地獄の門
0.荒廃した世界
人間は欲望によって動く。それを理性が制御する。これは、もう遠い昔の話。
かつて、各地の国に独裁者が現れた。彼らの権力は、彼らの理性を破壊し、欲望のまま動く獣と化した。民主を謳うもの、人道を謳うもの、不戦を唱える者は彼らによって罰せられた。もはや、欲望を止めるものはなくなった。
彼らは、望むまま国民を操り、侵略を繰り返した。難民が世に溢れた。殺しが当たり前になった。人権なんてなくなった。もう国民を守るものはなくなった。貧困により人は苦しんだ。しかし、そんなことはどうでも良いという風に、裕福なものたちは、貧民より財を奪い、抵抗するものを殺し、女子供は売り払い、毎日遊んで暮らした。
貧しい人々は金持ちに買われ、多くの侮辱を受け、強制労働させられた。街には死体が溢れた。人骨を踏んで歩くことが、当然になった。外に出れば、死体の匂いがした。
政府は、金持ちを優遇した。貧困者を守るものはなくなった。信仰が弾圧された。心を救うものもなくなった。
誰も、生きているのか死んでいるのか自分ではわからなくなった。
歴史は改変された。正しい教育もなくなった。排他的な人間が、世に溢れた。
彼らは、戦争を楽しんだ。死んでいくのは、強制的に連れてこられた貧困者だけだった。
貧しい者には、救いがなかった。貧しい者は救いを求めてはいけなかった。
奴隷制、男尊女卑により、不健全な形で人口が増えた。増えすぎた貧民は、一箇所に集められ、爆破されたり、焼き殺されたり、生き埋めにされたり、金持ちが望むままに殺された。
正しいものが、無くなった。悪が、世を支配した。虚が正しさと教えられた。
すでに国境などはなかった。金持ちがそれぞれ軍隊を持った。
独裁者は金と引き換えにそれを容認した。貧困の犠牲者は、さらに増えていった。
戦争が身近な者になっていた。金持ちは財産を巡って争った。
当然のように、非人道兵器が使用された。放射線や薬品によって、人が住む場所は限定された。そこに住めない貧民は、野垂れ死ぬしかなかった。
環境政策に反対した金持ちたちにより、地球温暖化が深刻化していた。海面上昇により、多くの島が沈んだ。
大気が汚れきっていた。金持ちは有毒ガスを防ぐため、それぞれ高額なマスクをつけた。貧民は、それさえ与えられなかった。
地震が起こり、川は氾濫し、山は火を噴き、日は照って干ばつを起こした。
しかし、苦しむのは貧民だけであった。
最悪の状況は、数百年続いた。貧民は、苦しみ続けていた。
ここに、一人の善者が立った。
彼の名は一条健。
彼は金持ちでありながら貧民に目を向け、地球の環境問題を危険視していた。そこで彼は戦争をなくすことを最優先と考え、一つの妙案を思いついた。
『金持ちや国の代表者が一箇所に集い、話し合いをすることで国々の争いを収めよう』という考えだった。
そして彼は貧民の人権を認め、彼らが抵抗するをよしとした。
これにより、各地の貧民が、彼の地に集まった。しかし、多くの金持ちがこれをよしとしなかった。貴重な労働力がいなくなるのを嫌がったのである。そして金持ちたちは一条を殺害し、彼の思想をこう書き換えた。
『金持ちや国の代表者が一箇所に集い、殺し合いをする。そして勝者の要求が最終的に通るようにすれば、犠牲者も少なく済む』
彼らは戦争という遊戯に飽きつつあった。ゆえに彼らは新しい遊戯のために、一条を利用したのである。
そしてこのシステムは各地で受け入れられ、5年に一度、この殺し合いが行われることになった。
1.集結
こうして、第一回の殺し合いが行われることとなった。
参加者は9人。いずれも、選りすぐりの猛者たちである。
一人目、Alice
歴戦の女性戦士。二つ名は『慈悲なき狂戦士』
二人目、Wolf
荒々しい見た目の男性戦士。『狼戦士』の異名を持つ
三人目、Cyril
