奴隷救出
あーこれからどうするかな。
目立たなければ問題ないような気もするけども何かあってからでは遅い。とりあえず自衛だけはしっかりしとかないとかな。
「うむ、動きがあった様じゃぞ?」
ジェイド爺さんの声で意識を戻し外を覗いてみる。
暗くてよく見えないがどこにいるんだろうか。
「一人の様じゃな、裏口から出て来るぞい」
裏口を見るとドアが開いて誰かが出てきた。
だがフードで顔が隠れている為性別すら解らない。
追いかけるべきだよな・・・。
「どうします?」
「ここはワシが追跡しよう。お主はここでお嬢さんを待っていてくれぃ」
「あ、はい」
そういうとジェイド爺さんは軽やかな動きで窓から飛び出し消えて行った。
年寄りのくせになんて動きだ。
いやそれよりも今消えた?というよりも存在感が薄くなった?
あれもスキルだったんだろうか、もうすでにどこにいるか解らない。
俺にもできるようになるんだろうか・・・逃げるのに使えそうだ。
俺はそんな事を考えながら爺さんが戻ってくるのを待つ。
爺さんが飛び出して1時間ぐらいたっただろうか?交代の為に起きてきたピュナに今の状況を説明していると爺さんが戻ってきた。
「またせたのぉ。追跡したやつはどうやら下っ端の様じゃった。裏通りで仲間と密会しておったがあまり情報は手に入らんかったのぉ。話の内容は明日の夜に奴隷の引き渡しがある事だけじゃ」
「明日の夜ですか・・・有難うございます。」
「取引相手や敵の人数だけでも仕入れときたかったんじゃがのぉ」
「いえいえ時間が解っただけでも助かります。後はその引き渡しの奴隷の中にピュナの身内がいるかですね・・・」
「まぁ折るじゃろうな・・・。それでじゃ、明日ワシは知り合いに会って情報交換してくるので、帰って来るまでは自由にしててくれるかのぉ。後は、決して単独で仕掛けるではないぞぃ?」
「は、はい解ってます」
「ではワシは少し休ませてもらおうかのぉ~又何か動きがあったら起こしてくれ」
爺さんはそういうと床に横になった。
残された俺とピュナは爺さんが起きるまで監視を続けた。
夜が明け朝食を食べると爺さんは知り合いの所に出かけて行き、残された俺達はそのまま監視の続きに当たることにした。
「動くのは今夜みたいだから日が落ちるまではゆっくりしてよう。体の調子はどうだ?」
「はい、大丈夫です」
怪我も癒えたようだし気合も十分だな。
俺達は監視をしながら夜を待った。
日が暮れる前にジェイド爺さんも帰ってきて今夜の作戦が伝えられる。
「ワシ達の役割は奴隷が連れ出されたら潜入し証拠を掴む事と、奴隷契約の術者を捕縛する事じゃ。連れ出された奴隷達は知り合いが助ける算段になっておるから安心するといい」
「その知り合い方は大丈夫なんですか?疑う訳ではないのですが・・・」
「腕は確かじゃ。そこら辺の若造では太刀打ちできんわい」
「そ、そうですか」
爺さんの知り合いだからやっぱり相当な実力者なんだろうか。
まぁ俺としては無事に救出できればそれでいいけど。
「証拠集めは解りますけど、術者の捕縛は何故ですか?」
「契約で縛られた奴隷は解除ができるのは知っておろう?解除には術者が自ら契約破棄する方法と、他の術者が上書きする方法があってのぉ~上書きするにもそれなりの術者が必要じからのぉ。殺してしまってもいいんじゃが、犯罪奴隷まで解放する訳にはいかんしのぉ〜最悪の場合には躊躇わずやるがのぉ」
なるほど、術者を捕まえないと他の術者をこちらで用意しないといけないのか。
確かに捕縛して契約破棄させれば確実で簡単だな。
「お主達はまだ隠密スキルが無いようじゃからのぉワシが術者の捕縛をしよう。お主達には証拠集めを頼みたい。契約書や金の流れ、奴隷達の証言なんでもいい集めてきてくれ。それと中には犯罪奴隷もおるからのぉいくら助けたいからといっても出すんじゃないぞぃ」
「はい。そういえば、隠密スキルって俺でも使えるようになります?」
「ん?あぁ習得する事が出来ればつかえるのぉ」
「どうすればいいんですか?」
「今直ぐには無理じゃが訓練すればできるぞぃ。コツは己の気配を消すことじゃ。まぁ今は嬢ちゃんの家族を救出することに集中する事が先決じゃ。何が起こるか解らんからのぉくれぐれも気を抜かんようにのぉ」
「あ、はい。いつでも行ける準備はできてます」
外を見るともう日が暮れている。
俺達は夕飯を食べ突入までの時を過ごすことにした。
日が暮れどのくらいの時間まっただろうか、すでに外には人の気配がなく静まりかえっている。
商会の裏口に注意しながら俺達は今か今かと突入の時を待っていた。
「出て来るぞぃ。準備はよいかのぉ?」
「「はい」」
外からは解らないが敵が動き出したようだ。
そういえばなんで爺さんは解るんだろう?隠密スキルの話が出たときに聞いとけばよかったな。
後で教えてもらいたいな。
裏口が開くと男が数人出てきた。
男達は商会の裏に馬車を準備し、建物の中から奴隷を引き連れてくる。
連れられてきたのは女性に子供、それにピュナに似た種族だった。
