


「私は案内が楽しいし、安全だし、少し残念だよ。 ムサシだと、お気楽だもん」


先を歩いていたアミがくるりと回りこちらを向く。いい笑顔だ。


「はっはっは、こやつめ」


「そうそう、ついでに言っちゃうけど明日の能力測定は私が見るよ。教官資格持っているから」


「なんだと……お手柔らかに頼みます。アミガサ教官」


「口を開く前にサーを付けろ、この新兵が!!」


アミは明るく柔らかめに言う。クスクス笑っている。再び社務所に向かう。


「初期訓練とか言ってたけど能力的に問題が無ければ入れたい訓練が急に発生してさ、そっちにムサシも参加させたらどうかと言ってたの。後でメールするから見といてねと」


「市長が忙しいあいまに調整してくれたなら幾らでも訓練やりますよ。勝手に強化された体の事も詳しく知りたいし」


「ちなみに私は遺伝性の強化人間なんだ。わかんないことがあったら聞いて。専門的なことはわからないけど」


「遺伝性?」


「お父さんが強化人間で、それが遺伝したみたい。しかも結構優秀な強化遺伝だったらしくて。実は私は優秀なレンジャーなのだ」


「だから一人で荒野を歩けるんだね」


レンジャーの意味が分からなかったがアミが嬉しそうに語るので流した。


「運転だってできますよーっと、ちょっとゴメンね。受付済ませちゃうから」


社務所で受付をする、自動人形からチケットを買う。


「しっかし、これが機械ってのは信じられない。これまで何体か見てきたけど。人間にしか見えない」


「言動とか、仕草とか、なんとなく分かってくるよ。高級品だと人間そのもの、その上の特急品になっちゃうと全然分からないけどね発掘品にいたっては人権すら持ってるし」


自分が異世界に来たことをまじまじと実感する。


職員用兼バリアフリー用の中層地下へ続くエレベーターの説明をアミがしてくれる。


そして社務所の中を進んでいく、純日本風の作りだ。木の香りがする。


特に懐かしさは感じない。


少し進むと岩盤むき出しで金属で補強された通路が見えてきた。


「で、こっちが駆逐艦の通路で、岩山をくり抜いてトンネルにしてます」


アミが儀式めいた動きで案内してくれる。なんか日本舞踊みたいだ。


奥には螺旋階段が見えた。


艦底にのびる螺旋階段を登る。


岩のごつごつとした壁から金属壁へと変わる。


「艦内に入りましたちょうど艦橋の下ぐらいになるんだよ」


俺はさっきからオーとかホウホウとか適当な相槌になっている。


なんかこういったアトラクションめいた感じが、ものすごく楽しいのでしかたがない。


階段は終わり扉をくぐる艦内通路の様子はすっきりしていた金属光沢があり鈍く光っているが外壁よりかなり奇麗だ。


艦橋と書かれた案内プレートが目に入る。足元に色分けされた矢印の案内があり、屋外や機関室など書かれていた。


アミはまた扉をくぐる。今度は先ほどより分厚い厚みの扉がついて開放状態に固定されていた。


アミについて行きまた階段を登っていく。


「ここが艦橋になります。どうぞご覧ください」


ついに艦橋に入った様だ。しかし内部は想像と違っていた。


てっきり操縦機器や艦長席や計器類が並んでいる事を期待していたが何も置いていない展望室になっていた。


窓は狭いが遠くや周囲が良く見える。


「きたばっかでアレだけど上が一番高い展望台でとてもオススメです。船の甲板も展望台。山のてっぺんにあるからドコから見ても眺めが良いんだ。どこから行く? て言うか屋上行こう屋上!!」


