王様、やきもちを焼く
最近、アラン王はイライラしている。
今日は朝から会議だが、珍しく機嫌が悪い王に諸侯は戸惑い気味だ。
宰相コリン
「陛下はご機嫌がお悪いようだな。
ごにょごにょ
ディート
「ああ、あれはやばいぞ。あまり近寄らない方がいい。
ごにょごにょ
宰相コリン
「お見合いパーティの話はまた今度にしておこう
ごにょごにょ
アラン
「処刑だ!!!!
レチノール伯爵
「で-----では 、そのように
アランはそのまま大股で自室に戻っていった。
鏡の中には今日もイプとその友達が映っている。
イプには最近、同い年の男友達ができた。
イプよりもだいぶ背が高く、筋肉隆々としている。
今日は二人で学校帰りに川で泳いでいるようだ。
男は何か言ってイプの頭を両手でくしゃくしゃとした。
イプもお返しに男の頭に手を伸ばすが届かずに体を抱きとめられて、水中に押し倒された。
その瞬間、アランの手の中のグラスが砕け散った。
ディート
「なーるほど、そういうことですか。
アラン
「ディートか----
アランの目が完全にすわっている。
ディート
「みんな心配してますよ。陛下に何か取り付いているという者までいますし
アラン
「こんな気持ちは初めてだ----。こんなに見ず知らずの人間を憎むなんて。
ディート
「ただの友達ですよ。
陛下が邪魔したらイプには一生友人ができなくなりますがいいんですか?
アラン
「そう---だな。僕が----僕が間違っていた。イプのためだ。
アランは死んだ魚のような目をして、椅子にぐったりともたれ掛けた。
しばらく寝ていないのだろう。顔は土気色でくまがひどい。
ディートは
「これはマズイ」と思った。
ディート
「陛下、俺がどんなやつかちょっと調べてきますよ。今日は予定変更して今から行ってきますから、このまま待っててくださいよ!
ディートは馬を町にある平民の学校に走らせた。
一時間ほどでディートは城に戻ってきた。
アランは鏡に布をかけて見ないようにしている。
ディート
「陛下。戻りましたよ。
アランはゆっくりとダルそうにディートの方を向いた。
ディート
「彼の名前はロクジョウ。
家族で東国から渡って来たもののようです。
幼い頃に両親を亡くし、弟と妹は教会に預け自身は働き先の酒屋の倉庫で生活しているようですね。
どうしても勉強したいらしく、昼間は学校で学び、夜は遅くまで酒屋で働いているようです。
成績は優秀、ゆくゆくは自分の船を買い、東国と貿易をするのが夢だそうですよ。
アランはしばらく考え込んでいたが、やがて机で何か文書をサラサラと書いた。
アラン
「ディート、これを平民の学校に渡してくれ。
それから、会議を開きたい。宰相に伝えて皆を招集してくれ。
しばらくして、港に新たな海洋学校を作るとおふれがあった。
その学校は平民のための学校で貧しい者の学費は免除、寮も完備されている。
さらに優秀なものには生活費が全額支給されるという。
開校式には王も出席し、新たな入学者の代表が挨拶をした。
一番優秀なものが王の前に進み出て跪いた。
アランを寝不足にした憎き青年ロクジョウだった。
アラン
「わが国の海洋技術促進のため、世界との貿易を盛んにするため、この学校は作られた。
有能な若者たちよ能力に身分は関係ない。
存分に学ぶが良い。
ロクジョウ
「陛下のためにこの命捧げます!
ロクジョウは感動でいっぱいといった顔をして、若い王を崇拝の眼差しで見つめた。
ディートは笑いかけて咳き込んだふりをした。
平民達からは割れんばかりの大歓声があがった。
アラントイン陛下ばんざーーーい!
エルヴィアばんざーーーい!
アランはにこやかに手を上げて答えた。
アランは帰り道、人で埋め尽くされた道にある木の上にイプが座っているのを見つけた。
イプの姿が見えて、ドギマギしていたが----
イプが
「陛下ーー!
と叫んで花たばを投げた。
アランは必死でキャッチした。
人混みでイプは隠れてしまったが、アランは幸せそうに花に顔をうずめた。
それから、ロクジョウは学校のカリキュラムが鬼のように忙しいらしくめっきりイプと遊ぶことが少なくなった。
カリキュラムは当然、アランが作ったのであったが。
ディートによるとロクジョウと兄弟は綺麗な住居を与えられ、幸せに暮らしているとの事だった。
イプは海洋学校に忍び込んではロクジョウと学生たちと仲良くしたので特に寂しそうではなかった。
アランとしては二人がいちゃいちゃする機会が減って、大満足のようだ。
アラン
「僕も学校行きたいな---
ディート
「ダメです。
アラン
「-----------。
ディート
「仕事してくださいよ。
陛下が機嫌悪い間放置されていた案件が山ほどあるんですからね。
アラン
「ふふふ-----すぐ終わらせるよ。
アランは人が変わったように落ち着いた。
たまった仕事もたった1日で終わらせ、宰相コリンをホッとさせた。
つづく