追憶の欠片
俺には3つ下の妹がいた。明るくて元気で、人懐っこい。名前はルナ。俺たち兄妹は仲が良くて、幼馴染みの女の子と3人でよく一緒に遊んでいた。当たり前に外で遊び、当たり前に喧嘩して、当たり前に仲直りして、当たり前に幸せだった。当時10才だった俺たちはそんな時間が当たり前じゃないことを知らなかった。
戦争が起きた。人と人との間に。憎しみは拡散していった。自分達には関係がないと楽観していた人から死んでいった。
俺たちもその中の1人だった。ニュースで流れる戦争の映像をどこか別の、夢の世界のように受け止めていた。だけど、夢が現実になったのはそんなに遠くはなかった。
熱い。それと、痛い。呼吸をする度に喉の奥が焼けるように痛む。灰が混ざった空気のせいで息苦しさが増していく。
だけど、それだけじゃない。むしろ、それ以上に痛みを……それを通り越した何かを、心が感じている。
最初は悲しかったような気がする。悲しくて悲しくて仕方がなかった。どうしようもなく悲しんでしまったから、心が悲しいと感じるのをやめてしまった。
ーーールナ
言葉は音にならなかった。目の前のルナであったものに対して、この名前を呟くことができなかった。
涙が流れる。虚無感に包まれて、今の自分にはその涙の意味は分からなかった。それでも涙は止めどなく流れた。
「……ん……ごめん………ごめん……!ごめん!!」
口をついてでる言葉は誰に向けたものだったのだろうか。
守るといった人を守れなかった。
彼女への償い?
それとも、無力な自分に対して……
ルナは……妹は、俺を助けるために死んだ。
7年前、俺たちが住んでいたリユーが戦場になった。怯えるルナに、俺は何度も告げた。大丈夫だと。お兄ちゃんが守るからと。
ーーーお兄ちゃんは、強いね
お兄ちゃんは臆病者だよ。
ーーーお兄ちゃんは、正義のヒーローだよ
なんて、道化。本当の危機に立たされたとき、怯えて動けなかったのは俺だった。
守る。
無理だ。
俺にはもう、何も守れない。
どうして、又、この夢を見たのだろう。
いや、どうして、忘れてようとしていたのだろう。
うん。思い出させてくれて、ありがとな……ルナ。
お兄ちゃん、今度はちょっと頑張ったんだよ。え…?全然だって??っはは。厳しいな。確かにそうかもな……
でもちょっとくらい誉めてもらってもバチは当たんないだろ?