ピュナの顔を見ると険しい顔つきで睨んでいる。
あれがピュナの村の人々で間違いが無いか聞いてみると無言で頷く。
男達は奴隷を馬車に押し込むと直ぐに馬車を進め目的地に向かっていった。
「嬢ちゃん、あっちは任せておいて大丈夫じゃ。ワシは先に中の様子を見てくるぞぃ」
今にも飛び出しそうなピュナを抑え、爺さんは商会の中に忍び込む。
しばらくすると安全が確認されたようで爺さんに誘導されながら俺達も中に潜入した。
中は暗く何も見えない。
俺はあらかじめ準備していたカンテラに火を付け奥へと進んでいく。
「それじゃここからは別行動じゃ、もし敵に出会っても無理はするんじゃないぞぃ」
無言で頷くと爺さんは闇夜に消えるように離れて行った。
俺とピュナは商会の内部全てを調べ上げ証拠になりそうな書類を片っ端から集めていく。
急にピュナがキョロキョロと辺りを見渡しているのに気が付いたが、何事も無いようなので俺は黙々と証拠集めに精を出した。
各部屋を次々と物色していくと、高価そうな調度品が数多く並ぶ部屋を見つけた。
ここはお偉いさんの部屋だろうか?しかし俺達は構わず隅々まで調べていく。
壁画の裏に隠された金庫をピュナが見つけた。
無理矢理開けれるぐらいの甘々な作りだったので、二人で破壊し中身を取り出し中に入っている物を見る。
中に入っていたのは皮でできた紙が数枚と金貨が入った袋だった。
紙には販売された奴隷情報から取引相手、麻薬の密売情報まで書かれており、つい最近精霊を販売して得た利益までも記されていた。
販売先はどうやら貴族らしく名前もはっきりと書いてある。
貴族絡みで面倒な事になりそうだなと思いながらも魔法の袋に全て仕舞う。
「ックックック。鼠が侵入してきたと思ったら探し人じゃねーか。俺の運も捨てたもんじゃねーな」
「ッ!!」
急に後ろから男の声が聞こえてきた。
俺は爺さんの声でもないと気付きすぐさま振り返り臨戦態勢に入る。
声の主は部屋の入り口を塞ぐように立ちこちらを眺めていた。
話し掛けられなかったら全く気付かなかったな。
「本当に今日はついてるな。ずっと探してたんだぜ?」
ずっと探してた?
もしかして、魔法の袋の持ち主を探して奴か!
このタイミングで会うとか勘弁してほしいんだけどな。
「お前の事を見つける為に冒険者を襲ったり、仲間が捕まったりと大変だったんだぜ?その腰にぶら下げた魔法の袋を差し出せば死なずに此処から出してやるがどうする?」
男はニヤニヤとこちらを見ながら要求してきたが、差し出したところで命の保証はないのは馬鹿でも解る。
こいつの言動もそうだけど、死角から攻撃できたはずなのにわざわざ話し掛けて来るところを見ると、腕に自信があり相手を舐め切っているタイプかな?
もしかしたら何か情報が手に入るかもしれない。
「差し出した所で命の保証がないのは解るんだが?魔法の袋の事は誰に聞いた?」
「あん?お前馬鹿か?依頼主の事を喋る訳ねぇだろうが」
「そこまで魔法の袋なんて珍しい物じゃないはずなんだけどな。奴隷狩りもお前達って仕業か?」
「なんだお前その為に来たのか。残念だったなもう奴隷は運んじまったぞ。ぎゃはは」
「おぉ~簡単に情報はいたぞこいつ。ピュナこういう奴を馬鹿って言うんだ覚えとくといいよ」
「餓鬼が、俺達ヒュドラに喧嘩売ったってことでいいんだよな?本来なら魔法の袋なんていらねーんだが、依頼だから仕方ねぇお前を殺してから奪ってやるよ」
簡単に喋ってくれたな。単細胞は扱い易くて助かる。
それにしてもヒュドラか、闇ギルドの名前?
依頼でやってるって事は依頼主さえどうにかすれば今後何とかなるかもしれないな。
いや無理か?
ん~。
男は剣を構え今にも襲い掛かって来そうに見えた。
引く気はないみたいだしやられる前にやってしまうか。
自信過剰ではないが、多少の自信を持てるぐらいには俺だってやってきたんだ。
ピュナに視線を送ると、軽やかな動きで飛び出し男の気を引き付ける。
その間に俺は瞬時に水と土の魔法を男の足元に繰り出す。
泥沼をイメージしてできた特製の合成魔法だ。
男は避けることが出来ず魔法にあっけなく捕まってしまった。
「おいおい闇ギルドってのはそんなものか?簡単に捕まってるじゃないか」
「この糞餓鬼が。ぶっ殺してやる!!」
男は無理矢理泥沼から抜け出そうとするが、この魔法は足掻けば足掻く程体が飲み込まれていく。
こんな簡単に引っかかるとは下っ端っぽいな。
避けられた場合も考えていたんだけども必要なかったかな。
胸まで沈んだら何度か殴って気絶させ捕縛完了。
「こいつはこのままどこかに閉じ込めておこう。この部屋の書類は全部集めたし奴隷の居住区の方行ってみよう」
「はい」
俺達が居住区に向かうと途中で爺さんが合流してきた。
ヒュドラの情報を爺さんに話すと一瞬渋い顔をする。
「あちらが終えればここまで報告に来るじゃろうし、それまでここで待つしかないのぉ」
爺さんの言葉に同意し俺達は周囲に警戒しながら味方が来るまで待つことにした。




