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欠陥ペットレビュー  作者: 欠陥冷蔵便
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10代後半/女性 の当商品についての評価(1)

*10代後半/女性 の当商品についての評価*





彼氏がいたんです、あたし。今まで17年間好きな人は何人かいたけど、はじめて私も、相手も、好きあっていて、お付き合いをすることになった人でした。

その人と付き合って一ヶ月経って、やっと一ヶ月経ったんだなあ、これから何がおこるかなあってうきうきしてました。


その数日後、彼氏に「これから俺とどうなりたいのか」って聞かれました。でも私思うんです、やっと一ヶ月経ったと言っても、まだまだたかが一ヶ月じゃないですか。しかも2人ともつい最近結婚できるようになった、これからなる、くらいの年齢で、ですよ。だから私、「今が楽しいから先のことは考えてないや」って。私その日、部活のことでちょっといらいらしてて、ちょっときつい言い方しちゃって、感情のままに流されちゃってて。話が噛み合わなかったんですよね、だからお互いが冷静になるために少し時間を置いてから、次の日に話そうって。


それで次の日。昨日思ったこと全部言いました。言ったら彼氏、30分くらい黙っちゃって埒があかないなって思って「今何考えてるの?」って聞きました。そしたら「何も思い浮かばない お前になんて言えばいいのかわからない」って。じゃあ、何か考え浮かんだら連絡してね、心変わりするまで待つからって言いました。今思えば、心変わりするまで、ってのが余計な一言だったかなあ。

でもその後わかった、って言ってくれたんです。数日待てばきっと返事が来るだろうって。信じて、信じて待とうと思いました。



その数分後、私のLIMEが彼にブロックされているのに気づいたんです。



びっくりしました、だってわかったって言ったその数分後にですよ。びっくりして、泣いちゃって、なんで?って疑問しか頭に浮かばなくて。

ブロックされて最初の一週間は食欲も失せるし体調は悪くなる、一番酷かったのは眩暈と吐き気かな。立ち上がることすらできなかった。学校も部活もずっと休んじゃいました。親に内緒で街に出かけて、ストレス解消!って、カラオケにも行ったな。


でもね、他のことを他の人としても、別のことを考えようとしても、いつも私の頭に浮かぶのは彼との思い出です。夜もそればっかりで、悪夢に魘されたり、幸せな思い出を見せられたりして。目が覚めたら彼のいない、寂しい現実が待ってるんだって思うと、幸せな夢を見ている最中なんて特に絶対に起きたくなかった。だって、起きている時よりも寝ながら幸せな夢を見ている方が幸せなんですもん。幸せな夢なんだから、幸せなのは当たり前か。

悪夢で魘された日は、目が覚めれば夢より楽な現実が…待っているはずもないし。さらなる過酷な現実を見せつけられるだけで。


うん、そう。正直言うとね、生きているのが嫌だったんです。何回自殺しようと思ったか。でも、死にたいなんて思っただけで、私にはそれを有言実行する勇気なんてなかったんですけど。


生きているのが怖くて、大切な人を失ってはじめて、いっぱい後悔しました。


あの時ああしていれば、あんなふうに言わなければな。

後悔が、後悔が後悔が、何度も何度も頭の中を駆け回る。何度も何度も同じ光景を繰り返す、あの幸せだった時間を。彼と一緒に、笑って過ごした日々を思い出させる。照れくさかったけれど、彼と恋人になるまでの経緯を思い出させる。恋人になってから過ごした、言葉じゃ表し切れない幸せな気持ちを、彼に貰ったたくさんのかけがえのないものを、全部、全部、全部。