容貌はバラにも例えられる美しき男性戦士。『薔薇剣』と呼ばれる
四人目、Dante
古今随一の弓の実力を誇る若戦士。『神弓』の異名を持つ
五人目、Cleto
世界一の金持ちの御曹司。『若鬼』と恐れられる。
六人目、Apam
火薬を扱う。爆発物のスペシャリスト。二つ名は『爆神』
七人目、周華蓮
武術全般に通じる女性戦士。水滸伝の女将軍、扈三娘に重ねて『一丈青』と呼ばれる
八人目、ジングヤ
老戦士。しかしその経験からくる冷静さでここまで生き延びてきた。『老謀将』の異名をとる
七人目、霧隠
忍者。基本服部と共に行動する。『影』と呼ばれる
八人目、服部
忍者。基本霧隠と共に行動する。『陰』と呼ばれる
九人目、誠志
正体不明。異名なし。
これらの戦士が初めて一堂に会した。場所は研究室。
互いに様子を伺っていると、一人の紳士が現れた。そしてその紳士は前触れもなく語り始めた。
「皆様、お揃いですね?私がこれより、本大会のルール説明をいたします。」
クレトが不満げに口を出す
「ルールも何も、ここにいるやつら全員殺せばいいんだろ?早く始めようぜ。面倒臭い」
「確かに、その通りでございます。
まづ、基本的なことですが、先ほどクレト様が言われた通り、ここにいる戦士の中で殺しあっていただき、最後残っ
たものの優勝でございます。そしてその戦闘はどこで行われても構いません。
では始めましょうか。そこにあるゲートをくぐっていただければ、ランダムに飛ばされ、バトル開始です!」
始まった。地獄の門は開いてしまった。
2.鬼は心を失う
クレトはゲートをくぐると、さっきとは違う研究室に着いた。
そこには多くのコンピュータが設置されていたが、しばらく放置された様子だった。
クレト(最初からこんなところか、ついてないな)
そう思いつつ、蜘蛛の糸がはったコンピュータに触れる。
クレト(殺気!?)
振り向く。しかしそこには、古いロボットがあるだけだった。
クレト(これは、ふん。うちで使っているのよりもずっと古い。2000年代ぐらいの品か)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
クレトの父「一条が死んだ。ハーッハッハ!良い気分だ!クレト、お前もこれで地位は守られたぞ」
クレト「はい。私は立派に父上の財産を受け継ぎ、倍にして子に伝えます」
クレトの父「うむ!今は金が物を言う世。財産が直接権力となる」
クレト「はい」
クレトの父「お前も、トップであれ。我が家の栄光、必ず守り抜けよ」
クレト「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
クレト(父上、私は必ず、勝ち抜いてみせます)
トン
クレト(何かの物音!?やはり何か)
振り向こうとした瞬間
ドスッ
胸元に痛みを覚えた。その周りに熱いものが広がっていく。
ガハッ
口から何かが出た
クレト「血!?」
振り向くとそこには刃物を持った古いロボットが立っている。
クレト「なん…だと…!動けたのか、貴様ァ!」
ロボット「人工知能。知らない?」
不気味な声でロボットが話しかける。
クレト(人工知能!?なぜ人間に逆らう!…そうか、旧モデルに搭載されているのは当然旧型人工知能。制御し切れていなかった、と、いう、こ、と、、か」
目がかすれる。力が抜けていく。呼吸ができなくなる。
クレト「ぐ、るじ、い…」
直後体を貫いていた刃物が抜かれ、地に倒れた。
ロボット「ふふ、これで…これで……!」
その不気味な笑い声を聞き、意識はなくなり、二度と戻ることはなかった。
グチャ ビチャ
グロテスクな音が、何もない広い室内に響き渡る。
「浸蝕性の人工知能…。これで君も、人工知能、ロボットの仲間入りだよ」
不気味な笑い声と共に、クレトは起き上がった。