出会い
乙女ゲーム感が出てない…
一目見ただけで引かれた
その目に「私」という人間をうつしてほしかった
彼は服も顔も所々汚れているのにそんなの関係なかった
ただ、美しいと思った
これを一目惚れというのだろうか
なら
私の初恋
壁に体を預けて座りこんでいた彼は私にその視線を向けて笑う
「なぁ、悪いんだが拾ってくれねぇ?」
なんと都合良くあちらから接触してきた
こんなチャンス、逃す訳にはいかない
「いいわよ、私が責任をもって面倒を見るわ」
石田 アーシャ 肉体年齢16歳、前世を含めて44歳
初恋の彼との出会いは路地裏でした
「まぁ、とりあえず路地裏から出ましょう。ここは、あまり治安が良くないから」
彼を立たせると声を掛ける
「本当に良いのか?…って俺が言うことじゃねぇが」
そう言いながらも大人しく私の後ろをついてきた彼に
「問題ないわ、それに…」
「それに?」
正直に思ったことを言ってもひかれないかしら…
悩んだ末
「…私が路地裏を通ったのは偶然だし、これも一つの運命だとおもったのよ」
少しだけ言い換えた
「ふうん、そうか」
チラッと私を見た後
まえを向いてしまった
沈黙が続いたけれど苦しくない類いのものだった
「あの大通りに出たすぐに車が止めてあるわ」
暗い路地裏をぬけて人通りの多い大通りに出る
「お帰りなさいませ、お嬢様。おや、この方は?」
執事の遠山が車の前で立っていた
「お嬢様…?」
彼が遠山の言葉を反芻する
「そう、私これでも良いところのお嬢様よ?」
「…良いところのお嬢様が路地裏で何してんだ…」
疲れたようにため息を吐く彼を遠山に紹介しようとして気付いた
「…そういえばまだ、名前を聞いていなかったわね」
私としたことがうっかりしていた
名前は?と彼に視線を向けると
「…イチだ」
ふむ、なるほど
「イチ様ですね、私、お嬢様の執事をやらせていただいております遠山、と申します」
「そうか、お嬢の世話になるイチと言う。よろしく頼む」
お嬢と呼ばれたのに気付かないまま私は考え続けていた
名字か名前かは分からないが「イチ」か…
「…イチさん?」
恐る恐る呼ぶと
「クッ、イチで良い」
笑われた
「じゃあ、イチ。その洋服やら顔の汚れやらをどうにかするために私の家に来なさい」
私の上から目線だともとられる言葉にイチは笑って
「世話になる」
と頭を下げた
そのままイチと車の後部座席に乗り込みながら思う
今日は運が良いと
ありがとうございました