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ワタシは貴方とイキテイク  作者: 水瀬 葉月
The day when you begin
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戦い~First Attack~

  起動にあわせて、アパレイユがこちらの存在を探知する。一度、敵と認識したものは死ぬまで追い詰める。それがアパレイユの常だ。こうして敵対した以上、俺がヤツを止めるか、俺がヤツに殺されるかの二者択一。


  ーーースゥ……


  一度、呼吸を整える。体は傷だらけ。意識は不明瞭。さて、どこまでやれるんだろうか。


  操作方法は把握している。実験で何度かシミュレータに乗ったことがある。


  敵との間、距離にして30メートル。


  ブースターを噴かして、一気に距離を……詰める!


「ぐっ……うおぉぉぉ!!」


  体に圧力がかかる。シミュレータとは違う生の力。ただでさえ痛みで気を失いそうだってのに、追い討ちをかけてきやがる。だけど、その分スピードは従来機とは段違いだ。


  アパレイユは敵の予想外のスピードに対応できず。こちらの接近を容易に許した。


「飛べぇ!」


  腰に装備されていたナノカーボン製ナイフで切り上げる。アパレイユは弧を描き近くにあった別のラボに落下した。燃え盛るラボの中、アパレイユは立ち上がれないでいる。アパレイユの装甲の堅さを鑑みれば、大したダメージはないだろう。それでも通じた。攻撃が通った。


  やれる。確信をもって俺は追撃にでる。武器は、ナイフからビームライフルに切り替えた。


  狙いを定め……照準完了。今だ!


  しかし、渾身のビームライフルはいとも容易くアパレイユに避けられた。


「なっ…………」


  完全に横たわっていた状態から、即座に立ち上がり、空中へと飛び上がる。人間のような滑らかな駆動。アパレイユの最大の特徴。最強の武器である。


  データとして何度も見てきたとはいえ、実際に見てみると本当に化け物じみている。


  飛び上がったアパレイユは腰からビームサーベルを抜き放ち、こちらに急接近してきた。


  不味い……接近戦に持ち込まれた、まず勝ち目はない。


  ビームサーベルは人類がまだ開発できていない武装の1つだ。もどきは完成しているが実用化に足りうる威力を備えてはいない。


  ビームライフルだって、相手はほぼ限りなく射てるっていうのに、こっちは射ててせいぜい数10発。さらに威力も負けているときた。


  どうすればいい……?俺には一流のパイロットみたいな射撃技術はない。当てずっぽうじゃ確実に……


「ちぃ……!」


  敵はビームライフルを警戒してか、不規則な動きで近づいてくる。くそ……っ。思考がまとまらない。血を流しすぎた。脳に血がまわってない。


「当たれ。当たれ……!当たれ!!」


  形振り構わず射ち続ける。当然当たるべくもなく、距離はみるみる縮まっていく。


  ダメか……。諦めかけたその時。


「ハァーーー!」


  横から救いの手が差しのべられた。サージが1機、アパレイユに向かって突撃した。アパレイユが再度、宙をまう。


 ーーーこの機体は……?


  俺が知っている軍の機体とは少し違った。外見こそ殆んど同じだが、武装が随分カスタマイズされている。俺の乗っているサージが持つ、ナイフ、ビームライフル、シールド、胸付近のバルカン砲。この4つの基本装備のチューニングに加えて、重火力的なビーム砲を搭載していた。


「そこのサージのパイロット聞こえますか」


  女性の声だ。確かさっきユウナ……って呼ばれていた。


  この声…ユウナ……?いや、そんな。


  頭に浮かんだイメージを即座に否定する。あいつが軍なんかに入るわけがない。今は戦いに集中しないと。


「はい。聞こえます。助けていただきありがとうございます。」

「礼には及びません。アパレイユの破壊は軍の役目です。先程の操縦技術から察するに、貴方は軍人ではなりませんね?貴方が誰かを問い質すつもりはありませんが、戦闘の邪魔になりますので下がっていてください。」


