奴隷制度
ダブレット商会の中に入るとすぐ男が近寄ってきた。
「いらっしゃいませ、ダブレット商会にご来店頂き有難うございます。本日はどの様なご用件でしょうか?」
「あ〜奴隷なら此処だと街の住人に聞いたですけど・・・」
「左様で御座いましたか。では個室にご案内させて頂きます」
「はい」
軽く話すと男は俺を地下の個室へと案内した。
俺は警戒しながらもついていき、進められるがまま個室のソファーに座る。
「お客様は奴隷についてどのくらいご存じでしょうか」
「全くと言っていい程知らないです。良ければ教えてください」
「かしこまりました。ではご説明させていただきます」
男は笑顔を見せ丁寧に説明してくれた。
「奴隷には、借金や身売りで奴隷になった【借金奴隷】罪を犯して奴隷落ちした【犯罪奴隷】人や異人種でも特別な存在がなる【特異奴隷】があります」
異人種ってことは獣人は特異奴隷になるのか・・・。
「まず奴隷には、所有者となる主人が衣食住をしっかり与えなければいけません。それと奴隷は主人に対し危害を加える事が出来ませんが、過度の労働や無茶な命令はおやめください。不当に扱った際は国より処罰が下されますので」
「奴隷が裏切った場合はどうするんですか?」
「契約時に施される【奴隷紋】により命令違反や、主人に虚偽の報告が出来ない様になっておりますのでご安心ください」
「奴隷紋ね・・・」
「もし奴隷が虚偽の報告をした場合はその紋章が発動し、奴隷は苦しみ続けることになっております。そのまま亡くなった場合でも罪に問われることはありません」
「なるほど・・・奴隷になったら一生奴隷のままで解放されたりはしないんです?」
「犯罪奴隷は国の許可が必要ですが、借金奴隷や特異奴隷は契約時に解放条件を設定していただければ解放できます」
「なるほど・・・」
「それと房事は奴隷次第になります。無理矢理な行為、不当な扱いを受けた奴隷は衛兵に訴えれば主人が懲罰対象になります。これは相手が犯罪奴隷であっても適用されます」
「・・・だいたいは解りました」
「では奴隷をご覧になりますか?ご質問がございましたらその都度聞いていただければと」
「はい」
ここでの説明でも特に疑わしい所はない様に感じなかったな。
ちゃんと法に則った営業みたいだ。
俺は男に連れ奴隷の居住区らしき場所にやってきた。
部屋の中に入ると最低限綺麗にしている程度の女性が6人いた。
部屋の隅には布団が重ねられていて、家具も人数分あらず、窓には鉄格子。
男が呼ぶと全員一列に並び、端から自己紹介が始まった。
「家事ならどんなことでもします!」
「私は戦闘も家事も出来ます」
「契約内容次第ですが房事も出来ます」
皆それぞれ一生懸命に自分を売り込んでくる・・・よほどこの状況から出たいのだろうか?
彼女らを見て思う所はあるが、今は目立つのは避けておきたい。
俺は泣く泣く部屋を出る。
この後借金奴隷の部屋3部屋に、犯罪奴隷の部屋2部屋を見たがピュナの親族はいなかった。
「この国では獣人やエルフ、ドーワフに魔族などの奴隷は違反になるんですか?全然見かけないのですが」
「獣人・エルフ・ドーワフ・精霊は特異奴隷としておりますが、さすがに魔族はいませんね」
今精霊って言った?
ん〜まぁ~いいのか?
