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「おはようございます瞭侑様。朝ですよ」
また、1日が始まる
「ん………あと、すこ…し……だけ」
平凡で、いつもと同じ1日
「部屋に入りますよ?」
「それ……だけ、は、……だ…め…」
いつもの脅し文句で私の1日は始まる
学校の支度を召使いにやらせて、家という名のお屋敷のエレベーターを使って降りて食卓へ
「おはよ」
彼は私の姿を見るなり笑う
「おはようございます、瞭侑様。今日も寝ぐせ、すごいですね」
「…うるさい。今日もよろしく、雄夢」
彼は速水雄夢
私の幼なじみでクラスメイト
で、私は赤羽瞭侑
少し異端な家系の末裔
ちなみに、両親は荒稼ぎするデイトレーダー
私と雄夢は家族ではない
恋人同士でもない
まあ、いやゆる『主従関係』というやつだ
学校への身支度を済ませてから1時間くらい経って、ケータイをいじる私に雄夢はいつもの通りの決まり文句を言う
「そろそろ行きますよ、学校に」
「かばん、とってくる」
朝食も髪の毛の結も学校の準備もすべてやってもらっている私が自分でかばんを取りに行くのは少しおかしいかもしれない
《部屋に入りますよ?》
「…これだけは見られたくないもん」
と、独り言をいう私の前には1枚の写真が額縁の中に大切に保存されながら勉強机の上に置いてある
指切りしながら嬉し泣きをする私と、それをほほ笑む雄夢
小学5年生の頃に、ケンカの仲直ができた日
そして、初めて恋を知った日
「大好きだよ、雄夢」
一言つぶやいてから部屋を出る
「遅い」
「ごめんごめん」
桜が散り終わり、緑の葉が青々としげる道の中、楽しそうに歩く2つの影
恋人同士が歩いているかのように見えるその影を私は睨む
世界は残酷なことに、
主従関係の恋愛は認められていない