  ーームカ。


 何か無性に腹が立った。軍の役目だか何だか知らないが、俺にだって出きることくらいあるはずだ。


「聞こえませんでしたか?足手まといになるので下がっていてください。」

「いえ、俺も戦います」

「何言ってるんですか。いいですか、貴方は……くっ!」


  アパレイユのビームライフルがユウナのサージを掠める。ユウナは即座に後方へ移動しながらビームライフルで応戦する。


  俺のそれに合わせるかたちでビームライフルを連射する。


  2機のサージによる射撃の網はさすがのサージも攻めあぐねているようだった。


  「いいですか。貴方は軍人ではないんです。どうしてサージに乗っているのかは知りませんが、貴方には戦う責任なんてないんですよ。」


  射撃をしながら、通信が届く。戦闘中だからかさっきよりも語調が強い。


  なんだ、そんなことか。だったら俺にだって戦う義務は、ある。


「俺にも、戦う義務があります。足手まといにはなりません」

「ーーーー」


  相手が息を呑む音が聞こえる。少しの沈黙の後、アパレイユに新たな動きがあった。手に持っていたビームサーベルを地面に突き立て、そのまま地面を抉り上げた。


  ブラインドか。


  既に放たれていたビームライフルに当たり、砂煙が巻き起こる。


  それに目を奪われている隙に、アパレイユは俺の背後に回り込み、ビームサーベルを斬りつける。


「くっ…!」


  咄嗟にシールドで防御する。シールドは熱量に耐えきれずあえなく真っ二つに割れる。そこに空かさず第2撃が迫る。


  しかし、横からの光線がそれを遮った。


  ユウナはそのままビームライフルを連射しながらアパレイユに迫る。アパレイユのビームサーベルをシールドで防ぎつつ、ナイフで敵の右肘の間接を的確に切り落とした。


「すごい……」


  思わず声が漏れた。ビームサーベルの熱量に耐えうるギリギリのシールド使いもさることながら、あそこまで繊細なナイフの操縦が出来るなんて………


  アパレイユの堅牢な装甲にも1つだけ弱点がある。接続部は他に比べて脆い。だけど、そこを狙って斬れるパイロットなんてそうはいまい。


  斬る。防ぐ。避ける。射つ。


  ユウナとアパレイユの攻防に見とれているとまた通信が入った。


「貴方がそこまで言う理由は分かりませんが、止めても無駄だと言うのなら、せめて、私の指示に従ってもらいます」

「ーーー。分かりました!」

「まず、距離をとってください。射ち合いながら説明します」


  再び、アパレイユと距離をとり、射撃戦を行う。ビームライフルの弾数を気にしながら敵を牽制する。


「いいですか。さっきみたいなことは簡単にできることではありません。それに致命傷にはなり得ない。なので一撃で……私の高エネルギー圧縮砲でアパレイユを破壊します。貴方には私がエネルギーを溜めるまでの足止めをお願いします。」

「それはどの程度……?」

「大体2分です。その間私は無防備になります。敵にこちらの動きを気取られないようにお願いします。私が合図したらアパレイユから離れてください。巻き込まれない位置に貴方が移動したのを確認した後に発射します。」


  2分。短いようで、俺が1人で足止めするにはあまりに長い。でも、やるって決めた。絶対に成功させてみせる。


「準備はいいですか?では、お願いします」

「はい……!!」


  アパレイユの注意を俺に引き付ける…!どう頑張ってもアパレイユにビームライフルは当たらない。だったら……!


「そこだ!」


  俺が狙ったのはアパレイユの近くの地面。さっきのお返しだ。


  ビームの衝撃波で土煙が起こる。アパレイユがそれに気をとられている隙にナイフを引き抜き、接近する。さっき彼女がやったみたいに……この隙間を、斬りとる!!


「おおお…!!」


  腕が空に上がる。しかしアパレイユのそれではなく、俺の機体のものだった。


「なっ………」


  視界は完全に塞がっていたはずなのに……なんて、なんて強さ。


  でも、俺の役目はコイツを倒すことじゃない。


「チャージ完了です。ありがとうございます」


  合図だ。急いでアパレイユから離れないと……ブースターをふかせて退避しようとする。


  しかし、ここで最悪の事態が起きてしまった。


 "ビービービービー"


  アラート。コクピットのモニターが赤に染まる。レバーを操作したり、スイッチを手当たり次第いいじる。が、何の反応も示さない。


「くそ、やっぱり……」


  オーバーヒートによる制御不能。よりにもよってこんな時に……!


「どうしたんですか。もっと離れないと巻き込まれます」


 焦りが襲う。どうすればいい。どうすればいい。何をしてもモニターが写し出すのはエラーだけ。こうなったら……!


「射ってください!」

「え」

「この機体はもう動けません。ですから」

「でも、それじゃあ貴方……」

「俺は大丈夫です」

「……分かりました。貴方の覚悟を信じます」


  俺はそこで目を閉じた。正直ここまで戦えたこと事態、奇跡みたいなものだった。体はずっと限界を訴えていた。ただ、心が叫んでいたんだ。戦う意味を、戦うための力を、心が教えてくれた。感情に突き動かされるままに俺は戦った。こんな俺でも戦うことができた。それだけで俺は、この選択に意味があると思えたのだ。

 




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