「そりゃ一番高い所だろう、よし行こう。すぐ行こう」


なんかアミの元気さに乗るのが楽しくなってきた。


「了解、上はすっごい見晴らしが良くて気持ちがいいよ。ではこちらに」


アミは外に繋がる階段を登れとボディランゲージをしている。


「階段が急でさ、先に登って」


勧められるので遠慮なしに扉をくぐり急な階段を登っていく。階段の上の方から光が差している。


うん、アレだ。アミを先に登って、俺が後に続くと先ほどの二の舞になる。


「見回すのは登ってからだよムサシ。さぁ登った登った。」


階段は急であったが手すりを使って楽に登れた。


艦橋の屋根に上った。


そこは狭い屋上だったが広がる光景は圧巻だった。


目の前には地平線が広がっていた。


多少、大きな岩山やテーブルマウンテンがあるが殆どが赤茶けた土地が視野に広がっていた。


映画の中に出てくる西部劇の荒野があった。


その辺の岩山の影から幌馬車が出てきそうな、馬にまたがり疾走するカウボーイや保安官が出てきそうだった。


赤茶けた砂と台地の広がる光景を眺めていた。


「百点満点の反応だね。それが見たかったよ。凄いでしょこの眺め」


「あぁ、凄まじい。こんなに壮大なのは見たことがない」


「ここも悪くないっていったでしょ!! 夕焼けとか信じらん無いくらい奇麗なんだから」


「そいつは見てみたい。しっかし、ひっろい荒野だな、殆ど何にもない」


「この街は陸の孤島なんだよ、もっともだいたい必要なものは整う素敵な街なワケだけど、少しは気に入った?」


「危険な何かしらがいなければ最高さ」


「この辺には危ないのはまず出ないかな? でるのはあっち」


アミは地平線のテーブルマウンテンを指している。


「あのテーブルムンテンか?」


「ううん。 その奥にうっすらと山脈が見えない? テーブルのむこう」


アミがそのむこうと言わんばかりに指した指を動かしている。


言われてみれば薄く山脈が見える。すこしもやがかかっていて見えにくかった。


「あぁ、あれか」


「ついでに言うとムサシを拾ったのあそこだよ」


「俺の起きたのあそこかー……かなり遠いな。 てっ言うか見えるんかあの距離が…結構車で走ったよな」


「なにもないからねーここ」


アミはヤレヤレと手を振っていた。


艦の前方には荒野。右も左もだだっ広い荒野だ。


後ろを向くとアミが説明をしてくれる。


駆逐艦の観測機器、煙突、アンテナやカメラやら色々な機器がついてるマストのことなどを教えてくれた。


「しっかし、歩行艦ってすごいのな、こんな所まで登れるんだな」


「それは違うの。このクラスでも登れないはず。脚の踏ん張りや出力が足りないって言ってた」


「じゃなんでだ? ここで建造でもしたのかい?」


アミはコホンと咳をしてないはずのメガネを直す仕草をして解説モードになった。


「学者さんの言う事では昔、この山はもっとなだらかでスロープみたいな形状だった。それがなんらかの地形変化が起こってこんな山の形になったそうだよ。仮説らしいけどね。」


手で地形変化を表している。


「一応姉妹艦が似たような地形を色々試したけどこの全然登坂能力が足りなかったらしい。もっともっとなだらかじゃないと脚と重量軽減機構が持たないって。大昔に登って機能停止してここにあったのを初期の頃に第一期の最初の人達が物資不足で再利用するために解体しようとしてたけど、流石にこの位置にこんな感じに意味ありげに居座ってたから参拝しだす人が出て来て、今に至ると」


アミは腰に手を当ててガイドしてくれるが急に棒読みになった。


「艦の装甲表面保護機能とか追加でつけた周辺監視機能や通信基地局は外部電源を引っ張ってきて動かしてるそうです」


アミはパンフレットを読んでいた。


「いやぁ、私だってなんでもかんでも知ってるワケじゃ無いんだよ? その場で手に入る情報を臨機応変に利用してだね?」


「OK、OK、君の努力は認めるよ、他に面白そうなネタはあるかい?」


「お祭りとかかな?」


「へぇ? どんなお祭り?」


「駆逐艦の大きな模型を作って町中をパレードするとか。パンジャンをぶつけ合う喧嘩祭りとか?」


「ずっと気になっていたんだけどパンジャン、あのドラムはなんなのさ? さっきの映像では転がって大爆発してたけど? もしかして魚雷の代わりに使ってるのか?」


流石に魚雷の知識ぐらいあった、戦争映画で軍艦が使っているシーンを見たことがある。


先ほどの転がってドラムが爆発する映像を見ているので認めたくないが。おそらく魚雷の代わりだろうと考えていた。非常識すぎて認めたくないけど。


先ほどの映像を思い出す。パンジャンの模型を転がして……でも俺は認めたくなかった。


無慈悲にアミは説明する。


「昔、船は水に浮かんでた。そこでは魚型の推進機械爆弾? 機雷だったかな? そういうのがあって……陸では使えなくて変わりにパンジャンが生まれたの。で都市の自動工場から生産されるの。ああみえてオーバーテクノロジーの塊なんだよ。車輪の展開機構は兎も角、強度とか。高いところから落としても壊れない重力制御とか。まっすぐに転がっていくのとか……」


