王様、誕生日プレゼントで悩む
イプの誕生日はわからないから、アランが拾った日を誕生日にしていた。
誕生日が明後日に迫っている。
(去年の誕生日プレゼントは皮のベルトでその前は靴。その前は皮のバッグでその前はマントで---その前は確か靴で---その前から先は何かのおもちゃだった。
たぶん---)
今年は何にしようか?
アランは真剣に悩んでいた。
とりあえずディートに聞いてみた。
ディート
「イプは本当に物を欲しがりませんからね。
陛下というか俺の妹からという事になってますが----からもらったベルトやら服やらいつもそればかりですし、何かが欲しいとか言ってるのを聞いたことがないです。
アランはダニエルを城に呼び出した。
ダニエル
「イプへのプレゼント?僕は大きなケーキを焼いてあげようと思ってるけど----。
アランは残るものをあげたいんでしょう?
(ダニエルは何もかもお見通しなのだ。
何せ、時空渡りとかいう一族なのだから。
でも自分の意思では移動できないって言ってたな。)
ダニエル
「ひとつだけあるよ。
イプが大喜びするもの。
アラン
「教えてくれ!
ダニエル
「剣だよ。
アラン
「剣!?そんなものが欲しいのか?
ありがとう、ダニエル。探してみるよ。
ダニエル
「ところで、これは君へのプレゼント。
薄い正方形の紙箱を開けると丸いパンが出てきた。
パンの上にはチーズがたっぷり乗っている。
アラン
「美味いな!
ダニエル
「ピッツァっていうんだ。美味しいだろう?
アランはこういう美味しい料理を作ってイプに食べさせる事が出来たらいいなと思った。
アラン
「ダニエル、また頼みがあるんだが、私にも料理を教えてくれ。
ダニエル
「そう言われると思って、また教科書持ってきたよ。
ダニエルはどさりと10冊くらいの本を机に置いた。
ダニエル
「これ読んで、ひたすら作ってみてね。
それから毎晩、厨房から美味しそうな香りが漂った事は言うまでもない。
さて、話を戻そう。
アランは早速普段行かない宝物庫へ行ってみた。
見張りがいたが王様なのでもちろん顔パスだ。
様々な宝が並んでいる。
きちんとどんな宝なのか注意書きの石板が添えられている。
中には年代物もあって、見ているだけで面白い。
考古学者が来たらきっと狂ったように興奮するだろう。
剣も10本くらいあったが、大きさを考えると大剣や両手剣は却下された。
普通サイズで軽そうな直剣はと探すと、目に止まったものがあった。
シンプルで飾り気はないが持ちやすそうだ。
(これは良さそうだな。)
石板には読めない文字が書いてある。
古代文字だろうか。
(どうせ、何百年もここに眠っているんだろうから一本くらいなくなっても誰も気づかないだろう。)
アランは自分が持っていた普通の剣をそこに置くと、その剣を腰につけて、部屋に戻った。
次の日、自分で手入れをしてから、ディートに渡した。
ディートもいい剣だと褒めていた。
誕生日当日、鏡の中ではアットホームなバースデーパーティが行われている。
ダニエルが作った大きなケーキ。
それぞれの工夫を凝らしたプレゼント。
イプは嬉しそうにニコニコしている。
(ああ---、なんて可愛いんだろう。僕のイプは。
僕も一緒に祝えたらどんなにいいだろう。)
アランはワインのグラスを鏡に傾けた。
(おめでとう!イプ)
いよいよ、ディートの妹から布に包まれたプレゼントが渡された。
一振りの古いが美しい剣が現れた。
イプの顔が弾けそうに輝く。
目は潤んで頬がピンク色に染まった。
剣を抱きしめて文字通り飛び上がった。
ディートの妹に抱きついてキスをしている。
今までのバースデーで一番喜んだ!
アランは嬉しくて、よしっとガッツポーズを決めた。
ダニエルだけが何故か、鏡目線で笑っていた。
それもそのはずである。
ダニエルはその剣を知っていたのだ。
その剣はエルヴィア含む5王国建国以前、神々の国からエルフが持ち込んだ伝説の剣アルシオンだった。
神々も欲しがる剣をアランは15歳の少年のバースデープレゼントに渡したのだった。
もちろんアランは知る由もない。
つづく