ジェイド爺さんの過去と勇者
とある地下の一室、薄暗い部屋にポツンとある一つの明かりの元、怪しい男が2人向き合っていた。
頬にある切り傷が特徴の大柄な男が、薄汚れた服装の男に話し掛ける。
「おい。奴隷共の調教はどんな具合だ?」
「今は薬漬けにしてるんで、へへ。もうすぐ出荷できます」
「そうか。あまり薬に頼るな。商品になる前にくたばっちまう」
「へぇ気を付けます。それと例の旦那から3日後の夜に街の外で受け取れるようにと言付けを預かっておりますぜ」
「わかった。俺はその間もう一つ受けている依頼の方でも見てくる。ここは任せたぞ」
頬の切り傷が特徴の男はそう言うと闇夜に溶けるように消えていった。
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昨夜はピュナと交代しながら張り込んでいたが結局異常は見られなかった。
食事も終わり、朝から魔法の練習に励む。
もしも洗脳されてた場合、光属性の魔法で解除出来るかもしれないからだ。
まずはお馴染みの、光属性での治療行為の練習だ。
自分の指をナイフで切り、その傷口を塞ぐイメージで魔法をかけていく。
この方法は初心者講習で聞いたやり方だが、又聞きした情報なので確かかは解らない。
何故かというと、聖国が取り仕切る教会で厳重に秘匿されている為だ。
治癒魔法が使える者は教会関係者と認識される程だ。
治癒魔法は聖国の教徒からしか習う事が出来ず、習得する際にもお金が掛るうえに秘匿する為の契約を結ばされる。
なので俺はレディックけら聞いた方法で自力取得を目指している。
何度も何度も繰り返し、1日掛けてようやく小さな傷が塞がる程度にまで辿り着いた。
俺はピュナの側に寄り会得したばかりの光魔法で傷を治していく。
「ふぅ〜ここが今の限界だな。小さな傷は治したし昨日よりはましな筈だ」
「ありがとうございます。・・・あの・・・なんでこんなにしてくれるんですか?」
「なんで?ん~・・・一目惚れしたからかな?」
俺は照れを隠し、冗談っぽく本音を混ぜて答えたが、それに対する返答もなく二人の間に微妙な雰囲気に包まれた・・・。
もしかして引かれたかもしれないな・・・。
自分の発言に後悔するが今さらどうすることも出来ず、気まずい雰囲気のまま夜になってしまった。
今夜も交代で監視だ。
相手の情報が全くないので何かしら動きがあってほしい。
相手の人数や能力でも解れば有利になるんだけどな・・・。
結局この日も何も動きはなかった。
朝になり朝食を取りながら、今日はジェイド爺さんの所に行ってくる事を伝える。
監視で何かあったら店に来るように場所も教え街に出る。
ジェイド爺さんの知り合いはまだ来ていないのかな?店は通常営業だった。
中に入り声を掛けていく。
「おはようございます」
「おぉおはよう。どうじゃ準備はできかのぉ?」
「えぇ。まだ時間が欲しいですけども準備はできてます」
「ワシも知り合いに連絡がついてのぉ今日中には合流できそうじゃ。商会の方では何か動きはあったかのぉ?」
「それは助かります。え〜こっちはまだ何も動きがありませんね。ジェイドさんの知り合いが来たら一度合流した方がいいですよね?」
「いやそれはいらんじゃろのぉ奴らは奴らで動くはずじゃ。ワシらはワシらで動くとしよう」
「そうですか解かりました、では今いる場所だけでも教えときますね。では夜に待ってます」
俺は店から出てピュナの元に戻る。
帰り道で冒険者ギルドに寄ってみると入り口では人集りができていた。
人集りの間から覗いてみると人が血だらけになっている。
野次馬の声を拾っていくと冒険者がなにやら質問され、知らないと答えた瞬間に斬られたらしい。
長身でガタイが良く髪がない、頬に切り傷がある男が犯人らしい。
犯人が捜していたのは魔法の袋。
あ〜目的は俺かな?