「ならその特異奴隷も見せて貰えませんか?」
男は少し渋い顔を見せたがすぐに表情を変え部屋まで案内する。
案内された部屋は借金奴隷の部屋とは打って変わり、小部屋ではあるが綺麗な個室になっていた。
奴隷たちの身なりも綺麗になっており、本当に同じ奴隷か疑いたくなる。
部屋にいたのは見た目20前半に見えるエルフの女性。
「さっきまでの部屋とはずいぶん違うんですね」
「こちらは近々行われるオークションに出す用の高額奴隷になりますので」
「オークションか・・・因みにいくらぐらいなんです?」
「そうですねこちらのエルフでしたら金貨500枚になります」
「っご、500枚!?随分とまぁ〜値が張るんですね」
「エルフは寿命が長く、300歳までは見た目が老いる事がございませんので人気になっております」
「へぇ~」
男に一人一人説明されながら次々部屋を見ていく。
特殊奴隷は皆容姿が優れていたが、全員一言も発する事がなかったのが気になる。
それと獣人もいたのだがピュナに似たのがいなかった。
「街で奴隷好きなおっさんが最近新しいのが入ったと言っていたんだが・・・・どいつの事だったんだ?全員目が死んでて解らなかったんですが・・・」
「お耳が早いですね・・・。昨日連れてこられた獣人の奴隷は今術者により契約と教育中でして、まだ店に並べてられないのですよ」
「なら仕方ないか・・・今日は助かりました。値段の目安と解りましたし、今度はもっと金を持って来ます」
「かしこまりました、またのご来店をお待ちしております」
俺はダブレット商会を出るとあてもなく街中に歩き出す。
特異奴隷の誰もが目を合わさず、喋りもしなかったのが気になる・・・契約で禁止されてたり、洗脳されてたりするとか?
ん〜調べてみるか・・・。
俺は物知りそうで一番信用できそうな本屋の老人の店に向かうことにした。
俺は本屋の爺さんにどこまで話したらいいのか街をながら考えるが、考えが纏まらないうちに店に着いてしまった。
「どうも、こんにちは」
「ん?なんじゃ?迷宮都市に向かったのではなかったかな?」
「そのつもりだったんですが、冒険者ギルドで初心者講習ってのがあってそれ受けていたんですよ」
「なるほどのぉ~それは受けておいた方がいいの。それで今日は何探しているんじゃ?」
「実は奴隷について聞きたいことがありまして・・・お爺さん長生きしてるし冒険者もしてたじゃないですか、詳しいかなと思いまして」
「奴隷のぁ~直接行って聞いた方が早いじゃろ?」
「行ってきたんですが・・・実はつい先程特異奴隷ってのを見せてもらったんですが、目が死んでる上に何も喋らなかったのが気になりまして。もしかして奴隷にされる際に制限を掛けられたり、洗脳されていたのかな?って勘ぐってしまいまして・・・そんなことって出来るのでしょうか?」
「・・・できるぞぃ・・・やってはならん禁忌じゃがの」
「やっぱりできるんだ・・・解除の方法って何かあるんですか?」
「なんでお主が解除の方法を知りたがるのじゃ?何かよからぬ事考えてはおらんか??」
「・・・イイエ・・・」
この爺さん少し鋭くない??
信用はしてるけど怖いよ・・・。
「はぁ~まぁよい。基本的に契約で制限されてる場合は術者が解除するか、術者が死ぬしか方法はない。魔法での洗脳もしくは行動に制限が掛けられておれば魔法での解除が可能じゃ」
「おお~どうやってです??」
「・・・。まず奴隷の契約や洗脳術の属性は闇じゃ。これは一種の呪いになるので、解除には同系統の闇属性か、相反する光属性の魔法が必要じゃ」
「俺、光魔法の適正はあるんですけど解除の方法とか教えて貰えませんか?・・・あ、もちろん後学の為に聞くだけですよ・・・」
「・・・危ないことはするんじゃないぞぃ・・・命には限りがある、まだ若いんじゃ無茶はするなよ?聞いた話じゃが、解除は光魔法で相手の頭にかかった霧を晴らすようにするらしいが、ワシは光魔法は使えんからのぉ」
