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登校風景 ※


 五メートル後方から無邪気に林太郎の名を呼ぶのは、幼馴染みの相沢(あいざわ)(けん)(きち)だ。


「おっはよ―!今日もいい天気だね!」

 

 幼稚園からの腐れ縁で、小中高校と十三年間という長い年月を一緒に過ごしてきた。それは今も進行形である。


「おはよう、健吉」


 駆け寄ってくる健吉を待って、林太郎は足を止めた。自分に追い付いた健吉と並ぶと再び狭い歩道を歩き出した。


 林太郎の身長は百七十八センチメートルある。日本人にしては長身で、足も長い方だ。だから、林太郎より十センチ以上背の低い健吉が歩調を合わせようとすると、どうしても小走りになる。

 

 それを承知の上で、林太郎は歩く速度をいつも落とさない。運動嫌いで、いつもゲームばかりしている健吉の血液循環を考えると、通学の時間帯くらいは体を動かした方がよいとの考えているからだ。


「今日も暑くなりそうだね。やっぱり温暖化の影響かな?」


「さあ」


「ブレザーにネクタイ着用で登下校するの、さすがに暑くってかなわいや。早く衣替えにならないかなぁ」


「そうだな」


「ねえ、林太郎君。昨日、テレビ見た?ほら、僕が今()してるアイドルが、ドラマに初出演するっていうやつ」


「いや、見てない」


「ええ―!見てないの―!絶対に見るって、あれほど約束したじゃないか―!」


「…ごめん、忘れてた」


 交際期間が長過ぎてただ何となくグダグダと喋っているカップルのような会話を交わしながら、林太郎と健吉は通学路を歩いていく。


 二人が校門近くまで来ると、朝練で校庭を走っている運動部員や登校途中の生徒が林太郎に気が付いて、ちらちらと視線を投げ始めた。



「森君、おはよう」


 頬をほんのりと赤らめたセミロングヘアの女子生徒が林太郎の傍に寄って来た。林太郎はわずかに眼球を動かして、女子生徒の頭の天辺から足の先までをさっと一瞥した。


(佐々木茉奈(ささきまな)。同クラス女子。茶道部所属。ぷにぷにほっぺがチャームポイント。女子の過半数を占める“かまってちゃん”種に分類。身長百五十五センチメートル。体重四十八~五十キログラム。バスト八十二センチ、ウエスト六十三センチ、ヒップ八十五センチ。ブレザー着用及び目測の為、プラスマイナス一・五センチの誤差あり。容姿・性格・運動神経・学業の成績の総合評価B)


 いつもの測定を終えると、林太郎は、ぱさぱさとまつげを動かして(まばた)きを繰り返す女子生徒の顔に視線を据えて、にっこりと微笑んだ。


「おはよう。佐々木さん」


 近頃人気の男性声優にも引けを取らぬ美声(ナイスボイス)だ。うるうると瞳を(うる)ませながら恍惚(こうこつ)の表情で林太郎を見上げる茉奈にぶつかるようにして、他の女子生徒がわらわらと集まってくる。


「おはようございます。森先輩」


 すすすっと自分の(そば)に寄っ来て、涼やかな微笑みを浮かべて自分に頭を下げるスレンダーな長髪の少女に林太郎は目をやった。


「おはよう」


(上履きの色からすると、一年生女子。身長百六十三。体重四十五~四十八キロ。バスト八十、ウエスト五十八、ヒップ八十二。やはりブレザー着用…以下同文なので略。容姿はBマイナス。ブレザーの胸ポケットの名札が裏返っているので、名前・クラス及び所属部活全て不明。よって総合評価は付けられず。今までの観察眼が正しければ、未だ男子に根強い人気種である“ツンデレ”に分類)


「おはよう、森君。あなたって、いつもこんなに遅い時間に登校するの?」


 その艶っぽい声を聴くなり、林太郎を取り囲む女子生徒全員が(おび)えた表情になった。

 声の主に道を開けるべく、左右に素早く体を移動させる。女子の輪が割れて出来た空間から、モーゼの如く現れたきらびやかな女生徒が腰と胸を揺らしながら林太郎の正面に陣取った。


上倉(うえくら)かおり。三年二組。生徒会会長・ダンス部部長。日本人離れした派手な美貌と体形(スタイル)で、年配の男性教諭と一部の男子生徒に熱狂的なファンを持つ“女王様!”に分類。身長百六十八センチ。体重四十八~五十キロ。バスト九十、ウエスト六十三。ヒップ九十。頭脳、運動神経、容姿の評価はAプラスだが、性格にかなり難あり。よって総合評価はAマイナス)


「おはようございます。上倉先輩」


 ウェーブのかかった長い髪を優雅にかき上げてから、思わせぶりに腕を組む上倉かおりに、林太郎は丁寧に挨拶した。


「俺、部活に入っていないもんで、この時間の登校で間に合うんです」


「だったら、生徒会に入って学校運営に携わりなさいな。頭脳明晰なあなたにぴったりの場所よ」


「……考えておきます」


「おっす!森。早く教室入んないと、ホームルームに遅れっぞ!」


 日焼けしたショートカットの女生徒が林太郎に向かって大声を放って、女子集団の脇を走り抜けていく。林太郎は少女が走り去っていく方向に顔を向けて「おう」と返事した。


生田(いくた)真紀(まき)。同クラス女子。女子サッカー部所属。副部長。一学年から全国大会出場の実績あり。身長百六十五センチ。体重五十~五十二。バスト八十五。ウエスト六十五。ヒップ八十九。性格・運動神経はAプラス。ヤンキー交じりのスポーツ大好き筋肉女子。結構可愛い顔立ちなので、容姿はBプラス。異性に全く興味を示さない希少種(きしょうしゅ)。サッカーにしか情熱を示さず。学業の方はかなり残念。よって総合評価はC)

挿絵(By みてみん)

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