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白雪姫は事件の夢を見る  作者: 赤羽 翼
描きたい願い
41/85

漫画の意味【解決編1】



 十分後、おれは机に突っ伏して寝息を立てていた白本さんの肩を小さく揺すった。しかし流石にこれだけでは足りなかったので、そこそこに大きい声で呼びかけた。


 ん……、という呻き声と共に白本さんの上半身が持ち上がった。白本さんは目を擦りながら小さな欠伸をすると、意識がはっきりしてきたのか漫研部員たちにガン見されていることに気づいて恥ずかしそうに頬を染めた。


「白本さん、漫画の謎は解けた?」


 みんなを代表して尋ねる。

 白本さんは目の前に広げられた四枚の漫画を再度じっくりと見つめると、こくりと頷いた。


「うん。間違いないと思う」


 おおー、と漫研部員たちが声を上げた。


「どんな意味なのどんな意味なの!?」

「是非とも知りたいわね」

「気になってるんだよ」


 沢城さん、中原さん、杉田さんが一斉に白本さんに詰め寄った。だが、


「ごめんなさい。この漫画の意味、あんまり大勢の人に知られると不都合があるんです。教えることができるのは当事者の各務原くんだけです」


 まさかの返事に三人の表情が落胆の色に染まった。しかし謎を解いた本人にそう言われたらどうしようもないようで、がっくりと肩を落としながら椅子に戻った。


 真相を知ることができるのはカミハラだけということは、おれや剣也にも話してくれないということだろうか。凄い生殺し状態である。めちゃくちゃ気になるのだが。


 おれは剣也と顔を見合わせ互いに肩をすくめた。

 その様子を見ていたカミハラが言う。


「なあ白本さん。生野と浅倉にも漫画の意味を教えてやってくれないか? 白本さんにコンタクトを取ってくれたという意味では、こいつらも暗号解読に一役買った立役者だからな。コナンでいうところの歩美ちゃんくらいの活躍はしているはずだ」


 あんまりしてないだろう、それ。いやまあ実際におれも剣也もあんまり活躍してないわけだが。

 その申し出に白本さんはノータイムで頷いた。


「いいよ。元々、二人には聞いてもらうつもりだったからね。生野くんと浅倉くんなら安心だから」


 そこまでの大いなる秘密がこの漫画に隠されているというのか。



 ◇◆◇



 おれたち四人は漫研の上階にある日本歴史研究会の部室に移動した。掃除をしたので、一枚目の絵のように資料が床に散らかっている、というようなことはない。ただし、机の上は依然として紙に溢れていた。


