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白雪姫は事件の夢を見る  作者: 赤羽 翼
隠遁の切札
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隠れ場所【解決編】



 萩原さんが白本さんを起こすまでの十分間、剣也は必死に推理をしていたようだが、結果的に間に合わなかった。おれはというと、藤堂に白本さんの能力的なものの説明をしながら(藤堂は半信半疑そうだった)、彼からラーメンのスープをもらっていた。カツオ出汁が非常によく効いており、剣也が『サザエさん』を連想したのも無理はないと思わざるを得ない。


 萩原さんに揺すられて目を覚ました白本さんは早速かくれんぼについて、ふわふわした声音で話し始めた。


「まず、藤堂くんが隠れていた場所を絞り込んでおこうか」

「湯船と脱衣所、両親の部屋と書斎以外の場所だよね。これらのどこかに隠れていたら、誰かが気づいただろうから」


 先ほど推理したことを話した。これに間違いはないはずだ。しかし白本さんは首を振った。


「それだけじゃないよ。その四部屋だけじゃなくて、二階全体を外すことができるんだ」

「え、どうして?」


 萩原さんがノートに視線を落とした。


「両親の部屋と書斎は二部屋とも二階にある。もし藤堂くんが隠れた場所が二階なら、同じ二階にいた錦くんと橋本くんはそのことを承知していたはずだよね。同じ階段を使っただろうし、物音とかも響くだろうからね。それに隠れるのに使えた時間は三十秒だけだから、二階に隠れるんだったら自然と階段を使うタイミングが重なったと思う。けれど二人が重点的に調べたのは一階。このことから、藤堂くんが二階にいないことを二人は知っていたと考えられるよね」

「なるほど。俺は同じ一階にいたけど、真っ先に洗濯機に入ったから知らなかったってわけか」


 白本さんは眠る直前に錦と橋本の様子と剣也の隠れたタイミングについて訊いてきた。あの質問はいまの事実を導き出すためのものだったのだ。とすると、やはり白本さんは起きていても推理力は高いようだ。


「これがわかったとき――寝る直前だね――藤堂くんの隠れていた場所もわかったんだけど、肝心の隠れた方法がわからなかったから、夢の中のわたしに任せることにしたんだ」

「二階に藤堂がいないってだけでわかったのか?」


 剣也が目を見開く。


「元々二カ所に絞り込んでたからね。そのうちの一つが二階だったから、真相が見えたの」

「その二カ所ってどこと、どこ?」


 おれが尋ねた。


「お兄さんの部屋にあったダンボール箱の中と、物置にあったダンボール箱の中」

「どうしてそう考えたの?」

「消去法だよ。生野くんたちが直接的に調べてないのがこの二カ所だけだから。生野くんたちはダンボール箱の中身を知らなかったし、調べていたらいなかったって言うはずだけど、隠れるのは不可能と言っただけだったから」


 確かにその二カ所は調べていない。どちらもガムテープで塞がれていたし、物置のダンボール箱に至ってはそもそも人が入れないのだから。


「ううむ。確かにこの二カ所しかねえかもな」


 ノートとにらめっこしていた剣也が唸った。


「藤堂のお兄さんの部屋は二階だから……白本さんの推理では物置のダンボール箱に藤堂が隠れていたってことになるの?」


 白本さんは頷いた。

 おれは首を捻る。いや、それは無理ではあるまいか。ダンボール箱の中からガムテープで口を塞ぐことは、何らかのトリックを使えば実行可能のように思える。けれど自分よりサイズの小さいダンボール箱に入るというのは、いくらなんでも非現実的過ぎやしないか。スモールライトかガリバートンネルがないと無理だろう。


 藤堂の顔を伺ってみると、腕を組んで無表情になっている。


「由姫は夢の中でそのダンボール箱に入る方法を考えたの?」

「うん。そうしたら、一つだけあったんだよ。自分より小さなダンボール箱に入れる方法が……」

「それは、どうやるの?」


 満を持して尋ねた。


「まず重要なのが物置の状態。左側に多くのダンボール箱が隙間なく並べられていて、他の物は部屋の右側に集められているんだったね」

「うん」

「ダンボール箱が複数あって、それらのダンボール箱はきっちりと並べられていた。これが謎を解く鍵だったの。一つのダンボール箱に入ることはできないだろうけど、複数のダンボール箱――たぶん三つくらいかな――を使えばそれは可能になる」

「どういうこと?」

「まずダンボール箱ABCの三つを用意して、Aの一面に自分の身体が入る位の穴を空ける。次にBの向かい合う面二つにAと同じ大きさの穴を、CはAと同じように一面にだけ穴をそれぞれ空ける。そして穴が一直線になるようにダンボール箱を配置すれば――」

「人が入れるスペースができる!」


 剣也が興奮したかのような大声を上げた。

 なるほど。ダンボール箱の一辺は五、六十センチだったから、三つ繋げれば間違いなく当時の藤堂よりも長くなるし、小柄だった藤堂なら横の幅も問題なかっただろう。


「この方法ならガムテープが口を塞いでいても問題なく隠れることができるよね。かくれんぼの言い出しっぺは藤堂くんだったみたいだから、ゲーム前に仕込みをしておくこともできた。……どうかな?」


 白本さんはやや上目遣いに藤堂を見据えた。藤堂はさっきと変わらず無表情で腕組みを決め込んでいたが、やがて気が抜けたようにふっと笑った。


「どうやら、見つかってしまったようだな」

「それはつまり、白本ちゃんは正解ってことか?」

「ああ。補足することは何もないよ」


 八年間隠れっぱなしだった藤堂はこうして外に出たのだった。



 ◇◆◇



「にしても藤堂。何だってそんなとこに隠れたんだ? というか、何でそんな隠れ方を思いついたわけ?」


 剣也が呆れ混じりに尋ねた。おれも一周回って呆れの感情が出てきている。こんな方法で隠れた奴を見つけられるかっての。


「夏休みの工作でダンボールを使ったロボットを造ってたときに思いついたんだよ。本当は早く試したかったんだけど、真夏にダンボール箱の中に入り続けるのは気が引けた記憶がある」


 そういえばかくれんぼをしたのは十月くらいだったか。


「いやはや、それにしてもやっぱ白本ちゃんは凄えな」


 剣也が感嘆の声を上げた。さっきまでは勝ちたがっていたのだが、あれはただ単にゲームであるから負けられないというだけのことなのだろう。


「まあ、由姫ならこのくらいは当然よ」


 萩原さんはクールな表情に誇らしげな笑みを浮かべた。白本さんは苦笑している。

 不意にポケットの中でスマホが震えた。取り出してみるとLINEが着ていた。


 響『お兄ちゃんどこいるの?』


 どうやら響が帰宅したようだ。いまいる場所を伝え、すぐ帰ると返信しておいた。


「ごめん。妹が帰ってきたみたいだから、おれもういくね。腹も尋常じゃなく減ってるし」

「ってことは俺も家に帰れるってわけだな」


 おれの言葉に剣也が続き、あっという間に全員で帰るながれになった。藤堂、萩原さん両名と電話番号とメールアドレスとLINEのID――ただ藤堂はLINEをやっていなかった――を交換して別れた。別れたと行っても別方向に進んだのではなく、おれが急いだだけである。


 鍵を忘れたせいで夕飯の時間がかなり遅れけれど、そのおかげで旧友と再開できたし、白本さんとも会えた。そう考えればなかなかラッキーだったのかもしれない。


 おれは腹の中で荒ぶる魔物を我慢しつつ家へと帰るのだった。

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