王様、医者を目指す
宰相 アセチルコリン
「陛下、各国から縁談の申し込みが多数来ております。
長い黒髪の若い宰相だ。先の王の甥っ子でアランの従兄弟に当たる。親衛隊長のディートとは幼馴染で仲が良い。
アラン
「どこの国がいいか?皆の意見を聞きたい。
コリン
「もちろん、5王国中最大のサルファですが、王女は12歳です。
レチノール伯爵
「各国から王女を集めて舞踏会を開くというのはどうです?面白そうじゃありませんか。
バシトラシン伯爵
「レチノール伯爵、あなたが楽しみたいだけじゃないのですか?
レチノール伯爵
「そんな事ないですよ!国民が盛り上がって楽しめる祭りをする。そうすると国は金で潤うのですよ。各国の王女を拝めるなんて滅多にないですからね。
結局、会議の結果盛大なお見合いパーティを開く事になった。
アランが夕食を済ませて自室に戻ったのは日が落ちてからだった。
早速鏡の前の一人用ソファに腰掛けた。しかしその直後立ち上がった。
鏡には赤い顔をした苦しそうなイプがベッドの中にいたからだ。
アラン
「ディート!!!ディート大変だ!
ディートの部屋の扉を開けると美女がちょうど素っ裸になっているところだった。
美女は悲鳴をあげて服を手繰り寄せると走って逃げていった。
ディート
「陛下---もしかして鍵、開けました?
アラン
「いつでも会えるように合鍵は作っておいた。
ディート
「-----------。陛下---
アラン
「それよりイプが病気みたいなんだ。最近、城下町で流行っている灼熱病かもしれない!
ディート
「それは、本当に大変ですね。灼熱病ですか。それなら私の友達に腕のいい医者がいますから、頼んでみます。
アラン
「城の医者よりもか?
ディート
「ええ、正直言って足元にも及びません。灼熱病なら何人も治療しています。貧乏人からはお金は取らないし、すごい人ですよ。
アラン
「直接会いたい、今から行くぞディート!
ディート
「そんな気がしてました。
町のこみいった小路に入り小さな家の戸を叩いた。中からは女のように綺麗な若い男が出てきた。
ダニエル
「ようこそ、アラン、この国の王様ですね。
アラン
「あ---ああ。何故わかった?
ダニエル
「私はダニエル。時空渡りの力をもつものです。
ディート
「ダニエル?一体何を?
ダニエル
「先に正体を話した方が、信用して貰えるからね。
アラン
「時空渡りの力とは?どういうことか?
ダニエル
「私はアランもイプシロンも大切な友達だということだよ。さあ、イプシロンの所に行くよ
ディートの家ではディートの姉がイプを看病していた。
ダニエルはイプの目を見たり喉のところを触ったりした後、上着を脱がせて肩のできものを見つけた。
小さなナイフなようなものを取り出すとイプに向ける。
アラン
「何をするんだ!ダニエル
ディート
「おい!ダニエルやめろ!
二人はダニエルの細い腕を掴んだ。
ダニエル
「痛いよ二人とも。大丈夫だって、この病巣を切り取るだけだってば。僕を信じて見ててよ。
アラン
「切り取る!?そんな治し方があるのか!?
ダニエル
「ここら辺では薬草を飲ませるのが一般的だもんね。
ダニエルは素早くメスで病巣を切り取り、液体で洗うと今度は針でぬいだした。
アラン
「イプにもしものことがあったら---
ダニエル
「大丈夫、これですぐに良くなるよ。
ダニエルはニッコリ笑った。
しばらくするとダニエルの言った通り、イプの熱が下がり始め顔色も良くなった。
ダニエル
「これで明日の朝には目が覚めて、食事もとれるよ。さあ、家に帰ろう。
二人はダニエルを家に送った。
アラン
「ダニエル、ありがとう。君はどこでこの医術を?
ダニエル
「これはこの銀河系とは違う銀河系の科学の発達した惑星でだよ。
アラン
「科学の発達した国---。
ダニエル、お願いがある。僕にその医学を教えてくれ!
アランはイプが病や怪我をした時自分が治せたら素晴らしいと思った。
ダニエル
「いいけど、結構難しいよ。頑張れる?
アラン
「もちろんだ!
その日のうちに大量の書物をダニエルから渡された。アランは公務しながらも寝る間を惜しんで、読みまくった。
人体の構造を知るのはとても面白く夢中になった。気づくと大量の書物を7日で読み上げしっかり記憶していた。
鏡の中のイプはすっかり元気になって、肩の糸も取れた。
アランはそれから毎日、ダニエルの家で解剖したりメスの使いかたや縫い方を習ったり、薬を作ったりした。
もっとしっかり学びたいと思ったアランは
体調を壊したという理由で公務は宰相のコリンに頼んで、勉学に励んだ。
ダニエルの家でいつものように、薬を作っていると、突然イプがやってきた。
イプ
「こんにちは--!先生いる?この前のお礼に母上からぶどうを預かったよ。
ダニエル
「ありがとう!ぶどう大好きなんだ。せっかくだしみんなで食べようよ。
アランはイプに背を向けて凍り付いていた。
心臓が破裂しそうに暴れまくり、今にも飛び出しそうだ。
イプ
「あれ?お客さん?
ダニエル
「ふふふ、私の弟子だよ。さあ、君も一緒にぶどうをいただこうよ
ダニエルは楽しんでいるようだ。
イプ
「はじめまして、僕イプシロンって言います。
アランはぎこちなく振り返った。
アラン
「は----はじめまして。僕はアラン
喉が張り付いていたがやっとの事で声を出した。目の前にはリアルなイプがエメラルドグリーンの瞳でこっちを見つめている。
イプ
「アラン------。どこかで会った?なんだか知ってる気がする。
アラン
「う-------------。
アランはもう気を失いそうだった。足はガクガク震えて全身から汗をかいた。
「イプが目の前にいる!なんて可愛いんだ!鏡よりももっと銀髪は輝いていて、目に吸い込まれそうだ。
ダニエル
「アランはこの国の王様にそっくりなんだよ。名前も似てるしね。
イプ
「ふーーん
イプは美味しそうにぶどうを食べて、今日あった面白い出来事を二人に話した。
アランはぶどうを食べたがまったく味はわからなかった。
しばらくして、王宮にも灼熱病が広まり始めた。
灼熱病で苦しんでいると青いマントの謎の医者ブルードクターがやってきて、治してくれるらしい。
ブルードクターは絵本になり、子供達の間で青いマントを着てブルードクターごっこをするのが大流行した。
つづく