聞いたときには恐れよりも飽きれてしまった。
まだ探しているのかしつこい奴等だ本当に。
切られた冒険者には申し訳ないがここは逃げましょう。
俺は道草を食わずに廃墟に帰ってきた。
帰ってピュナに様子を聞いたが何もなかったとの事。
昼食を食べながら冒険者ギルドで起こったこと伝え、近づかない様にだけ忠告しておく。
今日は他にやることもないので訓練しながら監視し夜まで待った。
夜になりジェイド爺さんが廃墟にやってきた。
ピュナはかなり警戒していたので安心させるのが大変だった。
「ジェイドさん俺達これからご飯なんですが一緒にどうですか?」
「いただこうかのぉ」
今日の飯は兎肉での豚汁だ。
日本の味が恋しいので二人には申し訳ないが付き合ってもらおう。
ピュナには鶏肉をスライスし下味も付けてもらう。
その間に俺は人参、大根、キノコ、長ネギに似た食材を切っていく。
全部商店で聞きながら買ったものだ。
水を沸騰させ鶏肉と切った具材を入れ、灰汁がでたら取り除く。
魔法の袋から味噌を取り出し味付けをし、最後にネギを入れたら完成だ。
パンには合わないけどまぁ~いいでしょう。
さて完成したがなんて反応するだろうか・・・。
出来上がった兎汁を器によそい二人にも渡し、感想をじっと待つ。
「「・・・・・」」
驚いた顔はしているけど無言で兎汁を見つめる二人。
一度俺の顔を確認し黙々と食べ始めた。
これはたぶん美味しいって反応だよな。
俺も食べるとしよう。
んーーうまい!味噌だけしか入れてないのだが十分に美味しい。
ただやはりパンとは合わないな・・・。
米が食いたい・・・。
「パンとは合わなかったかもしれませをんが、どうですか?」
無言に耐えきれず自分から感想を聞いてしまった。
「これはなんて食べ物なのですか?」
「これは・・・兎汁かな?本当は豚肉で作る料理なんだけど、今回は兎肉で作ってみました」
「すごく美味しい。です」
「うむ。初めて食べる味じゃったが非常に美味しかったぞぃ。これは塩だけではないのぉ何を入れたんじゃ?」
「良かった〜。あ、入れたのは味噌です。豆を加工して作った調味料みたいなもんですよ」
「なるほど・・・味噌か・・・何処で手に入れたんじゃ?これだけの味じゃ有名になってるはずじゃがここら辺では聞かんしのぉ~帝国産かのぉ?」
「これは帝国産ではないです。ん~俺産かな?あははは」
「なんと!!お主が作ったのか!!」
「作った訳ではなく・・・なんて言ったらいいのか難しいんですが、まぁ俺以外は手に入れるのは困難な物ですね。入手方法は秘密でお願いします」
「ふむ・・・なるほどのぉ」
ジェイド爺さんの顔が残念そうに見えたので、内密にしてくれるなら後日少し御分けしますと伝えてあげた。
満面の笑みでジェイド爺さんは喜んでくれた。
食後は監視の続きだ。今夜はジェイド爺さんもいる為、3人で交代しながら見張ることになった。
最初の監視は俺とジェイド爺さんだ。
俺が監視しながら水魔法と土魔法の合成を練習していると、ジェイド爺さんから驚く話しが飛んできた。
「のぉお主に一つ聞きたいことがあるんじゃが・・・いいかのぉ?」
「何です?」
「お主・・・日本という国は知っておるか?」
心臓が飛び出るかと思った・・・なぜ急にその話題が出る?
まさか味噌を知っていたとか?
いや、初めて食べると言ってたしな・・・。
俺はジェイド爺さんの質問に答える事なく考え込んでしまっていた。
「無言という事は知っているんじゃな?あぁ警戒はせんでもいいぞ、知っていたとしてもどうにもせんから大丈夫じゃ」
「はぁ・・・」
「実はのぉ昔の事なんじゃが、今日お主が食べさせてくれた味噌がある事を聞いたことがあるんじゃ・・・もちろん食べるのは初めてじゃぞ?うぇっへっへ。それにしても味噌とは革命じゃのぉ」
「はぁ・・・ジェイドさんは誰から聞いたんですか?」
「冒険者時代のパーティーメンバーからじゃよ。そいつは日本って国から来てのぉ、毎日のようにコメ・ショウユ・ミソと呪文のように唱えておったんじゃ」
「日本人がいたんですか!?」
「やはりお主も・・・かのぉ?うぇっへっへ」
「あっ・・・はい・・・」
ついに言ってしまった・・・。
まぁバレても大したことはないよね?
それにしてもまさか日本人と知り合いだったとは。
「そうかそれじゃ内緒にしとかんとのぉ。バレるとそりゃ面倒なことに巻き込まれるぞぃ」
「ハハハ・・・因みにその人はどこに行けば会えます?」
「ん?もうだいぶ昔に亡くなってしもうた・・・お主とここで会ったのも何かの縁じゃろ、全て話しておこうかのぉ」
今から50年前、人と魔族の大規模な戦争があった。
人間は魔族に対抗するために古の禁術を使い援軍を召還することにした。
召還できたのは南風華蓮という女性ただ一人。
だが華蓮は飛びぬけた戦力と持ち前の性格で亜人や獣人と手を組み率いて、なんとか戦争は勝利する事が出来た。
その後華蓮は結婚し幸わせに暮らした。
これは英雄伝として御伽噺にもなっているらしい。
「実はその話には事実が隠されておってのぉ・・・元々魔族の危機より救った華蓮は元の世界に戻される予定じゃったが、本当は返す方法を知らない国に最初から騙されておったのじゃよ。華蓮は日本に帰ることもできず国に留まった。その後良き人と巡り会い、静かに暮らす予定じゃった・・・。じゃがのぉ国の重鎮は華蓮の良き人を人質に取り、人、亜人、獣人との戦争に駆り出した。ワシらも初めは手伝ったが、終わりの見えない争いに嫌気がさし、次第に仲間は離れて行った。華蓮は仲間が離れて行った後も戦い続け疲弊し最後には命を落とした。後から解ったんじゃが結婚した相手も最初から利用する為に仕組まれておった・・・」
「・・・・・」
「ワシが事実を知ったのは10年後じゃ。その時にはもうこの世に華蓮はいなかったがのぉ・・・」
「酷い話ですね」
「彼女を召還した国はこのスピネル王国じゃ・・・。お主には関係ないかもしれんが異世界人とバレたら何が起こるかわからん十分注意しておくのじゃぞ」
「わかりました」
無理矢理召喚されて世界を救ったのに国や夫にまで利用されるとか最悪だな。