友達に心配されたときは、大丈夫だよ、って笑って誤魔化してたんですけど。どうも親友のさっちゃんだけは誤魔化せなかったみたいです。



その時だったんですよね、私がセラピーペットの「Mine」に会ったのは。



そんな風に病みに病んでいる私を見てとうとう痺れを切らしたさっちゃんがきっかけでした。

教室で一日中机とにらめっこしている私にこう声をかけてきたんです。


「放課後、部活が始まる前。…教室でまってて」


その日の放課後は、さっちゃんに言われた通りに教室で待っていました。今度のにらめっこの相手は机じゃなくて黒板にしました。


さっちゃん、来ないな。遅いな。部活中以外の生徒はもう帰ってるはずなんだけどな。部活、行かないとなあ。前に一週間も休んだし、今遅れてったら先輩方に迷惑かけちゃわないかな。………彼から連絡、来ないかな。

待っている最中、そんなことを一人で考えていました。


ほんとうは、分かっていたんです。実際そうだったし。彼から連絡はもう一生来ないんだってなんとなく思ってて。

それでもやっぱり、なにもないまま終わるのは嫌だったから。はっきりと、嫌いになったなら言ってほしかったし、あやふやなまま自然消滅っていうのも後味が悪いでしょ?待ち続けてたんですよ、一週間、2週間、3週間…………、


「ふぎゅ、」


自分の頬に、何かを押し付けられました。得体の知れない何かが私の頬にくっついている。けどそれは不思議と嫌な心地はしなくて、やわらかくておもちみたいで…あったかかった。

横を振り向くと、さっちゃんが立っていました。彼女が私の頬に得体の知れない何か…そう、セラピーペット「Mine」を押し付けていたんですよね。


雪だるまに似てる、掌に収まりきるくらいの何かが赤いマントを羽織ってて。目も鼻も口もついているわけじゃないのに、もしかしたらぬいぐるみかもしれないのに。

…でも、その子から確かなあたたかさを感じたんです。姿形が違うだけできっとこの子は人間と同じなんだって。その子ってば、キラキラした顔で私の方をじーーっと見るんですよ。さっちゃんの掌にのったまま。


「セラピーペット、製品名は『Mine』。初めて見てる人間に驚いているのね。アンタのこと、誰だろう?って思ってる。この個体は好奇心旺盛な性格だから、知らないモノや人、新しいモノにすぐに興味を持っちゃうの。わんぱく坊主なのよ。ほんと、世話するのが大変でさ…」


最初はさっちゃんが何を言っているのか全くわかりませんでした。セラピー…何?製品名?個体?世話?ナニ?


「…アンタ、こいつのこと育ててみなさいよ」




セラピーペット「Mine」を育てる時の注意点としてさっちゃんが教えてくれたのは二つのことでした。


一つ目は、ご飯やエサを与えなくてもこの子は生きていけるということ。しかし一度食べ物の味を覚えさせてしまうと欲しがりさんになってしまうらしく…私の元に来るまではさっちゃんに育てられていたらしいその子はすっかり人間と同じようにご飯を摂取する習慣がついていました。1日3食、たまにおやつや間食。腹は満たされなくても気持ちが満たされるんだってさっちゃん言ってました。与え過ぎには要注意。


「誰かのために精神すり減らして待ってるだけなら、Mineのために…その子のために心の底から笑ってあげなよ。寂しそうなアンタの顔みてるの、あたしもうイヤ。アンタにはわらっててほしい。一緒に成長できる仲間に、なれると思うよ。Mineなら」


二つ目は、飼い主の性格や感情によってこの子の成長の仕方に変化が出るということ。例えば極論だけど、毎日殺人欲求で満ちている人間がMineを育てれば、Mineも危険な事を犯しかねない状態になる危険性があるかもしれない…今までそういった前例がないので、これはあくまでも予想に過ぎないんだけどね、だそうです。



兎にも角にも、さっちゃんに色々教えてもらいながら、私の家で育てることになりました。お母さんも、お父さんも、快くいいよって言ってくれたのでなんの問題もありませんでした。


そうそう、名前なんですけど…セラピーペットの「Mine」のままじゃなんだか味気ないなあって思ったから、「サチタロー」って名前にしました。なんか、さっちゃんとサチタローって姉弟みたいでよくないですか?さっちゃんにはとても怒られましたが変える気はありません。てへへ。


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