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探検しよう!

風邪を引き込んで高熱を出しておりました( ̄▽ ̄;)

四日間はアップ出来ずにごめんなさいでした。

朝方は、まだ気温が低いことがあるので、皆さん、布団はちゃんと被って寝ましょうね。


 エリスと林太郎は小学生の隣に座って車道を眺めながら、ラムネを飲んでいた。

 

 金髪碧眼が珍しいのだろう、小学生は食べ終えたアイスの棒を口に咥えたまま腰を前方に屈め首を伸ばして、林太郎の隣のエリスの顔を珍しそうに眺め回している。


「兄ちゃん、そのガイジンのお姉さん、兄ちゃんの彼女か?」


 唐突に聞いてくる小学生に慌てた林太郎はラムネに(むせ)た。

 激しく咳き込む林太郎の隣でエリスが小学生を見て「うん、そうだよ」と笑いながら言う。

 エリスの返答を聞いた小学生達はベンチから一斉に立ち上がって「わあスゲエ、ガイジンの彼女だってさ!兄ちゃん、やるぅ」などと、きゃっきゃっと冷やかし始めた。


「こらっ、お前ら!小学生の分際で、高校生を冷やかすんじゃない!」


 顔を真っ赤にした林太郎がベンチから立ち上がって怒ると、小学生達は蜘蛛の子を散らすようにベンチから離れた。少し離れた歩道に三人で固まると、エリスと林太郎を再度ヒューヒューと冷やかしてから走り去った。


「全くもう。今時の小学生というのは、何て生意気なんだ」


 林太郎はぶつくさ呟いたが、どの時代にも生意気なガキ(失礼、お子様)はいるわけで、林太郎と小学生のようなやり取りが、この先なくなることはない。


「ねえ、エリス。次はどうしたい?」


 おうがいプランが無用となってしまったので、林太郎はエリスが行きたい場所を優先することにした。 エリスと一緒にいるだけで満足なのである。エリスが楽しければ、林太郎も楽しいのだ。 


「うーん。そうねえ。ここまで来たら、商店街散策かな。女子サッカー部に入ったら学校と自宅の往復だけになっちゃって、この商店街をゆっくり歩いたことないの」


「いいけど、ここは古い商店街だよ。駅前の方がカフェとか雑貨屋とか、今の流行りの店が沢山あって楽しいんじゃない?」 


「ううん。こっちの商店街がいい」


 それでエリスと一緒に、林太郎は旧商店街のアーケードをぶらぶらと歩くことにした。昔から商いをしている金物屋やお茶屋、和菓子、八百屋、乾物屋などがある。時代の趨勢には逆らえないようで、シャッターが下りた店も多かった。


「ねえ、こんなところに道があるよ」


 エリスが店と店の間の細い空間を覗き込んだ。見ると、人ひとりが通れるくらいの狭い幅だが、確かに道である。それも、アスファルトで舗装されているのではなく石畳になってる。林太郎も初めて目にする小径(しょうけい)だった。


「行ってみようか」


 林太郎が先になって小道に足を踏み入れた。後からエリスが付いてくる。細い道の右脇には古い土蔵が建っていた。左は板塀に囲まれた庭がある。


 両方とも奥に立派な瓦屋根が見えて、都市近郊ではあまり目にすることのなくなった板壁の大きな日本家屋が建っている。松やもみじ、椿や梅などが、板塀から賑やかに枝を覗かせていた。


「塀の角の大きな木は桜だろうな。春になったら、とても綺麗だろうね」


「…この道、まだ、先があるね」


 エリスに(うなが)されて林太郎は歩き出した。石畳の細い歩道は意外と長い。緩やかな曲線を描きながら先に続いている。林太郎の中でおうがいが嬉しそうな声を出した。


((この石畳の細い路地は素晴らしいの。こんなに清潔ではなかったが、エリスが住んでいたベルリンの貧困街の脇道に似ておるよ。余はとても懐かしい気分になっているぞ))


(そうか。この石畳は、ベルリン時代のエリスが住んでいた場所に似ているのか…)


 嬉しいのと悲しい気持ちが()い交ぜになって林太郎の胸に込み上げてきた。


 輪廻転生しても、心か体かどこかの部分に、前世の記憶が微かに残っている。明治のおうがいと何の原因で別れたにせよ、自分はエリスを愛する気持ちを深く刻み付けて、再びこの世に生を受けたのだ。それは間違いない。


(エリスは?前世で俺と愛し合った記憶を、ほんの少しでも残して生まれ変わってきてくれたのだろうか。だから俺と付き合おうって思ったのかな)


 そうあって欲しいと願うのは身勝手だろうか。

 やるせない思いで林太郎は石畳を歩いた。

 