「なるほど~霧を晴らすようにですか。勉強になります。それとですね・・・この国では獣人やエルフの奴隷は合法なんです?精霊も扱うって言ってましたけど」
「なんじゃと?精霊様まで奴隷に?」
「い、いえ。実際には確認してません。精霊は特異奴隷と聞いただけです」
「精霊様の奴隷は完全な違法じゃ・・・すぐにでも国に報告するべきレベルの話じゃな。どんな精霊様かによるがバレたら大変なことになるぞぃ」
「そんなに拙いのですか?」
「この大地は精霊様の恵みにより成り立っておるからの・・・怒りを買ってしまえばどうなる事か・・・」
「そうですか・・・それも含めて相談したい事があるんですが・・・」
「なぜじゃ??なんか訳ありか?」
「ん〜・・・・・」
俺は奴隷狩りにあったピュナの事を話すべきか少し悩むが、爺さんに話し協力してもらおう決意し話し始める。
「これから話すことはまだ内密にしてもらえますか?」
「・・・解った。ここだけの話と約束しよう」
「昨日この街に新しい奴隷が運ばれたのですが、その連れてこられた奴隷は奴隷狩りにあった人達がいるんです」
「・・・・・」
「昨日俺が森で狩りしていたら傷だらけの獣人の女性を見つけまして、介抱して事情を聞いたところ村が人間に襲れて皆連れていかれたり殺されたと・・・。傷つきながらも追いかけたところこの街に辿り着いたと。それで今日俺が街で聞き込みしたらダブレット商会に運ばれたみたいなんですよ」
「ふむ・・・それで潜入したら洗脳されているらしき奴隷も見つけ対処法を探していたってところかのぉ」
「やっかいじゃのぉ~。十中八九そいつらは裏の連中じゃ、闇ギルドかもしれんの」
「闇ギルドですか・・・」
「あぁ~違法な取引から麻薬の製造、暗殺も請け負う連中じゃ。今のワシじゃ太刀打ちできん奴等がおるのじゃよ」
「何かいい手はありませんかね?」
「ないこともないがのぉ~じゃが何故お主がそこまでするんじゃ?」
「なんでってムカツクからです。身売りに借金や、罪を犯してもいないのに無理やり奴隷にされるのはおかしいと思いません?俺は、これが国で許されているなら国ごと浄化すべきだと思ったんです」
「うぇへっへお主なかなか面白い奴じゃのぉ。お主名前はなんて言うんじゃ?」
「そういえば名乗ってなかったですね、俺の名前はジュンです」
「そうかそうか、ワシの名はジェイドじゃよろしくのぉ~。そうじゃちょっと待っておれ」
そう言い残し爺さんは店の奥に入って行ってしまった。
しばらくして爺さんが本を数冊抱え戻ってきた。
爺さんはカウンターに本を置くと店を閉め始めたが、俺は黙ってそれを眺めていた。
「これはのあまり知られたくないからのぉ誰も来んように店を閉めたのじゃ」
「そんなすごいものなんですか?」
「まぁのぉ~この本はワシがまだ冒険者でダンジョンに潜っていた時に手に入れたものなんじゃがのぉ、ちょっと危険かもしれん物なんじゃ」
「いりません!!危険いりません」
「いるじゃろ?なんとなくじゃがお主に必要になる気がするぞぃ?今回の事もただ偶然じゃない気がするのぉ」
「え・・・」
「なにやら巻き込まれる運命でも背負っておるのかものぉ~うぇっへっへ」
ジジイお前には何が見えてるんだよいったい。
俺は楽しく暮らしたいだけなんだぞ・・・。
「これは魔法本なんじゃが、ワシも使えんくて宝の持ち腐れじゃったんじゃ。ロストマジックって聞いたことはないかのぉ」
「基本となる6属性の他にも昔はあったって魔法ですか?」
「そうじゃ。これはそのロストマジックなんじゃが、使えるかは読んでみないと解らんのじゃ」
「いやいやいや、それ貴重なんでしょ?無理ですって買えないですよ」
「覚えられたお主にやるわぃ」
「そんなん無理です。貰えません」
「貰えないって言っておきながら手が伸びておるぞお主・・・」
「これは、この右手が勝手に・・・」
「とりあえず読んでみる事じゃな。使えなきゃ意味がないからのぉ~」
俺はジェイド爺さんから魔法本を受け取り読むことにした。