 白本さんは机の資料の一部をどかしてスペースを作ると、そこに四枚の漫画を並べた。


「早速説明していくね。この四枚の漫画には実は共通点があるの。それこそが暗号を解くための鍵になっているんだけど、何かわかる?」


 白本さんがおれたちに訊いてきた。

 いや、わからないから白本さんを頼っているのだが。剣也が頭を掻く。


「共通点って言われてもノーヒントじゃなあ」

「ヒントならもう出てるよ」

「え、そうなのか?」


 おれたちは四枚の絵をまじまじと見つめる。が、やっぱりわからない。

 白本さんは一枚目の漫画を指差した。


「そういえば浅倉くんに裏付けを取らなきゃいけなかったんだ」

「裏付け?」

「うん、一応のね。三科さんの下の名前って『こうこ』って言うんだよね? どういう字で書くの?」


 好子である。けっこう前に剣也が言っていた。

 剣也の答えを聞いた白本さんは満足そうに頷いた。


「やっぱりそうだったんだね。学内新聞で見たから知ってたけど、これでより確実になったよ。いまのがヒントの一つだね」

「三科さんの下の名前がヒントなのか? じゃあもう一つは?」

「三科さんが描かれている構図だよ」


 おれは一枚目の漫画に視線を移した。


「赤ちゃんを抱いている。……これがヒントなの?」


 おれは首を傾げた。白本さんは顔を上げておれたちを見据え、この暗号じみた漫画の読み方を言い放った。


()()()()()()()()()()()()()()()になっているんだよ。この漫画は()()使()()()()()()()()が描かれているの」

「漢字の成り立ち!?」


 男子三人の声が重なった。白本さんは続ける。


「二枚目の漫画。これが意味しているのは幾村さんの『幾』の字だね。『幾』という字は守備兵の細やかな気遣いからできた漢字だから、こういう漫画になってるんだよ」

「ん? 何で幾村さんの『いく』が『幾』だってわかるんだ?」


 カミハラが尋ねた。それにはおれが答えるとしよう。


「渾名が幾何学だからだよ」

「ああ、なるほど」


 白本さんが三枚目を指し示す。


「それからこの松原先生の漫画。これは先生の下の名前、天津から『天』の字だね。『天』は人の頭部を大きく強調した字なの。だから……」


 頭がやたらでかく描かれているわけだ。


「そして最後の四枚目。これは寸田先生の『寸』だね。これは右手の脈を親指で測る様子から生まれた文字なんだ」


 だから左手で右手首を握っているわけか。……というより、白本さんはなぜにそこまで漢字の成り立ちに詳しいのだ。持ち前の記憶力の賜物なのだろうか。


 四枚の漫画をじっと見ていた剣也が唸り声を上げた。


「ううむ。確かに偶然の一致と考えるには状況が揃いすぎてるな。五年前の教員まで引っ張ってきている辺りからも説得力を感じる」

「まあ、『寸』が使われている苗字や名前なんて殆どないだろうしな」


 カミハラも納得したようだ。

 おれも漫画が漢字の成り立ち描いているということには頷かざるを得ない。けれど、


「結局、これらの漢字は何を示しているの?」


 『好』『幾』『天』『寸』。何一つ共通点が見当たらないのだ。そう指摘すると白本さんは認めた。


「そうだね。この四つの漢字からは共通点を見いだせない。けど、四つのうち三つからなら共通点を見つけ出せたの」

「四つのうち三つ……?」

「うん。各務原くんが漫画を下駄箱で手に入れたタイミングから考えれば、その三つを絞り出せるよ」


 カミハラが漫画を入手したタイミング……。一枚目が三週間前の下校直前。二枚目は二週間前の登校直後。三枚目は一週間前の登校直後。そして四枚目は今日の登校直後。つまり共通点を持つ漢字は二枚目以降の三字……。


「『幾』『天』『寸』……。あれっ? これってもしかして()()()()の――」

「字源!」


 剣也の声が被さってきた。いいとこ取りをされてしまった。別に構わないけれど。

 ひらがなの字源。つまりはひらがなの元になった漢字だ。


「『幾』は『き』。『天』は『て』……だけど濁点が付いているからこの場合は『で』だね」

「濁点ってどこにあるんだ?」


 白本さんの言葉に反応して、剣也が三枚目の漫画に視線を注いだ。


「右上の角っこにパンチで空けられた二つの穴だよ。それはたぶん濁点のつもりなんだと思う。……そして『寸』は『す』。すべて繋げると」


 白本さんはカミハラに強い視線を送った。

 カミハラは呆然と、一字一字を繋ぎ合わせた。


()()()……?」


 白本さんはにっこりと笑った。


「そう。これは漫画の形をしたラブレターだったんだよ」



 ◇◆◇



「やれやれ。どうやらこいつは丈二の領分だったみてえだな。にしてもこれまた、変な方法で告白したもんだ」


 不器用極まりないラブレターに剣也は面倒くさそうなため息を吐いた。

 白本さんは苦笑いを浮かべつつ、


「相手に伝わらなくてもいいから、どうしても気持ちを伝えたかったんだろうね。この漫画の『作者』は」


 伝わらなくても伝えたい、か……。恋をしたことがないおれにはよくわからないけれど、きっとそう思うこともあるのだろう。まあこんな告白、白本さんがいなかったら本当に百パーセント伝わらなかっただろうが。


 おれは衝撃を受けたのかぼうっとしているカミハラに尋ねた。


「で、告白されたご感想は?」

「あ、ああ。嬉しいよ」

「嬉しいのか?」


 剣也が唖然とした。


「まあな。自慢じゃないが俺はよく女子に告白されるんだが、しかし彼女たちは一様に俺が重度のオタクだと知ると軽蔑の目やどん引きした目を向けて去っていくどうしようもないクズ共だった」


 いくらなんでも言いすぎだろ。


「まあこっちもそんな女は願い下げなわけだから別に構わなかったんだ。けど、この『作者』は違うらしい。彼女はちゃんと俺が漫画が好きなのを理解して、わざわざ手間をかけてくれたんだ。ちょっと迂遠すぎる気もするが、嬉しいよ。……なあ白本さん。『作者』が誰なのかについてはわからないか?」


 その質問に対し、白本さんが一瞬だけ逡巡したように、おれには見えた。もしかして白本さん……。


「え、えっと、ごめん。流石にそこまではわからないんだ」

「そうか……。まあ、いつかちゃんと告白してくれるのを待つか」


 少し肩を落としたものの前向きに呟くカミハラ。剣也は呆れ気味に肩をすくめ、


「告白されたらどうすんだ? 付き合うのか?」

「どうだろう。どんな人かもわからないから断言はしない。けど、漫画の話はしたいかな」



 ◇◆◇



 四枚の漫画……もといラブレターを持ってカミハラは去っていった。おれたちの間にも帰ろうかという空気が漂っている。しかしおれには白本さんに訊かねばならないことがある。


「ねえ白本さん」

「ん? どうしたの?」

「もしかしてさ、白本さんは『作者』が誰なのか気づいてるんじゃない?」


 白本さんの目が驚いたかのように見開かれた。

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