 道の両脇は大体が古い民家の塀であったが、途中から中型のビル壁に変わった。ビルを抜けると普通の歩道と突き当たり、石畳の道は途切れた。五分程のとても短い探検だった。


「こんな普通の場所に日本家屋が並んで立っているのって、私、初めて見た」 


 エリスは興奮冷めやらぬ様子で、通って来た小道を再び覗き込んだ。


「俺も旧商店街の後ろに古いお屋敷通りがあるなんて、初めて知ったよ」


 そう言って林太郎は表通りに建ち並ぶビルを見上げた。あのお屋敷の住人は、ここら辺一体の土地を持つの地主なのだろう。


「ねえ、林太郎!これは何?」


 エリスはビルの片隅に祀られた小さな稲荷の社を指差した。


「お稲荷さん。商売の神様が祀られているんだよ」


「こんなに小さなジンジャに住んでいるんだから、とっても小さな神様なのね」


 エリスは稲荷の社に両手をぱんぱんと叩いて小さくお辞儀をしてから、林太郎に笑顔を向けた。


「林太郎の頬の青痣が早く消えますようにって、お願いしておいたね」


「商売の神様が門外漢な願いを聞き届けてくれると、いいけどなぁ」


 林太郎はちょっと困ったように笑って絆創膏を撫でた。腕の時計を見ると、十二時を回っている。


「どこかでお昼食べようか」


 ビルの辺りを見回すが、駅前とは違い洒落たカフェなど一つもない。困り顔の林太郎など気にも留めずに、あそこに食堂があると、エリスは昭和的店構えの定食屋を指差した。


「えっ!あそこ?!サラリーマンが行くような普通の定食屋だよ?」


「いいよ、あそこで。歩き回ってお腹空いちゃったもん」


 尻込みする林太郎の腕を掴んでエリスは引っ張って行く。

 

 古いガラス戸を開けると、店の中はサラリーマンで一杯だった。


「本当に、こんな所でいいの?」


「いいって言ってるでしょ」


 エリスは林太郎の背を押して、カウンターの奥に座らせた。

 ハンカチで汗を拭きながらカレーを食べている太った中年サラリーマンの隣の椅子に躊躇なく座ると、天井近くの壁に貼ってあるメニューを見上げた。


「私、かつ丼ね」


(か、かつ丼!)


 迷うことなく口にするエリスの横顔を、林太郎は目を瞬いて眺めた。


「林太郎は何にするの?」


「え、ええと…じゃあ、醤油ラーメン」


 メニューを見て悩む男子の姿くらい格好悪いものはないと常々思っている林太郎だ。考えるよりも早く、口が勝手に動いていた。


(うわ―――!ラーメンって言っちゃったぁ。エリスと初めて一緒にご飯食べるのに、ラーメンなんか注文しちゃったよ。おうがい君、どうしよう) 


 内心大慌ての林太郎に、おうがいはのんびりした口調で(なだ)めた。


((ケースバイケースだ。エリスはかつ丼ぞ。お前が何を食べようが、この際どうでもいいではないか。しかし、今どきの女子はホント、逞しいの))


 昼時の定食屋は時間が勝負だ。注文を聞いてからあっという間に出てきたかつ丼を、ぱちんと割った割りばしで、エリスは美味しそうに食べ始めた。


 その隣では緊張した面持ちの林太郎がラーメンを食べている。おちょぼ口をリスのように小刻みに動かして音を立てないように麺を啜る林太郎に、おうがいが呆れたように肩を竦めた。


((食べ方だけ見ていると、どっちが男で女だか分らんな))


(うるさい!)


 食事を終えた二人はサラリーマン達と一緒に店の外に出た。


「これからどうする?」


 プランも何もなくなった林太郎は、次の行動をエリスに聞くしかない。


「そうね。私、林太郎の家に行きたい」


「え!」


 林太郎は驚愕した。まさかまさかの展開である。


「俺さ、家出る時、エアコン消してきちゃったから、すごく暑いよ?俺ん家じゃなくて、パティスリー・ニシモトでお茶しない?その方が涼しくていいんじゃないかな」


 焦りまくる林太郎の様子など、エリスは全く気にしていないようだ。


「大丈夫。私、屋外でサッカーやってるんだもの、暑いの全然平気だよ。それに駄菓子屋さんでお菓子買ったから、コンビニでお茶だけ買えばお金かからないし」


(わああっ。おうがい、どうしよう!)


((おお、エリス。ベルリン時代から比べると、本当に逞しくなったのう…))


 慌てふためく林太郎など放置して、おうがいは感慨(かんがい)(ひた)っていた。


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