アミが口ごもっている。


「パンジャンの神様が降臨して預言者にパンジャンの設計図を授けた……そう言う言い伝えが遺跡にあったそうです……ここの人達が目覚める前のツギハギの世代の出来事だって。歩行艦がいた時代……。正直、私は信じてないけど……公式文書でそう書いてあるんだもの……そんな顔しないでよ」


俺はどんな顔をしていたのだろうか? 確かに困惑したが……アミが困っている。


「まぁ、いいか…そのうち俺の頭脳もパンジャンをありのまま認識するだろう」


俺は艦首側の展望を見に行った。


「荒野、外側街、壁、内側街、この山と公園、こっちは池やら公園やら…それなりにでかい…んで…内郭街、壁、でなんか船が一杯ある?」


外周はぐるっと建造物があり、どれだけでかいか規模が把握しかねる。


その一部により大きな建造物や幾つかの船が見えた。


「あの形とマストか? あれ歩行艦? 歩行船? なって言ったらいいか」


俺は指差してアミに問いかける。


「歩行艦って言ってるかな? 色々と言い方はあるけどね。あの変が港ででっかい建物が造船所とかドック…港湾施設だね」


「歩行艦って作れるのか!そこは興味あるぞ。うん!!」


「戦艦は旧型しか作れないけどね。脚がどうしても作れないって…ジェネレーターとか艦の自重をどうにかする機構とか…」


「そーなのーかー…」実に残念である。


自分の中で最初に見た巨大な戦艦が今となっては憧れになってきた気がしている。


「ついでに言うと今日案内する予定だったけど外郭街なんだけどさ。一階、一番最初に検問所を通ってゲートに入ったところね」


「あの天井の高いでかい通りがあったとこ?」


「そうそう、あれほどじゃないけど2階建てで地上階が駐車場とか車道がある施設街。今見えてる外郭街…2階が歩行者用通路と街になるの。あそこも、きっとムサシは気に入ると思う。戦車とか一杯止まってるよ」


「そうそれそれも気になってたんだよ。検問所の時に気になってたんだよ、ちらっと見えてた。でっかいアーケードって言うか屋内施設? 2階は高すぎて全然見えなかったけどさ」


「街があるよ。2階はカートや運搬機械くらいなら走れるね。自転車とかも走ってるね」


「あれ全部歩行者専用かと思った。そら、移動用のなにかしらはあるわな。距離があるものな一周どれくらいあるんだろ?」


「内側の壁が全部歩けるんだけど…前にドンくらいかかるかと思って歩いてみたら一周3時間だっけ? 4時間かな? もっとかかった気がするな、ごめん忘れちゃった。」


「見渡す限り本当に広大だものな……この街。マラソンなんかしたら大変そうだ」」


アミが神妙な顔した。


「あのねマラソン大会があるの……ちなみに市長は毎回トップ10入り……あのひと運動もできるんだよ。いったいなんなの?」


「市長すんごいな」


アミがなんか不思議な動きで困惑してる。


「それは置いといてさ。街を見てて思い出したんだけど…実のところ市民と準市民の違いが良く分からないんだ」


「上層と中層重要施設と地下の都市維持機構、軍関係の施設が安全な市民。それ以外がだいたい壁の外が準市民。登録IDによって通行が制限される。建物は入れなかったり、特定の店がお断りだったり、買い物に税金がかかるとかもあったかな」


アミの顔が少し暗くなった。


正直良く分からない。


「ごめんね。詳しくは市長舎できいて貰えるかな?」


「おっおう……」


なんか気まずくなった。


「そろそろ甲板行こう。あっちもあっちで結構見晴らしいいんだ」


アミにつれられて駆逐艦甲板を楽しむ。


艦砲やパンジャン発射機やうんちくを頂いた。


艦内施設を見ているうちに、おなかが空いてきた。


「だいたい見たかな? 私、お腹が空きました」


「俺も腹減ってきたな」


「ごはん行きましょうか? あそうそう忘れないうちにムサシこれから忙しくなるから投票しとく?」


「投票って、さっきの映像の人たちの支援の話?」


「そうそう」


「俺としては支援したい……アミ街の状況を簡単に教えてくれるか?」


「簡単に? ええと…」


「彼らを受入れるキャパシティがあるとか? 想定される問題とか?」


「そう言うのは…たぶん市長が情報提供してくれると思う市長舎の掲示板、投票所の近くにあると思う。」


「仕事速いなあの人…」


「AIの補佐もあるけどね。本当に優秀な人だよ」


支援はしたい、あんな奮闘を見せられたのだ。支援するに決まっている。


そんな事を考えて社務所まで下がってきた。エレベーターのところで自動人形がいた。


「市長より承っております。こちらのエレベーターをお使いください、それとこちらをお持ちください」


関係者用のエレベーターを使わせてくれるようだ。


渡された端末から市長の声がしていた。


「ムサシ君、通信とってー」


市長が居た映像通信のようだ。


「市長こんにちわ」


「こんにちわ、ごめんね、急ぎで悪いんだけど投票しといてくれる? 概要は端末見ると分かるようにしたから。それじゃ」


慌しく伝え端末は通信画面が消えた。


アミがエレベーターを操作してる。


市長が書き起こしたレポートを確認した。


この街には資源リソース的に沢山余裕があるそうだ。


ならば何も問題はないだろう?


最初は壁外側街に居てもらい素行調査の後、職を選択するか否で市民権を渡すそうだ。


ちなみに仕事選択しない場合は準市民として外周街に住むことになるそうだ。


墓にも起こりうる諸問題と解決案があった。


「ね、市長は仕事ができるって言ったでしょ」


「超人ですか? あの方は?」


「市長が急ぎな感じだから、読みながら歩いたら? あたしが手伝ってあげるから」


アミが片手で端末を読んでいた俺の反対側の手を掴む。


「手を繫いで引いてあげるから読んじゃいなよ」


「おぉおぅッ では失敬して」


読もう、アミの優しさを無駄にしてはいけない。ここは真剣に読もう。


「扉開くよー、次は左ねー、誰もいないから安心して歩けるよ」


降りて歩く。正直、頭に入らないがここはしっかり考える。無理してでも考える。


手が暖かいな…違う。市長は暖かいな。戦った人達を保護するなんて。


ひとまず受入れても問題はない。懲罰と言っても生き残りのデータを見るに更生の余地はある。


恩赦もでるだろう。


対応策もしっかりしているように思える。


受入れるか否か、受入れるだよなぁ。


「なぁ、アミは投票どうする?」


「んー、こう言うのは自分で考えないと駄目だよ。ムサシ」


「そうだよな、ごめん」


怒られた。


「俺は受入れたいな……」


俺は口走ってから、気がついた。


「言っちゃうんだ……ムサシはそういうと思ったけどさ」


アミはクスッと笑っていた。


「ほら市長舎に着いたよ」


手は解かれ、視線を通常に戻す。そこには市長舎に続く扉があった。


投票所と書かれたブースがあった。


「じゃぁ、行ってくるか」


「私も投票しとこ」


「じゃ、市長舎の広場で、また」




幾つかの扉があった。ひとつの扉を開け中に入る。ちょっとした個室の様になっていた。


扉は一人ごとしか通れないようになっている空港にある入国審査の様な感じに机と端末そして自動人形がいた。


「IDのチェックをお願いします。投票はこちらにサインを」


近寄ってみると端末に受入れについて賛成と反対と記入を促す画面になっている。


俺は賛成にサインを行う。


「ご意見がありましたら。次の画面にご記入ください」


画面が変わり記入欄が出る。


彼らに支援を願いますと記入した。


「投票は終わりです。奥の扉から退室してください」


入った扉とは別のところに出た。通路を適当に勘で選び市長舎を出た。


広場に向かいアミと合流した。


「さて、お昼に行こう!! 何を食べようかなー!! ムサシ! よろしくねー」


「はいよ、仮想通貨で初期資金は貰ってるから支払いは大丈夫だろう、たぶん」


「たぶん?」


「まだ、ここでお金を使ったことがないんだ」


「まぁ、そうだよね、来たばかりだものね。ついでに教えてあげるよ」


「助かる」


「それでは私の好きなお気に入りなトコに連れて行ってあげよう」


アミはそう言って歩き始めた。足取りは軽やかだった。

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